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あやかしの國へ
しおりを挟む今日もママは帰ってこない。
昨日はお弁当だけ置いて、すぐに出ていった。
久しぶりのご飯、すごく美味しかった。
一昨日、電気がつかなくなったから、チンが使えなくて冷たいままだったけど、それでも美味しかった。
今度はいつママが帰ってくれるかな。
今度はいつご飯食べれるのかな。
『アンタはここを出ようと思わないのかい?』
「だれ!?」
『私は人ならざるもの。ずっとアンタを見ていたんだよ』
「どこにいるの?」
『ここだよ』
月明かりを背にカーテンの向こうに影で現れたのは、とても背の高い女のようだった。
「アナタはだれ?」
『私は影女。いつからだろうねぇ、お前を見てたんだよ。よく大きくなれたもんだねぇ』
「アナタはおばけなの?」
『そうさねぇ、アンタとは違うねぇ』
「どうしてここにいるの?」
『あの女がねぇ、アンタの母親がねぇ、もう帰って来ないからだよ』
「え····?」
『あの女はね、アンタを捨てたのさ。もうここには帰らないよ』
「なんでそんな事言うの? ママは帰ってくるよ! また帰ってくるもん!」
『アンタ、名前は?』
「ちー」
『本当の名は?』
「······知らない」
『アンタねぇ、自分の名前も知らないんだね。何でだろうねぇ』
「だって、だって····ママはいつもちーの事ちーって呼んでたもん」
『そうだねぇ、アンタはちーとしか呼ばれなかったんだよねぇ』
女は産み落とした赤子に何の執着も愛情もなかった。運良く生き延びている我が子を、時折思い出し世話をした。
赤子が5歳になる頃、女は頻繁に家を開けるようになった。数日に一度帰り、弁当だけ置くと再び出かけてしまう。
影女はいつからか、ちーを見ていた。
健気に母親を待ち続けるちー。
影女がまだ人間だった頃、待ち望んでいた赤子を亡くした。それ故にあやかしとなった身でありながら、見るに耐えない子に声をかけてしまう。
幼子というものは視えてしまう子が多く、時々こうなってしまう。
そして、影女は可哀想な子を攫っていく。あやかしの國で幸せを見つけられるように。
『私と来るかい? 独りぼっちにはしないからさぁ』
「····本当にママは帰ってこないの? どうして?」
『アンタより男といる方が、あの女は幸せなんだってさ。こんなに可愛い子がいるってのにねぇ』
「ちー、可愛いの? 可愛いって何?」
『アンタみたいな子を可愛いって言うんだよ』
「ママに捨てられた子の事?」
『違うよ。抱きしめたくなるような子って事だよ』
そう言って影女はちーを抱き抱え空へ飛んだ。真冬の寒空、ちーは笑顔であやかしの國へと誘われた。
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はのさん𖥧𖤣
感想ありがとうございます🍀*゜
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