ちっこい僕は不良の場野くんのどストライクらしい

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1章 始まりの高2編

僕たちの未来

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 どこかに電話をしていた朔が戻ってきた。そして、開口一番、理解しがたいことを言い出した。

「親父の会社からヘッドハンティングかけてもらうことにしたから、来月にはこっちに帰って来れると思うぞ」

「えぇ~······何そのビックリな展開。それはさっくん、やり過ぎなんじゃない?」

「なんでだ? 使えるものは金でも権力でも使えって、親父から教わったぞ」

「過激だなぁ····。朔がズバズバサバサバしてんのはそれでか」

「行動力にも納得だよ。それより、ゆいぴがまた固まってるんだけど」

「俺は大学出たら、いずれ親父の後を継ぐ為に色々やれって言われてんだ。早けりゃ在学中からだけどな。今まで拒否してたんだけど、親父の意向に沿う代わりに、結人の親父さんの事頼んだ」

「え、え、待って。僕、ついていけてない····父さんの転職を勝手に····えぇ?」

「最終的には親父さんが決める事だけどな。こっちからは、あくまで優良物件の紹介止まりだ。まぁ、ゴリ押すけどな。事情話したら、俺が継ぐまで親父んトコで働いてもらったらどうだって言うから、そうしてくれって言っといた」

「ヘェ~、ソウナンダ。え、待って? 事情ってどこまで話したの?」

「全部」

「「「言ったの!?」」」

僕とりっくん、それに啓吾は驚きすぎて目を見開いた。

「お前、それは早すぎねぇか?」

流石の八千代も驚いたようだ。

「親父なら大丈夫だ。大変だねぇとか言ってた。全面的に協力してくれるらしい」

「あ。ゆいぴがついていけなさ過ぎて、完全に考えんのやめてる」

「親父は昔から、俺に激甘だからな。俺の決めた事に反対した事はねぇ。それと、親父さんの会社な。聞いたらやっぱブラックだって言ってたぞ」

「激甘だからってお前なぁ······。とりあえず、後で社名教えろ。あー····そういや、朔の親父は朔よりやべぇよな。小1の運動会ん時、朔の競技ん時だけ撮影部隊が囲んでるわ、昼飯に全校生徒分のケータリング呼ぶわで凄かったぞ」

「場野ん家だって凄かったぞ。物凄い人数で応援に来てて、かけっこの時白熱しすぎて物騒だなんだって問題になってただろ」

「んで結局、俺らん家だけ全行事、肉親以外の出禁くらったよな」

「あぁ、あれは笑った。凜人なんか、次の年から兄貴のフリして侵入してた。おかげで本物の兄貴が来れなくて泣いてたな」

「何それ····。理解できな過ぎて手に負えないんだけど····。八千代ぉ······」

 考えが纏まらず、とっさに八千代に助けを求めてしまった。

「あー····俺んトコじゃ、親父さんに働いてもらうわけに行かねぇしな。朔んトコが無難なんじゃねぇの?」

「そういうことじゃ····あぁそうなの、父さんの転職は必須なんだね。······ん? 八千代んトコってまさか······」

千流鶴慈會ちりゅうかくじかいだろ」

 朔が噛みそうな単語を放った。

「ちりゅ······ち?」

「あ? お前ら俺ん家の事知ってたんじゃねぇのかよ」

「えぇ⁉ 『場野組』じゃないの? 僕、そんな噛みそうな名前、聞いた事ないんだけど」

「俺もずっと、場野組だと思ってた」

 啓吾が僕と一緒に目を丸くしている。

「んなダッセェ名前ヤだわ」

「いや、俺らの地元じゃ場野組で通ってるよ」

 りっくんがそう言うと、八千代も朔も笑い出した。

「場野組····ダセェな······」

「ふはっ。マジか····ダサすぎだろ······」

 何がツボったのかよく分からないが、八千代と朔はヒィヒィ笑っている。

 僕たちが場野組だと思っていたヤクザ屋さんは、正式には千流鶴慈會というらしい。八千代はその八代目候補なんだとか。
 今まで、あまり触れてはいけない話だと思っていたけど、案外さらっと教えてくれた。今、自由にしているのも、いずれ後を継ぐことを条件にされているらしい。

