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1章 始まりの高2編
人は見かけで判断しちゃいけない
しおりを挟む肌寒さが増し、秋も真っ盛りの11月に入った。いよいよ、文化祭が間近に迫っている。今日はHRで出し物を決めるのだ。
けれどその前に、登校してきた啓吾を見て、僕と八千代とりっくんは愕然とした。
「け、啓吾さん? 頭どうしたの?」
「ん? 昨日帰りに染めた」
夏休みレベルの金髪だ。黒メッシュを入れて、チャラさが跳ね上がっている。一体、何があったのだろうか。と、その後ろに見えた朔を見て、さらに驚愕した。
青みがかった銀髪だ。これは相当ヤバい。ヴィジュアル系かってくらい、遊び過ぎた髪色だ。
「朔まで!? なんで!?」
「兄貴にやられた」
朔のお兄さんは美容師で、長期休暇の度に朔の頭で遊んでいるらしい。どうりで、夏休みも朔らしからぬ頭をしていると思っていた。そういう事だったのか。
しかし今回は、コンテストか何かが近いとかで、冬休みを待たずして練習台にされたんだとか。昨日帰っている時に呼び出され、丁度一緒に居た啓吾もそれに付き合ったんだそうだ。
「朔の兄ちゃんさ、朔そっくりの超イケメンでさ! オネェなの」
「わぁ。それ、そんなさらっと言っていいの?」
「ん? 兄貴がオネェな事、言ったらマズいのか?」
「それはお兄さんに聞いた方がいいんじゃないかなぁ····」
朔が気にしてないのなら、別に構わないのだろうか。それが、凜人さんが成り代わったと言ってたお兄さんなのかな。
「そう言えば、朔は何人兄弟なの? その美容師のお兄さんだけ?」
「もう1人兄貴が居るぞ。上が桜華さんと千鶴くんと同級生で、真ん中が7つ上だな。真ん中の兄貴は千鶴くん的な意味で、結人には会わせねぇつもりだ」
「そ、そうなの。けど、兄弟かぁ····いいなぁ」
「俺も! 俺も一人っ子。俺は姉ちゃん欲しかったわ」
「啓吾の場合、綺麗なお姉さんでしょ?」
りっくんが嫌味をかました。
「なははっ。まぁ、それに超したことはねぇよな」
「ふっ····。姉なんてロクなもんじゃないよ。顔が良くても、性格に難があったら苦労するから」
りっくんは遠い目をして言った。
「あはは。希乃ちゃんはミステリアスって感じだよね。僕は、弟か妹が欲しかったなぁ」
「そんな天国みたいな····俺、ゆいぴだけでもしんどいのに、ゆいぴに似た天使が他にも居たら耐えらんないよ」
「ははっ。りっくんてホント、僕の事になると意味不明なくらい馬鹿になるよね」
「あっはは! 結人は、莉久には結構キツいこと平気で言うよな」
「そうかな? そんなつもりは無かったんだけどな。りっくんならいいやって言うか、慣れ····かな」
「莉久の方は慣れてねぇみたいだぞ。涙目で死んでる」
朔がりっくんを親指で指差した。りっくんは机にとっぷして拗ねてしまった。面倒だなぁ。
「りっくん、生き返って。冗談····だから。生き返って~」
「その間は何? ····ちゅーしてくれたら生き返る」
「教室でできるわけないでしょ。もぉ····りっくん、ホントめんどくさいなぁ」
仕方がないから、頭を撫でてあげた。すると、水を得た植物の様に、すっと起き上がった。
「ゆいぴ、やっぱ俺にだけズバズバ言い過ぎじゃない? いくらゆいぴを変態的に溺愛してても、俺だってキズつくんだよ?」
「お前、言ってる事わかんねぇ。キモいぞ」
「はぁ!? 場野には言われたくないんだけど! ゆいぴ~、俺にも優しくしてよ~」
「はいはい。僕は皆に平等に優しくしてるつもりだよ。それよりさ、僕も髪染めたい!」
これまで、優等生として振る舞っていたものだから、髪を染めるなんて発想すらなかった。脱優等生となってしまった今、少しくらい自由を謳歌したって罰は当たらないだろう。が、浅はかな願望は早々に打ち砕かれた。
「ダメだ」
八千代ではなく、意外にも朔から言下に否定されてしまった。まったく、自分の頭を黒くしてから言ってほしい。
「なんでぇ!?」
「結人はそのままがいい。あと、先生に怒られるぞ」
「朔と啓吾は?」
「俺は怒られる覚悟でやってきた。あと、昨日は母ちゃんに殴られた」
「悪かったな、大畠。俺は····兄貴に逆らえねぇから」
「もしかして、お兄さんって怖いの?」
「いや、ゴネまくって面倒なだけだ。昔から、なんでも押し切ってくる。最終的に泣き落としでくるからな」
「はは、大変なんだね。そっか····僕も染めてみたいな」
「ちなみに、何色にしたいんだ?」
八千代が僕の髪を少し摘み、髪にキスしながら聞いた。
「ん~っとね····八千代の髪も綺麗だよね。赤茶? 僕もそんな感じがいいな。て言うか、髪にキスするのやめて。教室だよ」
「俺も、朔の兄貴んトコでやってもらってるからな。腕は良いぞ。今度連れてってやろうか?」
「いいの!? 行くぅ!」
「だったら俺が連れて行く。俺の兄貴だしな」
「えっ····さっきダメって言ったのに?」
「どうせ染めるんならの話だ。俺は反対だけどな。結人の綺麗な髪が傷むだろ」
「朔も意外と重度の過保護だよね。むぅー····僕も染~め~た~い~」
「駄々っ子か。くそ可愛いな。······冬休みまで我慢しろ。で、休みが終わるまでに戻す。それでいいんだったら連れてってやる」
「やったぁ~!」
