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1章 始まりの高2編

新学期が始まる前に

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 明日で冬休みが終わる。なので、今日は満さんのお店で黒髪に戻してもらう。····筈だったのだが、いざ染め終えると真っ黒ではなかった。
 

 約2時間前。皆も一緒に染め直すからと、また5人でお店にお邪魔した。

「本当に真っ黒に戻しちゃうの? 結人くん以外は、色抑えるだけって言ってるわよ?」

「え? みんな黒に戻さないの?」

「戻さねぇよ」

「俺も戻さないなぁ。ゆいぴが嫌いじゃないんだったら、説教喰らわない程度に遊びたいもん」

「俺も黒には戻さねぇ。だいたい、黒って言っても満が勝手に色入れるしな」

「俺はこのままだよ」

「えっ!? 啓吾、金髪だよ? また先生に怒られるよ? て言うか、それなら何しに来たの?」

「俺だけ来ないのヤだもん。つーかさ、怒られても聞き流しときゃいいじゃん」

「えぇー····ダメだよ、啓吾······」

 啓吾の軽さは、少し改めさせなければいけないかもしれない。よく考えたら、これまでの言動の軽さだって結構なものだ。

「そもそも髪染めたらダメってのがよくわかんねぇよ。オシャレじゃん?」

 そう言えば、知り合った頃から派手な頭をしていたっけ。初めはチャラ男ってそういうものなのかと思っていたけれど、規則というものを軽んじすぎている気がする。
 ここはひとつ、卑怯な手を使わせてもらおう。

「僕、黒髪の啓吾も見てみたい。絶対カッコイイよ」

「············しゃーねぇな。1回だけだかんな? 満さん、黒にしてくんない? 真っ黒は嫌だから適当に色入れといて」

「はいはい。ほんっとに甘いわねぇ。そっちに座って待っててね」


 そうして、今に至る。啓吾は真っ黒ではなく少し赤みがかっている。が、驚く程チャラさが抜けている。啓吾のアイデンティティが完全に失われている。と思ったが、服装やアクセサリー、言動がチャラいので大丈夫そうだ。
 問題は僕だ。真っ黒にしてくださいと言ったのに、どういう訳かほんの少しだけ青みがかっている。なんだか垢抜けていてオシャレだ。いや、そうじゃない。

「満さん、若っっっ干青みがかってませんか?」

「真っ黒も良いけど······ねぇ?」

 流石と言うべきだろうか。勝手に色を入れられている。朔の言った通りだ。一筋縄では注文通りになんてしてもらえない。

「えぇ····バレないかな······」

「大丈夫。ゆいぴのそれでバレたら、多分俺らも一緒に説教聞けるから」

 そう言ったりっくんの髪は、オレンジっぽさがなくなり淡い栗色になっている。朔は、僕よりも青みの強い黒。
 八千代なんて、黒と言い張っているが全体的に赤みがかっているし、毛先なんてほぼ赤だ。多分、皆で揃ってお説教を喰らうだろう。
 けど、啓吾の言う通りだったように、髪だけでもモテ度が違うんだ。モテたいわけじゃないけど、オシャレにはもう少し気を遣ってもいいかと思った。
 皆、揃いも揃ってオシャレだしカッコ良すぎるから、今でも並んで歩くのは気が引けてしまう。そうならない為にも、僕も頑張ってオシャレになるんだ。

 
 なんて思ってたら、翌日。啓吾がジャージで八千代の家に来た。オシャレ感ゼロなはずなのに、それでもカッコよく見えるのは顔のせいだろうか。それとも、程よく着崩しているからだろうか。

