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1章 始まりの高2編
カッコイイ僕は嫌かな
しおりを挟む今日は朝から八千代が荒れていた。準備室のソファにどんと座り、僕を膝の上に乗せ、ひたすら頭を撫でられている。
それと言うのも、昨日の日曜日、千鶴さんを連れて実家に行ったらしいのだ。結論から言うと、お父さんに許してもらえなかったらしい。
で、千鶴さんがお父さんと一悶着あって入院したんだとか。お父さんが怖すぎる。
「明日には退院するけどな。飛んできた壺が頭に直撃して意識飛んだから、まぁ一応な」
「「「えぇー······」」」
僕と啓吾、りっくんは絶句した。朔は何故か笑っている。
「千鶴くんも親父さんも、相変わらずだな」
「昔からこんな感じなんだ。あれ? 朔と八千代って昔から仲良かったの?」
「いや、殆ど喋ったことねぇけど、小中一緒でお互い学校では有名人だったからな。お互いのことは情報として知ってる感じだ」
「そうなんだ。なんか不思議だねぇ。僕たちが今こうして一緒に居るの」
「そうだな。縁ってやつ感じるな」
「朔は風流な言葉使うねぇ。なんか、言動が上品なんだよ」
啓吾がほっこりとして言った。確かに、そう思う事はある。けれど、僕たちの前ではぶっ飛んだ言動も多いので、あまりに上品さが目立たない。
僕の中では皆そうなんだ。容姿も言動もイケメンだし、最高の彼氏たち。なのに、僕に関してはただの変態。とても残念イケメンたちなのだ。それを知っているのは、僕だけなんだけど。
「てかさ、そしたらどうなんの? 兄ちゃんがダメだったんなら、やっぱ場野が継ぐ感じなん?」
「んや、昨日はお袋が居なかったから、ダメ元って感じで顔見せに行っただけ。お袋が居たら、ほぼ100%大丈夫だと思う」
「八千代のお母さん、怖いの?」
「怖いっつーか、親父がお袋のイエスマンなんだよ。アホみてぇに惚れてっから」
「「あ~」」
啓吾とりっくんが声を揃えた。何に納得したのだろう。
「なんだよ」
「いや、だって。場野の結人への態度見てたらわかるでしょ」
「場野、お父さん似なんだろうね」
「は? 俺がイエスマンだってことか?」
「マジか。自覚ないの? 場野も重症だねぇ。結人にノーって言ったことないだろ?」
「······あるだろ」
「はーい、これ絶対ないわ~。な、結人」
「うーん····記憶にないなぁ」
八千代が不満そうな顔をしている。けれど、本当に記憶にないのだから仕方ない。八千代だけじゃなく、皆に甘やかされている自覚はある。それに甘えっぱなしにならないように、僕だって頼りになる男だってところを見せたい。と、思っていたのに。
「ねぇねぇ、そんな事よりさ、ゆいぴとのデート。そろそろしない? ごたついて出来なかったじゃん?」
「そうだな。俺ん家の方は一旦落ち着いたしなぁ。良いんじゃね?」
「じゃ、今週末と、来週末でしよっか。結人は予定大丈夫?」
「うん。僕、みんな以外との予定って基本的に無いから、いつでも大丈夫だよ?」
「俺らもそうなんだけどねっ」
啓吾が顔を覆って照れている。何故だろう。
「朔は? 最近忙しそうだったけど。ゆいぴ、めっちゃ心配してたよ」
「俺も少し落ち着いたから、しばらくは大丈夫だ。心配かけて悪かったな。ちょっと寝不足だっただけだ」
「そうなんだ。本当に、無理はしないでね? 倒れちゃったら僕、泣くからね?」
「ははっ。結人を泣かせるわけにはいかねぇな」
「じゃ~、まずは場野か。順番、結人に言ってなかったよな? 場野、莉久、朔、俺の順番な」
「わかった。僕は····ん? 僕は何したらいいの?」
「結人はエスコートされててね。何もしなくていいよ」
「えっ!? 僕も何かしたいよぉ」
かっこいい所を見てもらいたいと思った矢先にこれだもん。僕だって、さらっとかっこいい事して、惚れ直したとか言われてみたい。
「俺らが結人に喜んでもらいたくて企画したんだよ? 結人が何かしてくれたら、企画倒れじゃん」
「そういう企画だったの? 知らなかったんだけど····。うぅー、僕だって、皆にかっこいいトコ見せたいのに····」
「お前はどう頑張っても可愛い担当だろ」
八千代に、頭を撫でていた手で髪をくしゃっとされた。
「僕が可愛くなかったら、皆、僕の事好きならなかった? かっこいい僕は嫌?」
「難しいこと言うねぇ。まぁ、結局結人だから好きになっただろうけどね。可愛いのはさ、見た目も中身もそうなんだけど、そこはオマケみたいなもんなんだよね。考え方とか優しさとかって、可愛いもかっこいいも関係ないじゃん? 全部ひっくるめての結人が好きなんだから、可愛くなくても、もう好きすぎてどうしようだよ」
「な、何それ····待って、啓吾のバカっ。恥ずかしいよぉ」
最後まで顔を見て聞けなかった。僕のほっぺをふにふにしていた八千代の手で、僕は顔を覆って隠した。
「なんで俺の手で隠れんだよ」
「だって、手おっきいから····」
「結人の手は可愛いサイズだからな」
「そう言う朔も、手おっきいよね。ん? 啓吾とりっくんも大きいよね?」
「結人が小さいだけだ。多分そういうのって、身長と比例するんだろ」
僕は、口をハクハクさせるだけで言葉が出なかった。朔に悪気が無いのはわかっているが、コンプレックスを言葉にされると辛いものがある。啓吾の軽口とは違う、言葉の重みだ。
「わりぃ。気にしてるんだよな? けど、俺は小さい結人が好きだぞ? 大きくても関係ねぇけど」
「そう。なんか、ありがとね。僕、走ったり筋トレもしたけど、筋肉つかないし、背もほとんど伸びないし。皆まだ伸びてるでしょ? センチ単位で。僕、ミリ単位なんだよね。もう、大きくなれないのかなぁ」
「これからの成長はわかんねぇけど、今のところ高身長でマッチョの結人は想像できねぇな」
「確かに、そんな結人は想像できねぇな。何にしても、お前はお前だ。見てくれが今のままでも変わっても、俺はお前が好きだ。そんだけじゃ不満か?」
「皆、ホントに言動がイケメン過ぎるよぉ····」
「ゆいぴに喜んでもらえてるんなら良かったよ。ゆいぴ、イケメン大好きでしょ?」
「おー、コイツの推しもイケメンだもんな。最初はアレにちょっと妬いたわ」
「え、ゲーセンでめっちゃ取ってくれてたのに?」
「あれは····お前の喜びそうな事してやりたかっただけで、正直かなり不本意だった」
「結人は面食いなんだな。俺、結人に顔が良いって言われた時、初めてこの顔で生まれて良かったって思ったんだ。今まで容姿なんて気にしたことなかったからな」
朔が、何かを噛み締めながら言う。
「女顔だってよく言われてたからかな。推しに関してはイケメンに憧れがあるんだと思う。皆の事は顔で選んだわけじゃないし、たまたまイケメンだっただけだよ」
自分で言って、なかなかに贅沢な事だと思った。こんなの、世の女子に知られたら刺されそうだな。
「お、そろそろ昼休み終わるな。戻るか」
「そうだ、待って。ゆいぴ、あれから香上はどうなの?」
「あぁ、香上くんね。めちゃくちゃ大人しいよ。指一本触れてこない。それどころか喋らないの。気まずいから、今すぐにでも席替えしたいよ」
「そうなんだ。良かった。また何かあったら、すぐに教えてね? 俺だけクラス違うから、心配なんだよ」
「大丈夫だよ。過激なセキュリティが3人もクラスに居るから」
「ははっ。任せなさいって、莉久。俺らの前で、二度と結人に触れさせねぇから」
「もー、ホントゆいぴの事頼むよ? 今度何かあったら、お前らも許さねぇから」
「ここにも過激なの居んじゃん。結人のセキュリティは万全だな」
笑い事じゃないんだけど。体育祭の後、酷い怪我をしていた香上くんが、僕を避けるようになった。聞けば、りっくんと啓吾もボコったらしい。問題にならなかったのが不思議なくらいだ。
「結人のセキュリティは俺一人でも余裕だわ。つーか、マジで戻んぞ」
八千代が立ち上がった。僕を抱いたまま。
「八千代、降ろして? なんで僕、抱っこされてんの?」
「お。わりぃ。つい····」
「場野、めっちゃイラついてたもんね。結人で癒された?」
「おー、だいぶな」
僕はストレス発散グッズだったのだろうか。まぁ、八千代がスッキリしたのなら、なんでもいいや。
さて、今は週末のデートが楽しみだ。
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