29 / 387
1章 始まりの高2編
僕たちの未来
しおりを挟むどこかに電話をしていた朔が戻ってきた。そして、開口一番、理解しがたいことを言い出した。
「親父の会社からヘッドハンティングかけてもらうことにしたから、来月にはこっちに帰って来れると思うぞ」
「えぇ~······何そのビックリな展開。それはさっくん、やり過ぎなんじゃない?」
「なんでだ? 使えるものは金でも権力でも使えって、親父から教わったぞ」
「過激だなぁ····。朔がズバズバサバサバしてんのはそれでか」
「行動力にも納得だよ。それより、ゆいぴがまた固まってるんだけど」
「俺は大学出たら、いずれ親父の後を継ぐ為に色々やれって言われてんだ。早けりゃ在学中からだけどな。今まで拒否してたんだけど、親父の意向に沿う代わりに、結人の親父さんの事頼んだ」
「え、え、待って。僕、ついていけてない····父さんの転職を勝手に····えぇ?」
「最終的には親父さんが決める事だけどな。こっちからは、あくまで優良物件の紹介止まりだ。まぁ、ゴリ押すけどな。事情話したら、俺が継ぐまで親父んトコで働いてもらったらどうだって言うから、そうしてくれって言っといた」
「ヘェ~、ソウナンダ。え、待って? 事情ってどこまで話したの?」
「全部」
「「「言ったの!?」」」
僕とりっくん、それに啓吾は驚きすぎて目を見開いた。
「お前、それは早すぎねぇか?」
流石の八千代も驚いたようだ。
「親父なら大丈夫だ。大変だねぇとか言ってた。全面的に協力してくれるらしい」
「あ。ゆいぴがついていけなさ過ぎて、完全に考えんのやめてる」
「親父は昔から、俺に激甘だからな。俺の決めた事に反対した事はねぇ。それと、親父さんの会社な。聞いたらやっぱブラックだって言ってたぞ」
「激甘だからってお前なぁ······。とりあえず、後で社名教えろ。あー····そういや、朔の親父は朔よりやべぇよな。小1の運動会ん時、朔の競技ん時だけ撮影部隊が囲んでるわ、昼飯に全校生徒分のケータリング呼ぶわで凄かったぞ」
「場野ん家だって凄かったぞ。物凄い人数で応援に来てて、かけっこの時白熱しすぎて物騒だなんだって問題になってただろ」
「んで結局、俺らん家だけ全行事、肉親以外の出禁くらったよな」
「あぁ、あれは笑った。凜人なんか、次の年から兄貴のフリして侵入してた。おかげで本物の兄貴が来れなくて泣いてたな」
「何それ····。理解できな過ぎて手に負えないんだけど····。八千代ぉ······」
考えが纏まらず、とっさに八千代に助けを求めてしまった。
「あー····俺んトコじゃ、親父さんに働いてもらうわけに行かねぇしな。朔んトコが無難なんじゃねぇの?」
「そういうことじゃ····あぁそうなの、父さんの転職は必須なんだね。······ん? 八千代んトコってまさか······」
「千流鶴慈會だろ」
朔が噛みそうな単語を放った。
「ちりゅ······ち?」
「あ? お前ら俺ん家の事知ってたんじゃねぇのかよ」
「えぇ⁉ 『場野組』じゃないの? 僕、そんな噛みそうな名前、聞いた事ないんだけど」
「俺もずっと、場野組だと思ってた」
啓吾が僕と一緒に目を丸くしている。
「んなダッセェ名前ヤだわ」
「いや、俺らの地元じゃ場野組で通ってるよ」
りっくんがそう言うと、八千代も朔も笑い出した。
「場野組····ダセェな······」
「ふはっ。マジか····ダサすぎだろ······」
何がツボったのかよく分からないが、八千代と朔はヒィヒィ笑っている。
僕たちが場野組だと思っていたヤクザ屋さんは、正式には千流鶴慈會というらしい。八千代はその八代目候補なんだとか。
今まで、あまり触れてはいけない話だと思っていたけど、案外さらっと教えてくれた。今、自由にしているのも、いずれ後を継ぐことを条件にされているらしい。
「やっぱり、みんなでずっと一緒なんて、無理なんだよね。大人になったら、それぞれの道に進むでしょ? その時には、この関係のままなわけないんだよね」
「お前、舐めてんのか」
そう言うと、八千代が僕を膝に乗せた。
「····え?」
「俺らがお前から離れられるわけねぇだろ。安心しろ。お前が離れたくなっても、離してやんねぇよ」
八千代が、史上最高に優しい笑顔で抱き締めてくれた。そして、僕の目を真っ直ぐ見つめ、頭を撫でながら言った。