「やっぱり、みんなでずっと一緒なんて、無理なんだよね。大人になったら、それぞれの道に進むでしょ? その時には、この関係のままなわけないんだよね」

「お前、舐めてんのか」

 そう言うと、八千代が僕を膝に乗せた。

「····え?」

「俺らがお前から離れられるわけねぇだろ。安心しろ。お前が離れたくなっても、離してやんねぇよ」

 八千代が、史上最高に優しい笑顔で抱き締めてくれた。そして、僕の目を真っ直ぐ見つめ、頭を撫でながら言った。

「この先、なんか問題が起きても俺らが全部何とかするから、お前は黙って俺らの傍に居りゃいいんだよ」

「ひゅ~····がっつりプロポーズじゃん」

「場野、抜け駆けすんなよ! ゆいぴ····。場野や朔ほどできることは無いかもしれないけど、俺だってゆいぴと一緒に居たいよ。勿論、俺が先に死ぬまで」

りっくんは胸に手を当てて、このまま召されそうな様子だ。

「え、りっくん先に死ぬの? やだ····長生きしてね」

「俺、ゆいぴの為なら200歳くらいまで生きれそうな気がしてきた」

「りっくんも、僕の事になると大概、頭イカれてるよね」

「あははっ。言えてる~。まぁ、みんな結人の事になると、どっかおかしくなるよな。莉久は拗らせすぎてて、ズバ抜けでヤバいけど」

「啓吾は相変わらず軽いよね。けど、本命だけって初めてじゃないの?」

「え、その話する? 結人の前で?」

「あ、ごめーん」

「そうだね。朔と僕以外、みんな遊び人だったもんね····」

「俺は、ゆいぴを忘れる為だったんだよ? 遊んでたわけじゃないもん····」

 りっくんは目を泳がせながら言い訳をする。

「アホが、自滅してやんの。俺も遊んでたわけじゃねぇぞ。言い寄ってくるから経験があるってだけで、惚れた女も大切にした女も居ねぇ」

「それは····八千代、最低だよ」

「良いんだよ。お前だけ大事にしてんだから、今までの事なんて関係ねぇだろ」

「そうだよ! 関係ない!」

「啓吾は、普通に遊んでたじゃん。彼女なんて常に2、3人居たでしょ」

「彼女じゃねぇよ。皆、ただの友達。特定の相手は作んなかったぞ。俺が浮気者みたいに言うなよな!」

「啓吾も最低····女の子の敵だ······」

「だってぇ····好きでもないのに特定の相手作ったら面倒じゃん?」

「好きでもない人とヤるなんて、啓吾ったらひど~い」

「おい! 結人の前でそういう事言うなよ! 結人、莉久の言う事なんか忘れてね~? 俺、真剣に好きになったのも付き合ったのも、結人が初めてだから。ホントだから! 信じてくれる?」

「あはは。大丈夫だよ、啓吾。啓吾が嘘つかないの、ちゃんと知ってるよ」

「ホント結人好き! 俺も一生結人と生きてくから!」

「うん。ありがと、啓吾。僕も好きだよ。一生····一生って、長いのかな。みんなと居れたら、あっという間に終わっちゃいそうだね」

 現実に背を向けて思い描く未来は、どこまでも幸せが溢れている。しかし、現実的な未来が、それに影を落とし僕の心を押し潰してしまう。
 不用意に言った言葉の所為で、しんみりとしてしまった。

