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1章 始まりの高2編
デート命令
しおりを挟む「おい、武居結人。お前、今日の放課後付き合え」
「······はい?」
生涯関わる予定の無かった不良に、突然そう命じられた。
帰り支度でザワついていた教室が、一気にシンとする。誰も助けてくれる気配はなく、仕方が無いので従う事にした。
どこに連れて行かれるのかと思えば、学校の近くにあるショッピングモールのゲーセンだった。半ば無理やり連れてこられたのだが、これが意外にも幸せに満ちた時間となる。
真面目な優等生を演じている僕だが、実は少しだけオタク気質なところがある。お小遣いが尽きるまで、推しをお迎えするのが何よりの楽しみ。だから、三次元の不良に現を抜かしている場合ではないのだが······。
こいつ、絶対に僕の推しを把握している。髪型も雰囲気も寄せてきているのだろう。色は金髪で全然違うし、やっぱりちょっと怖いけど。それに、よく見るとかなりのイケメンじゃないか。
今も隣で、僕の推しをUFOキャッチャーでバカスカ取ってくれているこの男を、少しだけ紹介しよう。
同じクラスの場野 八千代。校内一の不良として有名な奴。
暴力沙汰か何かで停学処分をくらった事もあるらしい。学校にはほとんど来ていないようで、彼を見たのはほんの数度目だ。
場野くんの事はよく知らないけれど、関わればきっとロクでもない事に巻き込まれる。そう確信してしまうほど、場野八千代はロクでもない奴。という、あくまでも噂の人物だ。
僕も、ここに来るまではそう思っていた。だが、めちゃくちゃ良い人じゃないか。大きな袋いっぱいに推しを与えてくれる。この人、実は神様なのだろうか。
それに、しれっとした顔で操作するのに、僕に景品を渡す時だけニカッと笑う。そんなの狡いや····。
景品を抱えた僕をベンチに座らせると『ちょっと待ってろ』と言ってどこかへ行ってしまった。わけも分からず、大人しく座ったまま場野くんを目で追う。
場野くんはスロットを打っている男に近寄り、脛の辺りを足でこつき始めた。男の胸ぐらを掴み、何かボソボソと耳打ちしているようだ。
次第に蹴る威力は強くなり、微かにガキッという鈍い音が聞こえた。直後、男は脛を抑えて転げ回った。
場野くんは、何事もなかったかのように僕のもとへ戻ってくる。
僕は不意に思い出した。彼の家が暴力団だという事。場野組といえば、泣く子も黙る····というやつだ。
突然の命令に困惑した挙句、降り注ぐ推しに夢中で、不覚にも忘れていた。
「行くぞ。荷物貸せ」
「えっと、場野くん? あの人····」
「知らね。いいから来い。走んぞ」
(え、嘘でしょ。もしかして、ホントに折ったの····?)
僕は場野くんに手を引かれ、近くの公園まで全力で走った。
「ふぅ····ここまで来りゃいいか。大丈夫か?」
「ハァ··ハァ····。だ、大丈夫。けど、なんで····あの人に····暴力、なんて····」
「なぁ、あいつがお前の事ずっと見てたん知ってたか」
「え、知らない····」
「はぁ······、だと思ったわ。お前があんなキラッキラした顔で笑ってるからだろ。いや、あれは俺の所為か。····悪かったな」
「····んん!?」
キラッキラ······? はぁ?
「お前のふにゃっとした笑顔見てっと、なんかこう····ぐわっと混み上げんだよ」
「はぁ····」
場野くんが何を言っているのか理解しかねるが、僕を守ってくれたという事だろうか。
「アイツ灰田高校の奴だな。チッ····もうちょい絞めとくか····」
場野くんは、ボソボソと呟きながらスマホを弄っていた。よく聞き取れなかったが、とても真剣な顔をしていたので、何か重要な案件なのだろう。
それよりも、僕には気になって仕方ないことがある。
「あの、場野くん。それ、僕が貰ってもいいの?」
場野くんが抱えて走ってくれていた僕の推し。図々しくも、これだけは譲れない。
「はぁ? お前の為に取ったんだからお前のもんだろ」
「わぁ! 本当にいいの!? ありがとう!! ····でも、なんで?」
「ははっ、復活早ぇな。あー····お前のその顔が見たかったからな」
「はぁ······。僕の顔? なんで?」
「お前、可愛いから」
「··················はい?」
「タメなっげぇな。なんだよ、言われた事ねぇの?」
「んー······女顔だとは言われるけど、可愛いはないかな」
場野くん、目悪いのかな。
「お前、すげぇ可愛いぞ。あー····俺のどストライクなんだわ」
「へぇ~······へぇ?」
もはや、場野くんの言っている事の半分も理解できなくなってきた。
「ごめんね。僕、男だよ?」
「あぁ? だから何だよ。そんくらい知ってっけど」
これはパニックだ。考えがまとまらない。何を何処からツッコめば良いのか。
「お前さ、付き合ってる奴とか居んの?」
「い、居ないけど·····」
「んじゃ、俺と付き合えよ」
「んぇ····なんで?」
突然の告白に、僕は思いきり首を傾げた。
「ン゙ッ····可愛いな。そういうトコだっつぅの。····お前が好きなんだよ」
「な、なんで?」
「お前、そればっかな」
「ごめん、なさい······」
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「····え?」
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「えぇっ!? 僕、助けてもらったんだと思ってた」
「なんでそうなんだよ」
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先生が来た途端、先輩達は一目散に散ってしまった。てっきり、急用でもできたのかと思っていた。お礼も言えずに心苦しかったのだ。
「お前、アホなんか?」
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あまりにも失礼な事を言うなと、憤ってしまった。
「いや。お前、めっちゃアホだろ。それはそれで可愛いけどよぅ····すげぇ心配だわ」
「アホじゃないよぅ······」
悔しさで、涙が滲んできた。
「おわっ!? ンで泣くなんだよ。悪かったって」
場野くんは、慌てて僕の顔を大きな手で包み、指で涙を拭ってくれた。
「泣いてないもん····」
強がっているのが馬鹿らしい程、涙が溢れてくる。
「ぃや····アー、そうだな。泣いてないな。ん。まぁ····今日はアレだ、付き合ってくれて······ありがとな」
場野くんは、きっと言い慣れないお礼を口にしたからだろう、顔が真っ赤だ。つられて、僕も赤面してしまう。
「ぼぼっ、僕のほうこそだよ! こんなに僕の推し····」
サァっと血の気が引いた。そして、ある疑問が浮かぶ。
「なんで僕の推し、知ってるの?」
僕がオタクなのは、家族以外知らないはずだ。
「さぁ? なんでだろうな」
場野くんの含み笑顔は、怖いけどえっちだ。顔が良いからだろうか。
その後も、のらりくらりと話をそらされてしまい、気がつくと家の前に着いていた。
「着いたぞ」
「····ねぇ、なんで僕の家知ってんの?」
「教えねぇ」
場野くんは、シィーッと人差し指を口に当て、にこっと微笑んだ。僕の目を見つめてくる真っ直ぐな瞳に、予期せぬトキメキを覚えた事は絶対に教えない。
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