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本編

【第10話】人気者…?

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「…やらかした」
「何をしたの…?」
 夕食中、僕は頭を悩ませていた。理由は下校中の事である。とある女子高生が襲われていたので助けたら、まさかの同じクラスの陽キャだったのだ。
「…昨日、僕が1人で走ってったろ?あの時に助けたやつがお前の友達だったんだよ」
「へぇ~、それの何が問題なの?」
「考えてもみろ、最近僕が話題に上がってるんだろ。そんな時にこんなイベント、目立ってしまうじゃないか」
「いい事だと思うけど…有名人じゃん」
「それが嫌なんだよ…僕は目立ちたくない」
「…今まで悪目立ちしてたけどね」
「うるさい」
「というより、1回だけじゃそこまで話題にはならないと思うけどね」
「そうだと、いいんだけどな」
 明日、学校に行ったらどんな目で見られるのだろうか…。変な噂が立たないといいがな。
 …そして、次の日。僕は教室の前に着いた。一度深呼吸をして、扉を開ける。
「…あ!真君!」
 昨日助けた女が僕が教室に入るや否や指を指してきた。そしてそれに触発されるようにクラスメイト全員が僕の方を向いた。その時聞こえてきた話し声は僕の悪口ではなく、褒め言葉や驚嘆の声が多かった。
 女は僕の方にスタスタと歩いてきて、僕の進路を塞いだ。
「…いや、通りたいんだけど」
「あ、ごめん。昨日のお礼をちゃんと言いたくて」
「…めんどいからいいよ、邪魔」
 舌打ちをする。正直、気分が悪い。常人ならば感謝されると喜ぶのだろうが、今回の件に関しては僕は感謝されても嬉しくはない。人助けは初めてだが、今までも似たようなことはしてきた。なのにその時は『イジメ』と捉えられていた。人が絡むだけでこうも違うとは。
 席に座ると、陽キャグループが僕のほうへ寄ってきた。
『真君ってカッコいいんだね!』
『とてもカッコよかったよ!』
『しかも頭もいいしね~』
 なんだこれ、なんで急に褒められないといけないんだ。手のひら返しが凄いなこいつら。恥ずかしくないのか。
『夢叶~、真君っていつもこんな感じなの?』
「え?えーっとね~…」
 どうやら、夢叶も少し面倒くさがっているようだ。僕の娘ということもあり、こういう状況は僕と同じらしい。
 僕が無視をしていてもこいつらは気にせず話を進める。ため息をつくと、後ろから机を叩く音がした。
『お前ら、鬱陶しいんだよ!』
 怒鳴り声を上げているのは、確かラグビー部か何かの部活に所属している男だった。彼は僕の方に威圧するように向かってきた。
『1回人助けをしただけで急に見る目を変えやがって!』
『で、でも助けてくれたことには変わりないし…』
『こんなクソ野郎のことだ、評判を上げるために仕組んだに違いない!』
「…あ?」
『お前はもう不良なんて言われたくないから誰かに頼んだんだろ?』
「…んなわけあるか、そんな面倒くさい事誰がやるか」
『現にお前はやってるじゃないか!お前らも、こんなクソ野郎にしっぽ振るような真似すんじゃねぇ!』
「…おい」
 僕は立ち上がり、男のネクタイを掴んで男を持ち上げた。
「クソ野郎だァ?どの口が言ってんだクソガキ」
『そ…そりゃそうだろ!不良のレッテルが貼られているお前が人助けだと?有り得ない!』
「…じゃあひとつ聞くが、僕はこれまでお前らに迷惑をかけたか?」
『…ぐっ』
 僕は手を離した。男は腰が抜けたのか床に倒れ込んだ。よく見ると、口が震えていた。この展開は想像できていなかったんだろう。
「ねぇよなぁ?僕はお前らには何もしてないからなぁ?」
『…黙れェ!』
 男は立ち上がる勢いで拳を振りかぶってきた。僕はそれを軽くいなし、拳を寸止めで振り下ろした。そして顔を近づけて威圧するように
「…いい加減にしねぇと、マジで殺すぞ。あと、周りを巻き込むな。標的は僕だけにしやがれ」
 と、耳元で囁いた。
『おいおい、何の事態だ?』
 教卓を見ると、担任が僕らの方を見ていた。扉の方を見ると、クラスメイトが少し汗ばんで立ち尽くしていた。おそらく事が重大にならないように走って職員室にでも行っていたのだろう。
『…とりあえず、1時間目は自習。2人はこっちに来い』
 僕は男から離れ、担任に着いて行った。男は少し遅れて着いてきた。向こうから煽ってきたが、手を出したのは僕なので、今回ばかりは処罰を覚悟しないといけないかもな…。
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