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辺境の奴隷狩り
19 森へ
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翌日、呼び出されたトルネリオが何時もの応接室に入ると、男爵は青筋を立てて怒りまくっていた。
「ど、どうなされたのですか、男爵様?」
「どうもこうも無いわっ! あの小娘めが! 人を虚仮(こけ)にしおって。 許さぬ絶対に許さぬぞ……」
怒で声を張り上げるアボーテ男爵の剣幕に押されながらも、トルネリオが理由を聞きだしたところ、今朝方食事を終えたタルラが予定を一日早めて調査に向かうと言い出し、既に出て行ったとの事だった。
「まさか、気付かれたのでは?」
「そんなへまはして居らぬ! あの小娘はたかだか辺境の遊牧民のために、わしの名誉を踏みにじっていったのだ!」
そのような事をされては怒るのも無理は無いと、トルネリオも納得してしまう。
大物貴族が相手の邸宅を訪れ、正当な理由もなしに予定を切り上げ出立する時がある。 その大抵の理由が「もてなしが気に入らなかった」という物だ。
そして、出立されてしまった家の者は、満足なもてなしも出来無い家とのレッテルが貼られてしまうのだ。
貴族とて付き合いは大事にする。 特に貴族同士となれば尚更で、多少の事なら流したり我慢もするであろう。 しかし相手の家がこれ以上付き合う価値も無いと分かれば話は別である。 そして、一度冷え込んだ家同士の関係を修復するのには、多大な苦労擁するのだ。 それと知っていて、二度と付き合いたくない相手が居た場合、周りにそれを知らしめる為にも、大物貴族の中には、わざとそのような仕打ちをする者も居るくらいなのだ。
周りから見れば既に貴族としての名誉など、これっぽっちも残っていないアボーテ男爵なのだが、本人にとっては貴族である事が全てであり、平民など、どれだけ毟(むし)り取っても、いくらでも生えて来る雑草と同じと考えているこの傲慢な男が、たかだか伯爵令嬢にしか過ぎないと考えていたタルラにこの様な行動をとられては、忸怩(じくじ)たる思いがこみ上げてくるのも、当然であろう。
それも、サルバー王国の国民ですらない遊牧民と天秤に掛けられて、出て行くのだから、アボーテ男爵からすれば雑草以下と言われた様な物である。
アボーテ男爵が感じている事はあながち間違ってはいなかった。 タルラの勘も、大本を辿ればアボーテ男爵への不快感と、この街の領主としての不信感から来ているものであり、その意味では、気に入らないから出て行くという部分も確かにあったのだ。
されど、タルラとて伯爵家の娘であり、予定を切り上げて出て行くことの意味は知っている。 しかしそれは貴族同士の付き合いであればの話であり、今回のように任務を受けた騎士が、その任を早く果たすために、行動を速めることは珍しくないのだ。
だが、アボーテ男爵はタルラを魔法騎士(マジック・ナイト)と認めず、あくまで伯爵令嬢としか見ていなかった。 家の威を翳(かざ)す小娘としか考えて居なかったのである。
「トルネリオ! 今すぐ賊共をあの娘に嗾(けしか)けてやれ! 数が必要ならわしの兵も出す! 思い知らせてくれるわっ!」
「お、お待ち下さい男爵様! 街の中で手を出せば流石に言い逃れが出来なくなります! ここは、このトルネリオめにお任せ下さい」
すでに怒りに我を忘れかけているアボーテ男爵に、トルネリオが自ら引き受ける事で思い止まらせる。 このままアボーテ男爵が暴走したら、それこそ取り返しのつかない事になりかねないのだ。
「むぅ…っ! わかった、お主に任せる! 必ずあの小娘を生け捕りにして、わしの前に連れて来い! 女に生まれてきたことを後悔させてやる! いいな、腕の一、二本は構わんが、必ず生かして連れて来いよ。 失敗したら分かっておろうな!?」
「ははっ! 必ずやご期待に沿えるよう努力いたします」
まるで騎士の様に胸に手を当て、恭しく拝命するトルネリオ。 だが、頭の中では失敗した場合に備えて、既に逃げ出す算段を考えていた。
*********
トルネリオが店に戻ると、すぐさまドーマが呼び出された。
見ればもう一人呼ばれていたようで、部屋では別の男が既にトルネリオと話をしている。
(ビーの手下かな?)
