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2.謂れのない中傷
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この世界は、天界・人間界・地獄の三つに分かれている。地獄と天界は互いに覇権を求めて争っている。過去に三度、大戦は起きた。次はいつ起こるとも知れない。人間は死後、地獄か天界のいずれかで再び生を受け、それぞれの世界で適性に応じた訓練を行い、大戦に向けて日々研鑽している。
地獄は王の坐す第0階層を始めとして、第九階層から成る。王宮である第0階層を除く各階層は、王直轄の、王に次ぐ力を有する者が治めている。彼らは各階層につき一人。纏めて九貴族と呼ぶ。
罪を犯した人間は死後、その罪の重さによって各階層へと振り分けられる。罪が軽ければ第二、第三階層。情状酌量の余地もない程の重罪人は第九階層へ。罪の重さに応じた贖罪を全うして始めて、正式に地獄の住人として迎えられるのだ。
気まずい雰囲気のまま解散した後、ティオは薬学室へと急いでいた。すれ違う人々が何事かと視線を投げかけてくるが、気にしている余裕はない。イェゼロから後で来るように言われているが、後で、というのがどれくらいの時間のことを指しているのかわからない。師匠の意図する時間より遅れて着いてしまったら、何をされるかわからない。
イェゼロは、悪戯好きな子供がそのまま大きくなったような性質の悪い愉快犯だ。たった一年しか師事していないが、その身に受けた彼の悪行の数々を思い出して、全身に鳥肌が立った。
「うわ、あっ!?」
薬学室を目前にして、足に衝撃を受ける。バランスを崩した体はふわりと浮かぶ。受身を取ることは叶わず、ティオは床に叩きつけられた。常に携えている肩掛け鞄の中身が散らばる。
「なんだぁ?ティオじゃないかぁ」
悪意に満ちた声に、彼に転ばされたのだとティオは一瞬で理解した。名前はドゥレン、同じく薬師見習いだ。
「やけに必死の形相で走っているから、何処かから盗人でも紛れ込んできたのかと思ったじゃないか」
ドゥレンの冷やかしに、彼の取り巻き達が下卑た声で笑う。床に突っ伏したまま、ティオは歯を食いしばり、固く拳を握りしめた。
新参者のティオがイェゼロから直接指導を受けていることを、快く思っていない薬師見習いは少なからずいる。中でも、あからさまにティオに突っかかってくるのがドゥレンだった。
理由は、ティオの過去に関係している。ティオは、生前ヘルガと言う名前の人間だった。物心つくころには既に両親はおらず、孤児として貧民街に住んでいた。住んでいたと言っても家はなく、野良犬の如く路地で寝起きし、残飯をあさる日々。その日を生き抜く為に盗みは日常茶飯事だった。日銭を稼ぐために金目の物を、飢えを満たすために食べ物を盗む。大人になってもその生き方は変えられなかった。ある冬の日、富裕層の屋敷に忍び込んだ所を現行犯で捕まり、暴行を受けた状態で大雪の中捨てられた。手酷い暴行が死因となり、ヘルガはそのまま亡くなった。
罪を犯したせいで、ヘルガは地獄送りとなった。罪状は窃盗。贖罪の期間は、生きた歳と同じ十九年。贖罪という名の拷問にも似た苦行に、いっそ殺してくれと何度も願いつつヘルガは罪をあがなった。そうしてティオと名づけられ、地獄での新たな人生を始めたのだ。
地獄の世界は、完全な実力主義社会だ。獣人だろうが元人間の罪人であろうが、地獄生まれであろうがそうでなかろうが、実力さえあれば栄進できる。それ故に、イェゼロに薬師としての素質を見出され、他の先輩見習い達を差し置いて彼の弟子にされた。元罪人の癖に、と生粋の地獄生まれであるドゥレンはティオに対して陰口を叩く。たとえ元罪人だろうと、きちんと罰は受けているのだ。蔑まれる筋合いなどない。それでも、出生率が極めて低い地獄で生まれた住人は、自分が選ばれし者なのだと誇りに思う部類が一定数いた。
種族や出身の違いで相手を差別してはいけない、という認識が暗黙の了解で存在している。何しろ、現王の伴侶が元人間なのだ。元人間だからと言って差別をするのであれば、即ち王を愚弄することも同じ。だが、人々の中に根付いた認識をすぐさま変えるのは難しい。ひっそりとではあるが、差別は確実に存在していた。