皆が僕の駄々っ子に弱い事を、僕は最近知ったのだ。悪用するつもりは無いが、たまにはゴネてみるのもいいかと思った。
さて、いよいよ文化祭の出し物を決める時間だ。
協議の結果、僕たちのクラスは喫茶店をすることになった。喫茶店と言っても少し特殊で、男子は執事、女子はメイドに扮する。そして今、僕が執事をするかメイドをするかで揉めている。
クラス全員がメイドを希望しているが、断固として拒否し続けている。
啓吾の「結人がメイドしたら可愛いんじゃね?」というバカな発言に、クラス全体が乗っかった。僕に女装させて、喫茶店の目玉にでもしようと思っているようだ。朔も安易に「見てぇな」なんて言うものだから、拍車がかかってしまった。
だが、八千代だけは違った。唯一、僕の味方をしてくれたのだ。
「結人も執事でいいだろ。んでメイドなんだよ。つーか、結人はキッチンやっとけ」
八千代は、僕が人前に出る事すら気に食わないようだ。とても苛ついているように見える。
僕は執事がしたいのだけれど。と、もんもんしていると、見かねた香上くんがコソッと言った。
「なぁ。場野さ、お前が心配なんじゃねぇの? お前がメイドなんかやったら、妬いて暴れんじゃねぇ?」
「······あぁ」
なるほどだ。確かに八千代なら有り得る。が、それを香上くんの口から聞くことになるとは、予想だにしていなかった。
「俺が言うのもなんだけどさ、お前が女と間違われて声掛けられたりすんのとか嫌なんじゃねぇか? 」
「うーん。それは有り得るね。香上くん、ありがと」
「いや、別にいいけど。お前、大変だなぁ」
「あはは。まぁねぇ」
体育祭の一件以来、初めて会話したけど、案外普通に話せるものだ。それに、以前のようなチャラい感じではなく、真面目に僕の事を心配してくれている。やっぱり、根っからの悪い人ではないのだろう。八千代たちに絞められてチャラさが抜けたおかげか、苦手意識も幾分かマシになった気もする。
結局、僕はメイドをする事になった。八千代のキレっぷりに屈しない女子のパワー。一体何なのだろうか。
ちなみに、りっくんのクラスは演劇をするらしい。演目は白雪姫で、りっくんが王子役なんだとか。こちらも、女子に押しに押されて決まったらしい。という事はアレ····するのかな?
放課後、朔と啓吾は案の定、生徒指導室に呼び出された。
朝、担任の沢先生が教室に入るなり、2人の頭を見て目を丸くしていた。その顔があまりにおかしくて、僕と啓吾は吹き出してしまった。
3人で問題児たちが解放されるのを待っている間、りっくんに少し意地悪な質問をしてみた。
「王子様は、お姫様にキスするの?」
「えっ······しないよ」
「じゃぁ、白雪姫生き返れないじゃん」
「これはもう····アレだな」
「ん? あ、ちょっと場野、余計な事言うなよ」
「はっ····浮気だな」
「はぁぁ⁉ んなわけねぇだろ! フリだけだから。ホントに。ゆいぴが嫌だったら、そのシーンカットするか役降りるから。ホントにホントだから」
「冗談だよ。ちょっと意地悪言っただけだよ。だって、フリだけなんでしょ? それに、一旦引き受けたんだったら、責任持ってやり遂げないと····」
「ゆいぴ、妬かない?」
「······妬くかも」
「俺、ゆいぴにしかキスしないもん。て言うか、した事ないんだけど」
「それは嘘でしょ」
「····軽いのは流れでしてたけど、深いのはゆいぴが初めてだよ。マジで、ゆいぴ意外とはできなかった」
「お前、意外と純情だよな」
「おまっ、純情とか言うなよ! 恥ずかしいだろ」
「あははっ。僕は妬かないように頑張るから、りっくんはお姫様に唇奪われないように頑張ってね」
「え、何それ·····俺の唇狙われてんの?」
「狙われてるらしいよ。B組の女子が言ってた」
りっくんを王子に据えた後、B組では壮絶な姫決め合戦が行われたらしい。そして、勝ち取った子が「何としてもフリでは終わらせない」と話しているのを、僕が偶々聞いてしまったのだ。
「えぇー····もう一生ゆいぴ意外としないからね。力尽くでもさせないから安心してね」
「う、うん。まぁ····程々にね?」
女の子に力尽くはどうかと思うけど、言い出したら聞かないだろうから任せよう。僕だって、阻止できるものならしたいのが本音だ。
そして、待つこと1時間。ようやく朔と啓吾が解放された。
事情を説明し、朔のお兄さんにも連絡が行ったらしい。前回よりも悪化しているということで、お兄さん共々相当絞られたようだ。
「で、2人は髪色戻さないの?」
「あんま何回もやってたらすぐ傷むしなぁ。俺の頭皮が死んだら責任とってくれますかって先生に聞いたら、黙って反省文の用紙10枚渡された」
「俺もだ。こんなに書けねぇ」
「書けねぇなら戻せって意味じゃねぇの?」
反省文の用紙を見つめ真剣に考え込む2人を見て、八千代が呆れ顔で言った。
「「····なるほどな」」
朔と啓吾は目をまん丸にして納得した。2人は少し抜けているところが似ている。なんだか小さな子供の様で可愛く思えてしまう。
2人の頭が戻らないという事は、文化祭の時にかなり目立つという事だ。染めている人は多いけれど、色的にズバ抜けて目立つ。一番困るのは、似合いすぎていてカッコ良すぎる事だ。
僕の彼氏たちが、文化祭で奪われませんように。と、ただただ祈るのみだ
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