12 / 36
異世界転移の章
12 名前を名乗ろう!
しおりを挟む
その後の食事までの流れは、思ったよりスムーズに進んだ。
骨付き肉をかじる=(イコール)食べるとの、ボディコンタクトが共通認識に成ったのが多きい。
朔が、魚を全部食べて良いと身振りで伝えると、『やっぱりこの娘は一人なんだろうか?』などと相談する声も聞こえたが、皆、手を止めずに作業をしているので、割り込むタイミングが掴めなかった。
タルラも、横目で朔の事をチラチラ見ながらではあるが、口髭ダンディとなにやら書き物を始めた。
ナムルも、一旦椅子には座ったものの、チェミーや他の二人が調理に専念し始めると立ち上がり、辺りを警戒していた。
朔だけ何もする事が無かったので、チェミー達を少しでも手伝おうと、近寄ってみたのだが、何を手伝えば良いのかわからず、おろおろしていたら、チェミーに抱きしめられた後、再び椅子に座らされてしまった。
そして、朔が捕った焼き魚に塩を振られた物と、乾し肉と乾燥野菜を煮込んだスープに、固く焼かれたパンが準備されていく。
(動くならここだ!)
そう思い立ち、器に盛られた食事に近寄っていく朔。
お手伝いの代名詞である配膳なら誰にでも出来る。
他の人が働く中、ただじっと座っているのも気まずいという、国民性も出ているのだろうが、朔としては友好的な関係を築く為にも、ここは積極的に動くべきだろうと考えた。
『お腹空いたのかな? でもまだ食べちゃ駄目ですよ?』
朔は、近寄り抱きしめて止めようとする、チェミーを何とかかわし、器の傍まで行く。
「タルラ?」
確認の為に、一番綺麗そうな器を指差し、その後タルラを指差して、聞いてみる。
『持っていってくれる積りなのかな?』
『かもな。 まだいっぱいあるし、渡してみればわかんだろ?』
チェミーと皮鎧の男が相談つつ、器の乗ったトレーを渡してくれた。
朔は、それを受け取り、後ろからの視線を感じつつも、タルラの元へと歩いていく。有名なTV番組「初めてのお買い物」の園児になった気分だ。
「タルラ」
『おぉ! 持ってきてくれたのか』
『昼の準備が出来たようですな。 続きは又、後ほどに致しましょう』
朔が声をかけると、タルラと口髭ダンディは書き物の手を止めて、こちらを見てきた。
朔は、タルラの前に用意されていた簡易な机の上にトレーを乗せる。
だが、朔の狙いは他にある。これが見た目通りの歳なら、お手伝い成功で終わるのだろうが、向こうで37年間生きていた男がこれで満足するわけにはいかない。
朔はタルラを指さし、
「タルラ」
と、話しかける。
『ん? なんだ?』
何を言いたいのかわからず、キョトンとするタルラ。
次に朔は、スープを盛り分けているチェミーを指差して、
「チェミー」
と言ってみる。
『私の名前覚えてくれたんだっ!』
胸の前で手を組み、嬉しそうに笑うチェミー。
そこで朔は自分を指差し、
「朔」
と、いってみる。
『サク? それが名前なのかい?』
「朔」
聞き返してくるタルラに、もう一度繰り返し、名乗ってみる。
『そうか、サクと言うのか、女の子にしては簡素な名前だが、良い響だ。 よろしくな、サク』
褒めてるのか、貶してるのか、微妙な表現をするタルラ。
「初対面の人には名前から」今は無き、田崎の教えを思い出して、何とか果たした朔であった。
そうなれば、後は順番に聞いて行けば良い。
「なむるきょう?」
『いや、卿はは違う。 ナムルだ、わかるか? ナムル』
タルラの後ろで周りを警戒している、大柄で黒髪の騎士に指を挿し、疑問系で声をかける朔に、タルラが優しく訂正する。
悪魔の通訳は言葉に含まれる意志を読み取るもので、卿が君や様みたいなものだと言うのは、わかっている。 だが、言葉も判らない会話の中から拾う名前を、百発百中させるのもおかしいだろうと、少し遊んでみたのだ。
