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25. 烏天狗の住処
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「ちゃんと掴まっておけよ。化け物共の餌になりたくねえならな」
「うん」
逞しい腕に抱き上げられたリュカは、赤鬼の首に両腕を回してしっかりと抱きついた。蘇芳は鬱蒼とした木々の間を駆け抜け、傾斜のきつい山をどんどん登っていく。流れていく景色の中、視線を彷徨わせるが不気味な雰囲気の異形達の姿はそれほど多くなかった。
「…この間と感じが違う気がする」
「朝だからな。奴らは闇夜に紛れて行動する」
明るいうちでも不気味なのに、暗い中で遭遇するなど想像しただけでぞっとする。抱きつく腕に自然と力が入る。
山頂近くまで来ると、周囲の中でも一際高い樹があった。蘇芳は枝に足をかけ、ひょいひょいと軽い身のこなしで跳躍する。天辺近くには、木造の小屋が設置されていた。中は不思議なつくりをしていた。四面あるはずの壁が一面だけ無く、外が丸見えだった。
「おい、あまり端に行くな。落ちるぞ」
忠告を聞き入れつつ、壁のないところに近づいて下を見下ろす。地面が見えない程の高さで、落ちればひとたまりもない。背筋がヒヤッとするのを感じたリュカは、そそくさと蘇芳の元に戻った。
「何であそこの壁ないんだ?」
「今にわかる」
赤鬼の言葉と同時に微かに羽音が聞こえてきた。音が大きくなると共に黒い点のようなものが近づいてくる。それは、大きな黒い翼をはためかせて飛ぶ沙楼羅だった。小屋に近づくにつれて速度を緩め、手前で翼を何度かはばたかせて停止飛行しつつ爪先から壁のない床の縁に着地する。それから少し窮屈そうに黒い翼を折りたたんだ。
その様子を見て、リュカは合点がいった。沙楼羅は徒歩ではなく飛行での移動だから、壁の一部を元々なくしているのだと。分かったか?と言わんばかりの蘇芳を見上げて、何度も頷く。
「おお、蘇芳にリュカ」
「こんにちは、沙楼羅さん!」
「よう来たのう。どれ、茶を淹れてやろう。ゆるりと寛ぐと良い」
「いい、いらねえ。長居するつもりで来たんじゃねえ」
「何じゃ、冷たいのう」
眉をひそめる蘇芳に、沙楼羅は明らかに残念そうな様子で肩を落とした。
「え、何で?俺、飲みたい」
申し出を断る赤鬼に、リュカは目を丸くした。自分は既に茶をもらう気満々で囲炉裏の前に着座していると言うのに。それに早々に屋敷に戻ったとしても、やることがないのだ。沙楼羅さえ良ければ、彼ともっと話をしてみたい。
少年は烏天狗に対して好奇心を抑えきれないでいた。
「よしよし、リュカは良い子じゃな。さて蘇芳、お主の嫁はああ言っておるが?」
「…わかった、もらう」
溜め息を吐く蘇芳は、毛先があちこちに跳ねた赤い髪を乱雑に掻くと、リュカの隣に腰かけた。不本意とばかりにぶすくれている。
それ程待つことなく、湯気の立った湯呑みが置かれた。熱い茶をすすりながら、沙楼羅が正面にあぐらをかいて座る。
「丁度、熟れた枇杷を取ってきたところじゃ。良いお茶請けになった」
そう言って烏天狗は懐から出した包みを広げ、赤みがかった黄色の枇杷を床に置いた。彼に促され、リュカは一つ手に取り、着物で表面の汚れを拭き取ってかぶりついた。口の中にあふれる果汁と甘さに、リュカは思わず声を上げていた。
「うまっ!すっごい甘い!何だこれ!」
「大げさだな。普通だろ」
