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2章 覚悟の高3編
進路について
しおりを挟む週末、八千代の家で会議が始まった。議題は勿論、啓吾の進学について。そして、みんなで悩むこと数分。朔のスマホが鳴った。
「お。大畠の病院の日だったな。行くか」
「なんで朔のが鳴んの? 啓吾、予定の管理くらい自分でしなよ」
「自分でやって、こないだ日付間違えて設定してたんだよ。したらさ、朔が信用できねぇつってセットしてくれるようになったの」
「啓吾、基本的に何でも確認しないからねぇ。僕なんて、不安で何回も確認するのに」
「ったく····。啓吾はいい加減すぎるんだよ」
呆れているりっくんを置いて、朔が出発を促す。診察が終わったら、そのまま遊びに行く事になった。なので、りっくんと八千代は病院の前で待機だ。
診察室から出ると、啓吾が僕を抱き上げた。まさに高い高いだ。待合室には、他にも患者さんがちらほら居るのに。
「んわぁっ!! 何してるの啓吾!? ここ病院だよ!?」
「だってさぁ、や~っと完治したんだぜ。もう結人抱き上げても怒られねぇじゃん?」
「まだ無茶はしないでって言ってたでしょ!」
「大畠、今すぐ降ろせ。静かにしろ。場を弁えろ」
「ははっ。怒られちった」
朔が本気で怒っている。当然だ。嬉しいのはわかるけど、これは少しはしゃぎすぎだ。
しかし、へらへらと嬉しそうに笑う啓吾に、それ以上何も言えなかった。可愛すぎるよ····。
病院を出ると、八千代が待ちくたびれ様子で何かを食べていた。ケバブだ。美味しそうだなって涎が垂れそうな僕に、りっくんがケバブをくれる。朔と啓吾の分も買ってくれていて、それをお昼ご飯にした。
ちなみに、僕はケバブをおかわりして、デザートにトルコアイスも食べた。啓吾が『よく食うなぁ』と嬉しそうに笑った。腕が完治して上機嫌なのだろう。いつもよりも笑顔が眩しい。
啓吾の進路の話をしながら、僕たちはショッピングモールへ向かう。りっくんと啓吾が、プリクラを撮りたいと言い出したのだ。八千代と朔はかなり嫌がったが、僕が撮ってみたいと言うと渋々付き合ってくれることになった。
「やっぱさ、奨学金しかないんじゃないの?」
りっくんが言うと、啓吾が悩む様子もなく答えた。
「だよな。休み明けにでも沢っちに聞いてみるわ。それよりさ、俺が蹊進受かるかどうかってハナシな。結人と一緒んトコじゃなきゃ行く意味ねぇし」
「だったら、これから猛勉強だね。僕もね、啓吾と一緒に大学通えたら嬉しいよ」
なんて言ったものだから、啓吾のやる気スイッチがバカみたいに連打されたようだ。俄然やる気の啓吾。
「よし。バイト減らしてマジで勉強するわ。場野には世話になりっぱで悪いけど、必要な分しかバイトしねぇ。んで、貯める」
「お前、珍しくやる気じゃねぇの。本気でやんなら応援してやるよ。生活費は食費だけでいいぞ」
これほど心強い応援はないだろう。
「マジか! って、今とあんま変わんなくねぇ? お前、めんどくせぇとか言って光熱費受けとんねぇじゃん」
「うるせぇな。人の好意には黙って甘えて貯金しとけや」
なんだかんだ、八千代は甘いんだ。自分にできることはやってしまうタイプらしい。啓吾の家庭の事情を目の当たりにしているだけに、色々と思うところがあるのだろう。
さぁ、ショッピングモールに着き、プリクラを撮りにゲームセンターへ。と、ここで問題が発生した。男子だけでプリクラを撮るのは禁止らしい。これは困った。
なんてのは僕だけで、皆があっさり僕を女子扱いするんだもの。そりゃ不機嫌にもなるよ。
「ゆいぴ、笑ってほしいな~」
「やだ」
「女扱いして悪かったって~。でもしょうがないじゃん? 男だけじゃ入れねぇんだからさ~」
「わかってるけどっ。皆、いっつも都合良く僕の事女子扱いしてさ? なんかなぁって感じ!」
「膨れてる結人も可愛いけどな、どうせなら笑ってる結人のがいいな」
「それともアレか? ここで感じさせてほしいんか。膨れた面よりイイだろ。エロい顔で撮るか?」
