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9. 主人が主人なら従者も従者
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翌朝の目覚めは最悪だった。体中が痛み、特に酷いのは腰から下だった。全く力が入らず、尻穴の違和感がすさまじい。今も蘇芳のが入っているのではないかと思う程だ。体を起こそうとするも、仰向けからうつ伏せに転がるだけで、力尽きてしまう。ままならない体に、野獣のような唸り声が口から漏れた。
室内には自分以外誰もおらず、リュカはほっと安堵の息を吐いた。昨夜は蘇芳に好き勝手されて、全身どろどろのぐちゃぐちゃだったはずなのに、その痕跡はどこにもない。不快な感じもなく、寝間着らしき着物も着せられている。蘇芳の顔が浮かんだが、絶対に違うとリュカは確信した。となると、セキシだ。汗やら精液やら様々な体液で汚れた体を、彼がきれいにしてくれたのかと思うと、とても申し訳なかった。テル・メルで体液まみれの寝具を片付けるのでさえ嫌だったのに、それに加えて気を失った人間の体を清拭するなんて考えただけでも吐き気がする。
考えるのが嫌になり、リュカは二度寝をすることにした。体はまだ疲労を訴えているし、目を閉じればすぐに眠りにつけそうだ。だがその瞬間、障子が開く音がした。
「リュカ様、朝ですよ」
狸寝入りを決めこむリュカだったが、優しい声に目をそろりと開いた。柔らかな笑みを浮かべて挨拶をするセキシに、少年も応える。
「朝ご飯をお持ちしました。それと、昨日ベルクト様に依頼した服が届いたので、着替えましょう」
「食べたいけど…全然体動かないんだ」
「大丈夫ですよ。私が全てして差し上げます」
そう言うとセキシは蒸したタオルで少年の顔を拭いた。リュカが体を起こせず、顔を洗えないと予想していたかのようだ。それから慣れた手つきで寝間着を脱がせた。動けない相手など手がかかって仕方がないだろうに、セキシはそんな様子など全く窺わせず、リュカの体を気遣いながら着替えを済ませていく。
「ああ、いけない。薬を塗るのを忘れるところでした」
「薬?」
足首の部分がぎゅっと締まった袴に両足を通したところで、突然セキシが言い出した。座る彼の肩に寄りかかってどうにか立っていたリュカは、眉をひそめた。
早くズボンをはかせてくれ。下半身だけ下着丸出しの状態のまま手を止めないでくれ。
セキシは訝しがるリュカににっこり笑いかけると、裏ももから臀部にかけて手を滑らせた。指先が、昨晩蘇芳を受け入れた穴に触れる。まさかそんなところを触られると思わず、リュカの体はびくりと大きく震えた。
「はい。ここ、少し切れていますし、赤く腫れてしまっているので」
「し、しなくていい!平気っ!」
「何を仰いますか。辛くない筈がないです。薬を塗ればそれだけ早く治りますよ」
セキシの言い方は、まるで駄々をこねる子供に言い聞かせるかのように柔らかい。リュカは何とか彼から離れようとするも、足に全く力が入らない。セキシも鬼なだけあって、がっちりと腰に巻きついた腕はびくとも動かなかった。
「自分でできる!自分でするって…!なあ、セキシ!」
「いけません。大丈夫です、すぐに終わりますよ」
リュカの制止の言葉も虚しく聞き流され、セキシが軟膏のようなものを尻穴に塗りつけてくる。本当に切れているらしく、ぴりっとした痛みを感じる。
「ぃあ…っ!?な、なんで…!」
「中も傷ついてるといけませんから」
穴全体に薬を塗られ、羞恥の時間は終わったかに思えたが、予想に反して指は離れていくどころか中に侵入してきた。目を見開くリュカに、セキシは笑みを浮かべたまま飄々と答えた。挿入された人差し指が丹念に中を探る。
「ふ、うぅ…ん、っ」
セキシの指は蘇芳とは全く違うが、愛撫ともとれる触り方に、昨日初めて味わった快感を思い出してしまう。リュカは声を必死で殺しながら、早く終われと心の中で念仏のように唱えた。
「はい、終わりです」
ようやく指を抜いてもらえて、リュカは深く息を吐いた。セキシはズボンをはかせた少年を抱きかかえ、座椅子に彼を座らせた。敷きつめられたクッションの柔らかさのおかげで、腰への負担が軽減する。
「流石はベルクト様ですね。リュカ様、よくお似合いですよ。とても愛らしい」
何事もなかったかのように、にこにこと笑うセキシにリュカは何も言わず、あからさまな不満顔で応えた。自分の目つきの悪さは十分わかっている。昨日に続いての、愛らしい発言に辟易する。セキシは絶対に目が悪い、とリュカは確信していた。
そうはそうと、と少年は自分の服に視線を落とした。上の服は鮮やかな真紅に金の刺繍が施され、袴は対照的に真っ白だ。テル・メルでは常に黒い清掃着しか身につけてこなかったリュカにとって、派手な色合いだった。着物のようだが、上下に分かれている。裾も丈もぴったりで、上等な布で仕立てているだけあって、とても着心地がいい。もしかしたら裸でいるよりも気持ち良いかもしれない。
朝食は出汁のきいた粥だった。食べさせて差し上げます、というセキシの申し出を断って自分で食べた。従者の青年は布団を片付け、リュカが着ていた寝間着をたたむと、少年が食事するのを笑みを浮かべて眺めていた。
「おい、終わったか」
「はい、蘇芳様、ちょうど」
朝食を食べ終えるのとほぼ同時に、蘇芳が部屋に入ってきた。人のことをあれだけ好きにズコバコ犯しておいて、涼しい顔をしている。せっかく満腹になって幸せな余韻に浸っていたのに、台無しだ。それに蘇芳もリュカと似た色の似た服装をしていることに気付き、途端に不愉快な気持ちになってしまった。
「なら行くぞ、リュカ」
「……」
「おい、聞こえてるだろ」
「…行くってどこに。俺、誰かさんのせいで体動かないんだけど」
最高に刺々しい声で嫌味を放つ。蘇芳とどこにも行きたくなかった。彼の目から逃れるように、姿勢を崩して座椅子の背もたれに身を隠す。セキシが助け舟を出してくれるんじゃないかと僅かな期待を胸に、彼をじっと見つめる。
「ぎゃっ」
腕を掴まれたかと思うと、一瞬にしてものすごい力で引き上げられた。目の前には、今一番見たくない男の顔が。しかも理解できないことに、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべている。
「俺のせいだな。動けないなら運んでやるよ」
「…俺行くって言ってねえんだけど。それと、どこにって言う俺の質問は無視かよ」
腕を突っぱねて、鬼の腕の中から逃げようとするもびくともしない。生意気な発言をして、嫌悪をあからさまに表情に出しているのに、蘇芳はどこか愉しそうだ。同じように生意気な口をきいた昨夜は、怒ったと言うのに訳がわからない。
「そうつんけんすんなよ。一族の会合だ」
その言葉に、リュカはますます行きたくない気持ちになった。一族となるときっと、鬼だらけのはずだ。
「嫌だ。行きたくない。俺、ここにいる」
「駄目だ。俺がお前を嫁にしたことが知られてる。顔見せしなきゃならねえ」
「顔見せ…」
「黙っときゃすぐに終わる。…つっても、お前余計なこと言いそうだから、口を封じさせてもらうぞ」
「えっ、封じるってどういう…っ!?」
蘇芳の額が角に触れた途端、リュカは声を失った。と言うより、口を開けなくなった。まるで唇を見えない糸で縫われているかのようだった。説明もなく許可も求められず、何かの力を行使されたことに腹が立った。目を見開き、怒りの抗議を行うも声が出ない。
「ククッ、心配すんなよ。会合が終われば元に戻してやる」
だから大人しくしてろよ、いいな。蘇芳の口元は弧を描いていたが、黒みがかった深い赤の瞳は全く笑っていなかった。
室内には自分以外誰もおらず、リュカはほっと安堵の息を吐いた。昨夜は蘇芳に好き勝手されて、全身どろどろのぐちゃぐちゃだったはずなのに、その痕跡はどこにもない。不快な感じもなく、寝間着らしき着物も着せられている。蘇芳の顔が浮かんだが、絶対に違うとリュカは確信した。となると、セキシだ。汗やら精液やら様々な体液で汚れた体を、彼がきれいにしてくれたのかと思うと、とても申し訳なかった。テル・メルで体液まみれの寝具を片付けるのでさえ嫌だったのに、それに加えて気を失った人間の体を清拭するなんて考えただけでも吐き気がする。
考えるのが嫌になり、リュカは二度寝をすることにした。体はまだ疲労を訴えているし、目を閉じればすぐに眠りにつけそうだ。だがその瞬間、障子が開く音がした。
「リュカ様、朝ですよ」
狸寝入りを決めこむリュカだったが、優しい声に目をそろりと開いた。柔らかな笑みを浮かべて挨拶をするセキシに、少年も応える。
「朝ご飯をお持ちしました。それと、昨日ベルクト様に依頼した服が届いたので、着替えましょう」
「食べたいけど…全然体動かないんだ」
「大丈夫ですよ。私が全てして差し上げます」
そう言うとセキシは蒸したタオルで少年の顔を拭いた。リュカが体を起こせず、顔を洗えないと予想していたかのようだ。それから慣れた手つきで寝間着を脱がせた。動けない相手など手がかかって仕方がないだろうに、セキシはそんな様子など全く窺わせず、リュカの体を気遣いながら着替えを済ませていく。
「ああ、いけない。薬を塗るのを忘れるところでした」
「薬?」
足首の部分がぎゅっと締まった袴に両足を通したところで、突然セキシが言い出した。座る彼の肩に寄りかかってどうにか立っていたリュカは、眉をひそめた。
早くズボンをはかせてくれ。下半身だけ下着丸出しの状態のまま手を止めないでくれ。
セキシは訝しがるリュカににっこり笑いかけると、裏ももから臀部にかけて手を滑らせた。指先が、昨晩蘇芳を受け入れた穴に触れる。まさかそんなところを触られると思わず、リュカの体はびくりと大きく震えた。
「はい。ここ、少し切れていますし、赤く腫れてしまっているので」
「し、しなくていい!平気っ!」
