1000字以下の掌編集

よつば 綴

文字の大きさ
上 下
2 / 26

しおりを挟む

 人類は滅亡する。あと十数年と言ったところだろうか。

 ──何故滅亡するのかって? 

 答えは簡単。人類は子孫を遺すことをやめたのだよ。


 生まれてからの苦難は、あなた達の知るところではない。よって人類は、我が子に苦難を背負わせたくない一心で、種として子孫繁栄をやめたのだ。
 種族維持本能を打ち負かす理性で、懸命に己を押し潰して生きる。人類は我が子の幸せの為に子を作らない判断をした。それは、天の意思でもあった。

 人類は残り数万人。その全てが80歳以上の老人である。若者はおらず、ただ死を待つのみとなった者がほとんどだ。
 時は、人類がただただ滅びゆく為に進んでいる。ゆっくり、ゆっくりと。


 と思ったのだが、山奥の小屋に1組の夫婦があった。まだ若い。30代そこそこであろう。存在を知られぬ者たちだ。あろう事か、女は赤ん坊を抱いている。
 当人達はアダムとイブにでもなったつもりだろうか。

 これはまさしく、これまでの人類の苦労を踏み躙る悪行だ。なんとも利己的で醜い。なんとも愚かしいと思うね。無駄な抵抗だ。

 これは、神たる私が仕向けた『リセット』を阻む蛮行。天罰が下っても致し方あるまい。
 今宵、小屋に雷を落とそう。そう、天罰が下るのだ。


 雷が落ち、小屋は燃え、若夫婦は焼け死んだ。しかし、小屋の外に投げ出された赤ん坊は生きている。雷を受けたのに、何故。
 この時、私はようやく悟ったよ。この赤ん坊こそ、次代の神なのだと。私もいよいよ、御役御免 リセットなのだと。

しおりを挟む

処理中です...