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優しい世界

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 どの事件も胸糞が悪かったが、俺の居た世界でも聞いた事のあるような話だった。結末以外は、だが。


「あなたが憶えている事と、実際の事件を元にあなたの居た世界との違いをお聞きして、やはり僕はあなたがこの世界の住人ではないと確信しました。原理はわかりませんが、あなたはどこか別の世界からやってきた。これは間違いないでしょう」

「そう··ですよね。俺もそう思います。はぁ····。これからどうすっかな····」

「困りましたね。とりあえず、衣食住ですよね。うーん····、そうだ。この事務所の雑用をしながら僕の家に住むのはどうでしょう?」

「いや、ありがたいし他に頼る人も居ないけど、こんなに上手く話が進んでいいものやら····」

「これも何かの縁ですし、僕の家なら部屋も余っていますし問題ありませんよ。困った時は助けるのが世の常です」

 うわー、眩しい。ホンットに笑顔が眩しい。
 上手くいきすぎな気もするけど、とりあえずお言葉に甘えておこうか。

「それじゃあ、しばらくお世話になります。よろしくお願いします」

「はい。それでは一旦帰りましょうか。僕も今日は学校も終わりましたし、特に仕事もありませんから」

 秤君の家は事務所からさほど遠くないところにあるらしい。
 歩いて10分。今の俺にはありがたい距離だ。歩きながら俺たちはお互いの事を少し話した。


「ここです」

「····デッカ」

 秤君の家はお金持ちだった。そりゃお爺さんが弁護士事務所経営してるんだもんな。今は実家を出て一人暮らしらしい。
 一人なのに、3LDKでセキュリティ万全のタワーマンション。リビング何畳あるんだろ。家賃何十万ってしそうだな。

「とりあえず、この部屋を使ってください。着替えは僕のでいけますかね····。それと、これは新しい下着です。この後ちょっと買い出しに行きましょうか。僕、料理は苦手で冷蔵庫が空ですし」

「それじゃ俺が何か作ります。世話になりっぱなしで申し訳ないですし。料理は結構得意なんです」

「お料理ができるなんて、すごいですね。それじゃあ、お願いします」

「好き嫌いとかありますか?」

「きのこと辛いものがダメです。子供みたいでお恥ずかしい。····あの、今更なんですけど敬語はやめてください。要さんの方が年上ですし、気楽に話してください」

「じゃあ····秤君も敬語やめましょう。兄貴に喋るようにしてもらえたらありがたいな」

「わかりました。あっ、えっと····わかったよ。なんだか本当にお兄さんができたみたいだ。僕、一人っ子だから嬉しいな」

 ····可愛いな、おい。弟ってこんなに可愛いもんか? 駿とは仲良かったけど、サバサバしてたからな。変な感じだ。

「それじゃ、買い物行ってご飯だね。楽しみだな」


 夕飯はチャーハンと中華スープ、棒棒鶏、八宝菜。久しぶりに本気で作ったわ。
 なんてったって、生活用品一通り揃えてくれて、挙句に服も揃えてくれたからな。今はこんな事しかできないし、ちょっとでも恩に報いなきゃな。

「わぁ、すごく美味しそう。いただきます」

「学生の頃、ちょっとだけ中華屋でバイトしてたんだ。そん時に店長に仕込まれてな。召し上がれ!」

「んっ、なんだこれ、すっごく美味しい。流石お店レベル····」

「俺も吃驚するくらい美味かったからそこでバイト始めたんだ。喜んでもらえて良かったよ。久々の本気飯だわ。そうだ、悪いんだけど食い終わったらシャワー浴びていい?」

「勿論。もうクタクタでしょ。お先にどうぞ。僕の事は気にしなくていいから、ゆっくり入って」

「ホントありがとう。秤君と出会えてなかったら俺····」

「僕も、こんな貴重な体験できてるんだから、お互い様だよ」


 あー、なんていい子なんだ。こんな状況だし、史上最高に疲れてるし、なんかもう泣けてくる。


「ご馳走様でした。もうお腹いっぱいだよ。あっ、シャワーの準備してくるね」

「お粗末さんでした。ありがとう。お願いしまっす」

 はぁぁぁ。疲れた。なんなんだよ。何が起きてんだよ。
 もう疲れすぎて考えらんねー·····。明日、また明日考えよう。

 俺はサッとシャワーを浴びて、倒れるように眠り込んだ。



──コンコンッ

「おはよう。要さん、起きてる?」

「ぁー·····うん。おはよう。起きた」

「よく眠れたかな?」

「あぁ、ぐっすり寝れたよ。あり──」

「要さん、"ありがとう"はもういいよ。昨日からずっとありがとうばかり。僕にお兄さんだと思えって言ってくれたでしょ。要さんも僕の事、弟だと思って接してくれると嬉しいなって」

「いや、だって····」

「あっ、弟さんを亡くしたばかりなのに····無神経だったよね。····ごめんなさい。」

「いやいや、そんなんじゃないんだ。ただ、こんなに良くしてもらってるのに、そんな優しい事言ってもらえて申し訳なさ過ぎて····」

「····要さんは優しいね」

「何言ってんだよ。優しいのは秤君だよ」

「そんなっ、僕が特別優しいわけじゃないよ。この世界は、たぶん要さんが居た世界より少しだけ、心に余裕があるんじゃないかな」

「心に余裕··か。そうかもしれないな。俺の居た世界は皆目まぐるしく生きてたな。人に傷つけられて、人を傷つけて、負の感情ってのが渦巻いてる····みたいな感じだった気がするよ」

「なんだか悲しいね。要さんみたいな人ばかりだと、そっちの世界ももっと優しい世界になれるんだろうな」

「そんなことないよ。俺だって弟の仇討ちなんて大層な事言ってるけど、ただの復讐だからな。俺自身、気持ちを抑えられないダメな人間なんだよ。俺みたいなのがいるから世界は何も変わらないんだ·····」

「要さん····。そうだ! 体調が良かったら今から少し出かけない? 気分転換とこの世界の案内がてら街に行こうよ」

「そうだな。いじけてても仕方ないもんな。よし、行こう」


 支度を済ませて俺たちは繁華街へ向かった。
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