ティオは無言のまま起き上がった。散乱した持ち物を急いでかき集めて、鞄にしまう。立ち上がって服の汚れを手で払うと、ドゥレン達には目もくれずに薬学室に向かって歩を進める。
こういうのは相手にしない方がいい。言い返せば、相手の差別意識に油を注ぐだけだ。話し合いで解決しようとしても、相手はどうせ聞く耳持たない。こういう部類は自分が見たいもの、聞きたいことだけを見聞きするものなのだから。
「おいおい、俺らみたいなのは話す価値もないってかぁ?お高くとまってんなぁ!」
「穢れた罪人のくせに!」
罵声を背中に浴びながら、ティオは足早にその場を離れた。痛む胸をぎゅっと押さえながら、下を向いたままひたすら歩く。
中傷に慣れたとは言え、傷つかない訳ではない。罪を犯した前世と、贖罪のために罰を受けた記憶があるだけに苦しい。自分だって前世の行いを後悔しているのだ。恥ずべき過去。もう、ヘルガではないのに、彼の記憶が亡霊のようにつきまとう。
「っと」
「うぶっ」
息苦しさに思わず目を閉じていると、誰かにぶつかった。その反動で体が後ろに傾いだが、腕を掴まれて引き戻され、ぶつかった人物の胸板に飛び込む形になった。
「なんだ、ティオか」
「ソ、ソルダート」
意中の相手の登場に、ティオは自分の顔が真っ赤になるのがわかった。
「おいおい、下向いて歩くと危ないぞ。明日は深淵の森に出発するってのに、怪我でもしたらどうするんだよ」
相変わらず放っておけないな、とソルダートは笑みを浮かべてティオの頭を乱雑に撫でた。彼の声を耳にして、手で触られただけで、つい先程まで感じていた苦しさがどこかに吹き飛んでしまう。
「…ごめん、ちょっと急いでたんだ」
ソルダートにつられて、ティオも笑みを浮かべる。
寄りかかった部分が温かい。兵士らしい、がっしりとした体型。この体で抱きしめられたら、さぞ気持ちが良いだろう、とティオは思った。
「あ、イェゼロ様に呼ばれてるのか?それなら確かに急がないとな。俺の方こそ引き止めてごめん」
ソルダートは慌てた様子でティオから離れた。また後でな、と肩を叩いて兵士見習いは歩き去っていった。温もりが無くなって、薬師見習いの青年は残念な気持ちになる。触れられた部分に己の手を重ねながら、ティオはソルダートの後姿を見送った。
地獄は王の坐す第0階層を始めとして、第九階層から成る。王宮である第0階層を除く各階層は、王直轄の、王に次ぐ力を有する者が治めている。彼らは各階層につき一人。纏めて九貴族と呼ぶ。
罪を犯した人間は死後、その罪の重さによって各階層へと振り分けられる。罪が軽ければ第二、第三階層。情状酌量の余地もない程の重罪人は第九階層へ。罪の重さに応じた贖罪を全うして始めて、正式に地獄の住人として迎えられるのだ。
気まずい雰囲気のまま解散した後、ティオは薬学室へと急いでいた。すれ違う人々が何事かと視線を投げかけてくるが、気にしている余裕はない。イェゼロから後で来るように言われているが、後で、というのがどれくらいの時間のことを指しているのかわからない。師匠の意図する時間より遅れて着いてしまったら、何をされるかわからない。
イェゼロは、悪戯好きな子供がそのまま大きくなったような性質の悪い愉快犯だ。たった一年しか師事していないが、その身に受けた彼の悪行の数々を思い出して、全身に鳥肌が立った。
「うわ、あっ!?」
薬学室を目前にして、足に衝撃を受ける。バランスを崩した体はふわりと浮かぶ。受身を取ることは叶わず、ティオは床に叩きつけられた。常に携えている肩掛け鞄の中身が散らばる。
「なんだぁ?ティオじゃないかぁ」
悪意に満ちた声に、彼に転ばされたのだとティオは一瞬で理解した。名前はドゥレン、同じく薬師見習いだ。
「やけに必死の形相で走っているから、何処かから盗人でも紛れ込んできたのかと思ったじゃないか」
ドゥレンの冷やかしに、彼の取り巻き達が下卑た声で笑う。床に突っ伏したまま、ティオは歯を食いしばり、固く拳を握りしめた。
新参者のティオがイェゼロから直接指導を受けていることを、快く思っていない薬師見習いは少なからずいる。中でも、あからさまにティオに突っかかってくるのがドゥレンだった。
