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38. おかえり
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遂に森へと出発する日が来た。
洞窟に持ち帰る荷物の整理を行っていたティオは、イェゼロに執務室に呼び出された。ザクセンとタータも一緒に、と言われて、青年は首を傾げた。何か用事なら部屋に来ればいいのでは、と思ったからだ。
不思議に思いながらも執務室に入れば、そこには見知った顔があった。ティオは思わず声を上げた。
第七階層の鷹の獣人リンクス、兎の獣人のトウツ、第九階層の調獣師ネフ、ノイン。共に深淵の森を探索したメンバーだ。彼らと顔を合わせるのは、森の中ではぐれて以来だ。室内が気まずい空気に包まれる。
「だあれ?ティオの友だち?」
ティオと手を繋いでいたタータは、彼を見上げながら手をぐいぐいと引いた。青年はなんと説明していいのかわからず、立ち尽くす。
「貴様ら…、罠を仕掛けた奴等だな…っ!」
匂いで気がついたのか、ザクセンは魔獣に変化した。ティオとタータを背にかばうように前に出て、牙をむき出しに威嚇する。殺意に満ちた威圧感に、四名は縮み上がる。父親の一言でタータも、自分を苦しめた罠を設置した者たちが目の前にいると知り、ティオの手から離れて前へと踊り出た。
「まあ待て。こいつ等はお前達に謝罪したくて来たそうだ」
「謝罪だと?」
大狐の眉がぴくりと動く。イェゼロに促された四人は、大きな声で謝罪の言葉を発しながら、一斉に頭を下げた。その勢いに驚いた子狸がびくりと体を震わせ、ティオの後ろに逃げる。
「ティオ、森の中に一人残してしまってすまない。俺かトウツが殿を務めるべきだったのに、役割を怠った」
「…その、そっちの魔獣の親子もごめんなさい。罠に、規定量以上の毒を塗ってた…」
正直なところ、ティオは複雑な気持ちだった。最初は自分に対して嫌悪感と殺意を持っていた大狐との生活、狼との対峙、死の淵からの生還、ザクセンとタータとの再会。色んなことが目まぐるしく起きて、日々生きるのにいっぱいいっぱいで、彼らのことをすっかり忘れていた。
忘れていたからと言って、すぐには謝罪を受け入れることができない。はぐれてしまったのは自分の不注意のせいでもあるが、彼らの自分に対する態度も大概のものだった。森に生息する魔獣を研究用に持ち帰ろうと罠を仕掛けたネフとノインの行動は、調獣師としては至極当然のものだ。だが、そのせいでタータは死にかけ、ザクセンはたった一人の家族を失うところだった。罠こそがティオと魔獣父子を引き合わせたきっかけとなったのだが、それはそれ、これはこれだ。
「はぐれてしまったのは、珍しい植物に気を取られてた俺にも責任があるし、皆を責めることはできない。…けど、皆の謝罪を今すぐには受け入れられない。でも、謝ってくれたのは、ありがとう」
「オイラ、すっごく苦しかったんだから!みんなきらい!」
「…二度と、森と俺達に近づくな。次に俺の前に姿を見せれば、喰い殺す」
謝罪を受け入れてもらえなかった四名は、下を向いたままだった。元より許してもらえると思っていなかったのか、分かったと呟き、彼らは部屋を出て行った。妙な空気を残して。
「悪かったな、嫌な気分にさせたろ」
「全くだ」
苦笑いを浮かべるイェゼロに、ザクセンはふんと鼻を鳴らした。ティオは、同じくぷりぷりと怒っているタータを抱き上げ、柔らかな毛並みに頬を埋めた。もう二度と関わることはないだろうし、胸の内にうずまくもやもやとした感情とともに彼らのことはきれいさっぱり忘れることにしようと心に決める。
「準備はできたか?」
ティオは頷いた。そうして一家は荷物を手に玄関ホールへと向かった。予想だにせず、かなりの住人が集まっていた。森へ探索に出発した朝を思い出す。