「ジャージの啓吾、体育以外で初めて見た。なんでジャージなのに、そんなにチャラ····カッコイイの? て言うか、なんでいきなりジャージ?」

「へへっ、ジャージでもカッコイイ? けど、チャラいって言いかけただろ。まぁ····今日は絶対出掛けねぇし」

「ん····? 大畠、お前どうやってここまで来たんだ」

 朔が真剣に聞いた。嫌味なのか本気なのか、朔の場合わかりにくい。

「いや、結人とって意味だから! 瞬間移動なんかできねぇっつーの」

「んで、どうせ出ないんじゃなくて出れないんでしょ? 理由は?」

 りっくんが、呆れた様子で嫌味混じりに言う。啓吾はそれに、おずおずと鞄からテキストを取り出して答える。

「実はさ、化学の宿題わかんねぇトコだらけで····。皆、教えて?」

「バカ啓吾····。なんで今日なの? もっと早い段階で持って来れないの? 最終日恒例みたいにすんのやめてよね。はぁ······俺、ゆいぴとコンビニ行ってくる」

「俺も行くわ。晩飯がねぇ」

「俺も行く。朝食ってねぇから腹減った。大畠は俺らが戻るまでに、わかんねぇ所まとめとけ」

「はーい····」

 僕たちは、啓吾を置いてコンビニに向かった。きっと寂しがっていると思い、お土産にピザまんを買ってあげた。
 八千代の家に戻ると、啓吾が真面目に机に向かっていた。が、真剣にトランプタワーを作って遊んでいた。
 八千代が机を蹴って、無情にも完成したタワーを崩す。

「お前なぁ、遊んでねぇで進めとけよ」

「違うって。わかんねぇトコしか残ってねぇの。んで、ちゃんと聞きたいトコまとめたから」

 いい訳ではないらしい。分からない所に印をして、教えを乞う準備は万端なようだ。だが、その印の多さに僕たちは呆れ返った。

「ほぼ全部じゃん! めんっどくさいなぁ!」

 りっくんが怒りをぶつけ始めた。それもそのはず。さっきコンビニで、「今日はゆいぴとずーっとイチャイチャするつもりだったのに」と、ずっとブツブツ言っていたのだ。

「まぁまぁ、りっくん落ち着いて? 啓吾だって、放置しなかっただけ偉いじゃない。ちゃんと教えてあげようよ」

「結人、後でお礼にめっちゃ抱いてあげるからな!」

「ゆいぴだけじゃん。俺らへのお礼は?」

「何か要んの?」

「お前、調子ん乗んなよ。結人とヤる時間削って教えるんだからな。それなりの見返り要求されても、文句は言えねぇだろ」

「朔まで····。マジでごめんって。冗談だから! お礼はするから! 昨日も頑張ってたんだけどさ、結局わかんなくて····。俺バカだからさ、お前らみてぇに進まねぇんだよ」

 啓吾の口が尖ってしまった。それがもう可愛くって、僕は思わず後ろから抱き締めた。

「啓吾、ちゃんと自分で頑張ったんだね。偉いね。僕、最後まで付き合うから、一緒に頑張ろうねっ」

「結人····。最終日なのにごめんな? お前らも、夏休みに続いてマジでごめん」

 シュンとしている啓吾なんて見ていられない。なので、宿題なんてさっさと終わらせてしまおう。

 僕たちは、猛スピードで進めた。1人が解説している間に、空いてる人が次の問題の解説の準備をする。
 僕たちが本気を出せば、あっという間に······。3時間程ぶっ通しで、1時過ぎに終わった。啓吾は、お昼休憩もせずに頑張った。

「終わった····。俺、もうペン握れねぇ····。もう頭回んねぇ····」

「啓吾、何か食べたら? 今日ピザまんしか食べてないんでしょ?」

「ちょっとコンビニ行ってくるわ。お礼に何か買ってくるから。待ってて~」

 満身創痍な啓吾が心配で、朔がついて行ってくれた。皆なんだかんだ言いながらも、僕以外にもちゃんと優しいんだ。
 

「啓吾、本物か疑うくらい頑張ってるよね。あのチャラ男をこんなに頑張らせるなんて、ゆいぴは凄いねぇ」

「僕? 凄いのは、ちゃんと頑張ろうとする啓吾だよ。そういうギャップが萌えるんだよね」

「ふ~ん····。ゆいぴさ、啓吾みたいなタイプって苦手じゃないの? 付き合う前から仲良かったの、意外だったんだよね」

「タイプで言うと、りっくんもそんなに変わらないよ。2人ともチャラ男で有名でしょ。僕、りっくんで多少チャラ男に耐性あるんだろうね」

「えー、待って待って。俺、モテ男だけどチャラ男じゃないよ?」

 彼は自分で何を言っているか、わかっているのだろうか。否定しきれないのが腹立たしいが。こういうのは相手をしてはいけない。全力で無視するに限るんだ。

「えっとね····啓吾はねぇ····」

「ちょ、めっちゃ無視するね。言ってて恥ずかしいからね?」

「あはは。だって、否定しきれないんだもん。あのね、啓吾はね、僕が体育でペアが居なかった時に組んでくれたの。それから喋るようになって、見た目ほどチャラくないんだなぁって思ったんだよね」

