上 下
30 / 47

30 フリード・カジラエル侯爵子息の事情

しおりを挟む
 えっと、自己紹介しますね。

 僕はフリード・カジラエルと言います。
 カジラエル侯爵家の長男です。
 栗色の髪に、黄色の瞳をしています。
 皆様からは、よく歳を実年齢より下にみられるのが悩みですね。
 兄弟は下に弟が一人と、妹が一人います。

 僕の家は代々王宮魔法師団に勤めています。
 現魔法師団の団長は、僕の父です。
 父上は、カジラエル家の当主もしていまして、いずれは、僕がその地位を頂く予定になっています。



*****



 はぁ……今日も「彼女」とご一緒できて幸せでした。
 僕の「女神」。
 彼女の事を思うと、胸がいっぱいになります。

「早く君を僕のモノにしたいなぁ」



 僕は学園から帰宅すると同時に、自室で急いで着替えると、ある場所を目指しました。

 自宅である本邸から少し歩いた場所にある別邸。
 と言っても、屋敷ではなく「塔」なんですけどね。
 僕は、その塔の入り口に着くと、いつものように扉に手をかざしました。

 この塔には魔法錠がかけられています。
 しかも、カジラエル家の人間にしか開けられない仕組みになっているのです。

 指先から魔力の線を紡ぎ、立体魔法陣を描くと、ドアノブから「カシャン」と、音が鳴りました。
 そして、自動で開く扉。

 僕はニヤける顔を正しながら、塔へと入りました。

 いつもながらカビ臭さと、埃っぽい場所。
 でも僕は気にしない………ここには「アレ」が居ますからね。

 何段か階段を登ると、僕は「ある部屋」の前で立ち止まりました。
 何重にも魔法錠が掛けられた特別な部屋。
その錠を全て開けると、僕はゆっくりと部屋に足を踏み入れました。

「お久しぶりですね、叔父上」

 部屋の中は、かなりの広さがあります。
ただ、僕が入れるのはその半分までです。
 何故かと言うと、部屋は真っ二つ分けられ、奥半分は鉄格子で仕切られているのです。

 僕は、その鉄格子の中にいる、やせ細った人物に満面の笑みを見せました。

「………フリード」

 魔力を吸収する魔法陣の上、中にいる人物は虚な表情でボソリと声を発しました。

 相変わらず汚いなぁ………それに。

「フリード「様」でしょ?叔父上。また躾をされたいのですか?」

 口角を上げ蔑むと、目の前の「犬」は、顔色を変え部屋の角まで逃げていきました。
 全く、犬の分際で呼び捨てなど、反吐が出る。

「もっ、申し訳ありません、フリードさま」

 あぁ、説明しますね。

 僕の目の前にいるこの男は、僕の「叔父上」。
 本来なら、カジラエル家の当主になるはずだった男です。
 ある理由から、叔父は廃嫡されこの「塔」に囚われています。

 この塔は、中に囚えた者から魔力を吸い上げ貯める機能を持っています。そして、その魔力は僕の家の「魔法研究」に使われているのです。
 今この塔には五人の「囚われ人」が住んでいます。
 いずれも、カジラエル家出身で、この家に「要らない」と判断された者達ばかりです。

「さて、叔父上。僕が貴方に会いに来た理由はお分かりですよね」

 満面の笑みで叔父上を見ると、彼はビクつきながら頷きました。
 そして、手をかざしある魔法を実行。

 一瞬部屋の中を眩い光が充します。
 そして、それが収まると、部屋の中には「ある映像」が映る球体が幾つも浮いていました。

「あぁ、相変わらず美しいな」

 これは叔父上の「ギフト」。
 「記憶の泉」と呼ばれる、過去の自分の記憶を他者に見せる事ができるギフトです。

 球体に映る映像は、叔父上の過去。
 僕は、それを恍惚な表情で見つめました。

 映像は、叔父上が学園にいた時代の記憶。
 そこには「ある女性」が、満面の笑みで笑っています。

 ララベル・ラファエロ嬢。

 ラファエロ伯爵家の長女だった方。
 昔、たまたま叔父上が彼女の映像を観ていた場面に僕は出会し、その瞬間、衝撃が走りました。
 僕は、一瞬にして彼女に恋をしたのです。
 ピンクゴールドの髪をなびかせ、優しく笑うその顔は「女神」のように美しい。

 本当、学園で「彼女」に会った時は、何の奇跡だと思いましたよ。

 フレア・ラファエロ嬢。

「女神」に似た容姿をした、笑顔溢れる彼女。
 同じラファエロ家、本家の遠縁との話でしたが、きっと「女神」に近しい遺伝子の持ち主なんでしょうね。あの髪に瞳……本当に、奇跡のようにそっくりなんですから。

