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1章 始まりの高2編
新年早々からもう······
しおりを挟むいよいよ、僕たちの番が来た。皆は何を願うのだろう。と、思っていたら、お賽銭を投げ入れる直前····。
「なぁ、知ってるか? こういうのって、願い事を言うんじゃなくて、日頃の感謝を伝えるものらしいぞ」
なんて朔が言うものだから、凄く複雑な気持ちでお賽銭を投げ入れる。いっぱいお願い事考えてたのにな。
とりあえず、皆とこうして過ごせる日々への感謝を言った。そして、これからも皆と居られますようにとお願いした。
「皆、何お願いしたの?」
「結局願ったんだな。まぁ、言っといて俺も願い事はしたけど、内緒だ。結人はあれだろ? ずっと俺らと居たいとかだろ」
「なんでわかるの!? え、僕だけ? 皆は?」
「俺も、ゆいぴと一緒だよ」
「俺も。結人とずーっと居られますようにってお願いした」
「えへへっ。なんだぁ····僕だけかと思った。八千代は?」
「俺も内緒。けどまぁ、そんな感じだな」
「なにそれぇ~」
「んな事より、何か食いに行くぞ。そろそろ腹減ってんだろ?」
八千代も僕の心を見透かす。お腹が鳴っていたのを聞かれたのだろうか。
「えっ! なんで僕の事ばっかりそんなにバレバレなの? なんか狡いよぉ」
「ははっ。お前はわかり易すぎんだよ」
八千代がケタケタ笑いながら、早速唐揚げを買ってくれた。揚げたてで熱いけど、とてもジューシーで美味しい。
「あ! あっちで甘酒配ってるよ。飲みたーい」
「結人、お前飲んで大丈夫なのか? 酔わねぇか?」
朔が、とても心配そうな顔をしている。甘酒って、名前だけで子供でも飲めるやつだよね?
「甘酒では流石に酔わないよ····。たぶん」
「たぶんて····。飲んだことねぇの?」
八千代が呆れた顔で聞く。
「何年か前におばぁちゃん家で飲んだけど、酔ってなかったと思う」
「慣れてねぇならやめとけ。結人は酔いそうだ」
「だ、大丈夫だもん! だって、子供でも飲めるやつでしょ?」
「朔、結人にやめとけは逆効果だろ。絶賛反抗期だよ?」
「啓吾のばかぁ! 反抗期じゃないもん! むぅー····飲みたい····」
「ごめんね、ゆいぴ。俺、甘酒苦手」
「わりぃ。俺も好んでは飲まねぇな」
「俺も好きじゃねぇ」
「俺は好きだよ、甘酒。結人、俺と飲もっか。しんどくなったらダメだから、とりあえず半分こしようぜ」
「うん! ありがと、啓吾」
反抗期だなんてバカにした事は、優しさに免じて許してあげよう。
「そんじゃ、俺貰ってくるわ。あっちのベンチで待ってて」
そう言って、啓吾は甘酒を貰いに行ってくれた。僕たちは休憩がてら、言われたベンチで待っていた。
しかし、啓吾がなかなか戻らない。少し並んではいたが、それにしても遅い。
「啓吾、遅いね。僕、ちょっと見てくる」
「待って待って。俺が見てくるから、ゆいぴはここに居て」
「····わかった。お願いね」
皆、絶対僕に単独行動をさせない。どれだけ心配性なんだか。様子を見に行くくらい、僕にだってできるのに。
りっくんが啓吾の様子を見に行ってくれている間に、トイレに行った朔が逆ナンされていた。それを八千代が助けに行く。しかし、八千代もそれに巻き込まれ、ほんの数分だけ1人になった。そこで、事件は起きた。
人生初の逆ナンにあったのだ。女の子2人が、僕に声を掛けてきた。一緒にカラオケに行かないかと誘われてしまった。そして、これも人生初なのだが、女の子にかっこいいと言われた。
