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1章 始まりの高2編
荒ぶるりっくん
しおりを挟む僕が場野くんと初体験を済ませてしまったことは、誰も知らないはず。なのにどうして、りっくんはあれほどまでに憤っているのだろう。
「ゆいぴ、場野と何かあった?」
「や~····別にぃ····」
と、出会い頭の鋭い質問をなんとか躱した。嘘をつくのは苦手なので、必死で逃げる事しか出来ない。
しかし、逃げるという事は、認めているようなもの。バレるのは時間の問題かもしれない。そんな覚悟は、心の片隅でしていた。
ひたすら逃げ続けていた1日が終わり、あっという間に放課後。担任に呼び出された場野くんが、生徒指導室から戻ってくるのを、教室で待たされている。
危なっかしいからと、場野くんの送り迎えが義務化された。ただし、バイクでの送迎は禁止にした。
当然だ。ネチネチと説教を食らうのは、もう勘弁してほしい。生徒指導の杉岡先生、本当にめちゃくちゃ怖いんだから。
場野くんとの行動は、事ある毎に目をつけられるから、慎重にならざるを得ない。なのに、りっくんときたら、一日中追いかけ回してくるものだから、杉岡先生がさらに目を光らせていた。
せっかく放課後まで逃げていたのに、結局りっくんに捕まってしまった。教室で待ってろと言われたのだから仕方ない。檻に入れられた猿も同然だ。
血走った眼で『見つけた····』と、ホラーさながらで教室に入ってきて、力強く肩を掴まれた。
「ねぇ、ゆいぴ。俺、色々覚悟はしてるから、逃げないで。ちゃんと話して欲しい····」
「りっくん····」
「場野と、何かあった····んだよね?」
「······あ、あのね──」
僕は観念して、洗いざらい吐いてしまいそうになった。その刹那、ガダガダッと音が聞こえた。
ガダァァァン!
「いってぇぇぇぇ!!」
りっくん目掛けて、横から椅子がスライディングしてきた。見事にりっくんの足にヒットして、雪崩るようにコケた。
「お前、俺が居ない隙に、結人に手ぇ出してんじゃねぇよ!」
場野くんだ。場野くんが椅子を蹴って滑らせたんだ。蹴り飛ばさなかっただけ優しい。
「おっま、はぁ? あっぶねぇな! 怪我したらどうすんだよ!?」
「自業自得だろ。で、結人に何してんの」
「別に。つーかアンタこそ、ゆいぴに何したの」
「あ? 何って?」
「だーかーらー! 2人の距離感が昨日までと違うでしょ! 近くなってる! なに、またキスでもしたの!?」
そんな事に気づくのは、きっとりっくんだけだ。何故、そんな僅かな違いがわかるんだ。
「ははっ。お子ちゃまかよ。ふっ····昨日、抱いた」
この人は、何ドヤ顔して····アホ過ぎないか!?
「はっ、えっ、まっ··················はあぁぁぁぁぁああぁぁぁん?」
取り乱すりっくん。目が恐ろしいまでに見開かれ、額や首に筋が浮き出ている。これは、本気でキレている。
「お前、何してくれてんの。ゆいぴとヤった? 何の冗談だよ。笑えないんだけど?」
りっくん、瞬きしなくちゃ····。いや、そうじゃない。静かに怒る人って、どうしてこんなに底知れぬ恐怖を感じさせるのだろう。
そして、静かにキレる人がもう1人。
「俺が結人と何しようが、テメェに関係ねぇだろ。ただの幼馴染のりっくんにはよぉ」
「あ゙ぁ゙? アンタ、ゆいぴに手ぇ出すの早すぎでしょ。もっと大切しろよ。純白の天使だぞ。それを、よくも汚しやがったな。俺が、ずっとずっとずっと大事に育んできたのに、何ペロッとイッちゃってんの? 」
「大事にしてるだろ。自分だけが結人の事愛してるみてぇに言ってんじゃねぇぞ。だいたいなぁ、俺が犯したみてぇに言ってっけど、残念ながら合意だかんな。お前の大好きなゆいぴが、俺を選んだんだよ。すっぱりキレイに諦めろ」
もう、色々言われてるけどツッコミきれない。とりあえず、りっくんが怖過ぎる。病んでいるうえに、拗らせすぎている。
「····あれ? 僕が原因じゃないの?」
「お前は悪くないだろ。コイツが頭やべぇんだよ」
「ゆいぴは悪くないんだよ。そもそもアンタがゆいぴにちょっかい出すからだろ。百万歩譲ってゆいぴがアンタを好きになったとして、アンタがゆいぴをもっともっと丁寧に慎重に時間をかけてゆっくりじっくり愛でていかないのが悪いんだろ!?」
りっくん、一息で言い切ったね。凄い肺活量だ。
「お前、マジでキモいな····。とにかく、諦めろ。結人はもう俺のもんだ」
「あの、お取り込みのところ、凄く言いにくいんだけどね。ずっと我慢しててね、ちょっとトイレに行ってきてもいいかな?」
実はさっき、椅子が滑りこんできた時、チビったかと思ったんだ。
「おう、行ってこい」
なかなかに我慢の限界だった。僕は、トイレに駆け込み間一髪間に合った。が、あの二人、置いてきて良かったのだろうか。
言い知れぬ不安が過ぎり、急ぎ早にトイレから出ると、2人が前で待ち構えていた。
「あれ、仲直りしたの?」
「ゆいぴ、あのね····」
「仲直りもクソもあるかよ。そもそもコイツと仲良くねぇわ。とりあえず、俺ん家行くぞ。コイツも一緒に」
「なんで? え、なんで?」
2回聞いてしまった。だって、場野くんがりっくんを家に呼ぶなんて、ロクでもない事を企んでいるに違いない。
「ヤリ比べんだよ」
「······はぁ。そうなんだ」
「お前、絶対わかってないだろ」
「あのね、ゆいぴ。場野の家でっていうのは不服なんだけど、色々と都合がいいからそこでね、ゆいぴにね、俺と場野、どっちがいいか決めてもらおうってなったんだ」
なにやら、りっくんがテンパっている。もじもじしているし、歯切れも悪い。
「えっと、何かわかんないけど、とりあえず行こっか」
(まぁ、学校じゃなんだし、場所を変えてじっくり話でもするんだろうな。ヤリ比べってのがわかんないけど、何かするのかな)
場野くんは、何かを言わんとするりっくんから遠ざけるように、僕の肩を抱き歩き始めた。
この後、場野くんの家で2人から快楽責めに遭うことなど、僕はまだ知らなかった。
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