「え、めちゃくちゃおいしいじゃん!俺、こんなにおいしい果物初めて食べた!何て名前だっけ」
「枇杷じゃ」
「びわ…」
リュカは食べかけの枇杷を両手で目の前に掲げ、目を輝かせて眺めた。まるで宝石を発見したかのような感動具合に、蘇芳は口に拳をあててこみ上げる笑いを押し殺した。
「リュカ、お前本当にろくなもん食べてなかったんだな」
「そうだよ。カビたパンとか残飯とかばっかだったし、果物とかもってのほか。蘇芳のとこに来て初めて、食事が楽しいものだって知ったし」
「…そうかよ。じゃあこれからも、うまいもん食わしてやるよ」
蘇芳に頭をぐりぐりと撫でられながら、リュカの表情がぱっと明るくなる。彼に尻尾がついていれば、激しく左右にぶんぶん振れていたことだろう。
「それで、何か用かのう?」
茶をすする沙楼羅の一声で、リュカは我に返って、本来の目的を思い出した。座ったまま烏天狗に近づき、膝に置かれた手をぎゅっと握って見つめる。
「ん、どうした?いくら儂が美男子とは言え、そんなに熱心に見つめられては穴が開きそうじゃ」
「やべ。沙楼羅さんに聞きたいことあるのに、つい見とれてた」
「リュカは素直じゃなあ。儂に聞きたいとな?蘇芳の可愛い嫁じゃ。儂で答えられる範囲のことは何でも教えてやろう」
へへ、と照れ隠しに笑うリュカに、沙楼羅は満更でもないようだ。優しい手つきで少年の後頭部を撫でている。
「俺の出生の秘密、教えてください!」
「無理じゃなあ」
「そんな堅いこと言わずに!沙楼羅様、お願いっ。お願いします~この通り~」
リュカは、間髪入れずに却下した沙楼羅の周りをちょろちょろと動き回った。ご機嫌取りに肩を揉んだり、ぎゅうと抱きついてみたり。
「蘇芳には言わなくていいからさ、俺だけに教えてくれよ。な、な、良いだろ?俺と沙楼羅さんの秘密!」
あぐらをかく烏天狗の膝の上に乗り上げ、両手を合わせて懇願する。
「何とも魅力的なお誘いじゃがのう。無理なものは無理なんじゃ。リュカ、お前自身にも告げられん」
「そんな~」
苦笑いを浮かべる沙楼羅に、リュカはあからさまに落胆した。悲痛な声を上げながら、彼の胸に顔を埋め、ぐりぐりと頭を擦りつける。意気消沈する少年を、沙楼羅はぎゅっと抱きしめた。
「すまんのお。教えてやりたいのは山々なんじゃが、口にした瞬間、儂の首が飛んでしまう。文字通り、スパッとな」
「だから言っただろ、期待するだけ無駄だって。沙楼羅は一度言ったことは曲げねえんだよ」
呆れた響きの声がしたかと思えば、首根っこを掴まれて沙楼羅から引き剥がされる。今度はお馴染みの蘇芳の腕の中だ。リュカもこの扱いに慣れつつあった。
「気ぃ済んだだろ。帰るぞ」
「えーっ来たばっかじゃん!俺、もう少しここにいたい」
「はあ?何でだよ」
「蘇芳こそ何でそんなに早く帰りたいんだよ。屋敷に戻ったってやることないじゃん。どうせ春画本を読むか酒飲むかだろ?」
リュカの発言に、蘇芳は眉根をぎゅっと寄せ、沙楼羅は勢い良く噴き出した。腹を抱えて床の上を転がりながら爆笑している。
「おっ前、生意気だな~」
「でも本当じゃん。俺、屋敷に戻るより沙楼羅さんともっと話がしてえ!」
「その口の中、ぐちゃぐちゃに犯してやろうか」
「むむうゔっ」
額に青筋を浮かべた赤鬼に唇を摘まれる。リュカは頭を振りながら彼の腕を両手で掴み、引き剥がそうとした。爪先で腹を蹴るも蘇芳はびくともしない。腹も中に鉄板が入っているのではないかと疑わしい程に硬く、こちらが怪我をするのではないかと心配になるくらいだった。