人だかりの中に、ドゥレン達の姿が見える。彼らは単純に自分たちを見送りに来たのではないだろうな、とティオは思った。邪魔者を厄介払いできて喜んでいることだろう。魔獣と一緒に暮らすと決めた自分のことを内心、愚かだと罵っているに違いない。だが、ティオは何とも思わなかった。今までは、彼らの口から発せられる言葉の一つ一つに反論もできずに傷ついていた。過去に対する負い目があったし、第六階層の屋敷の中の世界しか知らなかったからだ。
だが、今では違う。ザクセンとタータと出会い、様々なことを経験して、ティオの世界は変わった。守るべき大切な存在ができて、自分でも強くなったように思う。身も心も。どんな罵詈雑言を吐かれようとも、今なら聞き流すことができそうだ。むしろ、なぜ彼らを恐れていたのか不思議なくらいだ。
「ばいばーい、またねー」
小さな手を大きく左右に振るタータに、一部の住人が微笑みを浮かべて手を振り返す。いつの間にか交流を深めていたらしい。ティオも深く頭を下げて挨拶をすると、子狸の手を引いて外へと出た。
森の入り口までイェゼロとソルダートに付き添われるのが、もはや恒例となってしまった。腕を広げるソルダートに近づき、ティオは抱きついた。逞しい腕にきつく抱きしめ返される。ティオは、ザクセンの眉がぴくりと動くのを視界の端で捉えていた。
「ティオ、元気で。…寂しくなっちゃうな。ティオと過ごす時間に癒されてたのに」
「俺も。ソルダートが頑張る姿から元気をもらってた。ソルダートが励ましてくれてなかったら、師匠のところからきっと逃げ出してた」
「おいおい、聞き捨てならねえ言葉が聞こえてんぞ」
抱き合いながら、ティオとソルダートはくすくすと笑いあった。今度は、拗ねた子供のように唇を尖らせるイェゼロに向き合う。
「師匠、あまり、皆を困らせちゃだめですよ」
「ああ」
「身の回りの世話、自分でしてくださいね。一度出した薬瓶もちゃんと片付けてください」
「分かってるって」
イェゼロの顔をまともに見れなくなり、視線はどんどん下へ落ちていく。声が震えて、視界が涙でにじんでしまう。大狐父子と共に森で暮らすことを選んだのは自分だというのに、師匠と会えなくなるのだと思うとやはり寂しかった。
「いつまで経っても泣き虫は直んねーのな」
「うう…、だって…っ」
抱き寄せられて、青年の涙が決壊する。
「やっぱティオには俺がついてねえと駄目かー」
「俺…、頑張ります…っ。次会った時、胸張れるような…薬師に…!」
「まあまあ。頑張らなくていい。これからも俺がみっちりしごいてやるから」
「……え?」
言葉の意味を理解しかねて顔を上げれば、イェゼロはニタニタと下卑た笑みを浮かべている。わけがわからず固まっていると、彼は首元から毛を束ねたネックレスを取り出した。
「これな、タータの体毛」
見てな、と言われて指をさされた方向に視線を移す。ぴったりと閉じていた入り口が、一瞬にして開いた。タータを見ると、オイラじゃないよ!と元気な反応が返ってくる。まさか、とは思いつつも、イェゼロがしたり顔でネックレスを掲げている。
「タータしか入り口開けないって聞いてから、ずっと考えてたんだよ。物にタータの魔力を溜めれば、同じような力を宿すんじゃないかって。ザクセンの許可の下、日がな二人で実験してたんだよ。そうしたら、タータの体毛を媒体にしたら、上手くいってな?いやー、やっぱ俺天才じゃね?」
「ティオ、びっくりした?おどろかせようと思って、みんなでナイショにしてたんだよ!」
言葉もなく何度も頷くティオに、タータは嬉しそうに声を上げて笑う。
「ティオ、お前もう俺達に会えなくなると思ってただろ。甘いな。折角タータっていう可愛い孫ができたんだし、定期的に会いたいだろ。舅になったからには、ザクセンにネチネチ嫌味の一つや二つ言いたいしよお」