「へぇ。····え、見た目通りチャラくない? でもそっか。啓吾は基本、人に寄っていくタイプだったもんね。1人だったゆいぴが放っておけなかったんだろうね。朔とも仲良かったんでしょ?」

「うん。よく話しかけてくれたよ。って言っても、朔はすぐ女の子に囲まれてたから、思うように喋れなかったけどね」

「あぁ、朔は囲まれると固まるか逃げるかって感じだったよね。何回か見た事あるなぁ」

「朔って、女の子苦手なのかな」

「女が苦手っつぅか、アイツは人が苦手なんだろ」

「「えっ!?」」

「そんな風には見えないけど····。確かに俺ら以外と喋ってんのって見ないよね」

「見ないね。でも、初めて朔と喋った時、朔から声掛けてきたよ」

「なんて?」

「えっとね····今日うちに遊びに来ないか? って、啓吾とお弁当食べてたら言われたの」

「あっはは。何それ。初めて喋んのにいきなり?」

「そう。啓吾がびっくりし過ぎてキョトンてしてた。僕もびっくりしたよ」

「え~、連れ込んで何する気だったんだろうねぇ?」

「付き合う前なんだから何もしないでしょ? その後、啓吾が爆笑しながらしこたまイジってたよ。それからかな。たまに3人で喋ったりしてたの」

「そうだったんだ。意外な組み合わせだなって思ってたんだよね」

「きっかけがなかったら2人とも、たぶん喋ったりしないタイプだよ。まさか、こんな事になるとは思わなかったしね」

「そりゃそうだよねぇ。そういや初絡みだったのって····場野はまぁ全員と初だったでしょ? 啓吾と朔は、結局ゆいぴ繋がりだね。俺は朔と殆ど喋った事なかったなぁ」

「1年生の時、僕と八千代以外は同じクラスだったよね? りっくんと啓吾が一緒に居るのはよく見かけたよ」

「そうだね。なんかウマが合ったっていうか····」

「女たらし同士で気があったんだろ」

 黙々と縫い物をしている八千代が、時々口を開く。
 さっき、僕が充電器のコードに引っ掛かって転びそうになった時の事。八千代が支えてくれたのだが、その時八千代のシャツのボタンを引き千切ってしまったのだ。シャツも少し破れてしまった。
 本来なら僕がするべきなのだが、絶望的に不器用な僕に代わり、縫い付けてもらっている。本当に申し訳ない限りだ。
 そしてりっくんは、八千代の発言にとても怒っている。と言うか、焦っている。

「なっ、女たらしじゃないから!」

「でも、凄いモテてたよね。彼女切らしたことなかったでしょ? 誤魔化すためって言ってたけど、僕が好きなのに他の女の子抱けたんだ」

 りっくんは、口をパクパクさせながら停止してしまった。

「お前、そういうトコよくサラッと聞けるよな。俺ん時も聞いてきたけど、聞いといて凹むんだったら聞くなよ」

「凹む····あぁ! そっか。ヤダな····」

 己の間抜けさに嫌気がさす。深く考えないで発言する癖は直さなければ。

「素朴な疑問だったんだね。嫌味とかじゃなくて、単なる興味で聞いてるんだよね。ゆいぴ、色んな意味で辛いよ」

「あの、ごめんね? 答えたくないことは答えなくて大丈夫だよ。僕、思った事ポンポン言っちゃうから····」

「そうだね。たまにマジで心臓抉られるよ。まぁ、それは答えらんないけど、俺ホントにゆいぴ以外好きになったことないからね」

「どうだかな」

「場野! テキトーな事言うなよな。ゆいぴが心配するだろ!?」

「りっくん、落ち着いて? 大丈夫だよ。こんな病的に僕の事好きって言ってくれてるのに、疑ったりできないよ」

「病的····? え、俺普通だよね?」

「あはは。りっくんは僕の事になると、基本病的だよ」

「自覚ねぇのかよ。いい加減慣れたけどな。初めん頃はドン引きしてたわ」

「えぇ····。ゆいぴも?」

「まぁ、ビックリする事は多かったけど、僕はすぐに慣れたよ。そう言えば、小学校の頃ってこんな感じだったな~みたいな」

「そうだね。中学に上がる時、この想いは迷惑だろうから封印するって決めたんだ。封印するか監禁するか2択だったなぁ····。苦渋の決断だったんだよ? だからね、今解き放たれて凄い幸せ」

