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1章 始まりの高2編

大畠くんはバカだけど優しい良い奴

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 今朝、場野くんがバイクで迎えに来てくれた。否応なしに、後ろに乗せられて登校する。
 正門前で鳴り響く重低音。校舎の窓から覗く生徒や先生たち。集めてしまった視線に、優等生としての終わりを感じた。結果、当然の事ながら放課後、生徒指導室に来いと担任に凄まれた。

 テンションが下がった事も勿論だが、関わるのが面倒になったので、場野くんとりっくんを一日中避け続けた。

 優等生の僕が、バイクで登校する日がくるなんて····。もう、優等生と自負するのはやめよう。
 そう心に決め生徒指導室から出てきたところを、場野くんに捕まってしまった。そしてまた、理科準備室に連れ込まれてしまった。
 やはり僕は、もう悪の道に進みかけているんだ。

 場野くんはソファに腰を下ろすと、当たり前のように僕を対面で膝に乗せる。
 頬に唇を這わせながら話すのは、内容が頭に入ってこないからやめてほしいのだけど····。

「帰りも送ってやるからな。あー····もう毎日送り迎えするわ」

「んっ····送り迎え? ····って、バイクで?」

「当然だろ」

「あのね、場野くん。当然じゃないんだよ」

「バイクで来たんだから、バイクで帰るに決まってんだろ」

「そういう事じゃないの。昨日送ってくれた事は、本当に感謝してるよ。けどね──」

「おう。お母さん、大丈夫だったんか?」

「なんだか、場野くんにお母さんって呼ばれるの複雑だな····。まぁ、薬飲ませたら、すぐ落ち着いたから大丈夫だったよ。それは、本当にありがとね。けどもうね、朝、その····バイクで迎えに来ないでほしいんだ」

「なんでだよ。バイクで走んの気持ちいいだろ」

「うん。風を切って走るのって、凄く気持ち良いんだね。初めはちょっと怖かったけど、慣れると凄く楽しかった」

(バイク運転してる場野くんがカッコ良かった、なんて言ってあげないけど)

「だろ? 俺、バイクぐらいしか興味なかったから、お前にわかってもらえんのすげぇ嬉しいわ」

(うぅっ····笑顔が眩しい)

「けどね、僕、先生に呼び出されたんだよ。で、1時間もお説教くらったの。僕だけ。理不尽でしょ? だからね、バイクで登校するのは、もうダメだよ」

「なんでお前だけ言われんだよ」

「あー、それは······ねぇ」

「あ? 俺ん家か。よし、シメてくるわ」

 僕を優しく膝から下ろすと、勢い良く立ち上がった。そして、無鉄砲に駆け出そうとした場野くんを、必死で抱き止めた。

「そういうトコだよ!」

「うおっ。お前····それヤバイって。可愛すぎんぞ」

「なんでそうなるの!」

「弱っちぃんだよ。これで止めたつもりかよ」

「僕だって鍛えればもっとムキムキになるよ!」

「ははっ。無理だろ。お前は一生このままでいろよ。俺が守ってやるから」

「自分の身くらい自分で守るもん!」

「もんって······無理だな。なぁ、結人····」

 振り返ったかと思えば、片腕を掴まれ、グイッと腰を抱き寄せられた。
 急に真面目な顔で、真っ直ぐに見つめられると困る。思わず目を逸らしてしまった。

「ふはっ。簡単に真っ赤になんだな。チョロすぎんぞ」

「だって····こんな近くで真っ直ぐに見られたら、誰だって····」

 唇が触れるか触れないか、だけど熱を感じる程の距離。おデコとおデコをくっつけて、まつ毛が触れてしまいそうだ。

「誰にでも、こんな真っ赤になんの?」

「な、なるでしょ。こんなの、誰だって真っ赤になるものでしょ····」

「俺はなんねぇけど」

「慣れてるからでしょ? 僕は慣れてないの····」

「お前が慣れてねぇのは嬉しいな」

「ねぇ、とにかく離れてよ。そろそろ帰りたいんだけど······」

 掴まれている手を振りほどこうとしたが、ビクともしない。さらに腰を引き寄せられ、下半身が触れ合う。そして、わざわざ耳元に口を寄せ、甘い声で話す。

「俺、慣れてねぇよ? こんなんすんの、お前が初めてだから」

「えっ!? 毎日違う女を侍らせて····」

「お前、ことごとく雰囲気ぶち壊すのな。あー····まぁ、そんな噂もあったな。俺が100対1で勝っただの、人殺した事があるだの、実はもう組長だのって。色々言われてんのは知ってる」

 場野くんは、まことしやかに囁かれている噂を並べ立てた。が、どれも現実味がないとは思っていたものだ。

「どれも違うんだよね?」

 場野くんと関わるようになって、イメージしていた“悪の権化ごんげ”みたいな感じの人ではないとはわかっていた。けど、女性関係は別だ。きっと、凄くモテるだろうし····。