「嫌味…」
渋面を作るザクセンをよそに、イェゼロは話を続ける。
「んで、これはお前の分な。ザクセンと喧嘩した時にでも使え。ザクセンの意見を反映して、作ったのは二つだけだ」
「ネックレスの存在が知れて、住人が森に殺到しては困る」
「わーってる。誰にも漏らさねえ。墓まで持ってく。なあ、ソルダート」
「もちろん。ザクセンやタータの平穏を守るためには、何でもするよ」
ソルダートは爽やかに笑った。何も知らなかったのが自分だけだと知ったティオは、無言で目の前にいる師匠の腹を殴りつけた。本気で痛がるイェゼロに構わず、拳を叩きつける。もうイェゼロやソルダートに会えなくなると思って泣いた自分が恥ずかしくてたまらなかった。
ひとしきり殴って落ち着いたティオは、師匠に抱きつき、感謝の言葉を述べた。とても小さな声だったが、イェゼロの耳にはしっかりと届いていた。
「ティオ、お前の部屋はそのままにしとくから、いつでも戻ってきていいぞ」
「うん…ありがとう、師匠」
イェゼロとソルダートと別れ、三人は洞窟までの道を手を繋いで歩いた。父親と、新しく母親になるティオに挟まれて、タータは上機嫌で終始にこにこしていた。洞窟のある野原が見えるなり、タータがザクセンの手を引いて駆け出す。
「ティオは、オイラたちが中に入ってから来て!」
唐突に手を離されて放心していたティオは、訳がわからないながらも了承した。タータに言われた通り、間を置いてゆっくりと歩き出す。洞窟に足を踏み入れると、魔獣姿のザクセンとタータが地面に腰をおろしていた。子狸の頭の上には、家守のジェコまでいる。
「ティオ、おかえりなさいっ」
「おかえり」
自分を出迎える言葉に、ティオはまた喉元を何かがこみ上げてくるのを感じていた。
「ザクセンさん、タータ、ただいまっ!」
目尻に浮かんだ涙を拭って、満面の笑みを浮かべたティオは、己の家族をぎゅっと抱きしめた。
洞窟に持ち帰る荷物の整理を行っていたティオは、イェゼロに執務室に呼び出された。ザクセンとタータも一緒に、と言われて、青年は首を傾げた。何か用事なら部屋に来ればいいのでは、と思ったからだ。
不思議に思いながらも執務室に入れば、そこには見知った顔があった。ティオは思わず声を上げた。
第七階層の鷹の獣人リンクス、兎の獣人のトウツ、第九階層の調獣師ネフ、ノイン。共に深淵の森を探索したメンバーだ。彼らと顔を合わせるのは、森の中ではぐれて以来だ。室内が気まずい空気に包まれる。
「だあれ?ティオの友だち?」
ティオと手を繋いでいたタータは、彼を見上げながら手をぐいぐいと引いた。青年はなんと説明していいのかわからず、立ち尽くす。
「貴様ら…、罠を仕掛けた奴等だな…っ!」
匂いで気がついたのか、ザクセンは魔獣に変化した。ティオとタータを背にかばうように前に出て、牙をむき出しに威嚇する。殺意に満ちた威圧感に、四名は縮み上がる。父親の一言でタータも、自分を苦しめた罠を設置した者たちが目の前にいると知り、ティオの手から離れて前へと踊り出た。
「まあ待て。こいつ等はお前達に謝罪したくて来たそうだ」
「謝罪だと?」
大狐の眉がぴくりと動く。イェゼロに促された四人は、大きな声で謝罪の言葉を発しながら、一斉に頭を下げた。その勢いに驚いた子狸がびくりと体を震わせ、ティオの後ろに逃げる。
「ティオ、森の中に一人残してしまってすまない。俺かトウツが殿を務めるべきだったのに、役割を怠った」
「…その、そっちの魔獣の親子もごめんなさい。罠に、規定量以上の毒を塗ってた…」
正直なところ、ティオは複雑な気持ちだった。最初は自分に対して嫌悪感と殺意を持っていた大狐との生活、狼との対峙、死の淵からの生還、ザクセンとタータとの再会。色んなことが目まぐるしく起きて、日々生きるのにいっぱいいっぱいで、彼らのことをすっかり忘れていた。