「沙楼羅、テメェいつまでも笑ってんじゃねえぞ」
「いやいや愉快愉快。会う度にリュカのことが好きになっていくわい」
鋭い眼光で蘇芳に睨まれた沙楼羅は、体を起こして座りなおした。仮面の下に指を差し込み、涙を拭うしぐさをする。
蘇芳の力が緩んだ隙を逃さず、リュカは赤鬼の腕の中から抜け出し、沙楼羅の背後に身を隠した。
「沙楼羅さん、蘇芳の弱点教えてくれ!」
「蘇芳の弱点?」
力強く頷くリュカに、沙楼羅は蘇芳を一瞥した。再び少年に目を向け、にやにやと笑みを浮かべる。
「弱点なぞ、明らかじゃと思うがなあ」
「どこ?どこが?角?」
「角は弱点にならねえよ。折れてもまた生えてくるっつったろ」
「じゃあどこ?沙楼羅さん、お願い!俺のことを助けると思って!」
「まあまあ。そこの鬼に縊り殺されそうじゃから弱点は教えられぬが、代わりに良いものをやろう」
苦笑する烏天狗は、嘆願する少年の頭を撫でた。懐から紐のようなものを取り出し、リュカの手首に巻き付ける。端と端を結び合わせると、結び目が消え、最初からまるでそうであったかのように一本の輪になった。
「儂の力を込めた御守りじゃ。リュカがこの組み紐を身に着けている限り、山の異形達にはお主に手出しできん」
「へえ、じゃあ俺一人で山の中に入っても問題ないんだ」
「目に見えてる奴等よりも得体の知れない化け物もいる。沙楼羅の加護があるからと言って絶対に安全って訳じゃねえ。履き違えんな」
「そうさな、儂の力の及ばん種もわんさかおる。万が一の事態にも、儂はこの翼で逃げられるし、蘇芳も闘いに長けているから隙をついて逃げられる。力のない童が一人で山の中をうろつくのは感心せぬよ」
顔をしかめる蘇芳にばっちりと釘を刺されてしまう。続いて、苦笑する沙楼羅にも。一瞬舞い上がったリュカだったが、大人二人の反応に少しばかり気落ちしたのだった。
「うん」
逞しい腕に抱き上げられたリュカは、赤鬼の首に両腕を回してしっかりと抱きついた。蘇芳は鬱蒼とした木々の間を駆け抜け、傾斜のきつい山をどんどん登っていく。流れていく景色の中、視線を彷徨わせるが不気味な雰囲気の異形達の姿はそれほど多くなかった。
「…この間と感じが違う気がする」
「朝だからな。奴らは闇夜に紛れて行動する」
明るいうちでも不気味なのに、暗い中で遭遇するなど想像しただけでぞっとする。抱きつく腕に自然と力が入る。
山頂近くまで来ると、周囲の中でも一際高い樹があった。蘇芳は枝に足をかけ、ひょいひょいと軽い身のこなしで跳躍する。天辺近くには、木造の小屋が設置されていた。中は不思議なつくりをしていた。四面あるはずの壁が一面だけ無く、外が丸見えだった。
「おい、あまり端に行くな。落ちるぞ」
忠告を聞き入れつつ、壁のないところに近づいて下を見下ろす。地面が見えない程の高さで、落ちればひとたまりもない。背筋がヒヤッとするのを感じたリュカは、そそくさと蘇芳の元に戻った。
「何であそこの壁ないんだ?」
「今にわかる」
赤鬼の言葉と同時に微かに羽音が聞こえてきた。音が大きくなると共に黒い点のようなものが近づいてくる。それは、大きな黒い翼をはためかせて飛ぶ沙楼羅だった。小屋に近づくにつれて速度を緩め、手前で翼を何度かはばたかせて停止飛行しつつ爪先から壁のない床の縁に着地する。それから少し窮屈そうに黒い翼を折りたたんだ。
その様子を見て、リュカは合点がいった。沙楼羅は徒歩ではなく飛行での移動だから、壁の一部を元々なくしているのだと。分かったか?と言わんばかりの蘇芳を見上げて、何度も頷く。
