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辺境の奴隷狩り
16 晩餐の語らい
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アボーテ男爵の用意した食事は、とても辺境の街とは思えぬほど豪華なものであった。
甘く冷やされた食前酒を皮切りに、野菜と豚肉が蕩けるほどじっくりと煮込まれたスープ、ムニエルにされた川魚に、りんごと香草(ハーブ)で作ったソースを何度も塗りながら、じっくりと焼き上げられた鳥の丸焼きは、当主自らが切り分け、タルラやナムルに振舞われる。
チェミーやサク達のように貴族位に無い者達には、その残りの肉を一度下げ後ろに控える侍従が切り分けたものが皿に盛られ饗されていく。
サルバー王国の中央貴族の礼式に則(のっと)った見事な作法である。
だがタルラからしたら、堅苦しくて仕方が無い。 せっかく地方に居るのだ、貴族の礼儀などに囚われず気楽に食事をしたいと思ってしまう。
見れば、同じテーブルの少し離れた席では、フォークとナイフを使い慣れていないであろうサクに、横に座ったチェミーが甲斐甲斐しく世話を焼いている。 その横でタットンが「おっ、これ上手(うま)いな! サクも食え」などと言いながら、大皿の料理を取り分けてやって居たりもする。
(向こうは、楽しそうだな)
街道の宿場などに泊まった時は、タルラもあの席に混ざれるのであろうが、貴族の居城となるとそうも行かないのが辛い所だ。 食事に同席が許されているだけ、まだましなのかも知れないが、傍に居たらいたで、仲間に気軽に声もかけられない自らの立場を恨めしく思ってしまうタルラであった。
「随分と可愛らしいお子をお連れのようですな」
アボーテ男爵がタルラにそう声をかけてきたのは、デザートも食べ終わり、食後の飲み物を楽しんでいる時だった。 食事中に会話のきっかけを探っていたのだろう、タルラが良く視線を向けていたサクに興味を持ったようだ。
楽しそうにしているのは、アボーテ男爵だけで、タルラ自身はすぐにでも部屋に帰って休みたい気分だったのだが、歓待されている身では、そう言う訳にも行かない。
「任務の途中、森に一人で居る所を見つけまして、そのまま居ておく訳にも行かず、連れてきたのです」
「それはそれは、タルラ様は見た目と違(たが)わぬお優しい、お方ですな」
「どうやら異国の子供らしく言葉が通じませんが、なんとか聞き出した所では、両親が賊に殺され、途方に暮れていたようにございます」
「ほうほう、それでは、この城で養って差し上げても構いませぬが?」
「いや、この任務が終わったら王都へ共に連れて行こうかと考えております。 王都なればこの子の言葉も判るものが居るやも知れませんから」
「なるほど、そうでございましたか。 いやはや残念でございます」
(残念?)
その言葉を聴いてタルラは、ハッとする。 貴族の間では相手の役宅に訪問する時や、客を招く時など、謙譲の品に女性を用意すると言う慣習を思い出したのだ。 女性のタルラからしたら虫唾の走る行為だ。 流石に表立って行われることは無いのだが、未だに古い門閥貴族の間では根強く行われている悪習でもあった。
そして、アボーテ男爵家は、三年前まで中央の法衣貴族であり家柄も古い。
三年前、イドニス・アボーテ男爵に召された平民の女性が、翌日変死体でスラムの片隅に捨てられていたことが切欠で、それまで王の直轄であったこの地に封ぜられたのである。
噂では、これまで何人もの女性が、男爵家の館に呼ばれ帰って来なかったと言われており、直接的な証拠こそ出なかった為に、爵位を取り上げられることは無かったが、左遷させられたのである。
もしこの男爵が同じような行為をこの街でも行っているとしたら、タルラが感じた住民の閉塞感にも納得のいく話であった。
(これは、王都に帰ったら兄上に相談した方が良いかも知れぬ)
「ところで、タルラ様は未だに決まった方が居られぬと聞いておりますが、真で御座いましょうや?」