忘れていたからと言って、すぐには謝罪を受け入れることができない。はぐれてしまったのは自分の不注意のせいでもあるが、彼らの自分に対する態度も大概のものだった。森に生息する魔獣を研究用に持ち帰ろうと罠を仕掛けたネフとノインの行動は、調獣師としては至極当然のものだ。だが、そのせいでタータは死にかけ、ザクセンはたった一人の家族を失うところだった。罠こそがティオと魔獣父子を引き合わせたきっかけとなったのだが、それはそれ、これはこれだ。
「はぐれてしまったのは、珍しい植物に気を取られてた俺にも責任があるし、皆を責めることはできない。…けど、皆の謝罪を今すぐには受け入れられない。でも、謝ってくれたのは、ありがとう」
「オイラ、すっごく苦しかったんだから!みんなきらい!」
「…二度と、森と俺達に近づくな。次に俺の前に姿を見せれば、喰い殺す」
謝罪を受け入れてもらえなかった四名は、下を向いたままだった。元より許してもらえると思っていなかったのか、分かったと呟き、彼らは部屋を出て行った。妙な空気を残して。
「悪かったな、嫌な気分にさせたろ」
「全くだ」
苦笑いを浮かべるイェゼロに、ザクセンはふんと鼻を鳴らした。ティオは、同じくぷりぷりと怒っているタータを抱き上げ、柔らかな毛並みに頬を埋めた。もう二度と関わることはないだろうし、胸の内にうずまくもやもやとした感情とともに彼らのことはきれいさっぱり忘れることにしようと心に決める。
「準備はできたか?」
ティオは頷いた。そうして一家は荷物を手に玄関ホールへと向かった。予想だにせず、かなりの住人が集まっていた。森へ探索に出発した朝を思い出す。
人だかりの中に、ドゥレン達の姿が見える。彼らは単純に自分たちを見送りに来たのではないだろうな、とティオは思った。邪魔者を厄介払いできて喜んでいることだろう。魔獣と一緒に暮らすと決めた自分のことを内心、愚かだと罵っているに違いない。だが、ティオは何とも思わなかった。今までは、彼らの口から発せられる言葉の一つ一つに反論もできずに傷ついていた。過去に対する負い目があったし、第六階層の屋敷の中の世界しか知らなかったからだ。
だが、今では違う。ザクセンとタータと出会い、様々なことを経験して、ティオの世界は変わった。守るべき大切な存在ができて、自分でも強くなったように思う。身も心も。どんな罵詈雑言を吐かれようとも、今なら聞き流すことができそうだ。むしろ、なぜ彼らを恐れていたのか不思議なくらいだ。
「ばいばーい、またねー」
小さな手を大きく左右に振るタータに、一部の住人が微笑みを浮かべて手を振り返す。いつの間にか交流を深めていたらしい。ティオも深く頭を下げて挨拶をすると、子狸の手を引いて外へと出た。
森の入り口までイェゼロとソルダートに付き添われるのが、もはや恒例となってしまった。腕を広げるソルダートに近づき、ティオは抱きついた。逞しい腕にきつく抱きしめ返される。ティオは、ザクセンの眉がぴくりと動くのを視界の端で捉えていた。
「ティオ、元気で。…寂しくなっちゃうな。ティオと過ごす時間に癒されてたのに」
「俺も。ソルダートが頑張る姿から元気をもらってた。ソルダートが励ましてくれてなかったら、師匠のところからきっと逃げ出してた」
「おいおい、聞き捨てならねえ言葉が聞こえてんぞ」
抱き合いながら、ティオとソルダートはくすくすと笑いあった。今度は、拗ねた子供のように唇を尖らせるイェゼロに向き合う。
「師匠、あまり、皆を困らせちゃだめですよ」
「ああ」
「身の回りの世話、自分でしてくださいね。一度出した薬瓶もちゃんと片付けてください」
「分かってるって」