理由は、ティオの過去に関係している。ティオは、生前ヘルガと言う名前の人間だった。物心つくころには既に両親はおらず、孤児として貧民街に住んでいた。住んでいたと言っても家はなく、野良犬の如く路地で寝起きし、残飯をあさる日々。その日を生き抜く為に盗みは日常茶飯事だった。日銭を稼ぐために金目の物を、飢えを満たすために食べ物を盗む。大人になってもその生き方は変えられなかった。ある冬の日、富裕層の屋敷に忍び込んだ所を現行犯で捕まり、暴行を受けた状態で大雪の中捨てられた。手酷い暴行が死因となり、ヘルガはそのまま亡くなった。
罪を犯したせいで、ヘルガは地獄送りとなった。罪状は窃盗。贖罪の期間は、生きた歳と同じ十九年。贖罪という名の拷問にも似た苦行に、いっそ殺してくれと何度も願いつつヘルガは罪をあがなった。そうしてティオと名づけられ、地獄での新たな人生を始めたのだ。
地獄の世界は、完全な実力主義社会だ。獣人だろうが元人間の罪人であろうが、地獄生まれであろうがそうでなかろうが、実力さえあれば栄進できる。それ故に、イェゼロに薬師としての素質を見出され、他の先輩見習い達を差し置いて彼の弟子にされた。元罪人の癖に、と生粋の地獄生まれであるドゥレンはティオに対して陰口を叩く。たとえ元罪人だろうと、きちんと罰は受けているのだ。蔑まれる筋合いなどない。それでも、出生率が極めて低い地獄で生まれた住人は、自分が選ばれし者なのだと誇りに思う部類が一定数いた。
種族や出身の違いで相手を差別してはいけない、という認識が暗黙の了解で存在している。何しろ、現王の伴侶が元人間なのだ。元人間だからと言って差別をするのであれば、即ち王を愚弄することも同じ。だが、人々の中に根付いた認識をすぐさま変えるのは難しい。ひっそりとではあるが、差別は確実に存在していた。
ティオは無言のまま起き上がった。散乱した持ち物を急いでかき集めて、鞄にしまう。立ち上がって服の汚れを手で払うと、ドゥレン達には目もくれずに薬学室に向かって歩を進める。
こういうのは相手にしない方がいい。言い返せば、相手の差別意識に油を注ぐだけだ。話し合いで解決しようとしても、相手はどうせ聞く耳持たない。こういう部類は自分が見たいもの、聞きたいことだけを見聞きするものなのだから。
「おいおい、俺らみたいなのは話す価値もないってかぁ?お高くとまってんなぁ!」
「穢れた罪人のくせに!」
罵声を背中に浴びながら、ティオは足早にその場を離れた。痛む胸をぎゅっと押さえながら、下を向いたままひたすら歩く。
中傷に慣れたとは言え、傷つかない訳ではない。罪を犯した前世と、贖罪のために罰を受けた記憶があるだけに苦しい。自分だって前世の行いを後悔しているのだ。恥ずべき過去。もう、ヘルガではないのに、彼の記憶が亡霊のようにつきまとう。
「っと」
「うぶっ」
息苦しさに思わず目を閉じていると、誰かにぶつかった。その反動で体が後ろに傾いだが、腕を掴まれて引き戻され、ぶつかった人物の胸板に飛び込む形になった。
「なんだ、ティオか」
「ソ、ソルダート」
意中の相手の登場に、ティオは自分の顔が真っ赤になるのがわかった。
「おいおい、下向いて歩くと危ないぞ。明日は深淵の森に出発するってのに、怪我でもしたらどうするんだよ」
相変わらず放っておけないな、とソルダートは笑みを浮かべてティオの頭を乱雑に撫でた。彼の声を耳にして、手で触られただけで、つい先程まで感じていた苦しさがどこかに吹き飛んでしまう。
「…ごめん、ちょっと急いでたんだ」
ソルダートにつられて、ティオも笑みを浮かべる。
寄りかかった部分が温かい。兵士らしい、がっしりとした体型。この体で抱きしめられたら、さぞ気持ちが良いだろう、とティオは思った。
「あ、イェゼロ様に呼ばれてるのか?それなら確かに急がないとな。俺の方こそ引き止めてごめん」
ソルダートは慌てた様子でティオから離れた。また後でな、と肩を叩いて兵士見習いは歩き去っていった。温もりが無くなって、薬師見習いの青年は残念な気持ちになる。触れられた部分に己の手を重ねながら、ティオはソルダートの後姿を見送った。
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