「この先、なんか問題が起きても俺らが全部何とかするから、お前は黙って俺らの傍に居りゃいいんだよ」
「ひゅ~····がっつりプロポーズじゃん」
「場野、抜け駆けすんなよ! ゆいぴ····。場野や朔ほどできることは無いかもしれないけど、俺だってゆいぴと一緒に居たいよ。勿論、俺が先に死ぬまで」
りっくんは胸に手を当てて、このまま召されそうな様子だ。
「え、りっくん先に死ぬの? やだ····長生きしてね」
「俺、ゆいぴの為なら200歳くらいまで生きれそうな気がしてきた」
「りっくんも、僕の事になると大概、頭イカれてるよね」
「あははっ。言えてる~。まぁ、みんな結人の事になると、どっかおかしくなるよな。莉久は拗らせすぎてて、ズバ抜けでヤバいけど」
「啓吾は相変わらず軽いよね。けど、本命だけって初めてじゃないの?」
「え、その話する? 結人の前で?」
「あ、ごめーん」
「そうだね。朔と僕以外、みんな遊び人だったもんね····」
「俺は、ゆいぴを忘れる為だったんだよ? 遊んでたわけじゃないもん····」
りっくんは目を泳がせながら言い訳をする。
「アホが、自滅してやんの。俺も遊んでたわけじゃねぇぞ。言い寄ってくるから経験があるってだけで、惚れた女も大切にした女も居ねぇ」
「それは····八千代、最低だよ」
「良いんだよ。お前だけ大事にしてんだから、今までの事なんて関係ねぇだろ」
「そうだよ! 関係ない!」
「啓吾は、普通に遊んでたじゃん。彼女なんて常に2、3人居たでしょ」
「彼女じゃねぇよ。皆、ただの友達。特定の相手は作んなかったぞ。俺が浮気者みたいに言うなよな!」
「啓吾も最低····女の子の敵だ······」
「だってぇ····好きでもないのに特定の相手作ったら面倒じゃん?」
「好きでもない人とヤるなんて、啓吾ったらひど~い」
「おい! 結人の前でそういう事言うなよ! 結人、莉久の言う事なんか忘れてね~? 俺、真剣に好きになったのも付き合ったのも、結人が初めてだから。ホントだから! 信じてくれる?」
「あはは。大丈夫だよ、啓吾。啓吾が嘘つかないの、ちゃんと知ってるよ」
「ホント結人好き! 俺も一生結人と生きてくから!」
「うん。ありがと、啓吾。僕も好きだよ。一生····一生って、長いのかな。みんなと居れたら、あっという間に終わっちゃいそうだね」
現実に背を向けて思い描く未来は、どこまでも幸せが溢れている。しかし、現実的な未来が、それに影を落とし僕の心を押し潰してしまう。
不用意に言った言葉の所為で、しんみりとしてしまった。
「なぁ、結人」
「なぁに、朔」
「やっぱり、高校卒業したら一緒に暮らそう。親御さんには俺らが頼むから。ちゃんと、俺らの事も知ってもらって、そんで一緒に居れるようにしよう」
「朔、本気で言ってんだな?」
「ああ、当然だろう」
「だったら、俺は難しいと思うぞ。俺ん家の事、許してもらえるわけねぇだろ。隠すのは違ぇし」
「そうか。それがあったな」
「問題は山積みだねぇ。ゆいぴのお母さんにも、負担かけないようにしなきゃだしね」
「僕が····八千代の事は、僕が説得する。皆で暮らすなら、八千代も居ないとヤダよ」
「ったく、お前は······」
八千代は大きな溜め息をつくと、僕をとるけさせる甘いキスをした。
「お前は覚悟できたんだな?」
「うん。僕、皆に守られてばっかりは嫌だよ。僕だって、皆と居られるように頑張るから」
「じゃ、俺も腹括るわ」
「どうすんだ? 家出たら、親父さんヤバくねぇか? お前トコの親父さんも、相当やべぇだろ」
「逃げた兄貴を連れ戻す」
「八千代、お兄さん居たの?」
「おう。ロクでもねぇクソ兄貴がな」
「千鶴くんだっけか。医者じゃねぇのか? 噂で聞いた程度だけど」
「よく知ってんな。あんなヤブ医者にかかったら孕まされるだけだぞ。基本、男は診ねぇしな。マジもんのクソなんだよ、あんの快楽主義者は」
「八千代、お兄さんの事嫌いなの?」
「嫌い。微塵も思考が合わねぇ」
「お前、お姉さんも居ただろ?」
「え、まだ兄弟いるの? 姉ちゃん綺麗?」
啓吾は、啓吾らしくて安心する。
「上2人が双子なんだよ。姉貴の桜華とクソ兄貴の千鶴。姉貴は何かの会社経営してるわ。学生の頃はバイトでモデルやってたらしいけど、んなに美人とは思わねぇな」
