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26.*****
しおりを挟む朝食と一緒に、素っ気ない置き手紙と飾り気のない鍵を置いてきた。噛んだ箇所の手当はしたが、芯はどうせ登校してこないだろう。
昨日の今日だ。きっと、悠々自適にベッドを独占して起きない。
4限目が終わり、昼休みで校内が賑わう。物好きにも、僕しか居ない生徒指導室に遊びに来る生徒が時々いる。
彼女もその一人。松尾依智華は、芯の元彼女だったはず。少しの気まずさを感じながら、それを悟られないように振る舞う。
「先生さ、彼女いないの?」
「いないよ」
「うっそだ~。最近、怪しいって噂だよ?」
「····どんな?」
心臓がトクンと跳ねる。芯との事だろうか。
「え~。なんかねぇ、ソワソワしながら帰ってるトコ見たって子が何人かいてさ、彼女とデートっぽくない? って」
「はは、違うよ。今、仔犬を預かってるんだ。その子が可愛くってね。それで、帰るのが楽しみなだけだよ」
そう、あれはまだ預かっているだけ。まだ、僕のモノではない。
それにしても、そんなに分かりやすく出ていたのだろうか。気を引き締めなければ、どこから露見するか分かったものじゃない。
「マジで? 写真とかないの? めっちゃ見たいんだけど~」
「ごめんね。1枚もないんだ」
そんな危険なものを、スマホに保存などできるはずがない。僕の宝物の一部は、然るべき所に保存してある。決して他人に見せたりはしない。
この子はいつまで居座る気だろう。効率よく仕事を片付けて、残業だけは避けたいのだけれど。定時丁度に終えて、早く芯の待つ家に帰りたい。
少し探る気ではいたが、どうやらこんな子供を探る必要もなさそうだ。余計な事を言うのも、時期が悪いだろう。
芯の元彼女ではあるが、性欲の発散に使われただけの器。そう思えば、そういう玩具だったのだと割り切れる。故に、妬く必要もない。
おそらく芯の目には、彼女も他の女の子も同じに見えていたのだろう。けれど、僕だけは違う。そう思える今があるから、僕の心は静けさを保っていられる。
大丈夫、僕はいつも通りだ。
「そろそろ昼休みが終わるよ。ほら、次の授業の準備をしなさい」
僕は教師らしい追い払い方をする。松尾さんは、面白くなさそうに気怠げな返事を置いて出て行った。
ようやく仕事に集中できる。そう思った矢先、再び扉が開いた。鍵を掛けておくべきだっただろうか。僕は書類に目を落としながら、訪問者へ声を掛ける。
「もう授業が始まるから、急ぎの用じゃないなら後にしなさい」
「急ぎなんだけど」
不意に耳を喜ばせる愛おしい声。僕は慌てて顔を上げる。そこには、後ろ手に扉を閉め鍵を掛けた芯が、悪さを企む子供の顔をして立っていた。
まさか、登校してくるとは思わなかった。僕は思わず立ち上がったが、言葉が見つからずにもう一度腰を下ろした。
「びっくりした? 来れそうだったから来たんだけど」
「び、吃驚した。来ないと思ってたから····」
芯は僕の膝に跨ると、首に腕を回して甘えてきた。どういう風の吹き回しだろう。
「芯、学校ではシないって言ったでしょ」
「ん··シないよ。ちょっと近いだけ」
近すぎる。けれど、拒めるはずもなく、僕は芯の腰に手を回す。
「芯、キスして。キスは芯の方が上手いでしょ? 僕に教えてよ」
「いいよ。先生、いっつも貪るようなキスしかしないからさ、これから甘いやついっぱい教えてあげる」
これが恋人の甘さなのか。僕に柔らかい笑顔を向けてくれる芯は、とても妖艶に見える。
どういうつもりかは分からないが、突然恋人になる事を決めた芯。真意は聞けないままだったが、それでも僕を愛したからでないということだけは分かる。
きっと、形だけ。何か目的でもあるのだろう。それでも、暫くこの甘さに溺れていたい。
芯は教室へ行かず、放課後まで生徒指導室で過ごす。セックスはシないが、それまがいの行為は止まらなかった。
おかげで、仕事がひとつも終わっていない。非常に惜しいが、芯を先に帰らせて僕は学校に残る。早く終わらせて帰ろう。
僕は邪魔が入らないよう、スマホの電源も切って書類の処理を始めた。
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