イェゼロの顔をまともに見れなくなり、視線はどんどん下へ落ちていく。声が震えて、視界が涙でにじんでしまう。大狐父子と共に森で暮らすことを選んだのは自分だというのに、師匠と会えなくなるのだと思うとやはり寂しかった。
「いつまで経っても泣き虫は直んねーのな」
「うう…、だって…っ」
抱き寄せられて、青年の涙が決壊する。
「やっぱティオには俺がついてねえと駄目かー」
「俺…、頑張ります…っ。次会った時、胸張れるような…薬師に…!」
「まあまあ。頑張らなくていい。これからも俺がみっちりしごいてやるから」
「……え?」
言葉の意味を理解しかねて顔を上げれば、イェゼロはニタニタと下卑た笑みを浮かべている。わけがわからず固まっていると、彼は首元から毛を束ねたネックレスを取り出した。
「これな、タータの体毛」
見てな、と言われて指をさされた方向に視線を移す。ぴったりと閉じていた入り口が、一瞬にして開いた。タータを見ると、オイラじゃないよ!と元気な反応が返ってくる。まさか、とは思いつつも、イェゼロがしたり顔でネックレスを掲げている。
「タータしか入り口開けないって聞いてから、ずっと考えてたんだよ。物にタータの魔力を溜めれば、同じような力を宿すんじゃないかって。ザクセンの許可の下、日がな二人で実験してたんだよ。そうしたら、タータの体毛を媒体にしたら、上手くいってな?いやー、やっぱ俺天才じゃね?」
「ティオ、びっくりした?おどろかせようと思って、みんなでナイショにしてたんだよ!」
言葉もなく何度も頷くティオに、タータは嬉しそうに声を上げて笑う。
「ティオ、お前もう俺達に会えなくなると思ってただろ。甘いな。折角タータっていう可愛い孫ができたんだし、定期的に会いたいだろ。舅になったからには、ザクセンにネチネチ嫌味の一つや二つ言いたいしよお」
「嫌味…」
渋面を作るザクセンをよそに、イェゼロは話を続ける。
「んで、これはお前の分な。ザクセンと喧嘩した時にでも使え。ザクセンの意見を反映して、作ったのは二つだけだ」
「ネックレスの存在が知れて、住人が森に殺到しては困る」
「わーってる。誰にも漏らさねえ。墓まで持ってく。なあ、ソルダート」
「もちろん。ザクセンやタータの平穏を守るためには、何でもするよ」
ソルダートは爽やかに笑った。何も知らなかったのが自分だけだと知ったティオは、無言で目の前にいる師匠の腹を殴りつけた。本気で痛がるイェゼロに構わず、拳を叩きつける。もうイェゼロやソルダートに会えなくなると思って泣いた自分が恥ずかしくてたまらなかった。
ひとしきり殴って落ち着いたティオは、師匠に抱きつき、感謝の言葉を述べた。とても小さな声だったが、イェゼロの耳にはしっかりと届いていた。
「ティオ、お前の部屋はそのままにしとくから、いつでも戻ってきていいぞ」
「うん…ありがとう、師匠」
イェゼロとソルダートと別れ、三人は洞窟までの道を手を繋いで歩いた。父親と、新しく母親になるティオに挟まれて、タータは上機嫌で終始にこにこしていた。洞窟のある野原が見えるなり、タータがザクセンの手を引いて駆け出す。
「ティオは、オイラたちが中に入ってから来て!」
唐突に手を離されて放心していたティオは、訳がわからないながらも了承した。タータに言われた通り、間を置いてゆっくりと歩き出す。洞窟に足を踏み入れると、魔獣姿のザクセンとタータが地面に腰をおろしていた。子狸の頭の上には、家守のジェコまでいる。
「ティオ、おかえりなさいっ」
「おかえり」
自分を出迎える言葉に、ティオはまた喉元を何かがこみ上げてくるのを感じていた。
「ザクセンさん、タータ、ただいまっ!」
目尻に浮かんだ涙を拭って、満面の笑みを浮かべたティオは、己の家族をぎゅっと抱きしめた。
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