上 下
39 / 390
1章 始まりの高2編

カッコイイ僕は嫌かな

しおりを挟む

 今日は朝から八千代が荒れていた。準備室のソファにどんと座り、僕を膝の上に乗せ、ひたすら頭を撫でられている。
 それと言うのも、昨日の日曜日、千鶴さんを連れて実家に行ったらしいのだ。結論から言うと、お父さんに許してもらえなかったらしい。
 で、千鶴さんがお父さんと一悶着あって入院したんだとか。お父さんが怖すぎる。

「明日には退院するけどな。飛んできた壺が頭に直撃して意識飛んだから、まぁ一応な」

「「「えぇー······」」」

 僕と啓吾、りっくんは絶句した。朔は何故か笑っている。

「千鶴くんも親父さんも、相変わらずだな」

「昔からこんな感じなんだ。あれ? 朔と八千代って昔から仲良かったの?」

「いや、殆ど喋ったことねぇけど、小中一緒でお互い学校では有名人だったからな。お互いのことは情報として知ってる感じだ」

「そうなんだ。なんか不思議だねぇ。僕たちが今こうして一緒に居るの」

「そうだな。えにしってやつ感じるな」

「朔は風流な言葉使うねぇ。なんか、言動が上品なんだよ」

 啓吾がほっこりとして言った。確かに、そう思う事はある。けれど、僕たちの前ではぶっ飛んだ言動も多いので、あまりに上品さが目立たない。
 僕の中では皆そうなんだ。容姿も言動もイケメンだし、最高の彼氏たち。なのに、僕に関してはただの変態。とても残念イケメンたちなのだ。それを知っているのは、僕だけなんだけど。

「てかさ、そしたらどうなんの? 兄ちゃんがダメだったんなら、やっぱ場野が継ぐ感じなん?」

「んや、昨日はお袋が居なかったから、ダメ元って感じで顔見せに行っただけ。お袋が居たら、ほぼ100%大丈夫だと思う」

「八千代のお母さん、怖いの?」

「怖いっつーか、親父がお袋のイエスマンなんだよ。アホみてぇに惚れてっから」

「「あ~」」

 啓吾とりっくんが声を揃えた。何に納得したのだろう。

「なんだよ」

「いや、だって。場野の結人への態度見てたらわかるでしょ」

「場野、お父さん似なんだろうね」

「は? 俺がイエスマンだってことか?」

「マジか。自覚ないの? 場野も重症だねぇ。結人にノーって言ったことないだろ?」

「······あるだろ」

「はーい、これ絶対ないわ~。な、結人」

「うーん····記憶にないなぁ」

 八千代が不満そうな顔をしている。けれど、本当に記憶にないのだから仕方ない。八千代だけじゃなく、皆に甘やかされている自覚はある。それに甘えっぱなしにならないように、僕だって頼りになる男だってところを見せたい。と、思っていたのに。

「ねぇねぇ、そんな事よりさ、ゆいぴとのデート。そろそろしない? ごたついて出来なかったじゃん?」

「そうだな。俺ん家の方は一旦落ち着いたしなぁ。良いんじゃね?」

「じゃ、今週末と、来週末でしよっか。結人は予定大丈夫?」

「うん。僕、みんな以外との予定って基本的に無いから、いつでも大丈夫だよ?」

「俺らもそうなんだけどねっ」

 啓吾が顔を覆って照れている。何故だろう。

「朔は? 最近忙しそうだったけど。ゆいぴ、めっちゃ心配してたよ」

「俺も少し落ち着いたから、しばらくは大丈夫だ。心配かけて悪かったな。ちょっと寝不足だっただけだ」

「そうなんだ。本当に、無理はしないでね? 倒れちゃったら僕、泣くからね?」

「ははっ。結人を泣かせるわけにはいかねぇな」

「じゃ~、まずは場野か。順番、結人に言ってなかったよな? 場野、莉久、朔、俺の順番な」

「わかった。僕は····ん? 僕は何したらいいの?」

「結人はエスコートされててね。何もしなくていいよ」

「えっ!? 僕も何かしたいよぉ」

 かっこいい所を見てもらいたいと思った矢先にこれだもん。僕だって、さらっとかっこいい事して、惚れ直したとか言われてみたい。

「俺らが結人に喜んでもらいたくて企画したんだよ? 結人が何かしてくれたら、企画倒れじゃん」

「そういう企画だったの? 知らなかったんだけど····。うぅー、僕だって、皆にかっこいいトコ見せたいのに····」

「お前はどう頑張っても可愛い担当だろ」

 八千代に、頭を撫でていた手で髪をくしゃっとされた。

「僕が可愛くなかったら、皆、僕の事好きならなかった? かっこいい僕は嫌?」

「難しいこと言うねぇ。まぁ、結局結人だから好きになっただろうけどね。可愛いのはさ、見た目も中身もそうなんだけど、そこはオマケみたいなもんなんだよね。考え方とか優しさとかって、可愛いもかっこいいも関係ないじゃん? 全部ひっくるめての結人が好きなんだから、可愛くなくても、もう好きすぎてどうしようだよ」