そして、少し遊ぶと、もう少し遊びたくなるのも、男心というものだ。この気の良い人達なら、多少の事は見逃してくれると踏んでもいる。
「ダンディ!」
口髭の騎士に指を挿し、間違えないと自身を持って言い切る。朔の中ではもはや間違い無い事なので、見せる自信は本物だった。
『だんでぃ? はて? 何を聞き間違えて私を、だんでぃと呼んでいるのでしょうか?』
渋い中年男がする、少し困った顔で、整えられた口髭に手を当てる仕草は、朔の期待通りのもだった。
横では、タルラが可笑しそうに、声を殺して笑っている。これも、期待通り。
『宜しいですか? 私は、トーレスと言います。 トー・レ・ス』
「とおれす?」
『そうです、トーレス』
「とうレス。…トーレス」
馴染みの無い発音だが、二回も口にすると、すんなりと言えるようになった。これも、悪魔が言っていた、成長率云々(うんぬん)が、関係しているのだろうか?等と、考えながらも、朔は、残っている男二人を指差して、名前を聞いていった。
一通り、名前を聞き終え、食事を済ませる頃には、タルラ達と出会って、一時間以上は経過していた。
『誰も来ませんね?』
そう口にしたのはチェミーである。
『そうですね、もし連れが居たら、そろそろ顔を出してもおかしく無いと思いますし』
同意するように言うナムル。
『こんな子供を、一人でここに置いて行く訳にも、いきませんしね』
チェミーの二言目に、皆で頷(うなず)いている。
どうやら、朔をどうするかの話し合いが始まったようだ。口髭ダンディ改めトーレスは、若い者の会話を静観している。
(作戦発動!)
タイミングとしては、都合が良すぎるかもしれないが、食事中に考えていた方法を、試してみる事にした朔。
近くに有った、薪(たきぎ)を手に持ち、地面に絵を描いていく、母国では御馴染みの、丸を頭に見立てて、胴体と手足を棒で描く一番簡単な人の絵だ。
朔が最初に描いたのは三人分、一つは小さく描いておく、そしてその小さい人を指差して、「朔」と、言ってみる。
『これは? トーレスどう思う?』
『人なのでしょうか? 絵と言うよりかは、記号のようにも見えますな』
『とすると、この小さいのが、サクちゃんで、大きいのは両親かな?』
タルラに聞かれたトーレスの考えを受けて、チェミーが思ったことを口にする。
(うん、その通り。 伝わってる、伝わってる)
思ったより上手く行きそうだと、手応えを感じる朔。
絵や、マークを判り易く簡素化するのは、朔の国の得意分野の一つでも有ったのだ、食事中に、言葉が駄目ならこの方法があると、閃いたのだ。
そして、離れた所に六人の人を描き、そこから、三人の所に矢印を引っ張ってみた。
『どう言う意味だろうか?』
『うむ…』
皆、思案げに薪を動かし続ける、朔の動きを追っている。
朔は、小さく描いた人から矢印を何も無い方向へ走らせ、そこに新たに小さめの人を描くと、元の場所にあった、小さい人の絵を消す。
そして、離れた所に描かれた人を指差し、「朔」と、伝える。
『はぐれたって事かな?』
『そうみたいだな』
(よしよし、もう少しだ)
そこからはジェスチャーも交えていく朔。
おさらいの様に、六人の所を指差した後、薪を掲げて、「うあーっ!」と声を出し、六人の所から、矢印にそって、指を動かす。そして、元々小さな人を描いていた所からも、矢印にそって指を動かし、走って逃げるジェスチャーをしてみる。
『襲われたって事じゃないっ!』
チェミーが叫ぶように言う。
トーレスも『うむ』と、唸るような声を上げて頷く。
(なんか、「海がめのスープ」とか、TRPGのGMをやってる気分になってきたけど…)
描きながら、朔の頭に、向こうの世界に残してきた、娘の顔が浮かんでくる。一人ぼっちに描いた人の絵が、娘と重なってしまうのだ。
(あれ?)
