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しおりを挟む翌日、芯が登校してきた。僕の言葉が芯に届いたのだと歓喜したけれど、決して顔には出せない。
登校するなり芯は、僕のテリトリーである生徒指導室に入り浸る。教室へは顔も出さない。
「徳重君は、友達とかいないの?」
「チッ····いない。つぅか要らない」
初めは強がりなのかと思ったが、そうではなく。そういうものを、心底煩わしいと思っているようだった。
僕は他人と繋がる事を強要はせず、僕の傍に居ることを容認していた。だって、それは願ってもない事なのだから。
けれど、あまりに生意気な口ばかり叩くので、お仕置きをしようと思った。と言っても、ちょっとした意地悪をしたくなっただけだ。
丁度、昨日不良に殴られた箇所が青紫色に変色している。その傷んでいるような、痛々しい二の腕を啄いてやった。
「いってぇ····」
「喧嘩、しちゃダメだよ?」
「放っとけよ。アンタに関係ねぇだろ」
「あるよ····」
「あぁ····、先生だもんな」
「違うよ。君が好きだからだよ。心配なんだ」
「······は?」
困惑した芯は何も言葉を置かず、逃げるように部屋を飛び出した。想いを告げるには早すぎたのだろう。
けれど、僕にはそういう事の正しい順序が分からなかった。
それから数日、芯は再び不登校になっていた。寂しくて、心配で、足が勝手にあの場所へ向く。また、喧嘩なんてしていないだろうか。
街中で見かけた芯は、見知らぬ女生徒と歩いていた。腕を組み、親しげに芯を見上げる女の子。僕は吐き気を催した。
ふわっと柔らかそうな長い髪に、桜色の唇。長いまつ毛を羽ばたかせ、嬉々として芯を見つめている。
煮え滾る腹の底で、『それは僕のだ』と叫んだ。けれど、社会が、秩序が、法が、立場が、煩わしいその全てが、声に出す事を拒んだ。
「徳重君!」
「あ? うわ····。なに? せーんせ」
意地の悪い笑みだ。僕の心を見透かしているかのような、ざまぁみろとでも言いたげな表情で僕を見る。
「あ、明日は学校に来なさい。出席日数が足りなくなるから····その······」
僕は、学校に来させる理由を探す。けれど、嫉妬で狂った僕の脳は、到底まともに働かなかった。
「いいよ、明日は行ってあげる。明日だけな」
僕は、これを好機だとは思えなかった。
明日、行動を起こさなければ、芯との関係は教師と生徒で終わる。そう確信した。
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