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本編
【第9話】気づかぬ変化
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…あれから、約1ヶ月が経ち、お互いあの時の記憶は薄れていった。おそらく似たようなことが起きれば、次は僕の理性は耐えられないだろう。
「…ねぇ、お父さん」
「…どうした?」
今は登校中、特に話すことも無く静かな空気が流れていたが、夢叶が口を開いた。
「お父さんはさ、変化に敏感だったりする?」
「…唐突だな。僕はそこまで気づかないタイプだ」
「そっか~。実はね、私がいつもいるグループでお父さんが話題に上がったの」
「…ほう」
夢叶の所属するグループ、つまり陽キャのグループで陰キャの、そして不良の噂が流れている僕が話題に上がるとは。
「でね、内容が、実はお父さんは良い人なんじゃないかって」
「…なぜそうなった」
僕が優しいだと?勝手に僕のことを不良だなんだと1年間言ってきて、今さら手のひらを返すのか。
「だって、私といつも登下校一緒だし、学校では私に対して普通に接してるし」
「…そりゃ、血が繋がってるから当然だろ」
「他の人から見たら、それが不思議でしかないんだって」
そんなものなのか。確かに夢叶が来るまでは他人に対して冷たく接していたが、それはいつも相手がまるで猛獣を相手にしているかのような感情で話しかけてきていたからだ。僕ではなく、相手に問題があったのだ。
「私も思うよ、お父さん変わったなって」
「僕は変わってない」
「変わってるよ、最初会った時はすぐ暴言吐いてたもん」
「うるさい殺すぞ」
「今さら意味無いよ」
そんな話をしていると学校に着き、教室に入る。確かに、いつも聞こえていた悪口や舌打ちが少なくなっていたのは事実だ。
そこで僕は自分が変わったことを少し実感した。まぁ、少し見る目が変わっただけで、不良のレッテルは剥がれない。というより、僕はいつから不良と言われ出したのだろう。僕ですら分からない。
学校のチャイムが鳴り、授業が始まる。いつもなら居眠りをしているところだが、今日はそういう訳にもいかなかった。今日は最近ハマっているゲームのイベントを周回しないといけないのだ。
案の定、見つかって怒られた。しかし、周りにはそれを蔑むように見る人と笑っている人がいた。そこで気づいた。僕が変わったのではなく、周りが変わったんだ。それに触発されて僕が元通りになったんだと認識した。そう自分の中で誤魔化した。
「…でね~」
帰り道、本を買いたいと夢叶が言ったので、街の方へ来ていた。今はその帰り、夢叶が今日あった話を楽しそうに話している。僕はそれに相槌を打っていた。特に何も変わらぬ日常の延長線。そう思っていた時。
「助けて!」
と、弱々しいがはっきりと助けを求める声が聞こえた。辺りを見渡すと、路地に連れ込まれている女子高生と、その子を引っ張る男の姿が見えた。
「…夢叶、先帰っててくれ」
「え、お父さん?」
夢叶の返答を待たずして僕は走り出した。人混みがひどかったが、上手くその間を縫うように通り、最短で路地まで向かえた。そして路地に入ると、壁に押し倒されている女子高生が涙を流していて、男は女子高生の足に手を伸ばそうとしていた。
「おいおっさん、援交ならもっと目立たねぇところでやるこったな」
「…あ?誰だ坊主」
ぬっと男は振り返った。見ると年齢は40代前後で、身長は僕と同じくらいだった。
「だから、その女の子を離せって言ってんだ」
「お前みたいなクソガキに命令される筋合いはねぇんだよ、帰れ」
女の方を見ると、口パクで『助けて』と言っていた。そして涙を流していた。
「…はぁ、しゃーねぇ。やってやるよ。俺が負けたら帰ってやる。でも勝ったら…」
僕は強く1歩を踏み出して、
「その女の子に謝罪してもらう」
と、威圧するように言いながら歩き出す。
「こんの…クソガキがァ!」
男は大きく腕を振りかぶってきた。その動きはノロく、見てからでも簡単に避けられた。そして足を蹴り、前かがみに体制が崩れたところにボディーブローをかました。
「ぐふぉぁ!」
男は情けない言葉を吐きながら跪いた。そして僕は男の頭を踏みつけ、
「はい、謝罪は?」
「…クソがぁ」
その後、男は女子高生に謝罪をして去っていった。
「…帰るか」
「ま、待って!」
呼び止められたが、どうでもよかったので路地を出ようとする。
「真君、だよね?」
名前を呼ばれ、足を止めた。そして振り返って顔をよく見ると、夢叶のグループの内の一人だった。
「やっぱりそうだ!…あの、ありがとね」
「…早く帰れ、もう襲われんなよ」
僕はそう言い残し、路地を出た。
僕は、変わったのだろうか。前までの、いつもの僕ならこういう場面に出くわした時どうしていたのだろう。今回のように助けていたのだろうか。もし、僕のことを見ている人がいたら教えてくれ。