八千代が意地悪を言うから、僕はさらに意地の悪い事を言ってやった。
「アレだったら笑えるかも。ほら、八千代が初めて僕を笑わせてくれたやつ」
「あ? ····あぁ。は? やんねぇぞ」
「何? 場野の一発芸? めっちゃ見たいんだけど」
「ほらぁ、早くやんないと撮影始めるよ」
啓吾が面白がり、りっくんがお金を入れながら急かす。
「チッ······。機嫌なおせよ」
八千代の裏声で、朔まで吹き出してしまった。おかげで1枚目はブレてしまったが、2枚目からはイイ笑顔で撮れた。八千代は少し不貞腐れていたが、まぁいつも通りだ。
いつか、八千代も笑顔の写真が撮れたらいいな。
落書きはりっくんと啓吾に任せ、僕は八千代と朔に連れられておやつの調達に向かう。今日のおやつはたこ焼きだ。大阪で食べたたこ焼きが美味しかったなんて話をしながら、りっくんと啓吾を待つ。
2人が意気揚々とプリクラを持ってやってきた。僕たちの感想は一言『女子か』と声を揃えた。りっくんの字は女子っぽいと思っていたけど、こうしてみると一層そう見える。
「ほら言われた。絶対言われると思ったし」
「なんだよ。啓吾だってノリ気でゆいぴの周りキラキラにしてたじゃんか」
「おい。俺の顔にヒゲ書いたんどっちだ。一発入れられる覚悟できてんだろうな」
2人は同時に互いを指さす。
「んじゃ、2人ともだな」
「違うんだって。俺が書いたのに莉久が消して書き直したの!」
「だってさ、絶対チョビ髭のほうが面白いじゃん?」
「お前ら、小学生みたいな落書きするなよな。ふはっ····けどこれ、意外と似合ってるな」
「朔までテメェ……。ふざけんなよ」
八千代は朔にメンチを切りながら、りっくんと啓吾に強烈なデコピンを食らわせた。
「「いってぇ!!」」
2人のオデコが割れたんじゃないかと思うくらい、骨に響いたような音がした。そして、やはり朔には手を出さない。
僕はみんなのそんなやり取りを見て、凄く楽しい気持ちで満たされていた。言いたい事ははっきり言い合えて、楽しくバカをやって笑い合えるなんて、これ以上に良い関係が僕には想像がつかない。
「ねぇ、たこ焼き冷めちゃうよ。早く食べようよ」
「ってぇ····んぇ? なんで結人はそんなにっこにこしてんの?」
「えへへ~。みんなと居るの楽しいなぁって。僕抜きでも仲良いよねぇ」
「アホか。お前が居るからだろうが。お前が居なかったらこんなアホやってねぇわ」
八千代は、さも当たり前のように言い放って僕を照れさせる。嬉しいやら恥ずかしいやらで、僕は顔を上げられなくなってしまう。
おやつを食べながら、再びここでも進路の話に戻る。啓吾はまず先生と奨学金の相談から。同時に勉強も始める。
りっくんは相談の余地なし。八千代と朔も、言ったところで無駄だろうけど言わなくてはならない。
「八千代と朔はさ、もっと上のとこ狙えるでしょ。それに、分野も違うんじゃないの?」
「俺は蹊進の経済学部で充分だ。蹊進だって、レベルは低くねぇんだからな」
「俺はまだ、具体的に何するか決めてなかったしな。法律かじってみんのもいいかもな」
「朔の会社の顧問弁護士とか?」
啓吾が言うと、八千代は鼻で笑った。
「弁護士ンなんかなったら、思うように結人構えねぇだろ。忙しい仕事は勘弁な」
「おっまえさ、人生舐めきってんだろ。なんだよ、忙しくない仕事って」
「世の中にはあんだよ。そういう要領のいい仕事がな」
八千代が言うと、どうにも不穏な感じが否めない。凄く失礼だけどね。
啓吾は『ふーん』と唇を尖らせ、熱々のたこ焼きを頬張って火傷した。本当におバカなんだから。
猫舌なくせに、何故ふーふーしないで放り込んだのだろう。涙目でハフハフしてるのが可愛いだなんて、僕も相当バカなのだろうけど。
兎にも角にも、皆もう少し自分の将来に繋がることなのだから、僕抜きで考えてほしい。考え直しては······くれないかな。
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