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36. 溶け合う熱

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「本当に…もう大丈夫なのか」

 ザクセンは、ティオの下半身を見下ろしながら、怪訝そうに眉根を寄せた。青年の後孔は香油で潤い、大狐の指を根元まで簡単に飲みこむほどに柔らかくなっていた。

「十分ほぐしたし…大丈夫、と思う…」

 短く断続的に呼吸を繰り返すティオは頷く。頬はすっかり紅潮し、瞳は涙で潤んでいる。
 ティオの承諾を得ても、ザクセンの眉間のシワは緩和されずにいた。解れたとは言っても膣よりも小さく狭いのだ。己の欲望の塊を挿入しても問題ないのか、躊躇ってしまう。

「ザクセンさん…っ、お願い、入れて…!」
「だが…」
「俺っ、我慢できな、ぃ…!もぉ…ザクセンさんのこと、…中に、欲し…ッ!」

 焦らさないで、と泣き出したティオにザクセンも観念した。自分が欲しいと懇願する彼の姿に欲情を禁じ得ない。ティオの体を気遣いながらも、自分もそろそろ限界が近かった。極上の獲物を前に我慢を強いられ、長く硬度を保ったままの屹立に血が集中して痛い。

「…ゆっくり入れる」
「ん…はやく…っ」

 なるべく慎重に事を進めようとするものの、ティオがそれを許さない。普段の彼とは違う姿に、くらくらと目眩がする。ザクセンは己の怒張に手を添えると、先端をティオの中へと挿入した。途端に青年がきつく目を閉じる。

「痛いか?」
「ちが…少し、圧迫感があるだけ…奥まで、きて…」

 ティオの言葉の通り、彼の中が奥へと誘うように動く。ザクセンは青年の様子を窺いつつ、ゆっくりと腰を進めた。一番太い雁首を過ぎれば、比較的スムーズに収まっていく。
 根元まで納めると、快感から来る吐息が漏れた。ティオの体内は、熱く狭い。

「平気か、ティオ…」

 大狐は薬師見習いの顔を覗きこみ、優しい口づけを降らせた。

「うん…ザクセンさん、…気持ちいい…?」
「ああ…」
「俺も…気持ちいい…」

 額に汗をにじませ、ティオはふにゃりと笑った。愛する者の不意の笑顔に、ザクセンの心臓が大きく拍動する。愛おしいという気持ちが胸にあふれる。ナンナを失って以降、誰かをまた好きになれるとは思っていなかった。これから先も、必ず守っていく。今度は、失ったりしない。絶対に。

「…好きに、動いていいよ…俺で、もっと気持ちよくなって…」

 腕が首に回され、優しく髪を撫でる。どこに隠していたのかと思うほどに、自分の体の下にいるティオはすさまじい色気を放っていた。彼の許可がおりたことで、ザクセンは限界にきていた我慢をやめた。
 腰を引き、再び中に突き入れる。

「…っあ!」

 ティオの背が弓なりに反る。艶かしい声を発する口は開きっぱなしで、赤い舌がちらちらと覗く。美味そうに見えて、ザクセンはむしゃぶりついた。

「…ん、んぁっ…はふ、ぅ、ン…!」

 口を塞ぎ、喘ぎ声ごと丸呑みする。思うように呼吸ができず、ティオは少し苦しそうに眉尻を下げたが、首に回された腕の力は弱くなるどころか強くなる。もっともっと、とねだられているように思えて、ザクセンはさらに興奮した。

「…ぁ、そこ、そこっ…きもちぃ…っ!」

 指で探り当てた、青年の弱い部分を雁首でえぐるように動けば、彼の尿道から透明な体液が出た。ザクセンはそこを集中的に責めた。ティオの声が、少し甲高くなる。
 欲の塊を抜ける寸前まで引き抜くと、離さないとでも言わんばかりに中がきつく締まる。奥まで突き入れれば、待っていたとばかりに襞がねっとりと絡みつく。言葉に出来ない程にたまらなく気持ちが良い。まるで脳に毒でも回ったかのように、思考が鈍くなる。
 快感を追いかけるままとなったザクセンの脳裏にあるのはただ一つ。獣としての本能。ティオの体内に己の種を注ぐことだけだった。