視線に気付かれないように目の端でそっと男の様子を覗い、特徴を覚えていく。
草色に染められた上着を粗野に着崩し、こけた頬と剣呑な目つきをした男だ。
(俺と同じでまともな仕事はしていないって、感じだな)
「ビーには急いで準備するように伝えろ。 決して殺すなよ」
「へっ、旦那は心配性ですな。 ビーのお頭がいるんでさ、何の心配も要りませんて」
言うが早いか、男は踵(きびす)を返し、部屋から出て行く。 すれ違いざまにドーマに一瞬だけ視線を向けてきたので「よっ」っと軽く手を上げたら、「おう」と応えられた。
「ドーマ、お前にはもう一度伯爵令嬢の備考をしてもらう」
「居場所をビーに教えるんで?」
「それは必要ない、行き先は分かっている。 お前はビー達が襲った結果をいち早く私に教えてくれればいい」
「手助けはしなくていいんですかい?」
「そうだ、絶対に手は出すな、どうなったか見届けるだけでいい」
「随分と用心深い事で」
「それが生き残るコツだ。 それと言うまでも無いが、これでお前も同罪だ。 決して変な気は起こすなよ」
「分かっておりますよ、旦那。 頂いたお金の分はしっかりと働かさせて頂きやす」
「それなら良い。 一行はまだこの近くに居るはずだ、早く行け」
「へい」
そう言いながら、ドーマは部屋から出て行く。 窓を見れば先ほどの男が、道を歩いていく姿が見える。
(どうやら、この仕事も終わりそうだな)
そう心で思いながら、ドーマは尾行する為に急いで店を出るのだった。
**********
お昼を少し過ぎた頃、タルラ達はようやく街から出発していた。
店が少ない為、消耗品の補充に時間が掛かってしまったのだ。 時間も時間なので食堂で昼も済ませてから出発する事にしたのである。
昨日通った道を逆に辿り、今は東西へ走る街道が見える位置まで戻ってきていた。
「トーレス、このまま森を抜けるとなれば、日が暮れてしまうだろう。 それなら、サクと逢ったあの廃村で早めの野営の準備をしようかと思うのだが、どうであろう?」
「私としましては、このまま真直ぐイベール子爵様の下へ行かれるのが、一番宜しいかと存じますが」
「それも考えたのだが、ここでイベール子爵の下で今晩世話になっては、アボーテ男爵の顔が立たぬだろう。 直接任務に向かわず余所の家に寄るとなれば、「気に入らぬから出てきた」と吹聴しているとも取られかねないからな」
「今更その様な事お気になさずとも、あのような者の事など放って置いて、今はご自分の身を案じなさるのが先かと思います」
「騎士が予定を切り上げたくらいで、追っ手をかけると? 流石にそこまで馬鹿ではあるまい」
「人の心は分からぬ物。 ましてやここは陛下の目も届きにくい辺境です。 用心に越した事はないかと。 もし森に行くというのでしたら、一気に抜けて森の端に隠れるように野営を行う事をお勧めします」
「トーレスは心配性だな。 だが、チェミーが洗濯の心配をしていてな、それに私の下着も……、もう替えが無いそうなのだ」
タルラは顔を赤くし、最後のほうは言いよどむ様に小声で言ってくる。
「仕方ありませんな。 タルラ様のお考えで動きましょう」
昨夜の一件もあり、トーレスは何とも言い難い気分で賛同するのであった。
(しかし…)
昨夜のタルラの予定変更は英断であったとトーレスは考えている。 特に晩餐か終わった辺りから戦場で敵地の奥深くに踏み込んだような、何とも言えない緊張感の様な物を、トーレスも感じていたのである、微かにしかし確実に感じ取っていたのだ。
もしここが戦場であっらなら、トーレスは怒鳴りつけ、縛り上げてでも、峠の砦かイベール子爵の下へタルラを連れて行ったであろう。
いや、現状でもそうすべきかも知れない、タルラの身を思えば、例え臆病だと言われようとも、動ける今、安全な所まで一気に逃げ切りそこで様子を覗うのが望ましいのだ。 武門の家に仕え、前当主の下で多くの戦場を駆け回った経験からトーレスはそう感じていた。
