上 下
150 / 390
2章 覚悟の高3編

バカな事ばかり言ってる

しおりを挟む

 八千代と一緒に迎えに来た啓吾が、朝っぱらからアホな事を言い出した。 
 
「俺、昨日やべぇ夢見てさ。寝起きからめっちゃ結人に会いたかったんだよね」

「それで一緒に来たんだ。どんな夢だったの?」

「結人が俺に跨ってて『僕、今日排卵日なの』って耳元で言われてさ、誤射する夢見た」

「そそっ、そんな事あるワケないでしょぉ!!?」

「はぁ~····そうだよな。俺らが結人の排卵日把握してねぇわけねぇもんな」

「そこじゃないよ。僕、男だからそんな日ないの! 啓吾のばぁーか」

 僕は真っ赤になってそっぽを向いた。

「それ今度、ヤッてる時に言えよ。誤射したるわ」

「ごっ、誤射じゃないでしょ。いつも出してるクセに····」

 朝からなんて会話だ。登校中の高校生の会話とは思えない。

 教室に着くと、八千代が朔にさっきの話をした。教室でなんて話をするんだ。八千代は、恥じらいという感情を何処かに捨ててきてしまったのだろうか。
 そして案の定、ワクワクした顔で朔が言う。

「俺も言ってほしい」

「言わないからね」

 すると、朔は僕の耳元で囁いた。

「孕ませてぇ」

 僕は顔がボンッと熱くなり、大慌てで耳を塞いだ。今、一瞬イッたかと思った。何この破壊力!?

「なっ、ばっ、さ、朔のばぁーか。絶対言ってあげないんだからぁ!」

「おい、教室でイチャついてんなよな」

 背後から、冬真の不機嫌そうな声が聞こえて驚いた。昨日やりかけだった書類を持ってきてくれたらしい。

「これ、こっちのクラスの分な。全部綴じといたから、このまま先生に渡したらいいよ」

「あ、ありがとう。昨日はごめんね。その、色々と····」

 八千代と朔も、昨日の出来事を啓吾たちから聞いている。雰囲気が悪くなるかもしれない。僕が1人でわたわたしていると、八千代が揶揄うように言った。

「お前、昨日結人にフラれたんだってな。ざまぁ」

「うるせぇよ。諦めてねぇからな。隙があったらツツきまくってやる。好きなだけ痴話喧嘩やってろよ」

「さっきのは痴話喧嘩じゃねぇ。結人が照れてただけだ」

「あーそーですか。朝からうぜぇな」

 冬真は悪態をついて自分のクラスに戻り、入れ替わりに啓吾とりっくんが来た。
 冬真が堂々と手を出し始めたので、対策を練ろうという事らしい。昨日、一時的に解決したんじゃなかったのかな。僕が冬真を好きな素振りを見せなければ、事は動かないはずなんだけど。

「ゆいぴの言動じゃ、多感な男子高校生は好かれてるって勘違いしちゃうからね」

 りっくんの言葉に仰天した。そんなつもりは一切ないのだけど、皆も同意見のようだ。
 HRが始まるまで、皆は真面目に冬真対策に頭を捻っていた。どうも、宿泊研修までの約1ヶ月、僕は狙われ続けるという予想らしい。なんなら、宿泊研修の最中に仕掛けてくるんじゃないかと言い出した。

「えっと····でもね、冬真、今彼女いるらしいよ?」

「アイツそういうの関係ねぇんだよ。彼女なんていっつも同時に何人もいるから。ほんっと器用なんだよなぁ」

「え、最低だね····」

「アイツはそういう奴なの。なんつぅか····悪気はないんだけどな、とりあえず軽いんだよ」

「だったら、僕の事も揶揄って遊んでるだけじゃないの?」

「あれは違う。冬真ってさ、絶対女の子に執着しないんだよ。別れた女の子なんて、名前も忘れてっからね」

「うわぁ····ホントに最低だぁ。冬真ってそんな人だったの?」

「まぁな。けど、絶対女の子とは揉めねぇの。俺とは違うタイプだけど、遊び人って認識されてんだよね」

「んで、結人は本命ってか? ふざけんじゃねぇぞあの野郎····」

 八千代が早くもキレかかっている。まだ、僕たちの想像の範疇を出てもいないのに。

「僕、そういう感じの人ヤダ。絶対に好きになったりしないよ」

「わかってるけど、ゆいぴの問題は流されちゃうトコね。キスでイかされて言わされるパターンが濃厚だよね。1番簡単だし手っ取り早いもん」

「だな。アイツ、結人の弱いトコ知ってるかんなぁ····。結人、マスクしとく?」

「それじゃ、皆ともできないね」

「「「「あー····」」」」

 なんて残念そうな顔をするのだろう。揃いも揃っておバカ過ぎないだろうか。そんなの、ズラせばすぐにできるのに。冬真も然りだけど。
 要するに何の対策にもなっていないわけで、話が進展しないままチャイムが鳴り響いた。
 昼休みにまた会議が開かれるらしいが、僕は委員の仕事で冬真と一緒に職員室へ行かなければならない。先生が居るから大丈夫だと言ったら、道中が危ないと言って啓吾が同行することになった。