「なぁ、結人」

「なぁに、朔」

「やっぱり、高校卒業したら一緒に暮らそう。親御さんには俺らが頼むから。ちゃんと、俺らの事も知ってもらって、そんで一緒に居れるようにしよう」

「朔、本気で言ってんだな?」

「ああ、当然だろう」

「だったら、俺は難しいと思うぞ。俺ん家の事、許してもらえるわけねぇだろ。隠すのは違ぇし」

「そうか。それがあったな」

「問題は山積みだねぇ。ゆいぴのお母さんにも、負担かけないようにしなきゃだしね」

「僕が····八千代の事は、僕が説得する。皆で暮らすなら、八千代も居ないとヤダよ」

「ったく、お前は······」

 八千代は大きな溜め息をつくと、僕をとるけさせる甘いキスをした。

「お前は覚悟できたんだな?」

「うん。僕、皆に守られてばっかりは嫌だよ。僕だって、皆と居られるように頑張るから」

「じゃ、俺も腹括るわ」

「どうすんだ? 家出たら、親父さんヤバくねぇか? お前トコの親父さんも、相当やべぇだろ」

「逃げた兄貴を連れ戻す」

「八千代、お兄さん居たの?」

「おう。ロクでもねぇクソ兄貴がな」

千鶴ちづるくんだっけか。医者じゃねぇのか? 噂で聞いた程度だけど」

「よく知ってんな。あんなヤブ医者にかかったら孕まされるだけだぞ。基本、男は診ねぇしな。マジもんのクソなんだよ、あんの快楽主義者は」

「八千代、お兄さんの事嫌いなの?」

「嫌い。微塵も思考が合わねぇ」

「お前、お姉さんも居ただろ?」

「え、まだ兄弟いるの? 姉ちゃん綺麗?」

 啓吾は、啓吾らしくて安心する。

「上2人が双子なんだよ。姉貴の桜華おうかとクソ兄貴の千鶴。姉貴は何かの会社経営してるわ。学生の頃はバイトでモデルやってたらしいけど、んなに美人とは思わねぇな」

「へぇ~。兄弟かぁ····いいなぁ」

 僕は一人っ子だから、りっくんのお姉さんの希乃ちゃんを、本当のお姉ちゃんみたいに思っていた。それも、小学生の間だけだったけど。

「そんな良いもんでもねぇけどな。まぁ、この状況に置かれた今だから、存在だけは認めてやろうと思う」

「ははは····。相当嫌いなんだね、お兄さんの事」

「アイツが家出た時に、死んだもんだと思ってるからな。けど、今生き返らしてやった」

「凄い言われようだな、クソ兄貴とやら。俺も兄弟居ねぇから、ちょっと羨ましいけどな~」

 啓吾はへへっと笑い、場を和ませてくれた。

「とりあえず、俺らの方向性は決まったな。具体的にはこれから詰めてくけど、動ける奴から動いてかねぇと、あっという間に卒業だぞ」

「朔、どうしたの? 急にやる気になって····。何か焦ってる?」

 僕は、いつもと様子の違う朔に、少し不安を覚えた。

「いや、結人と四六時中一緒に居れるのかと思ったら、何かうずうずしちまって····先走っちまった。わりぃ」

 僕たちは、揃って呆れた顔をしてしまった。朔が小さな子供に見えてしまったのだ。

「いずれ、こういう話は出てただろうし、早いに越したことはないないでしょ」

「莉久の言う通りだぞ、朔。うずうずすんのは俺らも同じだよ? 結人の事になったら、みんな必死すぎんの」

「まぁ、動き出す良いきっかけにはなったんじゃねぇの? 俺と朔は、やる事多そうだしな」

「それぞれにできる事やってこうよ。さ、そろそろ帰ろっか。ゆいぴ送ってかなくちゃだし」

「わっ! もうこんな時間····。皆、いつもごめんね」

 時計を見ると、10時を回っていた。最近、遅くなることが多いから、気をつけなくちゃと思っていたのに。
 けど、皆と想いを擦り合わせるように、僕たちの未来さきの話ができたのは本当に嬉しかった。僕たちの思い描くこの先を、少しでも多く実現させるんだ。
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