「おお、蘇芳にリュカ」
「こんにちは、沙楼羅さん!」
「よう来たのう。どれ、茶を淹れてやろう。ゆるりと寛ぐと良い」
「いい、いらねえ。長居するつもりで来たんじゃねえ」
「何じゃ、冷たいのう」
眉をひそめる蘇芳に、沙楼羅は明らかに残念そうな様子で肩を落とした。
「え、何で?俺、飲みたい」
申し出を断る赤鬼に、リュカは目を丸くした。自分は既に茶をもらう気満々で囲炉裏の前に着座していると言うのに。それに早々に屋敷に戻ったとしても、やることがないのだ。沙楼羅さえ良ければ、彼ともっと話をしてみたい。
少年は烏天狗に対して好奇心を抑えきれないでいた。
「よしよし、リュカは良い子じゃな。さて蘇芳、お主の嫁はああ言っておるが?」
「…わかった、もらう」
溜め息を吐く蘇芳は、毛先があちこちに跳ねた赤い髪を乱雑に掻くと、リュカの隣に腰かけた。不本意とばかりにぶすくれている。
それ程待つことなく、湯気の立った湯呑みが置かれた。熱い茶をすすりながら、沙楼羅が正面にあぐらをかいて座る。
「丁度、熟れた枇杷を取ってきたところじゃ。良いお茶請けになった」
そう言って烏天狗は懐から出した包みを広げ、赤みがかった黄色の枇杷を床に置いた。彼に促され、リュカは一つ手に取り、着物で表面の汚れを拭き取ってかぶりついた。口の中にあふれる果汁と甘さに、リュカは思わず声を上げていた。
「うまっ!すっごい甘い!何だこれ!」
「大げさだな。普通だろ」
「え、めちゃくちゃおいしいじゃん!俺、こんなにおいしい果物初めて食べた!何て名前だっけ」
「枇杷じゃ」
「びわ…」
リュカは食べかけの枇杷を両手で目の前に掲げ、目を輝かせて眺めた。まるで宝石を発見したかのような感動具合に、蘇芳は口に拳をあててこみ上げる笑いを押し殺した。
「リュカ、お前本当にろくなもん食べてなかったんだな」
「そうだよ。カビたパンとか残飯とかばっかだったし、果物とかもってのほか。蘇芳のとこに来て初めて、食事が楽しいものだって知ったし」
「…そうかよ。じゃあこれからも、うまいもん食わしてやるよ」
蘇芳に頭をぐりぐりと撫でられながら、リュカの表情がぱっと明るくなる。彼に尻尾がついていれば、激しく左右にぶんぶん振れていたことだろう。
「それで、何か用かのう?」
茶をすする沙楼羅の一声で、リュカは我に返って、本来の目的を思い出した。座ったまま烏天狗に近づき、膝に置かれた手をぎゅっと握って見つめる。
「ん、どうした?いくら儂が美男子とは言え、そんなに熱心に見つめられては穴が開きそうじゃ」
「やべ。沙楼羅さんに聞きたいことあるのに、つい見とれてた」
「リュカは素直じゃなあ。儂に聞きたいとな?蘇芳の可愛い嫁じゃ。儂で答えられる範囲のことは何でも教えてやろう」
へへ、と照れ隠しに笑うリュカに、沙楼羅は満更でもないようだ。優しい手つきで少年の後頭部を撫でている。
「俺の出生の秘密、教えてください!」
「無理じゃなあ」
「そんな堅いこと言わずに!沙楼羅様、お願いっ。お願いします~この通り~」
リュカは、間髪入れずに却下した沙楼羅の周りをちょろちょろと動き回った。ご機嫌取りに肩を揉んだり、ぎゅうと抱きついてみたり。
「蘇芳には言わなくていいからさ、俺だけに教えてくれよ。な、な、良いだろ?俺と沙楼羅さんの秘密!」
あぐらをかく烏天狗の膝の上に乗り上げ、両手を合わせて懇願する。
「何とも魅力的なお誘いじゃがのう。無理なものは無理なんじゃ。リュカ、お前自身にも告げられん」