「はぁ、美しいな………ララベル嬢、フレア嬢。なんて罪なんだ。二人ともここまで僕を虜にして……本当に、イケナイ方々だ」


 あれ?叔父上の表情が変わったね。


「ふ…フレア嬢?」

 震えながら聞いてきた叔父上に、僕は満面の笑みを見せた。
 そう言えば、叔父上の前でフレア嬢の話をしたのは初めてでしたね。

 僕は、叔父上と同じギフトで、この部屋に映る映像を上書きしました。
 実はこのギフト、僕も所有しているんです。

 今日のフレア嬢も可愛かったな…と思いながら、叔父上に映像を見せます。

「あぁ…あ、あ、ら、ララベル!」

 やはり叔父上も同じ反応か。
 僕すら驚いたんだ。ララベル嬢と直接面識のあった彼が驚かない訳がない。

「叔父上、僕は彼女を「妻」に迎えようと思っているのですよ。まぁ、叔父上には関係ない話ですがね…クスリ」

 叔父上に顔を向け、見下しながら満面の笑みを作ると、叔父上の表情からどんどん色が抜けていく。

「羨ましいですか?自分が手に出来なかった「女神」を貴方が大っ嫌いな僕に持っていかれるのは」

 今の半分狂った叔父上には、ララベル嬢とフレア嬢の区別はほぼついていないだろう。
 だが、そんな事はどうでもいい。

「ララベル!ララベル!ララベル!」

 ガシャガシャと音を立てて鉄格子を揺さぶる叔父上。
 五月蝿い犬だ。
 ララベル嬢を手に入れそこない、この塔に囚われたのはアンタの自業自得でしょうに。

「いずれ、僕が彼女を妻に迎えた時は、ちゃんと紹介してさしあげますからね?叔父上」

 僕は悪魔の様な笑みで、叔父上に微笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

作られた悪役令嬢

白羽鳥(扇つくも)
恋愛
血塗られたエリザベス――胸に赤い薔薇の痣を持って生まれた公爵令嬢は、王太子の妃となる神託を受けた。 けれど王太子が選んだのは、同じく胸に痣のある異世界の少女。 嫉妬に狂ったエリザベスは少女を斧で襲い、王太子の怒りを買ってしまう。 罰として与えられたのは、呪いの刻印と化け物と呼ばれる伯爵との結婚。 それは世界一美しい姿をした、世界一醜い女の物語――だと思われていたが……? ※作中に登場する名前が偶然禁止ワードに引っ掛かったため、工夫を入れてます。 ※第14回恋愛小説大賞応募作品です。3月からは不定期更新になります。 ※「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

役立たずの私はいなくなります。どうぞお幸せに

Na20
恋愛
夫にも息子にも義母にも役立たずと言われる私。 それなら私はいなくなってもいいですよね? どうぞみなさんお幸せに。

くだらない毎日に終止符を

ごろごろみかん。
恋愛
公爵令嬢フランチェスカ・ヴィヴィアナは既に何回目かの婚約破棄騒動に挑んでいた。この流れは既に知っているものである。なぜなら、フランチェスカは何度も婚約破棄を繰り返しているからである。フランチェスカから婚約破棄しても、王太子であるユーリスから婚約破棄をされてもこのループは止まらない。 そんな中、フランチェスカが選んだのは『婚約を継続する』というものであった。 ループから抜け出したフランチェスは代わり映えのない婚姻生活を送る。そんな中、ある日フランチェスカは拾い物をする。それは、路地裏で倒れていた金髪の少年でーーー

【第二部連載中】あなたの愛なんて信じない

風見ゆうみ
恋愛
 シトロフ伯爵家の次女として生まれた私は、三つ年上の姉とはとても仲が良かった。 「ごめんなさい。彼のこと、昔から好きだったの」  大きくなったお腹を撫でながら、私の夫との子供を身ごもったと聞かされるまでは――  魔物との戦いで負傷した夫が、お姉様と戦地を去った時、別チームの後方支援のリーダーだった私は戦地に残った。  命懸けで戦っている間、夫は姉に誘惑され不倫していた。  しかも子供までできていた。 「別れてほしいの」 「アイミー、聞いてくれ。俺はエイミーに嘘をつかれていたんだ。大好きな弟にも軽蔑されて、愛する妻にまで捨てられるなんて可哀想なのは俺だろう? 考え直してくれ」 「絶対に嫌よ。考え直すことなんてできるわけない。お願いです。別れてください。そして、お姉様と生まれてくる子供を大事にしてあげてよ!」 「嫌だ。俺は君を愛してるんだ! エイミーのお腹にいる子は俺の子じゃない! たとえ、俺の子であっても認めない!」  別れを切り出した私に、夫はふざけたことを言い放った。    どんなに愛していると言われても、私はあなたの愛なんて信じない。 ※第二部を開始しています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

婚約破棄された王女が全力で喜びましたが、何か問題でも?

yukiya
恋愛
 ファントム王国の第一王子、アスロンから、夜会で婚約破棄を叫ばれたエルステーネ(隣国であるミリガン王国の第二王女)だが。 「それ、ほんとうですか!?」  喜ぶエルステーネにアスロンが慌てて問いかける。 「え、何故喜んでいるか?そりゃ、馬鹿なこの国の馬鹿な王子に婚約破棄されたら嬉しいでしょ」

勘違いって恐ろしい

りりん
恋愛
都合のいい勘違いって怖いですねー

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

ループした悪役令嬢は王子からの溺愛に気付かない

咲桜りおな
恋愛
 愛する夫(王太子)から愛される事もなく結婚間もなく悲運の死を迎える元公爵令嬢のモデリーン。 自分が何度も同じ人生をやり直している事に気付くも、やり直す度に上手くいかない人生にうんざりしてしまう。 どうせなら王太子と出会わない人生を送りたい……そう願って眠りに就くと、王太子との婚約前に時は巻き戻った。 それと同時にこの世界が乙女ゲームの中で、自分が悪役令嬢へ転生していた事も知る。 嫌われる運命なら王太子と婚約せず、ヒロインである自分の妹が結婚して幸せになればいい。 悪役令嬢として生きるなんてまっぴら。自分は自分の道を行く!  そう決めて五度目の人生をやり直し始めるモデリーンの物語。

処理中です...