胸が締め付けられ、目頭が熱くなり、朔の目から涙が出てくる。
(歳を取ると涙もろくなるって、本当だな)
そんな事を思いながらも、此処で手を止めてしまったら、両親が生きているかも知れないと、誤解を受けてしまう。なので、涙に霞む目をこすりながら、最後の仕上げを始める朔。
離れた所に描いた小さい人の絵から、再び矢印を引っ張る、その先は、残っていた二人の人の絵の所。
そして、その絵を消して、頭を示す丸と、胴体の棒を離した絵を、二つ寝かして描き、その傍に小さい人の絵を、立ってる状態で描いた。
『これはっ!』
声を出したのは、恐らくナムルだったろう。だが今の朔には、声を聞き分ける余裕は無かった。
口から漏れる嗚咽(おえつ)を抑えながら、涙を流す朔の心に描かれているのは、あどけない娘の笑顔だった。
(どうして俺が、娘と離れなければいけなかったんだ! 何であんな目に遭わないといけなかったんだ!)
(情けない! あんな事になるまで、何も気が付かず、幸せの幻想に浸りきっていた自分が情けなくて、仕方なくなる)
(あんな事になる前に、もっと自分に出来る事が何か有ったんじゃないか? 田崎も他の皆も助ける事が出来たんじゃないか?)
この世の不条理や、理不尽な仕打ちに対する悔しさとやるせなさが、朔の胸に広がっていく。
「くそーっ!」
俯き叫び声を上げて崩れそうになった朔を、タルラが慌てて支える。
その腕に取り縋(すが)る様に、泣き崩れていく朔。朔はもう自分でも、感情を抑えることが出来なくなっていた。
堤防が決壊したかのように溢れ出る感情の波に揺さぶられ、タルラの腕に縋りながら、「ちくしょう、ちくしょう」と呟き、タルラの鎧を細い手で力なく殴りつける。
裏切られ、全てを奪われ、殺されかけて、怒りと復讐心にかられて人を殺し続けた男が、ようやく涙できた瞬間であった。
骨付き肉をかじる=(イコール)食べるとの、ボディコンタクトが共通認識に成ったのが多きい。
朔が、魚を全部食べて良いと身振りで伝えると、『やっぱりこの娘は一人なんだろうか?』などと相談する声も聞こえたが、皆、手を止めずに作業をしているので、割り込むタイミングが掴めなかった。
タルラも、横目で朔の事をチラチラ見ながらではあるが、口髭ダンディとなにやら書き物を始めた。
ナムルも、一旦椅子には座ったものの、チェミーや他の二人が調理に専念し始めると立ち上がり、辺りを警戒していた。
朔だけ何もする事が無かったので、チェミー達を少しでも手伝おうと、近寄ってみたのだが、何を手伝えば良いのかわからず、おろおろしていたら、チェミーに抱きしめられた後、再び椅子に座らされてしまった。
そして、朔が捕った焼き魚に塩を振られた物と、乾し肉と乾燥野菜を煮込んだスープに、固く焼かれたパンが準備されていく。
(動くならここだ!)