「へぇ~。兄弟かぁ····いいなぁ」
僕は一人っ子だから、りっくんのお姉さんの希乃ちゃんを、本当のお姉ちゃんみたいに思っていた。それも、小学生の間だけだったけど。
「そんな良いもんでもねぇけどな。まぁ、この状況に置かれた今だから、存在だけは認めてやろうと思う」
「ははは····。相当嫌いなんだね、お兄さんの事」
「アイツが家出た時に、死んだもんだと思ってるからな。けど、今生き返らしてやった」
「凄い言われようだな、クソ兄貴とやら。俺も兄弟居ねぇから、ちょっと羨ましいけどな~」
啓吾はへへっと笑い、場を和ませてくれた。
「とりあえず、俺らの方向性は決まったな。具体的にはこれから詰めてくけど、動ける奴から動いてかねぇと、あっという間に卒業だぞ」
「朔、どうしたの? 急にやる気になって····。何か焦ってる?」
僕は、いつもと様子の違う朔に、少し不安を覚えた。
「いや、結人と四六時中一緒に居れるのかと思ったら、何かうずうずしちまって····先走っちまった。わりぃ」
僕たちは、揃って呆れた顔をしてしまった。朔が小さな子供に見えてしまったのだ。
「いずれ、こういう話は出てただろうし、早いに越したことはないないでしょ」
「莉久の言う通りだぞ、朔。うずうずすんのは俺らも同じだよ? 結人の事になったら、みんな必死すぎんの」
「まぁ、動き出す良いきっかけにはなったんじゃねぇの? 俺と朔は、やる事多そうだしな」
「それぞれにできる事やってこうよ。さ、そろそろ帰ろっか。ゆいぴ送ってかなくちゃだし」
「わっ! もうこんな時間····。皆、いつもごめんね」
時計を見ると、10時を回っていた。最近、遅くなることが多いから、気をつけなくちゃと思っていたのに。
けど、皆と想いを擦り合わせるように、僕たちの未来の話ができたのは本当に嬉しかった。僕たちの思い描くこの先を、少しでも多く実現させるんだ。
37
お気に入りに追加
642
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
少年ペット契約
眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。
↑上記作品を知らなくても読めます。
小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。
趣味は布団でゴロゴロする事。
ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。
文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。
文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。
文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。
三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。
文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。
※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。
※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。
変態村♂〜俺、やられます!〜
ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。
そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。
暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。
必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。
その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。
果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる