盗みから始まる異類婚姻譚

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8. 初夜

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 蘇芳はリュカの両手首を着物の帯紐でくくると、先程まで腰かけていた窓の縁へと向かった。鬼が背を向けた瞬間を見逃さず、少年は器用に立ち上がり、障子へと走った。だが、どんなに力をこめて引いても、障子は開かなかった。助走をつけて体当たりしてみるも、まるで効果はなし。何かの見えない力が働いているようだった。

「残念」

 あざけるような声と共に、リュカは強い力で引きずり倒された。再び体が布団の上に投げ出される。帯紐を引っ張られ、強制的に両腕を上げさせられる体勢になる。

「大人しく足を開くなら紐をほどいてやるが?」
「死ねっ!」
「ククッ。その威勢がどこまで持つか見物だな」

 少年の手首を拘束する紐は、座卓の脚に括りつけられた。往生際悪く逃げようともがく彼を見下ろしながら、鬼は徳利を一気に呷った。そうして身をかがめると、リュカの顎を掴んで口づけた。
 リュカはぎゅっと噛んだ。顔を背けようとするのだが、鬼の手がそれを許さない。足をじたばたと動かして巨体を蹴りつけるが、蘇芳は全く動じない。鍛えられた体はまるで鉄の塊のようで、こちらの足が痛くなるほどだった。闇雲に抵抗したことが仇となり、鼻だけではうまく呼吸ができなくなってしまった。しばらく我慢はしたが堪え切れず、リュカは遂に口を開けた。

「ん、うぅ…っ!」

 待っていたとばかりに、蘇芳が深く唇を重ねてくる。鬼の口から、唾液とは違う液体が流れこんできて、リュカは目を見開いた。少量がのどを通っただけでも、カッと熱くなる。本能的に危険を察知し、吐きだそうとするも、蘇芳の巧みな舌遣いに翻弄されて嚥下してしまった。途端に感じたことのない熱を全身に感じる。リュカは舌を絡めてくる鬼の唇に噛みついた。

「…ってぇな」
「てめぇ…っ!なに、のませやがった…!」

 痛みに顔をしかめる鬼を見るのは気分が良かったが、今はそれどころではなかった。声を出すだけでも、熱い何かが全身を駆け巡って、頭がくらくらする。

「鬼が好むんで飲む酒だ。鬼にとってはただの酒だが、他の種が飲むと催淫効果が発現するらしい。人間のお前にはより強く出るかもな」
「ふざけ…っ!」

 ふざけんな、と最後まで言葉を紡ぐことはかなわなかった。心臓がどくどくと大きく拍動して、胸が苦しい。全身が熱くてたまらない。その熱は頭にまで回ってくるようだった。手足の動きも、思考も鈍くなっていくのがわかる。それなのに、皮膚の感覚は鋭くなっている気がした。

「苦しそうだな」
「…ひっ…!」

 着物が完全にはだけて露になった体に、蘇芳の手がそっと触れる。それだけで背中にぞくぞくとしたものが走って、勝手に体が跳ねた。
 何だ今のは、とリュカは目を見開いた。初めての感覚に、戸惑いを隠せない。短く速い呼吸を繰り返しながら、顔を上げてみるが、平らな腹部に鬼の手が乗っているだけだ。それなのに、触れているところがやたらと熱くて、下腹部がじんと痺れる。
 視線を上げると、蘇芳と目が合う。少年と同じく目を丸くしているが、すぐにその目は口と共に弧を描いた。蘇芳が腹から胸にかけて指を滑らせる。

「…ひ、や、ゃめ…っ、うぁ、あ…っ!」

 リュカはたまらず声を上げた。やめてくれ、という懇願ももはや言葉にならない。身をよじってみるが、手首は紐で座卓に繋がれ、逃げ場などなかった。

「ひ、ぁあ…っ」

 蘇芳の指が胸へと到達し、小さな乳首を摘むと、リュカは甲高い声で喘いだ。脳天から足先まで電気のような刺激が走って、性器から白濁が飛ぶ。乳首を摘ままれただけで射精してしまったことに、リュカは呆然と天井を見つめた。おかしい。精を放ったのに、得体のしれない熱が未だにくすぶっている。自分の体なのに、一体何が起きているのか全く分からない。混乱と戸惑いで、リュカの目から涙がこぼれる。

「予想外の効き目だな。啼き声も悪くねえし、…楽しめそうだ」

 リュカを見下ろす蘇芳の瞳には、嗜虐の光が宿っていた。少年が噛みついて切れた口端からにじみ出る血を、舌で舐め取る鬼に恐怖を感じる。リュカは嫌だと必死で首を振るが、蘇芳は笑みを深くするだけだった。 