昨夜の時点ではタルラがトーレスと同じような感覚を感じてくれた事に、驚きと共に嬉しくも思ったものだ。 それは戦場を駆ける者が身に付ける生き残る術(すべ)の一つなのだから。 そして、街道を前にして自分に相談してくれた事も、評価している。 指揮官とはとかく独断に陥りそうに成る、部下の意見を聞くことは大事だ。 そして決断は自分で下す。
(タルラお嬢様は恐らく一生シメオン様には適わないであろう。 だが、将としての器ならあるいは…)
将来、勝(まさ)るかもしれない。 そう思えてならないのだ。 シメオンは武門に秀でたボナホート家に於いても、突然変異の様な物だろう、あの強さは異常なのだ。 この先数年後、一対一でシメオンに勝てるものはサルバーには居なくなるだろうとすら思わせられる。
だがそれも個人での話し、一軍を率いる将にはまた別の能力が求められるのだ。
子供の居ないトーレスにとって、わが子同然に見守ってきた主の子供達が互いに進む未来に、胸が躍るものを感じてやまない瞬間であった。
しかし、どれもこれも、まだ先の話でしかない。
戦場も未だ知らない、騎士に成り立ての17歳の少女とも言える年齢の娘に、そこまで期待するのも酷というものであろう。
それに、この面子ならある程度の事が起きたとしても、対応できると信じられる。 共に旅をしてきた仲間達を見渡しながら、そう思うトーレス。
(最悪の場合でも、自分達を犠牲にすれば、タルラ様だけでも逃がすことは出来るだろう)
馬車の御者台の後ろから、景色を楽しんで居るチェミーとサクに一度視線を留めてから、トーレスは心を定めた。
「私の取り越し苦労で有れば良いのですが」
何も無ければそれで良い。 そう思いながら、トーレスは馬首を街道へと向けるのであった。
「ど、どうなされたのですか、男爵様?」
「どうもこうも無いわっ! あの小娘めが! 人を虚仮(こけ)にしおって。 許さぬ絶対に許さぬぞ……」
怒で声を張り上げるアボーテ男爵の剣幕に押されながらも、トルネリオが理由を聞きだしたところ、今朝方食事を終えたタルラが予定を一日早めて調査に向かうと言い出し、既に出て行ったとの事だった。
「まさか、気付かれたのでは?」
「そんなへまはして居らぬ! あの小娘はたかだか辺境の遊牧民のために、わしの名誉を踏みにじっていったのだ!」
そのような事をされては怒るのも無理は無いと、トルネリオも納得してしまう。
大物貴族が相手の邸宅を訪れ、正当な理由もなしに予定を切り上げ出立する時がある。 その大抵の理由が「もてなしが気に入らなかった」という物だ。
そして、出立されてしまった家の者は、満足なもてなしも出来無い家とのレッテルが貼られてしまうのだ。
貴族とて付き合いは大事にする。 特に貴族同士となれば尚更で、多少の事なら流したり我慢もするであろう。 しかし相手の家がこれ以上付き合う価値も無いと分かれば話は別である。 そして、一度冷え込んだ家同士の関係を修復するのには、多大な苦労擁するのだ。 それと知っていて、二度と付き合いたくない相手が居た場合、周りにそれを知らしめる為にも、大物貴族の中には、わざとそのような仕打ちをする者も居るくらいなのだ。
周りから見れば既に貴族としての名誉など、これっぽっちも残っていないアボーテ男爵なのだが、本人にとっては貴族である事が全てであり、平民など、どれだけ毟(むし)り取っても、いくらでも生えて来る雑草と同じと考えているこの傲慢な男が、たかだか伯爵令嬢にしか過ぎないと考えていたタルラにこの様な行動をとられては、忸怩(じくじ)たる思いがこみ上げてくるのも、当然であろう。
それも、サルバー王国の国民ですらない遊牧民と天秤に掛けられて、出て行くのだから、アボーテ男爵からすれば雑草以下と言われた様な物である。