またこの話かと、タルラはうんざりとした気分になってくる。 これが、父と付き合いの長い貴族なら、からかい半分や、親身に思っての台詞で冗談で返したりも出来るのだが、付き合いの無い家の者が口にするときは、縁談に繋げ様との下心が見え透いてしまうのだ。 しかも、そのような者ほどしつこく食い下がってくる。
中央で名声を保つ伯爵家の独身令嬢、地方貴族が家格を上げるのにこれ以上の条件は無いだろう。 タルラとしても貴族の出であり、その事は理解しているつもりなのだが、任務の途中で世話になる家々で毎回話を持ちかけられたり、挙句の果てには、話を纏める為に引きとめようとされたり、酔わせて既成事実を作ろうと画策されたりと成れば、いい加減嫌気がさしてくると言うものだ。
ましてや、三十半ばと思える、この色白で神経質そうな狐顔の男に言い寄られるなど真っ平である。
アボーテ男爵自身三年前の事件が切欠で、妻から離縁されており、その妻の実家との関係も険悪に成っていると聞いている。 つまりは独身。 世間の風当たりを全く無視できる図太さがあればの話だが、縁談の相手として、自ら立候補することは可能ではあった。 無論、その話を受ける受けないは、ボナホート家の自由である。
「残念ながら、未だ決まった話は御座いませんが、私自身今は魔法騎士団(マジック・ナイツ)に入団したての身ゆえ、そのような話に現を抜かすわけには行きませんので」
「何を申されますか。 貴族に生まれたい以上は貴族としての勤めを果たさねば成りませぬ、ボナホート伯爵令嬢ともあろう者が、そのような悲しい事を仰られないで頂きたい」
「家の事は兄上が居りますゆえ、大丈夫でしょう」
「いえいえ、貴族は血でございます。 ボナホート家ほどの名家であれば言うまでも無い事で御座いましょうが、それでも、血の繋がりで支えあう家が一つでも多い方が、御家(おいえ)も安泰と成りましょう。 もし差し支えなければ、このイドニス・アボーテ、ボナホート家にささやか也(なり)とも、お力添えを致す心構えはできております」
アボーテ男爵は、狐のような面持ちに決め顔を浮べ、胸に手を当てた大げさな身振りでタルラに言い寄ってきた。
しかし、その一言こそがタルラの待っていた言葉でもある。
「ほほぅ、アボーテ男爵におかれましては、私の婚約者に立候補する気概がお有りとお見受けいたしましたが?」
何処か探るような、それで居て何か哀れむような眼差しをアボーテ男爵に向けるタルラ。
だがその眼差しは、凛々しき目元から送られる、憂いを秘めた流し目にも見え、相手に「脈あり!」と感じさせるものでも有った。
「も、勿論でございますとも! ボナホート家と結ばれるなど、このアボーテ家末代までの名誉となりましょう」
「分かりました、早速兄上に文を送りましょう。 で、決闘の日時は何時頃(いつごろ)がお望みで?」
「は? 決闘…で、御座いますか?」
「えぇ、決闘で御座います」
「誰と誰のでございましょう?」
「それは当然兄上とアボーテ男爵との決闘に決まっておりますでしょう。 無論、こちらは当主がお相手するのですから、代理人を立てることは御家の為にもお控えられた方が宜しいかと」
「な?」
何でそうなるか、理解出来無いと言いたげな顔のアボーテ男爵に、タルラは嫣然とした笑みを浮かべ話を続ける。
「あぁっ。 そうでした、男爵におかれましては、近頃中央から離れてお出でで、聞き及んでは居られませんでしたか。 『わがボナホート家は武門の家柄、弱い者を妹の婿にする訳にはいかん。 ましてや、妹のために命を掛けれぬものなど以ての外』と、兄上は常々言っておりまして、私に求婚するものは命を掛けて兄上と戦う事になっております」
ボナホート家当主シメオン・ボナホート。 この名を国内で知らないものは居ない。
魔法騎士団(マジック・ナイツ)の上位組織、近衛(ロイヤル)魔法騎士団(・マジックナイツ)に最年少で入団を果たし。 現在三十名ほどが名を連ねる化け物揃いの一団に於いて現在第十五席に位置する強者であった。
そして、誰はばかる事なき、妹思い(シスコン)としても有名である。
「ま、まさか本当に命までは取る事は…」
「さぁ? これまでに何処かの男爵家の跡取りと、他国の伯爵家の長子が挑まれたらしいのですが、結果は聞いてはおりません。 ただ…、どちらの家も次男の方が後を継がれたと最近伺(うかが)いました」
