上 下
10 / 12
本編

【第9話】気づかぬ変化

しおりを挟む
 …あれから、約1ヶ月が経ち、お互いあの時の記憶は薄れていった。おそらく似たようなことが起きれば、次は僕の理性は耐えられないだろう。
「…ねぇ、お父さん」
「…どうした?」
 今は登校中、特に話すことも無く静かな空気が流れていたが、夢叶が口を開いた。
「お父さんはさ、変化に敏感だったりする?」
「…唐突だな。僕はそこまで気づかないタイプだ」
「そっか~。実はね、私がいつもいるグループでお父さんが話題に上がったの」
「…ほう」
 夢叶の所属するグループ、つまり陽キャのグループで陰キャの、そして不良の噂が流れている僕が話題に上がるとは。
「でね、内容が、実はお父さんは良い人なんじゃないかって」
「…なぜそうなった」
 僕が優しいだと?勝手に僕のことを不良だなんだと1年間言ってきて、今さら手のひらを返すのか。
「だって、私といつも登下校一緒だし、学校では私に対して普通に接してるし」
「…そりゃ、血が繋がってるから当然だろ」
「他の人から見たら、それが不思議でしかないんだって」
 そんなものなのか。確かに夢叶が来るまでは他人に対して冷たく接していたが、それはいつも相手がまるで猛獣を相手にしているかのような感情で話しかけてきていたからだ。僕ではなく、相手に問題があったのだ。
「私も思うよ、お父さん変わったなって」
「僕は変わってない」
「変わってるよ、最初会った時はすぐ暴言吐いてたもん」
「うるさい殺すぞ」
「今さら意味無いよ」
 そんな話をしていると学校に着き、教室に入る。確かに、いつも聞こえていた悪口や舌打ちが少なくなっていたのは事実だ。
 そこで僕は自分が変わったことを少し実感した。まぁ、少し見る目が変わっただけで、不良のレッテルは剥がれない。というより、僕はいつから不良と言われ出したのだろう。僕ですら分からない。
 学校のチャイムが鳴り、授業が始まる。いつもなら居眠りをしているところだが、今日はそういう訳にもいかなかった。今日は最近ハマっているゲームのイベントを周回しないといけないのだ。
 案の定、見つかって怒られた。しかし、周りにはそれを蔑むように見る人と笑っている人がいた。そこで気づいた。僕が変わったのではなく、周りが変わったんだ。それに触発されて僕が元通りになったんだと認識した。そう自分の中で誤魔化した。
「…でね~」
 帰り道、本を買いたいと夢叶が言ったので、街の方へ来ていた。今はその帰り、夢叶が今日あった話を楽しそうに話している。僕はそれに相槌を打っていた。特に何も変わらぬ日常の延長線。そう思っていた時。
「助けて!」
 と、弱々しいがはっきりと助けを求める声が聞こえた。辺りを見渡すと、路地に連れ込まれている女子高生と、その子を引っ張る男の姿が見えた。
「…夢叶、先帰っててくれ」
「え、お父さん?」
 夢叶の返答を待たずして僕は走り出した。人混みがひどかったが、上手くその間を縫うように通り、最短で路地まで向かえた。そして路地に入ると、壁に押し倒されている女子高生が涙を流していて、男は女子高生の足に手を伸ばそうとしていた。
「おいおっさん、援交ならもっと目立たねぇところでやるこったな」
「…あ?誰だ坊主」
 ぬっと男は振り返った。見ると年齢は40代前後で、身長は僕と同じくらいだった。
「だから、その女の子を離せって言ってんだ」
「お前みたいなクソガキに命令される筋合いはねぇんだよ、帰れ」
 女の方を見ると、口パクで『助けて』と言っていた。そして涙を流していた。
「…はぁ、しゃーねぇ。やってやるよ。俺が負けたら帰ってやる。でも勝ったら…」
 僕は強く1歩を踏み出して、
「その女の子に謝罪してもらう」
 と、威圧するように言いながら歩き出す。
「こんの…クソガキがァ!」
 男は大きく腕を振りかぶってきた。その動きはノロく、見てからでも簡単に避けられた。そして足を蹴り、前かがみに体制が崩れたところにボディーブローをかました。
「ぐふぉぁ!」
 男は情けない言葉を吐きながら跪いた。そして僕は男の頭を踏みつけ、
「はい、謝罪は?」
「…クソがぁ」
 その後、男は女子高生に謝罪をして去っていった。
「…帰るか」
「ま、待って!」
 呼び止められたが、どうでもよかったので路地を出ようとする。
「真君、だよね?」
 名前を呼ばれ、足を止めた。そして振り返って顔をよく見ると、夢叶のグループの内の一人だった。
「やっぱりそうだ!…あの、ありがとね」
「…早く帰れ、もう襲われんなよ」
 僕はそう言い残し、路地を出た。
 僕は、変わったのだろうか。前までの、いつもの僕ならこういう場面に出くわした時どうしていたのだろう。今回のように助けていたのだろうか。もし、僕のことを見ている人がいたら教えてくれ。
「僕は、変わったのだうか」
 そう呟きながら、僕は家までの岐路をたどった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

咲き乱れろスターチス

シュレッダーにかけるはずだった
青春
自堕落に人生を浪費し、何となく社会人となったハルは、彼女との待ち合わせによく使った公園へむかった。陽炎揺らめく炎天下の中、何をするでもなく座り込んでいると、次第に暑さにやられて気が遠のいてゆく。  彼は最後の青春の記憶に微睡み、自身の罪と弱さに向き合うこととなる。 「ちゃんと生きなよ、逃げないで。」  朦朧とした意識の中、彼女の最後の言葉が脳裏で反芻する。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

AOZORA

Yuniarti
青春
高尾は帝光中のリベロ。彼はそこでバレーボールの先輩たちから影響を受け、ホワイトイグル高校に進学しました。しかし、ホワイトイグル高校のバレーボール部は先輩たちが卒業してなくなってしまっていました。彼は部員を集め、厳しい練習を続け、日本一のバレーボール学校に育て上げました?

山の上高校御馬鹿部

原口源太郎
青春
山の上にぽつんとたたずむ田舎の高校。しかしそこは熱い、熱すぎる生徒たちがいた。

今日の桃色女子高生図鑑

junhon
青春
「今日は何の日」というその日の記念日をテーマにした画像をAIで生成し、それに140文字の掌編小説をつけます。 ちょっぴりエッチな感じで。 X(Twitter)でも更新しています。

萬倶楽部のお話(仮)

きよし
青春
ここは、奇妙なしきたりがある、とある高校。 それは、新入生の中からひとり、生徒会の庶務係を選ばなければならないというものであった。 そこに、春から通うことになるさる新入生は、ひょんなことからそのひとりに選ばれてしまった。 そして、少年の学園生活が、淡々と始まる。はずであった、のだが……。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

処理中です...