そう思い立ち、器に盛られた食事に近寄っていく朔。
お手伝いの代名詞である配膳なら誰にでも出来る。
他の人が働く中、ただじっと座っているのも気まずいという、国民性も出ているのだろうが、朔としては友好的な関係を築く為にも、ここは積極的に動くべきだろうと考えた。
『お腹空いたのかな? でもまだ食べちゃ駄目ですよ?』
朔は、近寄り抱きしめて止めようとする、チェミーを何とかかわし、器の傍まで行く。
「タルラ?」
確認の為に、一番綺麗そうな器を指差し、その後タルラを指差して、聞いてみる。
『持っていってくれる積りなのかな?』
『かもな。 まだいっぱいあるし、渡してみればわかんだろ?』
チェミーと皮鎧の男が相談つつ、器の乗ったトレーを渡してくれた。
朔は、それを受け取り、後ろからの視線を感じつつも、タルラの元へと歩いていく。有名なTV番組「初めてのお買い物」の園児になった気分だ。
「タルラ」
『おぉ! 持ってきてくれたのか』
『昼の準備が出来たようですな。 続きは又、後ほどに致しましょう』
朔が声をかけると、タルラと口髭ダンディは書き物の手を止めて、こちらを見てきた。
朔は、タルラの前に用意されていた簡易な机の上にトレーを乗せる。
だが、朔の狙いは他にある。これが見た目通りの歳なら、お手伝い成功で終わるのだろうが、向こうで37年間生きていた男がこれで満足するわけにはいかない。
朔はタルラを指さし、
「タルラ」
と、話しかける。
『ん? なんだ?』
何を言いたいのかわからず、キョトンとするタルラ。
次に朔は、スープを盛り分けているチェミーを指差して、
「チェミー」
と言ってみる。
『私の名前覚えてくれたんだっ!』
胸の前で手を組み、嬉しそうに笑うチェミー。
そこで朔は自分を指差し、
「朔」
と、いってみる。
『サク? それが名前なのかい?』
「朔」
聞き返してくるタルラに、もう一度繰り返し、名乗ってみる。
『そうか、サクと言うのか、女の子にしては簡素な名前だが、良い響だ。 よろしくな、サク』
褒めてるのか、貶してるのか、微妙な表現をするタルラ。
「初対面の人には名前から」今は無き、田崎の教えを思い出して、何とか果たした朔であった。
そうなれば、後は順番に聞いて行けば良い。
「なむるきょう?」
『いや、卿はは違う。 ナムルだ、わかるか? ナムル』
タルラの後ろで周りを警戒している、大柄で黒髪の騎士に指を挿し、疑問系で声をかける朔に、タルラが優しく訂正する。
悪魔の通訳は言葉に含まれる意志を読み取るもので、卿が君や様みたいなものだと言うのは、わかっている。 だが、言葉も判らない会話の中から拾う名前を、百発百中させるのもおかしいだろうと、少し遊んでみたのだ。
そして、少し遊ぶと、もう少し遊びたくなるのも、男心というものだ。この気の良い人達なら、多少の事は見逃してくれると踏んでもいる。
「ダンディ!」
口髭の騎士に指を挿し、間違えないと自身を持って言い切る。朔の中ではもはや間違い無い事なので、見せる自信は本物だった。
『だんでぃ? はて? 何を聞き間違えて私を、だんでぃと呼んでいるのでしょうか?』
渋い中年男がする、少し困った顔で、整えられた口髭に手を当てる仕草は、朔の期待通りのもだった。
横では、タルラが可笑しそうに、声を殺して笑っている。これも、期待通り。
『宜しいですか? 私は、トーレスと言います。 トー・レ・ス』
「とおれす?」
『そうです、トーレス』
「とうレス。…トーレス」
馴染みの無い発音だが、二回も口にすると、すんなりと言えるようになった。これも、悪魔が言っていた、成長率云々(うんぬん)が、関係しているのだろうか?等と、考えながらも、朔は、残っている男二人を指差して、名前を聞いていった。
一通り、名前を聞き終え、食事を済ませる頃には、タルラ達と出会って、一時間以上は経過していた。
『誰も来ませんね?』
そう口にしたのはチェミーである。
『そうですね、もし連れが居たら、そろそろ顔を出してもおかしく無いと思いますし』
同意するように言うナムル。
『こんな子供を、一人でここに置いて行く訳にも、いきませんしね』
チェミーの二言目に、皆で頷(うなず)いている。
どうやら、朔をどうするかの話し合いが始まったようだ。口髭ダンディ改めトーレスは、若い者の会話を静観している。
(作戦発動!)