「僕は、変わったのだうか」
そう呟きながら、僕は家までの岐路をたどった。
「…ねぇ、お父さん」
「…どうした?」
今は登校中、特に話すことも無く静かな空気が流れていたが、夢叶が口を開いた。
「お父さんはさ、変化に敏感だったりする?」
「…唐突だな。僕はそこまで気づかないタイプだ」
「そっか~。実はね、私がいつもいるグループでお父さんが話題に上がったの」
「…ほう」
夢叶の所属するグループ、つまり陽キャのグループで陰キャの、そして不良の噂が流れている僕が話題に上がるとは。
「でね、内容が、実はお父さんは良い人なんじゃないかって」
「…なぜそうなった」
僕が優しいだと?勝手に僕のことを不良だなんだと1年間言ってきて、今さら手のひらを返すのか。
「だって、私といつも登下校一緒だし、学校では私に対して普通に接してるし」
「…そりゃ、血が繋がってるから当然だろ」
「他の人から見たら、それが不思議でしかないんだって」
そんなものなのか。確かに夢叶が来るまでは他人に対して冷たく接していたが、それはいつも相手がまるで猛獣を相手にしているかのような感情で話しかけてきていたからだ。僕ではなく、相手に問題があったのだ。
「私も思うよ、お父さん変わったなって」
「僕は変わってない」
「変わってるよ、最初会った時はすぐ暴言吐いてたもん」
「うるさい殺すぞ」
「今さら意味無いよ」
そんな話をしていると学校に着き、教室に入る。確かに、いつも聞こえていた悪口や舌打ちが少なくなっていたのは事実だ。
そこで僕は自分が変わったことを少し実感した。まぁ、少し見る目が変わっただけで、不良のレッテルは剥がれない。というより、僕はいつから不良と言われ出したのだろう。僕ですら分からない。
学校のチャイムが鳴り、授業が始まる。いつもなら居眠りをしているところだが、今日はそういう訳にもいかなかった。今日は最近ハマっているゲームのイベントを周回しないといけないのだ。
案の定、見つかって怒られた。しかし、周りにはそれを蔑むように見る人と笑っている人がいた。そこで気づいた。僕が変わったのではなく、周りが変わったんだ。それに触発されて僕が元通りになったんだと認識した。そう自分の中で誤魔化した。
「…でね~」
帰り道、本を買いたいと夢叶が言ったので、街の方へ来ていた。今はその帰り、夢叶が今日あった話を楽しそうに話している。僕はそれに相槌を打っていた。特に何も変わらぬ日常の延長線。そう思っていた時。
「助けて!」
と、弱々しいがはっきりと助けを求める声が聞こえた。辺りを見渡すと、路地に連れ込まれている女子高生と、その子を引っ張る男の姿が見えた。
「…夢叶、先帰っててくれ」
「え、お父さん?」
夢叶の返答を待たずして僕は走り出した。人混みがひどかったが、上手くその間を縫うように通り、最短で路地まで向かえた。そして路地に入ると、壁に押し倒されている女子高生が涙を流していて、男は女子高生の足に手を伸ばそうとしていた。
「おいおっさん、援交ならもっと目立たねぇところでやるこったな」
「…あ?誰だ坊主」
ぬっと男は振り返った。見ると年齢は40代前後で、身長は僕と同じくらいだった。
「だから、その女の子を離せって言ってんだ」
「お前みたいなクソガキに命令される筋合いはねぇんだよ、帰れ」
女の方を見ると、口パクで『助けて』と言っていた。そして涙を流していた。
「…はぁ、しゃーねぇ。やってやるよ。俺が負けたら帰ってやる。でも勝ったら…」
僕は強く1歩を踏み出して、
「その女の子に謝罪してもらう」
と、威圧するように言いながら歩き出す。
「こんの…クソガキがァ!」
男は大きく腕を振りかぶってきた。その動きはノロく、見てからでも簡単に避けられた。そして足を蹴り、前かがみに体制が崩れたところにボディーブローをかました。
「ぐふぉぁ!」
男は情けない言葉を吐きながら跪いた。そして僕は男の頭を踏みつけ、
「はい、謝罪は?」
「…クソがぁ」
その後、男は女子高生に謝罪をして去っていった。
「…帰るか」
「ま、待って!」
呼び止められたが、どうでもよかったので路地を出ようとする。
「真君、だよね?」
名前を呼ばれ、足を止めた。そして振り返って顔をよく見ると、夢叶のグループの内の一人だった。
「やっぱりそうだ!…あの、ありがとね」
「…早く帰れ、もう襲われんなよ」
僕はそう言い残し、路地を出た。
僕は、変わったのだろうか。前までの、いつもの僕ならこういう場面に出くわした時どうしていたのだろう。今回のように助けていたのだろうか。もし、僕のことを見ている人がいたら教えてくれ。
「僕は、変わったのだうか」
そう呟きながら、僕は家までの岐路をたどった。
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