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1章 始まりの高2編
新学期だよ
しおりを挟むやっと素直に想いを伝える事ができて、皆に愛されている事を再確認した。あまつさえ、僕の我儘を継続したままで、無事に二学期を迎える事ができた。
皆からの許しも出た訳だし、何か問題が起きるまではこのままでいさせてもらおうと、腹も括ることができた。
始業式を終え講堂を出ると、担任の沢先生に声を掛けられた。
「武居、ちょっといいか?」
「はい、なんですか?」
「お前、急に場野と仲良くなったよな」
「まぁ、はい」
「その調子で頼むな。お前と仲良くなってから、場野が毎日学校に来てるんだよ」
「そう····なんですか。へぇ~····」
「本当に、学校に引っ張り出してくんの大変だったんだよ。出席日数ギリギリしか来るつもりなかったみたいで、先生本当に困ってたんだよ」
「はは····。でしょうね。やち····場野くん、頑固ですもんね」
(八千代って言いかけたか? 下の名前で呼ぶくらい仲良いいのか)
「····そうなんだよ。まぁ、武居に言っても仕方ないんだけどな······。そういや、場野と鬼頭と大畠と居るのは1学期の間よく見かけたけど、さっき瀬古も居たよな」
(マズい!? もしかして何かバレてる!?)
「瀬古くんは、夏休み中に仲良くなったんです。場野くんも、思ってたより怖い人じゃなくて、みんな仲良くしてくれてます」
「そうか····良い友達なんだな。武居もなんか明るくなったんじゃないか? いいねぇ! お前は真面目すぎる所があるから、心配してたんだよ。まぁ、杞憂だったみたいだな。すまんな。けど、場野に巻き込まれての問題行動だけは気をつけろよ。お前が正しい道に導いてやってくれ! 頼むな!」
先生は、相槌を打つ間もなく喋り終えると、豪快に笑って僕の背中をバンバンと叩いて行ってしまった。生徒思いなのだが、いかんせん熱苦しい先生だ。
“友達”と言う言葉に、肯定も否定もできなかった。ただ、奥歯を噛み締めて「大切に想ってくれてるんです」と言いたくなった。
「話終わったんか? 担任、何だって?」
「八千代····」
僕と先生の様子を窺っていた八千代が、怠そうに講堂から出てきた。思わず駆け寄って、ぎゅっと抱き締めたくなった。
「八千代がこの調子で学校に来るよう頼むって。あと、僕たちが仲良いの知ってて、みんなの事良い“友達”だなって」
「なんだそれ。······ふーん。で、お前は何が不満なんだよ」
「え····っと、友達じゃないでしょ。でも、言えないでしょ。それがちょっと、悔しいなって思ったんだ。だって、みんな僕の自慢の彼氏なのに····」
「お前なぁ····HRまでまだ時間あんだろ。行くぞ」
「えっ、どこに──」
「ストーップ! 俺も行く~」
「啓吾!? びっくりした····」
「結人が沢っちと話し込んでたから、声掛けにくくってさ。朔とそこで待ってたんだよ」
「そしたら場野が、結人拉致ろうとしだしたから、同行しようって大畠が走り出したんだ」
「そうなんだ。で、どこ行くの?」
「この流れでわかんないのが、ゆいぴの可愛いところだよねぇ。て事で、俺も行くよ」
「お~莉久、おはよう。お前だけクラス違うから、誘うタイミングとか難しいのな」
りっくんがムスッとしている。自分だけクラスが違う事を、ずっと不満に思っているのだ。来年こそ、僕と同じクラスになると、それこそ付き合う前から少しゴネていたのを思い出した。今思えば、僕をそういう対象に見ていたからなんだとわかる。が、当時は可愛い幼馴染だなぁなんて呑気な事を思っていた。
結局、5人で理科準備室へ行くことになった。そこは、僕たちの愛の巣になっているわけで、もはやイチャつく為にある部屋なのだ。
「にしても、自慢の彼氏ねぇ。嬉しいじゃん」
部屋に入るなり、啓吾がニヤニヤしながら、僕の顎をクイッと持ち上げる。悪い顔だ。
「いや、あれはその····そうなんだけど。もう! 掘り返さないでよぉ」
自分の発言の恥ずかしさを思い知り、まともに顔を見れなくなって精一杯押し返す。
「ははっ。だってさ、結人が俺らの事、めっちゃ好きになってくれてんの嬉しいんだもん」
「わかったから、もう言わないで! もう言わない!」
「ごめんごめん。つーかさぁ、毎回思うんだけどさ」
「なに? わぁ····啓吾が神妙な顔してる」
少し見慣れた啓吾の真剣な顔に、僕と八千代は悪態をつく。
「絶対ロクなことじゃねぇな。結人から離れろ」