そこまで言われ、言葉を無くすアボーテ男爵。
「ですが、この街も入植を始めてまだまだ日が浅く、アボーテ男爵に置かれましても、日々ご多忙の事でございましょう。 急ぐ話でも有りませんので、お体が空かれる日をゆっくりとお決めあそばせれば宜しいかと」
その一言に安どの表情を浮かべるアボーテ男爵。 だが、サクを欲望の目で眺め、更にはこの街の現状を見て、タルラはこれで終わらせる気は無かった。
「それにアボーテ男爵様、確かに貴族にとって血は大事なもので御座いましょうが、それ以上に大事な勤めも有りましょう。 国を守り民を安んじて初めて、後世へ名と家を残せるというもの。 民を軽んじ、国も守れずと言うのであれば、その家は悪名のみ残し消えていくことでしょう。 私としても消え逝く家の最後の正妻として、悪名のみこの世に残すことは避けたく思っておりますので、男爵様に於かれましても、どうかアボーテ男爵家が後世に名を残す立派な一族で有ると証明されてから、今一度お話を聞かせて頂ければ幸いで御座います」
「そ、そうでありますな。 我が家も新地でなにかと忙しい所、このような状態では、嫁取りも儘ならぬのは事実。 誰も娘や妹にあらぬ苦労は掛けたくは無い物でしょうからな。 いやはや、タルラ様の余りの美しさに、心が先走ってしまいました。 今の話はどうか無かった事にして頂きたい」
なんとか体裁を保ちながら言葉を続けるアボーテ男爵だが、奥歯をかみ締めているところを見るに、言いたい事は伝わったのだろう。 胸のすく思いを感じながら、これで少しはマシになってくれれば良いがと、タルラは心の中で溜息をつき頭を切り替える。
甘く冷やされた食前酒を皮切りに、野菜と豚肉が蕩けるほどじっくりと煮込まれたスープ、ムニエルにされた川魚に、りんごと香草(ハーブ)で作ったソースを何度も塗りながら、じっくりと焼き上げられた鳥の丸焼きは、当主自らが切り分け、タルラやナムルに振舞われる。
チェミーやサク達のように貴族位に無い者達には、その残りの肉を一度下げ後ろに控える侍従が切り分けたものが皿に盛られ饗されていく。
サルバー王国の中央貴族の礼式に則(のっと)った見事な作法である。
だがタルラからしたら、堅苦しくて仕方が無い。 せっかく地方に居るのだ、貴族の礼儀などに囚われず気楽に食事をしたいと思ってしまう。
見れば、同じテーブルの少し離れた席では、フォークとナイフを使い慣れていないであろうサクに、横に座ったチェミーが甲斐甲斐しく世話を焼いている。 その横でタットンが「おっ、これ上手(うま)いな! サクも食え」などと言いながら、大皿の料理を取り分けてやって居たりもする。
(向こうは、楽しそうだな)
街道の宿場などに泊まった時は、タルラもあの席に混ざれるのであろうが、貴族の居城となるとそうも行かないのが辛い所だ。 食事に同席が許されているだけ、まだましなのかも知れないが、傍に居たらいたで、仲間に気軽に声もかけられない自らの立場を恨めしく思ってしまうタルラであった。
「随分と可愛らしいお子をお連れのようですな」
アボーテ男爵がタルラにそう声をかけてきたのは、デザートも食べ終わり、食後の飲み物を楽しんでいる時だった。 食事中に会話のきっかけを探っていたのだろう、タルラが良く視線を向けていたサクに興味を持ったようだ。
楽しそうにしているのは、アボーテ男爵だけで、タルラ自身はすぐにでも部屋に帰って休みたい気分だったのだが、歓待されている身では、そう言う訳にも行かない。
「任務の途中、森に一人で居る所を見つけまして、そのまま居ておく訳にも行かず、連れてきたのです」
「それはそれは、タルラ様は見た目と違(たが)わぬお優しい、お方ですな」
「どうやら異国の子供らしく言葉が通じませんが、なんとか聞き出した所では、両親が賊に殺され、途方に暮れていたようにございます」
「ほうほう、それでは、この城で養って差し上げても構いませぬが?」
「いや、この任務が終わったら王都へ共に連れて行こうかと考えております。 王都なればこの子の言葉も判るものが居るやも知れませんから」
「なるほど、そうでございましたか。 いやはや残念でございます」
(残念?)