 ******

「ゃ、あ゛…っ!」
「またイッたのか。リュカ、これで何度目だ?」

 尻に指を三本咥えさせられた状態で射精したリュカに、蘇芳はのどを鳴らして笑う。鬼の問いに、少年は答えることができなかった。絶えず強い快感と刺激を与えられ続け、思考はどろどろに溶けていたのだ。
 汗と自身の精液にまみれた少年の体は悲惨なことになっていた。全身の至るところに、鬱血痕や噛み跡が散らばっている。噛み跡からはうっすらと血が滲み出ているが、痛みもすべて快感にすり替わっていた。蘇芳にべろべろに舐められたせいで口の中は鬼の唾液であふれ、顔は涙で濡れていた。何度も射精させられたリュカは疲労困憊で、酒の催淫効果も相まって、もはや抵抗する元気など残っていなかった。悪態を吐く気力すらなく、少年は完全に鬼にされるがままだった。

「…そろそろいいか」
「ひぅ…っ」

 鬼は細く長く息を吐くと、少年の尻から指を引き抜いた。指先が穴の縁に引っかかる感触すら気持ちが良くて、リュカはびくりと体を震わせる。指がなくなったことで、開いたままの穴から、中に流しこまれていた香油があふれ出した。
 蘇芳が衣服を脱ぎ捨てると、鋼のように鍛えられた肉体が露になった。ほのかな照明の中、陰影のついた逞しい筋肉がまるで化け物のように思えてしまう。六つに割れた腹筋の下の、勃起した雄の象徴の大きさに、リュカは目を見開いた。思わず小さな悲鳴が口から漏れる。禍々しい存在感のそれを凝視したまま、疲れ切った体に鞭を打って、座卓の下へと後ずさる。

「おい、逃げんな」
「…ち、近寄るな、来るな、どっか行け…っ!」
「つれねえな。仲良くしようぜ?」

 リュカの視線の先を追い、自分の下半身を見下ろした蘇芳はニヤリと笑った。怯える少年の反応を楽しんでいる。リュカは座卓の脚にしがみついたが、足首を掴まれ、為すすべなく引きずられた。大きく足を開かされ、後孔に熱の塊を押し当てられる。

「やだ、いやだ…!やめろっ…!」
「うるせえよ。ここまで来てやめる訳ねえだろ。処女だから怖いのはわかるけどな、酒のせいで気持ちよくしかならねえよ。安心しろ」

 蘇芳の人を小馬鹿にした態度が鼻につく。その鼻をどうにかしてへし折ってやりたくなる。やられっぱなしなのも気に喰わなかった。

「ハッ…誰が、処女だって言った…?俺、娼館にいたんだぞ、経験…ないわけないだろ…。そんなのぶちこまれて尻穴が緩くなりそうだから、嫌なんだよ…っ」

 経験があるなど、全くの嘘だ。尻穴が緩くなりそう、というのは本心だが。初めてなのにまるで凶器の大きさの蘇芳のイチモツを受け入れるなど、怖いに決まっている。

「…へえ、なら手加減する必要はねえな」

 先程まで余裕の笑みを浮かべていた蘇芳の顔から表情が消える。色をなくした冷たい目で自分を見下ろしてくる鬼にぞっとした。だが、自分の発言の何が彼の逆鱗に触れたのかわからない。
 まずいと思った時には既に遅く、鬼に腰を掴まれ、剛直を一息に押しこまれた。全身を襲う鈍い衝撃に、リュカは悲鳴を上げたが、それは音を成さなかった。尻穴がメリメリと音を立てて、限界まで広がっているのがわかる。それなのに感じるのは、快感だけだった。息を整える間もなく、蘇芳は乱暴に腰を打ちつけてきた。

「ぃあ、ア…っ!」

 激しく体を揺さぶられて、舌を噛みそうになる。蘇芳が動くたびに、全身に電流が流れるような強い快感に見舞われ、涙が目からあふれた。

「ぁぐっ、う、ぅ…!」

 まるで本当に熱塊を入れられてるかのようだった。あまりの熱さに下半身が溶けてしまいそうだ。
 少年に抵抗する力がないと見抜いたのか、蘇芳は少年の手首を帯紐から解放した。

「おい、経験っ、あるんだろ…。他の客の前でも、そうやってマグロだったのか、よッ!」
「やあ、あ゛…アァー…っ!」

 強く最奥を貫かれて、リュカは激しい絶頂を迎えた。強烈な快楽の渦に落とされ、もはや何も考えられず、ただ喘ぎ声をあげて泣くことしかできなかった。リュカの性器はすっかり縮こまり、もはや精液も出ない状態だが、男根を挿入されてからずっとイきっぱなしだった。

「あ?リュカ、お前、目が光って…」

 蘇芳が顔を覗きこむ。だがリュカには彼が何を言っているのか、理解できなかった。疲労のあまり、呼吸することすら面倒くさい。好きに俺の体を使えよ、もう疲れた。誘惑に抗えず、リュカは目を閉じ、投げやりになりつつ意識を手放した。
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