「何を仰いますか。辛くない筈がないです。薬を塗ればそれだけ早く治りますよ」
セキシの言い方は、まるで駄々をこねる子供に言い聞かせるかのように柔らかい。リュカは何とか彼から離れようとするも、足に全く力が入らない。セキシも鬼なだけあって、がっちりと腰に巻きついた腕はびくとも動かなかった。
「自分でできる!自分でするって…!なあ、セキシ!」
「いけません。大丈夫です、すぐに終わりますよ」
リュカの制止の言葉も虚しく聞き流され、セキシが軟膏のようなものを尻穴に塗りつけてくる。本当に切れているらしく、ぴりっとした痛みを感じる。
「ぃあ…っ!?な、なんで…!」
「中も傷ついてるといけませんから」
穴全体に薬を塗られ、羞恥の時間は終わったかに思えたが、予想に反して指は離れていくどころか中に侵入してきた。目を見開くリュカに、セキシは笑みを浮かべたまま飄々と答えた。挿入された人差し指が丹念に中を探る。
「ふ、うぅ…ん、っ」
セキシの指は蘇芳とは全く違うが、愛撫ともとれる触り方に、昨日初めて味わった快感を思い出してしまう。リュカは声を必死で殺しながら、早く終われと心の中で念仏のように唱えた。
「はい、終わりです」
ようやく指を抜いてもらえて、リュカは深く息を吐いた。セキシはズボンをはかせた少年を抱きかかえ、座椅子に彼を座らせた。敷きつめられたクッションの柔らかさのおかげで、腰への負担が軽減する。
「流石はベルクト様ですね。リュカ様、よくお似合いですよ。とても愛らしい」
何事もなかったかのように、にこにこと笑うセキシにリュカは何も言わず、あからさまな不満顔で応えた。自分の目つきの悪さは十分わかっている。昨日に続いての、愛らしい発言に辟易する。セキシは絶対に目が悪い、とリュカは確信していた。
そうはそうと、と少年は自分の服に視線を落とした。上の服は鮮やかな真紅に金の刺繍が施され、袴は対照的に真っ白だ。テル・メルでは常に黒い清掃着しか身につけてこなかったリュカにとって、派手な色合いだった。着物のようだが、上下に分かれている。裾も丈もぴったりで、上等な布で仕立てているだけあって、とても着心地がいい。もしかしたら裸でいるよりも気持ち良いかもしれない。
朝食は出汁のきいた粥だった。食べさせて差し上げます、というセキシの申し出を断って自分で食べた。従者の青年は布団を片付け、リュカが着ていた寝間着をたたむと、少年が食事するのを笑みを浮かべて眺めていた。
「おい、終わったか」
「はい、蘇芳様、ちょうど」
朝食を食べ終えるのとほぼ同時に、蘇芳が部屋に入ってきた。人のことをあれだけ好きにズコバコ犯しておいて、涼しい顔をしている。せっかく満腹になって幸せな余韻に浸っていたのに、台無しだ。それに蘇芳もリュカと似た色の似た服装をしていることに気付き、途端に不愉快な気持ちになってしまった。
「なら行くぞ、リュカ」
「……」
「おい、聞こえてるだろ」
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最高に刺々しい声で嫌味を放つ。蘇芳とどこにも行きたくなかった。彼の目から逃れるように、姿勢を崩して座椅子の背もたれに身を隠す。セキシが助け舟を出してくれるんじゃないかと僅かな期待を胸に、彼をじっと見つめる。
「ぎゃっ」
腕を掴まれたかと思うと、一瞬にしてものすごい力で引き上げられた。目の前には、今一番見たくない男の顔が。しかも理解できないことに、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべている。
「俺のせいだな。動けないなら運んでやるよ」
「…俺行くって言ってねえんだけど。それと、どこにって言う俺の質問は無視かよ」
腕を突っぱねて、鬼の腕の中から逃げようとするもびくともしない。生意気な発言をして、嫌悪をあからさまに表情に出しているのに、蘇芳はどこか愉しそうだ。同じように生意気な口をきいた昨夜は、怒ったと言うのに訳がわからない。
「そうつんけんすんなよ。一族の会合だ」
その言葉に、リュカはますます行きたくない気持ちになった。一族となるときっと、鬼だらけのはずだ。
「嫌だ。行きたくない。俺、ここにいる」
「駄目だ。俺がお前を嫁にしたことが知られてる。顔見せしなきゃならねえ」
「顔見せ…」
「黙っときゃすぐに終わる。…つっても、お前余計なこと言いそうだから、口を封じさせてもらうぞ」
「えっ、封じるってどういう…っ!?」
蘇芳の額が角に触れた途端、リュカは声を失った。と言うより、口を開けなくなった。まるで唇を見えない糸で縫われているかのようだった。説明もなく許可も求められず、何かの力を行使されたことに腹が立った。目を見開き、怒りの抗議を行うも声が出ない。
「ククッ、心配すんなよ。会合が終われば元に戻してやる」
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