その言葉を聴いてタルラは、ハッとする。 貴族の間では相手の役宅に訪問する時や、客を招く時など、謙譲の品に女性を用意すると言う慣習を思い出したのだ。 女性のタルラからしたら虫唾の走る行為だ。 流石に表立って行われることは無いのだが、未だに古い門閥貴族の間では根強く行われている悪習でもあった。
そして、アボーテ男爵家は、三年前まで中央の法衣貴族であり家柄も古い。
三年前、イドニス・アボーテ男爵に召された平民の女性が、翌日変死体でスラムの片隅に捨てられていたことが切欠で、それまで王の直轄であったこの地に封ぜられたのである。
噂では、これまで何人もの女性が、男爵家の館に呼ばれ帰って来なかったと言われており、直接的な証拠こそ出なかった為に、爵位を取り上げられることは無かったが、左遷させられたのである。
もしこの男爵が同じような行為をこの街でも行っているとしたら、タルラが感じた住民の閉塞感にも納得のいく話であった。
(これは、王都に帰ったら兄上に相談した方が良いかも知れぬ)
「ところで、タルラ様は未だに決まった方が居られぬと聞いておりますが、真で御座いましょうや?」
またこの話かと、タルラはうんざりとした気分になってくる。 これが、父と付き合いの長い貴族なら、からかい半分や、親身に思っての台詞で冗談で返したりも出来るのだが、付き合いの無い家の者が口にするときは、縁談に繋げ様との下心が見え透いてしまうのだ。 しかも、そのような者ほどしつこく食い下がってくる。
中央で名声を保つ伯爵家の独身令嬢、地方貴族が家格を上げるのにこれ以上の条件は無いだろう。 タルラとしても貴族の出であり、その事は理解しているつもりなのだが、任務の途中で世話になる家々で毎回話を持ちかけられたり、挙句の果てには、話を纏める為に引きとめようとされたり、酔わせて既成事実を作ろうと画策されたりと成れば、いい加減嫌気がさしてくると言うものだ。
ましてや、三十半ばと思える、この色白で神経質そうな狐顔の男に言い寄られるなど真っ平である。
アボーテ男爵自身三年前の事件が切欠で、妻から離縁されており、その妻の実家との関係も険悪に成っていると聞いている。 つまりは独身。 世間の風当たりを全く無視できる図太さがあればの話だが、縁談の相手として、自ら立候補することは可能ではあった。 無論、その話を受ける受けないは、ボナホート家の自由である。
「残念ながら、未だ決まった話は御座いませんが、私自身今は魔法騎士団(マジック・ナイツ)に入団したての身ゆえ、そのような話に現を抜かすわけには行きませんので」
「何を申されますか。 貴族に生まれたい以上は貴族としての勤めを果たさねば成りませぬ、ボナホート伯爵令嬢ともあろう者が、そのような悲しい事を仰られないで頂きたい」
「家の事は兄上が居りますゆえ、大丈夫でしょう」
「いえいえ、貴族は血でございます。 ボナホート家ほどの名家であれば言うまでも無い事で御座いましょうが、それでも、血の繋がりで支えあう家が一つでも多い方が、御家(おいえ)も安泰と成りましょう。 もし差し支えなければ、このイドニス・アボーテ、ボナホート家にささやか也(なり)とも、お力添えを致す心構えはできております」
アボーテ男爵は、狐のような面持ちに決め顔を浮べ、胸に手を当てた大げさな身振りでタルラに言い寄ってきた。
しかし、その一言こそがタルラの待っていた言葉でもある。
「ほほぅ、アボーテ男爵におかれましては、私の婚約者に立候補する気概がお有りとお見受けいたしましたが?」
何処か探るような、それで居て何か哀れむような眼差しをアボーテ男爵に向けるタルラ。
