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レイン、召喚に挑む。

レインが、召喚を望む理由③

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そしてクラウドが、そんなサニーを庇ったことも、レインにとってはさらなる衝撃だった。

『サニーは君を思って言ってくれてるんだよ。彼女の優しさを素直に受け入れてあげて。僕は、サニーといると、なんだかほっこりするんだ。レインも、せっかく王都に来たんだから、新しい友達を作った方がいいよ』

『中等科の一年の僕らは学業や王都での生活を頑張るべきだよ。レインも無茶な研究は程々にして友達作ったら?王都の女の子たちは健康的でオシャレにも気を使ってるから、今のままじゃ馴染めないよ』

『君も地元のことで落ち込んでばかりいないで、もっと明るく楽しくほっこり過ごしなよ。サンダースさんたちもその方がずっと喜ぶよ』

レインはがっかりするしかなかった。

(大体なんだ。ほっこりって。王都で流行りってんのか。)

彼の態度には、どうしようもない壁を感じてしまい、結局いつも相談はできなかった。

幼馴染より彼女(正確にはお互い意識し合っている状態)を優遇するのは、もっともだ。

友達を作れというのも、王都に馴染めというのも、正論だ。

だけど、クラウドがそれを言うのか。

今も地元のことを忘れ、サニーにデレデレしてばかりのくせに。

レインのことなんか何も分かってないくせに。

レインは、彼への複雑な思いを、さらに拗らせるしかなかった。


◇◇◇◇


そしてある日、耳にしてしまったのだ。学園内の裏庭の静かな一角で…、レインが目立たないところでボッチ飯をしようとしていたところに、やって来た2人がする会話を。

『…また無茶して体を壊したら、僕がレインの面倒見る羽目になるのかなぁ。まったく困ったもんだよ。どうせ、僕は彼女のお世話係なんだ』

(クラウドは…、そんなふうに思っていたのか……。だから、あの女はあんなことを言ってきたのか…。)

『そっかぁ。一緒に地元から来た幼馴染って確かに心配になるよね。でもクラウドくんが全部全部をしょい込むことなんてないよっ!!』

サニーの彼を慰める言葉に、促されるようにクラウドはさらに愚痴をこぼす。

『…辺境伯家のことは……、大切に思ってるよ。……恩義も感じているよ。
だからと言って一生あの子とあの土地に縛られて終わるのかと思うと…なんというか…、未来が真っ暗に感じるんだ!!
自分の可能性を閉ざされてしまいそうで…このまま地元に戻っても、レインの婚約者にでもさせられるだけだ…、そんなのは、本当に無理なんだ!!
僕はただ…、もっと自由でありたんだ。せっかく王都に出てきたんだ!!もっと新しい自分らしい生き方を始めたいんだ!!』

そんな流れを聞いてしまったことで、レインの目の前の方が先に、真っ暗になった。

(クラウドとわたしは…、友達でもなんでもなかったのだ……。自分を縛り付けるだけの『お世話』が必要な存在…。これで相談なんかしたらまた『お世話』を掛けるだけ……。クラウドはサニーのような子といたいのに…、わたしは邪魔な『お荷物』なんだ。)


◇◇◇◇◇◇


親戚の家で虐待を受けていた時期、レインは様々な言葉で罵られた。

『なんであんたなんかの世話をしなきゃいけないの』『手間を掛けさせやがって』『お荷物』『邪魔者』『役立たず』などなど。

サンダース家の元に戻ってから、上手くなじめなかったのはその影響だ。

大好きな彼らの家にも、『世話』になっているから。彼らには、彼らにだけは迷惑をかけてはならない。そういう思いに苛まれたのだ。


当時大人しいクラウドは、本を読むのが好きで、サンダース辺境伯家に遊びに来た時にはいつも本を借りて帰っていた。

双子と外で駆け回るのに疲れた時は、休憩がてら本を読んでいた。

そしてレインが辛かった時も、ただレインの側で本を読んでいた。

彼は、レインを構うといった積極的な『お世話』はしなかった。

人に気遣われることに気後れするレインも、一人でできる気晴らしは、苦にならなかったので、しだいに彼につられて本を読むようになった。誰かが横にいるのも、苦ではなかったから。

そうやって過剰に『お世話』をされないでいるうちに、ようやく安心できたのだ。

サンダースさんたちは『あいつら』とは違うのだと気づいて、落ち着きを取り戻せた。ここにいても大丈夫だと実感できたのだ。

クラウドが自分の好きなシリーズ物の冒険小説の前の巻をレインが手に取りやすい所に置いてくれたり、レインの好きな植物図鑑を一緒に眺めるようにもなり、ささやかな交流も生まれるようになった。

もちろん双子や爺様や婆様が、お願いしたことだろうと今ならば分かる。

本やおやつを餌に、彼も釣られたかもしれない。

それでも、彼の側は本当に居心地が良かったのだ。

一緒に絵本に載っていたおやつを作ってもらい、図鑑で見た植物を庭へ見に行くような穏やかな日々を過ごせるようになって、ようやくレインは世界を取り戻せた。

今の自分の非力さを責めて閉じこもるのでなく、居場所をくれた彼らの役に立てるようになっていきたいと願うようになったのだ。


(だから、彼には…、彼だけには…、絶対に『お荷物』扱いされたくなったのに……。)

あの日々が、たとえ彼にとっては、誰かに頼まれた『お世話』のだったとしても、あの時の彼は、少なくとも、それを露わにはしなかった。

彼や、辺境伯家のみんなは、レインを『お世話』しても『お荷物』扱いはしなかったのだ。

だからこそ、レインは、今こうしてここにいれるのだ。

(関わることでクラウドを『お世話』に縛り付けてしまうのならば、わたしはこのまま都会では一人ぼっちでいるしかないのか…。嫌だ、嫌だ、嫌だ!!そんなの無理だ!!そんなのおかしい!!!そうだ。クラウドは、あのサニーに騙されて、ちょっとおかしくなっているだけなのだ。昔の彼ならば、絶対に、回路の事を勝手にばらしたり、自分を『お世話係』なんて思うはずがない。都会は怖い。本当怖い。すぐ人を騙す悪い奴らばかりだ…。レインは『お荷物』なんかじゃないのだ。絶対に!!悪い王都の奴らに負けてなるものか…。今度こそ、すごいことをして、レインを認めさせるのだ。そしてクラウドの目を覚ましやるのだ!!)


さまざまな感情を煮詰めるようにしながら、レインは召喚術を学んだ。

召喚術は未だ謎の多い危険な術で、中等科のレインが挑むには、かなり無謀な挑戦だ。

けれど全てを解消する薬は作れないから。全てを解決する魔法も起こせないから。

記載が出来ない自分にも出来るかもしれない、奇跡の術。

取り残されてしまったような心境の中、全てを叶えてくれる誰かに縋りたかったのかもしれない。
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