上 下
3 / 11

3話 よくある断罪劇

しおりを挟む
「クリフ!このご令嬢、バスクード国の公爵令嬢じゃないか!」

 大量の釣書をクリフの説明付で片っ端から開いていた最中、私は最後の「ソレ」を開いた瞬間、クリフより先に言葉が飛び出した。

 美しい漆黒の黒髪に、宝石のような紫の瞳。
 顔立ちも美しく、教養もあり、淑女の鑑と呼ばれた女性。

「ふふっ、覚えておいでで良かったです。実は、先ほどまでご紹介いたしましたご令嬢方は前座・・・と言っては令嬢方に失礼ですが、貴方様が今まで苦手にされてきた我が国のご令嬢と隣国のご令嬢ばかりです。まぁ、ご自分でも気付いておいでのようでしたが」

 不敵に笑うクリフに悪寒が・・・。

 うん、確かに気付いてたけどね。
 クリフがさっきまで紹介してくれてたご令嬢達は、昔から私に対し陰で陰湿な噂をまき散らしたり、嫌がらせをしてきた、言わば私の「天敵」と言っていい位の令嬢ばかりだった。
 クリフに紹介をされながら、何の嫌がらせかと思ってたよ。

 で、後出しのように出してきた、隣国であるバスクード国のシルク・エリンスト公爵令嬢。
 彼女は数年前までバスクード国の王太子、ステファン・ドルト・バスクードの「婚約者」だった女性だ。


*****


 彼女との出会いは約三年前まで遡る。

 三年前、私は将来の為と称し、バスクード国の王立貴族学園に留学していた。

 まぁ、実際は婚約者を作れという両親達から逃げる為だったのだが、学園では友人もでき、つつがなく日々を過ごしていた。

 そして月日は流れ留学から一年が過ぎた時、事件は起こった。

 その日は、この学園の卒業パーティーだった。
 王族を始めとする、各家々の保護者も来賓として出席しており、パーティーは大変華やかなものだった。
 
 そんな中で起こった悲劇・・・いや、「喜劇」かな?

 この日は私以外にもいる、各国からの留学生の保護者も来ていたというのに、バスクード国の王太子は、盛大に「やらかした」のだ。

「シルク・エリンスト!今日、この場をもって貴様との婚約は破棄する!」

 私が久しぶりに会ったセイグリア国と同盟を結んでいる国の王族と話している最中、それは起こった。
 
「ん?」

 会場内に響き渡る、王太子ステファンの声。
 誰もがその声に驚き耳を傾けた。
 
 今・・・婚約破棄って言わなかったか?

「シルク!貴様は事もあろうに、私の愛するティファ・コロント子爵令嬢に数々の嫌がらせをし、皆の前で辱めたそうだな!そんな女とは結婚などできん!この場にて婚約を破棄し、国外追放に処する!貴様のような性根の腐った女などいらん!この国の汚物でしかないわ!」

 ・・・・この王子様すっごい事、サラっと言ってのけたよ。

「殿下、何を証拠にそのような事を!私はそのような事はしておりません!」
「煩い!全てティファより聞いておる!」
「証拠はあるのですか!」
「ティファの証言が証拠だ!貴様は馬鹿か!」

 うん。馬鹿はお前じゃん?
 あーあ、バスクードの両陛下は既に頭かかえてるよ。
 
 ・・・それにしても何てテンプレ。

「何これ、ラノベ?」

 私が思わず発した言葉が、ステファンの「馬鹿か!」で静まりかえった会場に無駄に大きく響いた。
 その瞬間、キッと睨みつけてきたステファンに、私は呆れかえったような表情で返す。

「レイスリッド貴様には関係なかろう!我が国の事に口を出すな!」

 いや、私この件に関して何も言ってませんが。
 昔からステファンの事は知ってるけど・・・おつむが弱いとは思ってたけど、この男こんなに馬鹿だったんだ。いいのは顔だけかい。

 ふと下げていた目線を上げると、困惑顔のシルク嬢と目が合った。
 まぁ、いいか。どちらにしても気分悪いし。

「別にこの国の事に口出すつもりはないけど、なにコレ「ざまぁ」なやつ?」
「は?貴様は何を言っているのだ、訳のわからん事を!」
「まぁ、いいや。それよりステファン、君何か勘違いしてない?」
「何だと!」

 呆れながらも、冷静に話す私に対し、怒り心頭のステファン。
 まったく、王族ならこういった場は冷静さを保たなくてはね。私を始め他国の人間に示しがつかないだろうに。
 あ、両陛下ががふらつきながら椅子に。
 この先を考えたらそうなるだろうね。この王子様は王族から下手したら追放とかになるんじゃないかな。

「君さぁ、さっきから聞いてたけど理屈が通ってない事だらけじゃない?」
「何だと!」
「だってそうでしょ?そこの令嬢の事だって、「私の愛する」って、浮気してた人間が何偉そうに説教してるのさ。しかも、証拠はその令嬢の証言だけって。どう考えてもおかしいでしょ?」

