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2章 覚悟の高3編
バカな事ばかり言ってる
しおりを挟む八千代と一緒に迎えに来た啓吾が、朝っぱらからアホな事を言い出した。
「俺、昨日やべぇ夢見てさ。寝起きからめっちゃ結人に会いたかったんだよね」
「それで一緒に来たんだ。どんな夢だったの?」
「結人が俺に跨ってて『僕、今日排卵日なの』って耳元で言われてさ、誤射する夢見た」
「そそっ、そんな事あるワケないでしょぉ!!?」
「はぁ~····そうだよな。俺らが結人の排卵日把握してねぇわけねぇもんな」
「そこじゃないよ。僕、男だからそんな日ないの! 啓吾のばぁーか」
僕は真っ赤になってそっぽを向いた。
「それ今度、ヤッてる時に言えよ。誤射したるわ」
「ごっ、誤射じゃないでしょ。いつも出してるクセに····」
朝からなんて会話だ。登校中の高校生の会話とは思えない。
教室に着くと、八千代が朔にさっきの話をした。教室でなんて話をするんだ。八千代は、恥じらいという感情を何処かに捨ててきてしまったのだろうか。
そして案の定、ワクワクした顔で朔が言う。
「俺も言ってほしい」
「言わないからね」
すると、朔は僕の耳元で囁いた。
「孕ませてぇ」
僕は顔がボンッと熱くなり、大慌てで耳を塞いだ。今、一瞬イッたかと思った。何この破壊力!?
「なっ、ばっ、さ、朔のばぁーか。絶対言ってあげないんだからぁ!」
「おい、教室でイチャついてんなよな」
背後から、冬真の不機嫌そうな声が聞こえて驚いた。昨日やりかけだった書類を持ってきてくれたらしい。
「これ、こっちのクラスの分な。全部綴じといたから、このまま先生に渡したらいいよ」
「あ、ありがとう。昨日はごめんね。その、色々と····」
八千代と朔も、昨日の出来事を啓吾たちから聞いている。雰囲気が悪くなるかもしれない。僕が1人でわたわたしていると、八千代が揶揄うように言った。
「お前、昨日結人にフラれたんだってな。ざまぁ」
「うるせぇよ。諦めてねぇからな。隙があったらツツきまくってやる。好きなだけ痴話喧嘩やってろよ」
「さっきのは痴話喧嘩じゃねぇ。結人が照れてただけだ」
「あーそーですか。朝からうぜぇな」
冬真は悪態をついて自分のクラスに戻り、入れ替わりに啓吾とりっくんが来た。
冬真が堂々と手を出し始めたので、対策を練ろうという事らしい。昨日、一時的に解決したんじゃなかったのかな。僕が冬真を好きな素振りを見せなければ、事は動かないはずなんだけど。
「ゆいぴの言動じゃ、多感な男子高校生は好かれてるって勘違いしちゃうからね」
りっくんの言葉に仰天した。そんなつもりは一切ないのだけど、皆も同意見のようだ。
HRが始まるまで、皆は真面目に冬真対策に頭を捻っていた。どうも、宿泊研修までの約1ヶ月、僕は狙われ続けるという予想らしい。なんなら、宿泊研修の最中に仕掛けてくるんじゃないかと言い出した。
「えっと····でもね、冬真、今彼女いるらしいよ?」
「アイツそういうの関係ねぇんだよ。彼女なんていっつも同時に何人もいるから。ほんっと器用なんだよなぁ」
「え、最低だね····」
「アイツはそういう奴なの。なんつぅか····悪気はないんだけどな、とりあえず軽いんだよ」
「だったら、僕の事も揶揄って遊んでるだけじゃないの?」
「あれは違う。冬真ってさ、絶対女の子に執着しないんだよ。別れた女の子なんて、名前も忘れてっからね」
「うわぁ····ホントに最低だぁ。冬真ってそんな人だったの?」
「まぁな。けど、絶対女の子とは揉めねぇの。俺とは違うタイプだけど、遊び人って認識されてんだよね」
「んで、結人は本命ってか? ふざけんじゃねぇぞあの野郎····」
八千代が早くもキレかかっている。まだ、僕たちの想像の範疇を出てもいないのに。
「僕、そういう感じの人ヤダ。絶対に好きになったりしないよ」
「わかってるけど、ゆいぴの問題は流されちゃうトコね。キスでイかされて言わされるパターンが濃厚だよね。1番簡単だし手っ取り早いもん」
「だな。アイツ、結人の弱いトコ知ってるかんなぁ····。結人、マスクしとく?」
「それじゃ、皆ともできないね」
「「「「あー····」」」」
なんて残念そうな顔をするのだろう。揃いも揃っておバカ過ぎないだろうか。そんなの、ズラせばすぐにできるのに。冬真も然りだけど。