「えっと、あの、嬉しいんだけど····」
(カッコイイって言われたぁぁぁ!! ホンットに嬉しいんだけど!! 啓吾の言った通りだぁ! 髪型って凄いんだぁ~)
なんて、正直凄く浮かれていた。そこへ、逆ナンなんて慣れた様子で躱してきた八千代が、朔と一緒に戻ってきた。
「おい、結人。んなの放っといてバカ探しに行くぞ」
八千代に手を引かれ、女の子達から引き離される。女の子にと言うか、人に対して“そんなの”って、八千代の僕以外への当たりが強すぎる気がする。
「や、八千代····。あー、っと、ごめんね。声掛けてくれてありがとー」
僕は手を引かれながら、遠のいてゆく女の子たちに貴重な体験をさせてくれたお礼を言った。
暫く無言で僕の手を引いていた八千代が、こちらを見ずに独り言のように呟く。
「声掛けてくれてありがとってなんだよ。バカじゃねぇの」
八千代の機嫌がすこぶる悪い。自分だってナンパされてたくせに····。
「だって、初めて声掛けられたしね、カッコイイって言ってくれたんだよ! 僕、男に見えたって事でしょ?」
「そうだな。そんなに嬉しかったのか?」
素っ気ない口調に驚き朔を見ると、こちらもムスッとしている。
「うん。嬉しかった」
朔が立ち止まり、僕の手を引っ張った。僕と八千代は、それにグンッと引き止められる。
「アイツらと行くつもりだったのか?」
朔は、まだそんな不安を抱えていたんだ。いや、実際目の当たりにしたからだろうか。
「そんなわけないでしょ。逆ナンもカッコイイって言われるのも初めてだったから、単純に嬉しかっただけだよ。僕には皆が居るでしょ? 他に行くとこなんてないし、そんなの要らないよ」
なんと恥ずかしい事を言い放っているのだろう。けど、朔の不安そうな顔を見るのが辛くて、クサイ事を言ってでも安心させたかった。
「そうか。それなら、これから俺たちが嫌っつー程言ってやる。他の奴には言わせねぇ」
「朔····。もう、何言ってんのさ。朔たちはしょっちゅう声掛けられるでしょ。僕なんてたまたまだよ。ヤキモチだったら、僕の方が妬いてるからね!」
「はは。そうか。それじゃ、もっと声掛けられたら、もっと妬いてくれんだな? 結人が妬いてくれたら、愛されてるって感じがして嬉しい」
「そういう事じゃないよね? はぁ····。妬かなくても、愛されてるって思ってもらえるように頑張るよぉ····。皆が声掛けられるの、本当はすっごくヤだからね?」
「おい。お前らなぁ、アホな事言ってねぇで、大畠と莉久探すぞ。ったく、なんでアイツら戻ってこねぇんだよ」
八千代はまだまだ苛立ちが収まらない様子だ。
「そうだったな。何かあったら連絡来るだろうし、アイツらも声掛けられて逃げれねぇんじゃねぇか?」
朔の予想通り、啓吾とりっくんが女の子に囲まれていた。2人は、大人っぽい女の子3人に言い寄られている。
なんだか腹が立った。八千代と朔の手をスッと離し、フードを深めに被って啓吾とりっくんにまっすぐ歩み寄った。そして、不本意だが自ら演じてみた。それほどに、苛立ちが抑えられなかったのだ。
「啓吾、りっくん。他の女の子と喋っちゃやだ」
僕は、後ろから2人の腕を抱き締めて、渾身の可愛い感じで言った。ちょっと高めの甘えた声で。
「うぇ!? ゆい──んがっ」
りっくんが、啓吾の口を手で塞いだ。そして、りっくんは僕の頬に手を添えると、わざわざえっちに見つめて言った。
「ごめんね。寂しかった? もう····、待っててって言ったのに、来ちゃったんだ」
勢いで、嫉妬深い彼女らしく演じてみたが、僕は早々に後悔している。
「何アレ、女1人? うざぁ」
「ちょっと、後ろの2人もカッコよくない? あんなちっこいの1人に勿体なくね?」
「あははっ。マジだ。うぜぇ」
女の子達は、相手にされない苛立ちを僕に向けた。ショックなのは、意図していたとはいえ女だと思われている事。さっきはカッコイイって言ってもらえたのに。はたして僕は、周りにどう映っているのだろう。
兎にも角にも、僕への暴言を見過ごす彼氏たちではない。現に、啓吾とりっくんは既に女の子たちへの嫌悪感や憤りを隠そうともしていない。だが、相手は女の子だ。一体、どうするのだろうか。
多少のやらかした感で僕がおどおどしていると、珍しく笑顔を崩した啓吾が動いた。女の子に掴まれていた手を振りほどき、僕を抱き締めるように接近する。
「なに? 妬いたん? お前が1番可愛いのに、他の女なんか相手にするわけねぇだろ」
啓吾は僕の腰に手を回して、女の子達に聞こえるように言った。チラッと彼女達を睨んだようにも見えた。
「それな。ホント、しつっこくて困ってたんだ。来てくれてありがとね」
そう言って、りっくんは僕の頬に唇を這わせた。2人は元来、女の子にはべらぼうに甘かった。その2人が、女の子相手にこの態度なのだ。どれほどの怒りかが窺い知れる。
「おい、もういいだろ。行くぞ。しょうもねぇ女に構ってんじゃねぇよ。つーか、新年早々妬かせてんじゃねぇぞ」
後ろから近づいてきた八千代が、僕の頭を撫でながら言った。どの口が言ってるんだか。
「俺らの所為じゃなくない? さ、行こっか。ゆいぴ、拗ねて俺らの相手しないとか言わないでね?」
りっくんが僕の肩を持って半回転させると、そのまま腰に手を回した。そして、八千代が僕の肩を抱いて歩きだす。
「ん? 今からホテル行くのか? 場野ん家帰ってシねぇのか?」
「朔は黙ってついといで。今から、コイツ可愛がってあげなきゃだから、じゃぁね~」
啓吾が後ろから僕の頭をポンと撫で、反対の手を女の子達に向けて振った。僕からふっかけた事とはいえ、それに乗った皆の言動が恥ずかしくて顔を上げられない。
「ゆいぴ、さっきの何?」
「びっくりした。マジで。どんだけ可愛い事してくれてんの? たまにでいいからさ、あんな感じで来てよ」
「あれは、そのぉ、腹が立ったのが抑えらんなくて·····。やってすぐ後悔したよ····」
「すげぇレアなもん見れたよな。結人のあんなん、そうそう見れねぇだろ」
朔が嬉しそうに言う。それに、八千代がまたバカな事を言う。
「だな。俺も今度声掛けられたら、あれで助けてもらうわ」
「俺もされてぇな」
「もっ、バカな事言わないでっ。それより皆、ホントによく声掛けられるよね。さっき、朔と八千代もされてたもんね。僕から離れたらすぐだもん。皆の方が、僕から離れちゃダメなんじゃない?」
「ははっ、そうだな。しっかし、今日のはマジでしつこかったなぁ。あんま押し強すぎると引くわ。しかも、何あの八つ当たり。ああいうの、マジでないわー」
啓吾がゲンナリした表情で嘆く。
「ホントそれな。ゆいぴに矛先が向くのだけはマジで許せない。女じゃなかったら手出ちゃうよ」
「皆、僕の事になるとホント過激だよね····。なんにせよ、皆が声掛けられるの、どうにかならないかなぁ」
「何言ってんだ。結人もナンパされてただろ」
「「えぇっ!?」」
啓吾とりっくんが驚き、驚嘆の声を上げた。朔はしれっと言っちゃうんだから····。
「なっ、どっちに!? つーか、そうだよ! お前らがナンパされてたって事はだよ。ゆいぴ1人にしたの!?」
僕が掻い摘んで事情を説明した。自分たちも似たような状況だったので、流石のりっくんも八千代たちに強く言えるはずがなかった。
「結人が逆ナンかぁ。やだなぁ、コレ。すっげぇ嫌な気持ちになんの。けどほらな、言った通りだっただろ?」
「うん。髪型だけで違うものだね。ホントに、ビックリしたよ····」
「パニクってわたわたしてたもんな。あん時は苛ついたけど、今思うとちょっと可愛かったぞ」
「確かにな。テンパってる結人は可愛いしおもろいよな。ナンパじゃなかったら様子見んのにな」
「何それぇ。テンパってるんだよ? 見てないで助けてよぉ」
「ははっ。本気で困ってたら助けてやるよ」
そんな馬鹿な話をしながら神社を出る。帰りの道中、啓吾が改めて貰いに行ってくれた甘酒を2人で分けっこした。
「結人、大丈夫? 酔ってない?」
「酔ってないよ。大丈夫」
「結人は後になって回るっぽいからなぁ。一気に飲むなよ?」
「大丈夫そうだぞ。結人がちびちび飲んでんの可愛いな」
朔が、ほっこりした笑みを浮かべて僕を見ている。
「だって、まだ結構熱いんだもん····」
「お前ら猫舌だもんな。全然減ってねぇぞ」
「そう言う朔と、場野もいっつもガツガツいくよな。見てるだけで火傷しそうだなって思ってたんだけど」
「僕も。見てるだけなのに「熱っ」て思っちゃうんだよね」
「まぁ、ゆいぴが猫舌なのは可愛さしかないどさ。啓吾だと、さっさと食えよとか思うし。人によるよね」
「なんで俺ディスられてんの?」
「えー。僕はね、啓吾が猫舌なの仲間だぁって思うよ」
「いぇ~い。俺ら仲間~。猫舌の苦労は俺らにしかわかんないんだよな~?」
「ね~。あはは。啓吾の方が酔ってるみたいだよ。テンション高いね」
「だってなんかさ、新年ってワクワクしねぇ?」
「わかる~。なんでかわかんないんだけどね、ワクワクするよね」
「お子ちゃま組は幸せそうだなぁ」
八千代が、僕と啓吾をまとめてディスってきた。
「お子ちゃまでもいいもーん。楽しいもーん。ね~、啓吾?」
「あははっ。結人めっちゃ可愛いな」
僕たちは深夜にも関わらず、存分にはしゃぎながら八千代の家に帰った。ここ数日、喋れていなかった反動が来ているかのように、僕と啓吾のテンションが高い。
家に着くと、りっくんが僕を洗浄に誘う。いつからか、りっくんのテンションも少し高ぶっているようだった。なんだか、凄く楽しそうだ。
「ふんふふーん。姫始めだねぇ。初めての姫始め~」
「んぁっ、りっくん····楽しそうだね。指、激しいよぉ」
「今ね、すっごい楽しい。て言うか、ゆいぴと新年早々こうしてられるのが幸せ。すっごい幸せ」
「やんっ、僕も、ね、幸せだよ。あぁっ、やっ、イッちゃう····」
今日も愛情たっぷりの洗浄を終えた。それより、ひめはじめって何だろう。
「なぁ、姫始めって2日じゃなかった?」
啓吾がポテトをつまみながら言った。だから、ひめはじめって何なの。
「2日は会えねぇんだから、今日でいいんだよ。こまけぇ事気にすんな」
僕は、勇気を出して聞いてみた。聞くは一時の恥だ。
「ねぇ、さっきから言ってる“ひめはじめ”って何?」
皆の「やっぱり知らねぇか」って目に、なんだか凄く腹が立った。
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