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1章 始まりの高2編

大畠くんの正論

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 昨日の一件で、僕は登校拒否を目論んでいた。が、場野くんがいつも通り迎えに来て、りっくんも何故か一緒で、3人で登校することになった。


「結人、お前は黙ってろな。俺らが話すっから」

「ゆいぴはバカ正直だからねぇ」

「····はい」

 僕は、2人の指示に従うしかなかった。2人の座った目が怖くて、何も言えなかったのだ。

 当たり前のように、一限をサボっての強行。理科準備室に呼び出された大畠くんと、4人で気まずい空気を持て余していた。
 場野くんとりっくんが大畠くんと対面し、その中間辺りで、僕は陽の当たる窓際の棚に座らされた。何この特等席。凄く居辛い。
 誰が口火をきるか。大畠くんは、僕をチラチラ見てくる。恥ずかしくて、目を合わせることが出来ない。

「昨日、電話で何か聞いた?」

 言葉を放ったのは場野くんだった。思っていたのと違うし、僕より直球だし。りっくんもポカンとしている。

「何かって····えーっと····アレだよな? あのー····た、武居の····」

「よし、今度こそ綺麗さっぱり忘れさせてやるよ」

 そう言うと、場野くんは建付けの悪くなったロッカーから、木製のバットを取り出した。

「おおぉぉい、マジかよ!? 大丈夫! ぜーんぶ忘れた! 武居の声なんて聞いてないし、何もしてないから!」

 大畠くんは、僕に負けず劣らず正直者だと思う。

「やっぱ聞いてんじゃん。啓吾さぁ、ゆいぴの事、好きになってない?」

「なって····ない」

「でも、ゆいぴの声で抜いたんでしょ?」

「えっ!? なんで知って····あっ····ハメやがったな」

「わかるよ。あんな声聞いたら····男だもんねぇ。ホント啓吾って、バカだよね····」

「大畠くんまで····そんな目で僕の事····」

「殺すしかねぇな。これ以上、結人を危険に晒すわけにはいかねぇ」

「真っ先に危険に晒したの、場野だけどね。ゆいぴの処女奪っておいてよく言うよ」

「なっ、りっくん! なんて事言うのさっ!」

「あのぅ、俺、場野に殺されたりしないよな?」

「「····さぁ?」」

 僕とりっくんは、憐れむような目で大畠くんを見た。

「記憶は消す」

「えぇぇー····ちょっ、武居、莉久、助けてぇ」

「「····ごめん、無理」」

「マジかよ····なぁ、殺されちゃう前に確認なんだけど、お前ら3人で付き合ってんの?」

「違ぇわボケ! 俺と結人が付き合ってんの。莉久はただの幼馴染」

「待ってよ! 俺も付き合うってなったじゃん!」

「そうだっけか? 俺は認めてねぇけど、渋々そうなっただけだろ」

「覚えてんじゃん! アンタ、ホント意地悪いな」

「武居····マジなの?」

 僕は、これまでの経緯を大まかに説明した。

「僕が····僕が、優柔不断なばっかりに····こんな事になっちゃって····ごめんなさい」

「いや、俺に謝られても。でも、そっか····そういうのアリなんだ。じゃぁさ、俺ともしてみねぇ?」

「あ゙ぁ゙!?」

 場野くんの渾身の威嚇が、その場の空気を凍てつかせた。しかし、それに物怖じしない大畠くん。

「だって、莉久も試したんだろ? 俺だって、あんなイイ声聞かされたら、啼かせて見たくなるわ。お前らも、俺と似たようなもんだろ?」

 大畠くんはそう言って、ドヤ顔を場野くんとりっくんに見せつけた。

「啓吾····命知らずにも程があるでしょ。俺が言うのもなんだけど、場野相手にゆいぴ取り合うとか、死ぬ気じゃん」

「お前だってヤッたじゃん。俺にだって権利はあるだろ」

「いや、俺は幼稚園の頃から好きだったし、横取りされた感じでキレちゃって····でも、啓吾は違うでしょ」

「何でもいいけど、僕の気持ちはいつも置いてきぼりなんだね」

 僕がポソッと呟くと、皆が固まってしまった。

「大畠が悪い」

「確かに、啓吾が悪い」

「なんっでだよ!?」

「だって、啓吾がぶっ飛んだ事言い出すから」

「いやいやいや、お前らのがぶっ飛んでるけどね!? ····で、俺が武居とヤんのに、誰の許可が必須?」

「僕でしょ!」

「「俺」」

「じゃ、全員オッケーくださーい」

「大畠くん、軽すぎるよ····僕の事遊びなの?」

「ゆいぴ、それだとちょっと語弊が····」

「はっ····確かに。えっと····」

 僕が言葉を選んでいると、ふっと影に覆われた。
 正体は大畠くんだった。顎をクイッと持ち上げられ、キスされそうな距離で見つめられ、優しく囁かれた。

「なぁ、結人····。俺、本気でお前の事啼かせたいんだけど。俺に抱かれんの、嫌?」

 大畠くんの、耳を溶かすと噂されるイケボ。これは本当に溶けてしまう。