「そんな~」
苦笑いを浮かべる沙楼羅に、リュカはあからさまに落胆した。悲痛な声を上げながら、彼の胸に顔を埋め、ぐりぐりと頭を擦りつける。意気消沈する少年を、沙楼羅はぎゅっと抱きしめた。
「すまんのお。教えてやりたいのは山々なんじゃが、口にした瞬間、儂の首が飛んでしまう。文字通り、スパッとな」
「だから言っただろ、期待するだけ無駄だって。沙楼羅は一度言ったことは曲げねえんだよ」
呆れた響きの声がしたかと思えば、首根っこを掴まれて沙楼羅から引き剥がされる。今度はお馴染みの蘇芳の腕の中だ。リュカもこの扱いに慣れつつあった。
「気ぃ済んだだろ。帰るぞ」
「えーっ来たばっかじゃん!俺、もう少しここにいたい」
「はあ?何でだよ」
「蘇芳こそ何でそんなに早く帰りたいんだよ。屋敷に戻ったってやることないじゃん。どうせ春画本を読むか酒飲むかだろ?」
リュカの発言に、蘇芳は眉根をぎゅっと寄せ、沙楼羅は勢い良く噴き出した。腹を抱えて床の上を転がりながら爆笑している。
「おっ前、生意気だな~」
「でも本当じゃん。俺、屋敷に戻るより沙楼羅さんともっと話がしてえ!」
「その口の中、ぐちゃぐちゃに犯してやろうか」
「むむうゔっ」
額に青筋を浮かべた赤鬼に唇を摘まれる。リュカは頭を振りながら彼の腕を両手で掴み、引き剥がそうとした。爪先で腹を蹴るも蘇芳はびくともしない。腹も中に鉄板が入っているのではないかと疑わしい程に硬く、こちらが怪我をするのではないかと心配になるくらいだった。
「沙楼羅、テメェいつまでも笑ってんじゃねえぞ」
「いやいや愉快愉快。会う度にリュカのことが好きになっていくわい」
鋭い眼光で蘇芳に睨まれた沙楼羅は、体を起こして座りなおした。仮面の下に指を差し込み、涙を拭うしぐさをする。
蘇芳の力が緩んだ隙を逃さず、リュカは赤鬼の腕の中から抜け出し、沙楼羅の背後に身を隠した。
「沙楼羅さん、蘇芳の弱点教えてくれ!」
「蘇芳の弱点?」
力強く頷くリュカに、沙楼羅は蘇芳を一瞥した。再び少年に目を向け、にやにやと笑みを浮かべる。
「弱点なぞ、明らかじゃと思うがなあ」
「どこ?どこが?角?」
「角は弱点にならねえよ。折れてもまた生えてくるっつったろ」
「じゃあどこ?沙楼羅さん、お願い!俺のことを助けると思って!」
「まあまあ。そこの鬼に縊り殺されそうじゃから弱点は教えられぬが、代わりに良いものをやろう」
苦笑する烏天狗は、嘆願する少年の頭を撫でた。懐から紐のようなものを取り出し、リュカの手首に巻き付ける。端と端を結び合わせると、結び目が消え、最初からまるでそうであったかのように一本の輪になった。
「儂の力を込めた御守りじゃ。リュカがこの組み紐を身に着けている限り、山の異形達にはお主に手出しできん」
「へえ、じゃあ俺一人で山の中に入っても問題ないんだ」
「目に見えてる奴等よりも得体の知れない化け物もいる。沙楼羅の加護があるからと言って絶対に安全って訳じゃねえ。履き違えんな」
「そうさな、儂の力の及ばん種もわんさかおる。万が一の事態にも、儂はこの翼で逃げられるし、蘇芳も闘いに長けているから隙をついて逃げられる。力のない童が一人で山の中をうろつくのは感心せぬよ」
顔をしかめる蘇芳にばっちりと釘を刺されてしまう。続いて、苦笑する沙楼羅にも。一瞬舞い上がったリュカだったが、大人二人の反応に少しばかり気落ちしたのだった。
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