 そして、昼休み。急いで昼食を済ませ、啓吾と冬真と一緒に職員室へ向かう。

「なんで啓吾が居んの?」

「姫を盗賊から守る為?」

「誰が盗賊だよ。俺は野蛮な賊共から姫を救い出す騎士になんの」

「····お前それ言ってて恥ずかしくねぇの?」

「うるさい、バカ啓吾」

「ねぇ、僕を挟んで恥ずかしい会話するの、ホントやめてよ····」

「結人、なんか俺に怒ってる?」

 冬真が僕を覗き込んで聞く。怒ってるわけではないが、想像以上に女性関係がだらしない事にモヤモヤしていた。
 モヤモヤする····のは何故だろう。冬真がどう遊んでいようと、僕には関係ないのに。

「別に。冬真さ、彼女いるんでしょ?」

「一応」

「何人もいるの?」

「今は······3人?」

 把握していないのか。本当に最低な男だ。イケメンは何をしても許されると思っているのだろうか。いや、これではただの僻みになってしまう。
 違う。そうじゃない。人として、不誠実なお付き合いをしているなんて許せないんだ。

「最低だ····。それで僕に本気だとか言ってたの? 女の子たち可哀想じゃない」

「えー····。みんなわかって付き合ってんだし良くない? いつでも別れるよ。結人が俺のコト好きになってくれるんだったら、女の子全部切って結人一筋になる」

「お前が一筋とかできんのかよ。つぅか、結人はそういうの嫌いなんです~」

 啓吾が僕の肩に腕を乗っけて言う。まったく、マウントの取り方が子供じみている。

「啓吾だって俺と変わんなかったじゃん」

「俺は好きじゃない子と付き合ってないし。好きになって付き合ったの結人だけだもーん」

「何が違うんだよ。つぅか結人のそれってさ、ヤキモチじゃねぇの?」

「······はぁ!? ちっ、違うよ。違うもん! なんで僕がヤキモチ妬くの!? 意味わかんないでしょ!」

「結人は俺に彼女居たら嫌なんだ。妬いちゃうんだ~。なーんだ、可能性ゼロじゃなさそうじゃん」

「ゼロだよ! 絶対好きになんないもん」

「結人さん、大丈夫? 俺も心配になってきたんだけど」

「啓吾まで何言ってんの!? 僕が好きなのは──」

「お前らなぁ、職員室の前で叫んでんじゃないよ。····なんで大畠も居るんだ?」

 危なかった。とんでもない所で恥ずかしい事を叫ぶところだった。沢先生に声を掛けられて、心臓が飛び出してしまうかと思った。

「沢っち、俺も委員代表やりたい」

「は? お前そもそも委員ですらないだろ。何が代表だよ」

「やっぱダメ? んじゃいいや。結人、俺その辺に居るから終わったら連絡して」

「う、うん。わかった····」

 何を言い出すのかと思えば、そんな事を考えていたのか。啓吾の頭の中は全く読めない。


 僕たちは、委員の仕事を終え職員室を出る。僕が一生懸命スマホを操作していると、冬真がさり気なく僕の腰に手を回そうとした。
 それを阻止すべく、啓吾が冬真の背後から腰に前蹴りを入れた。ポケットに手を突っ込んでのそれは、八千代並に柄が悪い。

「誰のモンに触ろうとしてんだよ」

「いってぇ····。お前、加減しろよな」

「ごめ~ん。俺、悪い奴には加減できねぇの」

「なんか啓吾、八千代に似てきた····?」

「ちょ、俺あんなに柄悪くないよ?」

「今ね、そっくりだったよ。ポケットに手入れたまま蹴るのとか、まんま八千代だった。あ··冬真、大丈夫?」

「ついでかよ!? もう何なのお前ら。俺の扱い酷すぎねぇ?」

「「自業自得····」」

「あーっそ。んじゃ、結人来い」

 冬真は僕を担いで走り出した。忘れていたけど、冬真は足が速い。八千代と朔ほどではないが、確実に啓吾よりは速い。僕を抱えても、啓吾に差をつけるくらいの事はできる。
 軽快に階段を駆け下り、啓吾の手が届く前に空き部屋へ駆け込み鍵をかけてしまった。
 啓吾がめちゃくちゃキレながら、激しく扉を叩いている。けれど、そんなのお構いなしに冬真は僕の頬に手を添えた。

しおりを挟む
感想 155

あなたにおすすめの小説

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!? ※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。 いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。 しかしまだ問題が残っていた。 その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。 果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか? また、恋の行方は如何に。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

処理中です...