要するに何の対策にもなっていないわけで、話が進展しないままチャイムが鳴り響いた。
昼休みにまた会議が開かれるらしいが、僕は委員の仕事で冬真と一緒に職員室へ行かなければならない。先生が居るから大丈夫だと言ったら、道中が危ないと言って啓吾が同行することになった。
そして、昼休み。急いで昼食を済ませ、啓吾と冬真と一緒に職員室へ向かう。
「なんで啓吾が居んの?」
「姫を盗賊から守る為?」
「誰が盗賊だよ。俺は野蛮な賊共から姫を救い出す騎士になんの」
「····お前それ言ってて恥ずかしくねぇの?」
「うるさい、バカ啓吾」
「ねぇ、僕を挟んで恥ずかしい会話するの、ホントやめてよ····」
「結人、なんか俺に怒ってる?」
冬真が僕を覗き込んで聞く。怒ってるわけではないが、想像以上に女性関係がだらしない事にモヤモヤしていた。
モヤモヤする····のは何故だろう。冬真がどう遊んでいようと、僕には関係ないのに。
「別に。冬真さ、彼女いるんでしょ?」
「一応」
「何人もいるの?」
「今は······3人?」
把握していないのか。本当に最低な男だ。イケメンは何をしても許されると思っているのだろうか。いや、これではただの僻みになってしまう。
違う。そうじゃない。人として、不誠実なお付き合いをしているなんて許せないんだ。
「最低だ····。それで僕に本気だとか言ってたの? 女の子たち可哀想じゃない」
「えー····。みんなわかって付き合ってんだし良くない? いつでも別れるよ。結人が俺のコト好きになってくれるんだったら、女の子全部切って結人一筋になる」
「お前が一筋とかできんのかよ。つぅか、結人はそういうの嫌いなんです~」
啓吾が僕の肩に腕を乗っけて言う。まったく、マウントの取り方が子供じみている。
「啓吾だって俺と変わんなかったじゃん」
「俺は好きじゃない子と付き合ってないし。好きになって付き合ったの結人だけだもーん」
「何が違うんだよ。つぅか結人のそれってさ、ヤキモチじゃねぇの?」
「······はぁ!? ちっ、違うよ。違うもん! なんで僕がヤキモチ妬くの!? 意味わかんないでしょ!」
「結人は俺に彼女居たら嫌なんだ。妬いちゃうんだ~。なーんだ、可能性ゼロじゃなさそうじゃん」
「ゼロだよ! 絶対好きになんないもん」
「結人さん、大丈夫? 俺も心配になってきたんだけど」
「啓吾まで何言ってんの!? 僕が好きなのは──」
「お前らなぁ、職員室の前で叫んでんじゃないよ。····なんで大畠も居るんだ?」
危なかった。とんでもない所で恥ずかしい事を叫ぶところだった。沢先生に声を掛けられて、心臓が飛び出してしまうかと思った。
「沢っち、俺も委員代表やりたい」
「は? お前そもそも委員ですらないだろ。何が代表だよ」
「やっぱダメ? んじゃいいや。結人、俺その辺に居るから終わったら連絡して」
「う、うん。わかった····」
何を言い出すのかと思えば、そんな事を考えていたのか。啓吾の頭の中は全く読めない。
僕たちは、委員の仕事を終え職員室を出る。僕が一生懸命スマホを操作していると、冬真がさり気なく僕の腰に手を回そうとした。
それを阻止すべく、啓吾が冬真の背後から腰に前蹴りを入れた。ポケットに手を突っ込んでのそれは、八千代並に柄が悪い。
「誰のモンに触ろうとしてんだよ」
「いってぇ····。お前、加減しろよな」
「ごめ~ん。俺、悪い奴には加減できねぇの」
「なんか啓吾、八千代に似てきた····?」
「ちょ、俺あんなに柄悪くないよ?」
「今ね、そっくりだったよ。ポケットに手入れたまま蹴るのとか、まんま八千代だった。あ··冬真、大丈夫?」
「ついでかよ!? もう何なのお前ら。俺の扱い酷すぎねぇ?」
「「自業自得····」」
「あーっそ。んじゃ、結人来い」
冬真は僕を担いで走り出した。忘れていたけど、冬真は足が速い。八千代と朔ほどではないが、確実に啓吾よりは速い。僕を抱えても、啓吾に差をつけるくらいの事はできる。
軽快に階段を駆け下り、啓吾の手が届く前に空き部屋へ駆け込み鍵をかけてしまった。
啓吾がめちゃくちゃキレながら、激しく扉を叩いている。けれど、そんなのお構いなしに冬真は僕の頬に手を添えた。
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