crisis

よつば 綴

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58.*****

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 お尻から僕の体液を噴出したままの芯。そして、僕のナカに収まったままの奏斗さん。
 僕は、芯のお尻の具合を確認し、奏斗さんのをそぅっと抜いて薬を塗る。

「芯のケツ、大丈夫?」

 バッと振り向くと、奏斗さんが寝転んだまま煙草に火をつけていた。伏せた目がいやに色っぽく、不覚にもときめいてしまう。

「はい、もう血はでてません。お、おはようございます」

「それさ、いつまでそんな畏まってんの? 芯ですらタメ口なのに。お前もいい加減タメ口でいいから。····なんか遠いんだよ」

「え、でも····」

 “遠い”事を気にするような人だったのか。けれど、僕はその距離を縮めるつもりはない。そもそも、奏斗さんへタメ口だなんて不可能だ。
 けれど、奏斗さんがそれで良しとするはずはなかった。

「じゃ、命令。敬語やめろ」

「は····うん」

 便利なものだ。命令だと言われれば、不可能だと思っていた事もできてしまう。
 そう、命じればいいのだ。僕が奏斗さんを愛するように。名前を呼ぶのだってそうだ。きっと僕は、息絶えながらでも平気なフリをするだろう。
 けれど、決してそれだけはしない。彼なりのプライドなのだろうか。

「芯が起きたら話そうか。俺たちの結論、お前が決めるんだよ。覚悟しておきなね」

 奏斗さんは答えを急ぐ。芯も、早くハッキリさせたいようだった。当然だろう。
 
 しかし、僕にその決断ができるのだろうか。いや、心は決まっている。
 夕べ、乱れ狂った思考に過ぎった、狡く浅ましい願望。それこそが僕の本心なのだろう。
 それを伝えられるだろうか。伝えてしまって良いのだろうか。果たして、それが正解なのだろうか。
 2人に、僕を委ねてしまっても良いのだろうか。


 芯が目を覚まし、狭い風呂へギュウギュウ詰めで3人同時に入る。バカじゃないだろうか。

「狭い」

「俺と先生で入るつってんのに、無理矢理入ってきたんは奏斗だろ。文句言うなよ」

「本当に狭苦しい····。そろそろ出ようか。奏斗さん、立つよ」

 立ち上がろうとする僕の脚を、芯が力いっぱい押さえる。

「なぁ先生、いつの間に奏斗にタメ口きけるようになったの? つぅかなんか距離近くね? 甘い雰囲気ムカつくんだけど」

 他人の機微には目敏い芯。
 甘い雰囲気など出しているつもりはないのだけれど。どこをどう見ればそう思うのだろう。

 芯は不機嫌を極める。風呂から出ても、この調子では話が進まないだろう。
 僕は、芯の機嫌をとろうと試みる。

「芯、子供みたいな事言わないの。僕が甘くするのは芯だけでしょ? 分かってるくせに意地悪言うんだったら、するよ」

 拗ねて僕に背を向けた芯の肩を、甘く深く噛む。快楽に身体を強ばらせる芯。勃てたそれの先に、指先を挿し込むと甘い声を漏らした。
 芯の態度は少し改めさせよう。これは、躾と教育の狭間として。


 風呂を出て、いつも通り芯を仕上げる。髪を乾かさないズボラな所も、最近では当たり前のようにドライヤーを持って僕の前に座る所も、全てが愛くるしい。
 その後ろで、奏斗さんが不慣れな手つきで僕の髪を乾かす。

「奏斗さん、擽ったい··。あと、熱い」

 僕は、思った事を極力言葉にして伝えようと決めていた。これは、2人からの要望でもある。
 どうやら、僕は1人で抱えて結論を出してしまう癖があるらしい。その所為で、僕たちはこうも歪な関係になってしまったのだろう。と、今では少し責任を感じている。
 だから、仕方がないのだ。少しは努力をしなければ、また怒られてしまうだろうから。

「人の髪なんて乾かさないんだから仕方ないだろ」

「だったら無理にやらなくても····」

「君が幸せそうな顔して芯にやってあげてるから、俺もしてみたくなったんだよ」

 奏斗さんは、僕と芯を真似て静かな時間を共有しようとしている。それを、健気だと思うのは傲慢だろうか。


 それぞれの飲み物を前に、僕が結論を出す時間がやって来た。いよいよ、僕の狡く浅ましい願望を伝えるのだ。
 僕は、思い切ってポツリポツリと言葉を紡いでゆく。

 大前提として、僕の心は芯のモノである事。けれど、奏斗さんに惹かれている事も、事実として受け入れていると補足。
 僕は、芯をイジめて愛でたい。同時に、奏斗さんから酷く扱われたい。どちらも本能的に求めている事を、穢らわしいとはもう言わない。
 芯が、僕を先生と呼ばない時間が欲しい。だけど、名前を呼ばれるのはまだ怖い。いつか、遠くない未来の希望として、だ。
 奏斗さんのハニーは照れくさい。芯に名前を呼ばれて平気なら、その時は試してみてほしい。それで大丈夫なら、また名前で呼ぶようにしてほしい。

 そして僕は、僕も、この歪な関係をまだ続けていたい。できることならずっと、このまま続いてほしい。芯も奏斗さんも手放せない。離したくない。

 それが、今の僕に言える全てだった。

 2人は、僕の話を最後まで黙って聞いていた。どういう気持ちで聞いていたのか、表情からは読み取れない。

 僕が俯くと、芯がテーブルの下で僕の足を緩くこついた。

「痛····」

「そんだけかよ。もっとワガママねぇの? それ、ヤッてる時に言ってたまんまじゃん」

「え··、これ以上····?」

「要するに、現状維持でいいってことだよな? できれば永続的に。ハニーはそれがお望みだ··と。我儘はこれから言えるようになればいいだろ」

「はぁ····、まぁ、だな。こんだけ言えりゃ上々か。そんじゃ、このまま続行っつぅことで。あー、あと奏斗が言いたい事あんだって」

 この後、奏斗さんの口から飛び出したのは、とんでもない提案だった。

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