アボーテ男爵が感じている事はあながち間違ってはいなかった。 タルラの勘も、大本を辿ればアボーテ男爵への不快感と、この街の領主としての不信感から来ているものであり、その意味では、気に入らないから出て行くという部分も確かにあったのだ。
されど、タルラとて伯爵家の娘であり、予定を切り上げて出て行くことの意味は知っている。 しかしそれは貴族同士の付き合いであればの話であり、今回のように任務を受けた騎士が、その任を早く果たすために、行動を速めることは珍しくないのだ。
だが、アボーテ男爵はタルラを魔法騎士(マジック・ナイト)と認めず、あくまで伯爵令嬢としか見ていなかった。 家の威を翳(かざ)す小娘としか考えて居なかったのである。
「トルネリオ! 今すぐ賊共をあの娘に嗾(けしか)けてやれ! 数が必要ならわしの兵も出す! 思い知らせてくれるわっ!」
「お、お待ち下さい男爵様! 街の中で手を出せば流石に言い逃れが出来なくなります! ここは、このトルネリオめにお任せ下さい」
すでに怒りに我を忘れかけているアボーテ男爵に、トルネリオが自ら引き受ける事で思い止まらせる。 このままアボーテ男爵が暴走したら、それこそ取り返しのつかない事になりかねないのだ。
「むぅ…っ! わかった、お主に任せる! 必ずあの小娘を生け捕りにして、わしの前に連れて来い! 女に生まれてきたことを後悔させてやる! いいな、腕の一、二本は構わんが、必ず生かして連れて来いよ。 失敗したら分かっておろうな!?」
「ははっ! 必ずやご期待に沿えるよう努力いたします」
まるで騎士の様に胸に手を当て、恭しく拝命するトルネリオ。 だが、頭の中では失敗した場合に備えて、既に逃げ出す算段を考えていた。
*********
トルネリオが店に戻ると、すぐさまドーマが呼び出された。
見ればもう一人呼ばれていたようで、部屋では別の男が既にトルネリオと話をしている。
(ビーの手下かな?)
視線に気付かれないように目の端でそっと男の様子を覗い、特徴を覚えていく。
草色に染められた上着を粗野に着崩し、こけた頬と剣呑な目つきをした男だ。
(俺と同じでまともな仕事はしていないって、感じだな)
「ビーには急いで準備するように伝えろ。 決して殺すなよ」
「へっ、旦那は心配性ですな。 ビーのお頭がいるんでさ、何の心配も要りませんて」
言うが早いか、男は踵(きびす)を返し、部屋から出て行く。 すれ違いざまにドーマに一瞬だけ視線を向けてきたので「よっ」っと軽く手を上げたら、「おう」と応えられた。
「ドーマ、お前にはもう一度伯爵令嬢の備考をしてもらう」
「居場所をビーに教えるんで?」
「それは必要ない、行き先は分かっている。 お前はビー達が襲った結果をいち早く私に教えてくれればいい」
「手助けはしなくていいんですかい?」
「そうだ、絶対に手は出すな、どうなったか見届けるだけでいい」
「随分と用心深い事で」
「それが生き残るコツだ。 それと言うまでも無いが、これでお前も同罪だ。 決して変な気は起こすなよ」
「分かっておりますよ、旦那。 頂いたお金の分はしっかりと働かさせて頂きやす」
「それなら良い。 一行はまだこの近くに居るはずだ、早く行け」
「へい」
そう言いながら、ドーマは部屋から出て行く。 窓を見れば先ほどの男が、道を歩いていく姿が見える。
(どうやら、この仕事も終わりそうだな)
そう心で思いながら、ドーマは尾行する為に急いで店を出るのだった。
**********
お昼を少し過ぎた頃、タルラ達はようやく街から出発していた。
店が少ない為、消耗品の補充に時間が掛かってしまったのだ。 時間も時間なので食堂で昼も済ませてから出発する事にしたのである。
昨日通った道を逆に辿り、今は東西へ走る街道が見える位置まで戻ってきていた。
「トーレス、このまま森を抜けるとなれば、日が暮れてしまうだろう。 それなら、サクと逢ったあの廃村で早めの野営の準備をしようかと思うのだが、どうであろう?」
「私としましては、このまま真直ぐイベール子爵様の下へ行かれるのが、一番宜しいかと存じますが」
「それも考えたのだが、ここでイベール子爵の下で今晩世話になっては、アボーテ男爵の顔が立たぬだろう。 直接任務に向かわず余所の家に寄るとなれば、「気に入らぬから出てきた」と吹聴しているとも取られかねないからな」
「今更その様な事お気になさずとも、あのような者の事など放って置いて、今はご自分の身を案じなさるのが先かと思います」
「騎士が予定を切り上げたくらいで、追っ手をかけると? 流石にそこまで馬鹿ではあるまい」
「人の心は分からぬ物。 ましてやここは陛下の目も届きにくい辺境です。 用心に越した事はないかと。 もし森に行くというのでしたら、一気に抜けて森の端に隠れるように野営を行う事をお勧めします」
「トーレスは心配性だな。 だが、チェミーが洗濯の心配をしていてな、それに私の下着も……、もう替えが無いそうなのだ」
タルラは顔を赤くし、最後のほうは言いよどむ様に小声で言ってくる。
「仕方ありませんな。 タルラ様のお考えで動きましょう」
昨夜の一件もあり、トーレスは何とも言い難い気分で賛同するのであった。
(しかし…)
昨夜のタルラの予定変更は英断であったとトーレスは考えている。 特に晩餐か終わった辺りから戦場で敵地の奥深くに踏み込んだような、何とも言えない緊張感の様な物を、トーレスも感じていたのである、微かにしかし確実に感じ取っていたのだ。
もしここが戦場であっらなら、トーレスは怒鳴りつけ、縛り上げてでも、峠の砦かイベール子爵の下へタルラを連れて行ったであろう。
いや、現状でもそうすべきかも知れない、タルラの身を思えば、例え臆病だと言われようとも、動ける今、安全な所まで一気に逃げ切りそこで様子を覗うのが望ましいのだ。 武門の家に仕え、前当主の下で多くの戦場を駆け回った経験からトーレスはそう感じていた。
昨夜の時点ではタルラがトーレスと同じような感覚を感じてくれた事に、驚きと共に嬉しくも思ったものだ。 それは戦場を駆ける者が身に付ける生き残る術(すべ)の一つなのだから。 そして、街道を前にして自分に相談してくれた事も、評価している。 指揮官とはとかく独断に陥りそうに成る、部下の意見を聞くことは大事だ。 そして決断は自分で下す。
(タルラお嬢様は恐らく一生シメオン様には適わないであろう。 だが、将としての器ならあるいは…)
将来、勝(まさ)るかもしれない。 そう思えてならないのだ。 シメオンは武門に秀でたボナホート家に於いても、突然変異の様な物だろう、あの強さは異常なのだ。 この先数年後、一対一でシメオンに勝てるものはサルバーには居なくなるだろうとすら思わせられる。
だがそれも個人での話し、一軍を率いる将にはまた別の能力が求められるのだ。
子供の居ないトーレスにとって、わが子同然に見守ってきた主の子供達が互いに進む未来に、胸が躍るものを感じてやまない瞬間であった。
しかし、どれもこれも、まだ先の話でしかない。
戦場も未だ知らない、騎士に成り立ての17歳の少女とも言える年齢の娘に、そこまで期待するのも酷というものであろう。
それに、この面子ならある程度の事が起きたとしても、対応できると信じられる。 共に旅をしてきた仲間達を見渡しながら、そう思うトーレス。
(最悪の場合でも、自分達を犠牲にすれば、タルラ様だけでも逃がすことは出来るだろう)
馬車の御者台の後ろから、景色を楽しんで居るチェミーとサクに一度視線を留めてから、トーレスは心を定めた。
「私の取り越し苦労で有れば良いのですが」
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