「いやさ、順番よ。俺ら、1対4だろ? 結人がいっぺんに相手できる人数も限られんじゃん」
「だから····僕にどうしろと?」
「テクを磨いてもらおうと」
渾身のキメ顔で言われてしまった。だが、テクとは何ぞ。
「テクって、何の? 僕、何したらいいの?」
「手と口使ってくれたら、手に2人、口に1人、ケツに1人で埋まるだろ? その、手と口を使えるようになってくんねぇかって話」
「あぁ~····へぇ~······」
「ゆいぴの思考が停止してるよ。啓吾の馬鹿な提案の所為で。エロ漫画の見すぎでしょ」
「でもさぁ、実際待ってんの辛くね?」
「辛ぇ。それは、すげぇわかる」
予想外に、朔から食い気味で賛同を得た啓吾は、勢いを増した。
「だろ!? つーわけだから、結人にはテクニックを習得してもらおうと思います」
「まぁ、確かに····。僕も皆に気持ち良くなってもらいたいし、してもらってばっかりなのも申し訳ないと思ってたし······僕、頑張るよ!」
僕は、とんでもない宣言をしてしまったのだと、後に後悔する事になる。
「なぁ、そろそろHR始まるぞ」
朔が言うと、八千代が僕に深くて濃いキスをして言った。
「よし、行くか」
「何しれっと場野だけ充電してんだよ!?」
りっくんが発狂した。
「じゃ、俺も~」
啓吾がりっくんと八千代の間をぬって来て、僕の腰を引き寄せキスをする。しつこく舌を絡ませ、僕を食べてしまうようだ。
「啓吾まで何してんのさ!」
りっくんが僕を抱き寄せ、優しく絡み合うキスをしてくれた。
「俺もいいか?」
朔は遠慮がちに、啄むようなキスをくれた。朔は、スイッチが入っている時は激しいが、普段はとても控え目なのだ。キスもハグも軽くで、心が満たされるようなものをくれる。
「おい、マジで行くぞ」
やり始めた八千代が急かす。皆はやれやれと言った顔で、準備室を後にする。僕は、身体の疼きを悟られないよう自然に振舞った。
今日は始業式とHRだけなので、早々に学校が終わると、それぞれ昼食を買って八千代の家に集まった。
「場野ん家はホント快適だよな~。冷暖房完備でトイレ風呂別。さらには角部屋で防音ときたよ。ここ、家賃いくらなの?」
「知らねぇよ。家出るつったら、適当に用意されたからな。もっと実家から離れたかったけど、まぁしゃーねぇわな」
「場野ん家はフクザツそうだもんな~。それはどうでもいいんだけどさ、この家はマジで羨ましいわ」
「そういや、朔も一人暮らしって言ってたよね?」
結構前に、チラッと聞いた事があったのを思い出した。あまりに話題に出さないけど、言ったらマズかったかな?
「いや、1人じゃねぇ。同居人っつぅか、執事が居る」
「ひつじ····えっ、執事さん?」
「ああ。親父に無理矢理つけられた」
「え、朔ってお坊ちゃまなの? 聞いてないんだけど!」
「言ってないからな。別に、言いふらす事でもないだろう」
「いや、言えよ! 家行きてぇじゃん」
啓吾は何にでも乗り気だ。何事も全力で楽しもうとしているのが、時々面倒くさい。が、可愛いところでもある。
「今度来るか?」
「行く行く! なぁっ? 皆でお邪魔しようぜ」
「そうだね。僕も行ってみたいな」
「ゆいぴが行くなら俺も行く」
「俺も行くわ。結人が俺ん家以外に行くのは気に食わねぇけど」
「八千代ってば、りっくんと啓吾の家も嫌がってたもんね」
「まぁ、俺らん家は親居るからヤりにくいしな。んで、執事ってどんな感じ? 爺ちゃん? 若いの? まさかの年下とか!?」
「大畠は元気だな。そんなに興味あるのか?」
「あるある!」
「20····20······30手前だ。代々俺ん家で執事やってる家系の人だ。仕事はできるんだけど、真面目すぎてちょっとうぜぇな」
「はは。歳、知らないんだね。て言うか、朔もそんな風に思ったりするんだ。意外だなぁ」
朔は基本的に温厚だから、他人にマイナスな感情を持たないように思っていた。
「俺は、そんな出来た人間じゃねぇよ。····明日にでも来るか?」
「いいの? 突然大人数で押し掛けたら迷惑じゃない?」
「大丈夫だ。····けど、結人だけでも俺は構わねぇぞ」
「アホな事言ってんなよ。誰が1人で行かせるかよ」
「じゃ、明日の放課後は朔ん家な! 楽しみだな~」
啓吾は終始楽しそうだ。かく言う僕も、八千代とりっくん以外の家にお邪魔したことがないから、実は凄く楽しみなのだ。
執事さんが居るなら、何か手土産を持って行こうか。なんて、考えるだけでワクワクしてしまう程に。
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