「な、何それ····待って、啓吾のバカっ。恥ずかしいよぉ」

 最後まで顔を見て聞けなかった。僕のほっぺをふにふにしていた八千代の手で、僕は顔を覆って隠した。

「なんで俺の手で隠れんだよ」

「だって、手おっきいから····」

「結人の手は可愛いサイズだからな」

「そう言う朔も、手おっきいよね。ん? 啓吾とりっくんも大きいよね?」

「結人が小さいだけだ。多分そういうのって、身長と比例するんだろ」

 僕は、口をハクハクさせるだけで言葉が出なかった。朔に悪気が無いのはわかっているが、コンプレックスを言葉にされると辛いものがある。啓吾の軽口とは違う、言葉の重みだ。

「わりぃ。気にしてるんだよな? けど、俺は小さい結人が好きだぞ? 大きくても関係ねぇけど」

「そう。なんか、ありがとね。僕、走ったり筋トレもしたけど、筋肉つかないし、背もほとんど伸びないし。皆まだ伸びてるでしょ? センチ単位で。僕、ミリ単位なんだよね。もう、大きくなれないのかなぁ」

「これからの成長はわかんねぇけど、今のところ高身長でマッチョの結人は想像できねぇな」

「確かに、そんな結人は想像できねぇな。何にしても、お前はお前だ。見てくれが今のままでも変わっても、俺はお前が好きだ。そんだけじゃ不満か?」

「皆、ホントに言動がイケメン過ぎるよぉ····」

「ゆいぴに喜んでもらえてるんなら良かったよ。ゆいぴ、イケメン大好きでしょ?」

「おー、コイツの推しもイケメンだもんな。最初はアレにちょっと妬いたわ」

「え、ゲーセンでめっちゃ取ってくれてたのに?」

「あれは····お前の喜びそうな事してやりたかっただけで、正直かなり不本意だった」

「結人は面食いなんだな。俺、結人に顔が良いって言われた時、初めてこの顔で生まれて良かったって思ったんだ。今まで容姿なんて気にしたことなかったからな」

 朔が、何かを噛み締めながら言う。

「女顔だってよく言われてたからかな。推しに関してはイケメンに憧れがあるんだと思う。皆の事は顔で選んだわけじゃないし、たまたまイケメンだっただけだよ」

 自分で言って、なかなかに贅沢な事だと思った。こんなの、世の女子に知られたら刺されそうだな。

「お、そろそろ昼休み終わるな。戻るか」

「そうだ、待って。ゆいぴ、あれから香上はどうなの?」

「あぁ、香上くんね。めちゃくちゃ大人しいよ。指一本触れてこない。それどころか喋らないの。気まずいから、今すぐにでも席替えしたいよ」

「そうなんだ。良かった。また何かあったら、すぐに教えてね? 俺だけクラス違うから、心配なんだよ」

「大丈夫だよ。過激なセキュリティが3人もクラスに居るから」

「ははっ。任せなさいって、莉久。俺らの前で、二度と結人に触れさせねぇから」

「もー、ホントゆいぴの事頼むよ? 今度何かあったら、お前らも許さねぇから」

「ここにも過激なの居んじゃん。結人のセキュリティは万全だな」

 笑い事じゃないんだけど。体育祭の後、酷い怪我をしていた香上くんが、僕を避けるようになった。聞けば、りっくんと啓吾もボコったらしい。問題にならなかったのが不思議なくらいだ。

「結人のセキュリティは俺一人でも余裕だわ。つーか、マジで戻んぞ」

 八千代が立ち上がった。僕を抱いたまま。

「八千代、降ろして? なんで僕、抱っこされてんの?」

「お。わりぃ。つい····」

「場野、めっちゃイラついてたもんね。結人で癒された?」

「おー、だいぶな」

 僕はストレス発散グッズだったのだろうか。まぁ、八千代がスッキリしたのなら、なんでもいいや。
 さて、今は週末のデートが楽しみだ。
しおりを挟む
感想 155

あなたにおすすめの小説

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!? ※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。 いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。 しかしまだ問題が残っていた。 その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。 果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか? また、恋の行方は如何に。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

処理中です...