「事実無根だ。誰がゴリラだよってな。····俺は本気で好きな奴にしか構わねぇよ」

 場野くんの手が僕の頬を包み、優しくキスされた。

「んっ······」

 次第に、舌が僕の口内を犯し始める。そう言えば、場野くんのキスの味がタバコ味じゃなくなっている。ミントかな? 少し辛い。

「ふぅっ、んっ、あっ····」

 耳を柔らかく弄られて、どこに集中すればいいのかわからない。段々、息が苦しくなって、弱々しく場野くんの胸を押した。

「んんんっ····んー····」

 酸欠なのか、ぼーっとしてふわふわする。

「あんっ····やぁっ、そこ気持ちいぃ····」

 いつの間にか、シャツに手を突っ込まれていて、指先で乳首を弄ばれていた。

「お前、マジで敏感すぎねぇ?」

「び、敏感じゃないよぉ····」

「これで敏感じゃないわけねぇだろ」

 ガタンッ──

 僕達は突然の物音に驚き、慌てて隣の理科室を見る。
 場野くんが苛立ちを抑え、そっと覗き見るように偵察した。すると、準備室の扉から跳ね退いたような位置に、赤面して立ち尽くす大畠くんが居た。
 場野くんが『チッ····邪魔ばっか入んな。早く犯し潰してぇのに』と呟き、玉がキュンと縮こまった。ツッコむとヤバそうなので、聞こえなかった事にしておこう。

 大きなため息をつき、場野くんが扉を開けて声を掛けた。

「何やってんの? てか、見た?」

「忘れ物探しに来たらエロい声が聞こえて····み、見ちゃった。えへっ」

 場野くんのこめかみに青筋が走る。

「見てんじゃねぇよ。邪魔してんじゃねぇよ。 つーか、結人の(可愛い)声も顔も忘れろ。無理だとかかしやがったら、俺が手伝ってやんぜ?」

 何か含みがあるように聞こえた。で、何をどう手伝うんだろうか。

「わ、忘れました! 今、キレーに忘れた。大丈夫! 武居の····」

 青ざめた顔からまた赤面した大畠くんは、股間も熱くしてしまったようだ。慌てて手で押さえ、場野くんの様子をうかがった。

「おい、何だよそれ」

「いやー····これはそのー····勃ったみたい?」

「てめぇ····死にてぇの?」

「いや、しょーがないだろ!? あんな可愛いの、もはや女子じゃん! えっちの現場に出くわしたみたいなもんじゃん! 健全な男子高生なら勃つだろ!? 生理現象だよ! ましてや、あんな可愛いの!」

 大畠くんは逆ギレしながら、可愛いと2回言った。彼らの目は腐っているのだろうか。もしくは、脳が溶けているのだろうか。

「てめぇの言い分もわかるけどな、アレを知ってていいのは俺だけだ。忘れろ。あと、アイツで抜いたら殺す」

「それって俺の脳内だから、言わなかったらわかんなくね?」

「するんだな?」

「しない! しないから! まだ死にたくないよ~」

「ならいい。邪魔だ。帰れ」

「いや待てよ。お前ら学校はマズイって。武居泣きそうじゃん? なに、無理矢理なの?」

「合意に決まってんだろ。アイツ、キャパ超えたらああなんだよ」

「何それ可愛い~····」

「······殺す」

「待て待て、お前が勝手に言ったんだかんね? 俺、悪くなくない?」

「まぁ、そうだな。今のはナシだ。今のも忘れろ」

「滅茶苦茶言うねぇ····。もしかしてさ、場野ってアホだろ」

 大畠くんはにやっと笑い、したり顔で聞いた。

「バカのお前に言われたかねぇよ」

「ねぇ、僕帰りたいんだけど····」

「お、続きは家でするか」

「しないよ! 僕は自分の家に帰るの!」

「なんでだよ!? もっと気持ち良く····あっ。大畠、今すぐそこから消えろ」

「わーったよ。また明日な。ほどほどにな~」

「ま、またね。ばいばい」

 僕は、大畠くんに悪い事をしたなと思い、謝罪の意を込めて手を振った。
 ハッとして場野くんを見る。またヤキモチを発動してしまうんじゃないかと焦った。しかし、場野くんは僕を見て、優しく微笑んでいた。

「な、なに?」

「ん? いや、お前って良い子だなぁと思って」

「なんでそんな子供扱いなの!?」

「なぁ、マジで俺ん家来いよ。もっと気持ち良くしてやるから」

 僕の肩に腕を乗せ、真剣に縋るように言われ、僕は断ることが出来なかった。流されすぎだと自覚はしている。この後、後悔もする事になる。

「····っ。わ、わかったよ····」

 どうせバイクに乗せられて、あれよあれよと連れ込まれるのだろうと覚悟はしていた。
 それに、僕だって健全な男子高生だ。気持ち良い事に抗えるわけがない。

「覚悟しとけよ」

 雄々しさ剥き出しの顔をして、耳に流し込むように低音で囁かれ、反射的に下半身が疼いた。なんて、絶対に場野くんには言わないけど。
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