「ふぁぁっ····ヤじゃないぃ」

「結人チョロいな。ふぅ~」

「んやぁぁぁっ····」

 耳が弱いと察してか、息を吹きかけられた。大畠くんは、意図して僕を耳でイカせるつもりだった。突然、結人って呼ばれたのもドキッとした。確かに、僕ってチョロすぎる。
 けれど大畠くんが、アホだと言われているのに、モテまくる訳がわかった気がする。
 まずこの声。普段はさほど低くないし、きゃぴきゃぴした感じだ。なのに、耳責めの時だけ少し低めで、喉の奥で何かがゴロゴロしているような、甘く優しい声になるんだ。全神経が耳に持っていかれて、瞬時に感度がマックスになる。
 もうひとつは、なんとなくで確信を突いてくる。これが意外と感心させられる。普段とのギャップだろうか。心身ともに攻めてくるなんて、太刀打ちのしようがない。

「おいコラ。誰が結人に触っていいつったよ。あと、勝手に結人って呼ぶんじゃねぇよ」

「おい啓吾。勝手にゆいぴトロけさせてんじゃねぇよ」

 2人はほぼ同時にキレ始めた。2人が大畠くんを睨んでいるのを、大畠くんの腕の中から見る。

(あー····めっちゃキレてる····でも、大畠くんの声聞いてたら、頭がふわふわしちゃう····)

「決めた。俺も、結人の恋人になる!」

「「はぁ゙!?」」

「だって、こんなん見たら手放せないだろ。こいつ可愛すぎ」

 大畠くんが、そう言いながら僕を抱き締める。何か、足に硬いものが当たってる。

「はぁぁぁ······。わかるけど、その気持ちはすっごいわかるけど、ダメ」

 りっくんが項垂れ、共感はするが本気で拒絶する。場野くんは、大畠くんをどう殺すか考えていそう。この状況で、無言なのが怖い。

「ダメダメって、最終的に決めんのは結人だろ?」

「うっ····そうだけど」

「なぁ、結人。俺も混ざっていいだろ? 俺にも抱かせろよ」

 僕の顔を両手で包み込み、耳に擦り寄って囁く。声は耳から入ってくるのに、はちみつを流し込まれているかのように、胸に甘ったるいものが溜まっていく。この感覚はまるで、場野くんに口を犯されている時みたいだ。

「んっ、ふあぁぁっ! わかったよぅ。いいから、もう耳元で喋んないでぇ····」

 くったりと大畠くんにしがみついてしまった。

(あれ? 今、抱かれるのオッケーしちゃった?)

「ちょっ、ゆいぴ!? いいの!? 啓吾にも抱かれんの!?」

「いい加減にしろよ。結人が気持ち良い事に逆らえねぇのわかっててやってんだろ」

「あ、バレた? だって、こうでもしないと抱けないじゃん。それに、抱きたいだけじゃないよ。俺、結人の事ちゃんと好きだから」

 いつものお調子者な感じで話してはいるけど、僕の肩を抱く力強さで本気なんだと悟る。

「ぼ、僕なんかのどこが良いのさ····」

 思わず、ずっと思っていた疑問が零れ出てしまった。

「結人はねぇ、全部が可愛い。可愛いは正義だよ。俺は、結人の可愛いを全部見たい」

「僕、男なんだってぇ····」

 だんだん、性別という隔たりを感じなくなってきた。その辺の感覚が、麻痺してきたんだと思う。

「んー、男とか女とかじゃなくて、結人の可愛いトコを見たいんだよなぁ」

「「わかる」」

 場野くんとりっくんが、頷きながら深く共感した。これはもう、同意とみなされても仕方がないんじゃないだろうか。

「じゃ、そういう事で。俺も参戦だ! 結人は俺の事、今から啓吾って呼べよな」

「ふぇぇ····展開についていけないよぉ」

 きっと、2人も大畠くん····もとい、啓吾のペースに飲まれて、あれよあれよと進む話に追いつけていないのだろう。

「待てよ! 俺は許さねぇぞ。俺と結人が付き合うって話から、なんでこんな乱交みてぇなことになってんだよ」

「でも、ゆいぴの気持ちを尊重するって事で話まとまったじゃん。俺は、ゆいぴと離れるくらいなら、この状況でも我慢できるけど。無理ならさよなら、だよ?」

「ぐあぁぁぁっ!!」

 場野くんが雄叫びをあげた。

(莉久と大畠をぶっ殺したら済むだろーが! でも、そしたら結人が····くそっ!! なんで独占できねぇんだよ!)

「場野よ····俺が言うのもあれだけどよぉ、結人の為とはいえ、よく耐えてるよな」

 啓吾が、場野くんの心中を察したかのように慰める。そして、頭をはたかれた。
 自業自得と言わんばかりの僕の顔とりっくんを見て、啓吾はへにゃっと笑った。

 かくして、明後日の土曜日に、朝から場野くんの家に集まることになった。

 僕が場野くん以外の部屋に行くのは嫌だと言う、場野くんの我儘を聞き入れた。だんだん、場野くんの家がラブホテルと化してる気がするけど、口が裂けても言えない。きっと、啓吾がポロッと言ってしまうのだろうけど。
 関係性はともかく、大勢でわいわいした事がなかったから、正直楽しいなって思う時もある。なんて、今は言える空気じゃないよね。
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