だがその眼差しは、凛々しき目元から送られる、憂いを秘めた流し目にも見え、相手に「脈あり!」と感じさせるものでも有った。
「も、勿論でございますとも! ボナホート家と結ばれるなど、このアボーテ家末代までの名誉となりましょう」
「分かりました、早速兄上に文を送りましょう。 で、決闘の日時は何時頃(いつごろ)がお望みで?」
「は? 決闘…で、御座いますか?」
「えぇ、決闘で御座います」
「誰と誰のでございましょう?」
「それは当然兄上とアボーテ男爵との決闘に決まっておりますでしょう。 無論、こちらは当主がお相手するのですから、代理人を立てることは御家の為にもお控えられた方が宜しいかと」
「な?」
何でそうなるか、理解出来無いと言いたげな顔のアボーテ男爵に、タルラは嫣然とした笑みを浮かべ話を続ける。
「あぁっ。 そうでした、男爵におかれましては、近頃中央から離れてお出でで、聞き及んでは居られませんでしたか。 『わがボナホート家は武門の家柄、弱い者を妹の婿にする訳にはいかん。 ましてや、妹のために命を掛けれぬものなど以ての外』と、兄上は常々言っておりまして、私に求婚するものは命を掛けて兄上と戦う事になっております」
ボナホート家当主シメオン・ボナホート。 この名を国内で知らないものは居ない。
魔法騎士団(マジック・ナイツ)の上位組織、近衛(ロイヤル)魔法騎士団(・マジックナイツ)に最年少で入団を果たし。 現在三十名ほどが名を連ねる化け物揃いの一団に於いて現在第十五席に位置する強者であった。
そして、誰はばかる事なき、妹思い(シスコン)としても有名である。
「ま、まさか本当に命までは取る事は…」
「さぁ? これまでに何処かの男爵家の跡取りと、他国の伯爵家の長子が挑まれたらしいのですが、結果は聞いてはおりません。 ただ…、どちらの家も次男の方が後を継がれたと最近伺(うかが)いました」
そこまで言われ、言葉を無くすアボーテ男爵。
「ですが、この街も入植を始めてまだまだ日が浅く、アボーテ男爵に置かれましても、日々ご多忙の事でございましょう。 急ぐ話でも有りませんので、お体が空かれる日をゆっくりとお決めあそばせれば宜しいかと」
その一言に安どの表情を浮かべるアボーテ男爵。 だが、サクを欲望の目で眺め、更にはこの街の現状を見て、タルラはこれで終わらせる気は無かった。
「それにアボーテ男爵様、確かに貴族にとって血は大事なもので御座いましょうが、それ以上に大事な勤めも有りましょう。 国を守り民を安んじて初めて、後世へ名と家を残せるというもの。 民を軽んじ、国も守れずと言うのであれば、その家は悪名のみ残し消えていくことでしょう。 私としても消え逝く家の最後の正妻として、悪名のみこの世に残すことは避けたく思っておりますので、男爵様に於かれましても、どうかアボーテ男爵家が後世に名を残す立派な一族で有ると証明されてから、今一度お話を聞かせて頂ければ幸いで御座います」
「そ、そうでありますな。 我が家も新地でなにかと忙しい所、このような状態では、嫁取りも儘ならぬのは事実。 誰も娘や妹にあらぬ苦労は掛けたくは無い物でしょうからな。 いやはや、タルラ様の余りの美しさに、心が先走ってしまいました。 今の話はどうか無かった事にして頂きたい」
なんとか体裁を保ちながら言葉を続けるアボーテ男爵だが、奥歯をかみ締めているところを見るに、言いたい事は伝わったのだろう。 胸のすく思いを感じながら、これで少しはマシになってくれれば良いがと、タルラは心の中で溜息をつき頭を切り替える。
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