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本編

【第4話】認知と信頼

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「あ、やっと帰ってきた。遅いよ~」
中に入ると、制服姿であぐらをかいて座っている時貞夢叶がいた。
僕は無言でポケットから携帯を取り出して緊急連絡の画面を開いた。
「ちょっと、何しようとしてるの!?」
焦った顔で携帯を取り上げられた。
「……いや、当たり前だろ。不法侵入だ」
「違うよ!ちゃんと鍵もらったって」
するとゴソゴソとポケットを漁り、この部屋の合鍵であろう代物を僕に見せつけた。
よく見ると、確かに僕の部屋の鍵っぽい。
「……なんでお前が持ってる」
「お母さんに頼んで貰った」
「……あいつめ」
僕は頭を抱えた。このアパートの大家は折祇伽莉奈の父、折祇優輝である。過去に親がいなくなった僕のために部屋を貸してくれた一人だ。それ故に折祇家とは面識がある。それにしても、何故折祇はこいつに僕の部屋の合鍵を渡したのだろうか。
「……出てってくれ」
「なんで?私はお父さんの娘だよ?」
「……いつまでその冗談を言うんだ。僕には子供なんて居ない」
「いるんだよ、それが私」
ピッと己を指さす彼女。僕はその態度に腹が立った。目の前の机を叩き、彼女を威圧した。彼女は2、3歩後ろに下がり、不安な表情を浮かべていた。
「ど、どうしたの?」
「……もう、やめてくれ。冗談は嫌いなんだ」
僕は顔を少し俯かせ、目を合わせずに言った。これ以上、話を続かせない為に。
「……じゃあ聞かせて、一つだけ」
彼女は座り、下から僕の目を見つめた。僕はそれでも目を逸らそうとしたが、頬に手を添えられ、思わずその手に目がいった。
「どうして私のことを認めてくれないの?」
「……それは」
あれ、なぜなのだろうか。理由を考えるが、出てこなかった。いや、正しく言うと、しっかりとした理由が出てこなかった。全て出てくるのは『気に食わない』だの『嫌いなタイプ』だの、感情論ばかりだった。
「ちゃんとした理由なんてないんでしょ?」
黙ることしか出来なかった。思わず手が出そうだったが、ここで暴力に逃げるのは弱者のすることだと本能で感じ、手を出すのをやめた。
「だったら、これから認めてよ」
「……は?」
すると彼女はニコッと笑い、僕の目をじっと見つめた。その顔は、どこか見覚えのある顔で、僕に安心感を与える表情だった。
「これから長い時を一緒に過ごして、私のことを理解して、私のことを認めて。私のことを娘だと」
意味が分からなかったし、納得もできなかった。でもいつの間にか僕の目線は彼女と同じになっていて、頬に何かが伝っていた。
「あ、泣いてるの?」
「馬鹿、泣いてるわけじゃ……」
枯れたはずの涙が流れた。僕にも理解できない涙だった。何度拭いても止まらなかった。
頭が優しい力で引っ張られ、彼女の胸に蹲る形になった。
「……ごめんね、今日一日のこと。急すぎて頭が追いつかなかったと思う」
彼女の胸の中で、彼女の言葉をただ静かに聞いていた。突き放そうとする力も出ず、ただただ身を任せていた。
「でも私は本当にお父さんの娘。これだけは信じて欲しい。そしてこれから認めて欲しい。時貞夢叶という存在を」
やがて涙が止まり、僕は彼女から離れた。そして目が合い、彼女は僕に微笑みかけた。僕はそれに答えるように口を開き、言葉を告げた。
「……分かった、その…」
「夢叶って、そのまま呼んで」
「……夢叶」
すると彼女は満面の笑みを浮かべた。
これから僕と夢叶の2人暮らしが始まると思うと気が遠くなるが、やっていくしかない。この光景をクラスのやつに見られたら何をされるだろうか。
「とりあえず、学校での取り決めを決めるぞ」
「はーい」
1時間ほど家族会議が始まった。
この出会いは偶然が必然か、その運命は神のみぞ知る。だが一つだけ言えることは、厄介事に巻き込まれた気分だということ。この僕の判断が今後吉と出るか凶と出るのかは、今は誰も知らない。
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