 それからは、最後まで私のターンだった。
 証拠とやらの矛盾点を片っ端から指摘してやり、反論を全て論破。
 だってさぁ、シルク嬢が私や友人達といた時間に階段から落とされたとか言うんだよ?陥れたいならこの令嬢もあらかじめ調べとけってーの。ホントやることなすこと穴だらけ。
 こんなんで未来の王妃目指したいってんだから・・・頭大丈夫?としか言いようがないでしょ。
 まぁ、頭の弱いステファンとはお似合いだろうけどね。

「で?ご反論は以上ですか?」

 私の言葉に、顔色を変えたステファンにティファ嬢。
 会場からは何故か拍手が巻き起こっていた。

 その後、直ぐに二人はバスクード王の命により会場から引きずり出されて行き、私はシルク嬢やそのご両親から礼を言われた。そして、両陛下からは謝罪の言葉があった。
 その後、何事もなかったようにパーティーは再開されたのだが、私がこんな派手な事をしでかしてしまった事もあり、後日、この事件はうちの両親が直ぐに知る事となった。そのせいで、「他国でお前は何をしとるんだ!」と、大変呆れさせてしまった。
 まぁ、お咎めはなかったけどね。
 そして、学園内で無駄に有名になった私は、この学園に居づらくなってしまい、あと卒業まで一年を残し帰国したのだった。

 でだ。
 その時の婚約破棄された令嬢、シルク嬢が、何故か私のお見合い相手に含まれていた。
 
「これ、どう言う事?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

死んで巻き戻りましたが、婚約者の王太子が追いかけて来ます。

拓海のり
恋愛
侯爵令嬢のアリゼは夜会の時に血を吐いて死んだ。しかし、朝起きると時間が巻き戻っていた。二度目は自分に冷たかった婚約者の王太子フランソワや、王太子にべったりだった侯爵令嬢ジャニーヌのいない隣国に留学したが──。 一万字ちょいの短編です。他サイトにも投稿しています。 残酷表現がありますのでR15にいたしました。タイトル変更しました。

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

断罪シーンを自分の夢だと思った悪役令嬢はヒロインに成り代わるべく画策する。

メカ喜楽直人
恋愛
さっきまでやってた18禁乙女ゲームの断罪シーンを夢に見てるっぽい? 「アルテシア・シンクレア公爵令嬢、私はお前との婚約を破棄する。このまま修道院に向かい、これまで自分がやってきた行いを深く考え、その罪を贖う一生を終えるがいい!」 冷たい床に顔を押し付けられた屈辱と、両肩を押さえつけられた痛み。 そして、ちらりと顔を上げれば金髪碧眼のザ王子様なキンキラ衣装を身に着けたイケメンが、聞き覚えのある名前を呼んで、婚約破棄を告げているところだった。 自分が夢の中で悪役令嬢になっていることに気が付いた私は、逆ハーに成功したらしい愛され系ヒロインに対抗して自分がヒロインポジを奪い取るべく行動を開始した。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

あの素晴らしい愛をもう一度

仏白目
恋愛
伯爵夫人セレス・クリスティアーノは 33歳、愛する夫ジャレッド・クリスティアーノ伯爵との間には、可愛い子供が2人いる。 家同士のつながりで婚約した2人だが 婚約期間にはお互いに惹かれあい 好きだ!  私も大好き〜! 僕はもっと大好きだ! 私だって〜! と人前でいちゃつく姿は有名であった そんな情熱をもち結婚した2人は子宝にもめぐまれ爵位も継承し順風満帆であった はず・・・ このお話は、作者の自分勝手な世界観でのフィクションです。 あしからず!

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

お飾り婚約者はそろそろ暇を貰おうと思います。

夢草 蝶
恋愛
 リスリアーノは侯爵令息の仮初の婚約者として無為な日々を茫洋と過ごしていた。  ある日、父親に連れられて参加した夜会で婚約者とその恋人の逢瀬に出くわし、立ち往生していると見知らぬ青年と出会う。  青年は遊学から帰った公爵家の令息・アウグストだった。  成り行きでアウグストに自身の婚約の事情について話したリスリアーノは、その時にアウグストに言われた言葉で自分はこのままでいいのかと考えるようになる。  その矢先、婚約者であるペーターから婚約破棄を突きつけられ──。

悪役令嬢と呼ばれた彼女の本音は、婚約者だけが知っている

当麻月菜
恋愛
『昔のことは許してあげる。だから、どうぞ気軽に参加してね』 そんなことが書かれたお茶会の招待状を受け取ってしまった男爵令嬢のルシータのテンションは地の底に落ちていた。 実はルシータは、不本意ながら学園生活中に悪役令嬢というレッテルを貼られてしまい、卒業後も社交界に馴染むことができず、引きこもりの生活を送っている。 ちなみに率先してルシータを悪役令嬢呼ばわりしていたのは、招待状の送り主───アスティリアだったりもする。 もちろん不参加一択と心に決めるルシータだったけれど、婚約者のレオナードは今回に限ってやたらと参加を強く勧めてきて……。 ※他のサイトにも重複投稿しています。でも、こちらが先行投稿です。 ※たくさんのコメントありがとうございます!でも返信が遅くなって申し訳ありません(><)全て目を通しております。ゆっくり返信していきますので、気長に待ってもらえたら嬉しかったりします。

処理中です...