「…ぁ、ザクセ…ン、さ、ア…っ!」

 まともな思考回路を失っているのは、ティオも同じだった。火傷しそうな程に熱い陰茎で中を擦られ、下肢が溶けてしまいそうだ。
 中に雄を受け入れるのはこれが初めてだが、もたらされるのは快楽だけだった。ザクセンのそれは体格に見合って立派な大きさだと言うのに、受け入れている尻穴も限界まで広がっていると言うのに、痛みなど全く感じない。彼がどう動いても、気持ちよさのあまり全身がびりびりとする。
 呼吸を乱しつつ、荒々しく腰を動かすザクセンに、彼も気持ちがいいと感じてくれているのが分かって、恍惚としてしまう。ぎらついた翡翠の瞳が、自分を孕ませてやろうと言う、獣の本能を訴えかけてくる。
 欲しい。溢れてしまうくらいに、中に注いでほしい。そう思うと、下腹部がきゅうと疼いた。

「…ザクセンさ、もぅ…俺っ、イきそ…ぅ…っ!」
「ああ、俺もだ…」

 ザクセンは体を起こし、ティオの腰を掴んで激しく揺さぶる。彼に子宮はないと分かっていても、剛直をさらに奥へと突き入れたいと本能が囁く。ハッハッ、と荒い息を吐きながら、夢中で腰を打ちつける。

「…だめ、だめっ…ぁ、あアー…ッ!」
「くッ…!」

 ティオはシーツを握りこみ、背中を反らせて達した。彼の陰茎から白濁が勢い良く飛び散る。喰いちぎらんばかりの締めつけに耐えきれず、ザクセンも絶頂を迎えた。強く腰を押しつけ、中に精液を注ぐ。
 ザクセンは汗で顔に張りつく髪をかきあげた。シャープな輪郭を、汗が伝い落ちていく。

「…はぁ…出てる…、ザクセンさんの…」

 ティオはうっとりとした表情で、ザクセンを見上げていた。腕を伸ばし、力強く脈を打つ大狐の男根を指で撫でる。無防備な姿に、魔獣の心はかき乱される。

「ティオ…」
「うん…?」
「交尾はこれまでに何度もしてきたのか」

 ザクセンの質問に、ティオは大きく目を見開いた。

「その、慣れているように感じた。普段のお前からは想像できない程に淫らで、つい、理性を忘れて没頭してしまった。乱暴にしてしまったが、痛くはなかったか」

 大狐は労わるように、青年の頬を撫でた。その大きな手に、頬擦りをして、ティオは頭を振って否定した。

「全然。俺、…初めてだったのに…、ザクセンさんにされること全部気持ち良くて。まさかザクセンさんとこんなに早くできると思ってなかったから、俺で興奮してくれてると分かって、もっともっとって止まらなくなった…。はしたなくて、ごめん。嫌だったら、次から気をつける…」

 今度はザクセンが目を丸くする番だった。青年が交尾をしたのは初めてだったことに対しては勿論、何より彼の本音に驚いた。自分のせいで彼が快楽に乱れたのだと分かると、再び下腹部が熱を持つ。

「嫌だったわけではない。…少しびっくりしただけだ。その、何と言うか…」
「ザクセンさん…?」

 歯切れの悪い魔獣に、ティオは首を傾げた。

「すまない。ティオの初めてが俺だと知って、嬉しく思う。ティオのあんな姿を他の誰かも見たのかと思うと、正直嫉妬した」

 ザクセンの脳裏には、何故かソルダートが浮かんでいた。ティオと彼の間に、イェゼロとは違う空気を感じていた。流石に彼の名前を出すのはみっともない気がして、大狐は黙っておくことにした。

「快楽に身を委ねるお前は…、その、最高だった。おかげで、まだ体の昂りが治らない」
「あ…」

 体内に埋められたままの、ザクセンの分身はまだ硬度を保っていた。ティオの顔に朱が差す。先程まで貪欲にねだっていた青年と本当に同一人物とは思えない、その恥じらう様子に欲情を催してしまう。

「何度でも、しよう。ザクセンさん」

 二人は自然と顔を寄せ、唇を重ねた。ティオは口づけの合間に愛の言葉を囁けば、ザクセンは口角を吊り上げ、自分も同じ気持ちだと返した。
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