 ペラペラと怖い事を言うんだ。八千代なんて、完全に聞かなかったことにしている。 
 どう反応していいか困っていると、八千代が縫い物を終えた。僕もりっくんまでも、その完成度に感激した。本当に八千代は器用で、何でもできてしまうんだ。
 そうこうしていたら、2人がコンビニから帰ってきた。

「たっだいま~。焼き芋屋さん通ったからさ、お礼に買ってきたよ。めっちゃ甘そうなん。食おうぜ~」

 香ばしい匂いが部屋に充満する。焼き芋、大好きだ。両手に持って食べたい。けど、今は我慢なのだ。
 
「僕、身長伸びてなさそうなのに、体重3キロも増えたんだよね。この冬休みだけで。だから、ちょっとダイエットしてるの」

「はぁ? いや結人さ、元々細いんだから3キロくらい太っても問題ないだろ。俺らが抱っこできる範囲なら全然問題ないかんね。太っても俺らが鍛えたらいいんだし。だからダイエットなんか体に悪い事やめな? 変に我慢しないで食えよ。ほら、熱いから気ぃつけてな」

 啓吾が甘い誘惑と共に、1番大きな芋をくれた。

「やだ、この匂い我慢できない····。この····いもいもしい芋めぇ····」

 差し出された大きなお芋を、ありがたく頂戴する。

「ははっ。結人、落ち着けって。忌々しい芋め、じゃねぇの? 芋に罪はねぇよ。さっさと食っちまいな」

「······っいただきます! 熱っ····」

 僕は、なんて意志の弱い人間なんだろう····って、なんだかデジャブだ。僕は、いつだって何だって決意が揺るぎ過ぎだ。もっと、確固たる強い意志で挑まなければならない。
 なんてユルユルの覚悟で焼き芋を頬張っていたら、救世主が言葉を放った。

「ねぇ、ゆいぴ。痩せたいんだったらさ、イイ運動あるよ」

 と、りっくんの甘い言葉に唆された僕が馬鹿だった。りっくんの言う運動とは、とどのつまりセックスの事だ。僕が皆の上に跨り、自分で動くんだとか。騎乗位と言うらしい。
 大抵挿れられただけでイッちゃうのに、痩せるほど動けるのだろうか。とりあえず、物は試しだ。何事も実践あるのみ。

 そう意気込んだものの、準備の段階でグデグデなのにどうやって動けというのだ。何故、毎度お風呂からお姫様抱っこでベッドに運ばれるのか、忘れていた僕は阿呆だ。

「動けないなら仕方ないね。いっぱいイかせて、いっぱいカロリー消費させてあげるね」

 
 その言葉通り、皆は時間いっぱいまで僕をイかせ続けた。確かに自分で動けなくても、イキ続けて尋常じゃない体力を消耗しているのだ。痩せない方がおかしいと思う。

「ね、もう、休ませて····んぁぁ」

「こんで最後だから。俺、ちゃんとお礼できたかな? 足りた? もっといっぱいお礼しようか?」

 えっちのシ過ぎなのか、ハイになった啓吾がラストスパートをかける。

「充分過ぎるよぉ····あぁっ、また····奥、イッちゃうぅ····」

「休みも終わるし、なんかヤり納めって感じだな。宿題の所為で朝からはできなかったけど、いっぱいイかせてたらテンションぶち上がっちゃった」

「ひあぁっ····。啓吾、学校始まってもね、いっぱいシよ? やだよぉ····なんか、寂しぃ··んあぁぁぁっ」
 
「結人、結局煽んのなおってねぇよな····。大丈夫、寂しくねぇよ。えっちは思うようにできなくても、ずっと一緒に居るからな」

「んっ····啓吾、好きぃ····キスして」

 啓吾は、甘く蕩けるようなキスをしながら、僕のナカに沢山出した。
 明日から始まる三学期も、皆と居るとあっという間に終わってしまいそうだ。
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