タイミングとしては、都合が良すぎるかもしれないが、食事中に考えていた方法を、試してみる事にした朔。
近くに有った、薪(たきぎ)を手に持ち、地面に絵を描いていく、母国では御馴染みの、丸を頭に見立てて、胴体と手足を棒で描く一番簡単な人の絵だ。
朔が最初に描いたのは三人分、一つは小さく描いておく、そしてその小さい人を指差して、「朔」と、言ってみる。
『これは? トーレスどう思う?』
『人なのでしょうか? 絵と言うよりかは、記号のようにも見えますな』
『とすると、この小さいのが、サクちゃんで、大きいのは両親かな?』
タルラに聞かれたトーレスの考えを受けて、チェミーが思ったことを口にする。
(うん、その通り。 伝わってる、伝わってる)
思ったより上手く行きそうだと、手応えを感じる朔。
絵や、マークを判り易く簡素化するのは、朔の国の得意分野の一つでも有ったのだ、食事中に、言葉が駄目ならこの方法があると、閃いたのだ。
そして、離れた所に六人の人を描き、そこから、三人の所に矢印を引っ張ってみた。
『どう言う意味だろうか?』
『うむ…』
皆、思案げに薪を動かし続ける、朔の動きを追っている。
朔は、小さく描いた人から矢印を何も無い方向へ走らせ、そこに新たに小さめの人を描くと、元の場所にあった、小さい人の絵を消す。
そして、離れた所に描かれた人を指差し、「朔」と、伝える。
『はぐれたって事かな?』
『そうみたいだな』
(よしよし、もう少しだ)
そこからはジェスチャーも交えていく朔。
おさらいの様に、六人の所を指差した後、薪を掲げて、「うあーっ!」と声を出し、六人の所から、矢印にそって、指を動かす。そして、元々小さな人を描いていた所からも、矢印にそって指を動かし、走って逃げるジェスチャーをしてみる。
『襲われたって事じゃないっ!』
チェミーが叫ぶように言う。
トーレスも『うむ』と、唸るような声を上げて頷く。
(なんか、「海がめのスープ」とか、TRPGのGMをやってる気分になってきたけど…)
描きながら、朔の頭に、向こうの世界に残してきた、娘の顔が浮かんでくる。一人ぼっちに描いた人の絵が、娘と重なってしまうのだ。
(あれ?)
胸が締め付けられ、目頭が熱くなり、朔の目から涙が出てくる。
(歳を取ると涙もろくなるって、本当だな)
そんな事を思いながらも、此処で手を止めてしまったら、両親が生きているかも知れないと、誤解を受けてしまう。なので、涙に霞む目をこすりながら、最後の仕上げを始める朔。
離れた所に描いた小さい人の絵から、再び矢印を引っ張る、その先は、残っていた二人の人の絵の所。
そして、その絵を消して、頭を示す丸と、胴体の棒を離した絵を、二つ寝かして描き、その傍に小さい人の絵を、立ってる状態で描いた。
『これはっ!』
声を出したのは、恐らくナムルだったろう。だが今の朔には、声を聞き分ける余裕は無かった。
口から漏れる嗚咽(おえつ)を抑えながら、涙を流す朔の心に描かれているのは、あどけない娘の笑顔だった。
(どうして俺が、娘と離れなければいけなかったんだ! 何であんな目に遭わないといけなかったんだ!)
(情けない! あんな事になるまで、何も気が付かず、幸せの幻想に浸りきっていた自分が情けなくて、仕方なくなる)
(あんな事になる前に、もっと自分に出来る事が何か有ったんじゃないか? 田崎も他の皆も助ける事が出来たんじゃないか?)
この世の不条理や、理不尽な仕打ちに対する悔しさとやるせなさが、朔の胸に広がっていく。
「くそーっ!」
俯き叫び声を上げて崩れそうになった朔を、タルラが慌てて支える。
その腕に取り縋(すが)る様に、泣き崩れていく朔。朔はもう自分でも、感情を抑えることが出来なくなっていた。
堤防が決壊したかのように溢れ出る感情の波に揺さぶられ、タルラの腕に縋りながら、「ちくしょう、ちくしょう」と呟き、タルラの鎧を細い手で力なく殴りつける。
裏切られ、全てを奪われ、殺されかけて、怒りと復讐心にかられて人を殺し続けた男が、ようやく涙できた瞬間であった。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説


もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる