「要らない」と申しましたが? 〜私を悪役令嬢にしたいならお好きにどうぞ?〜

阿華羽

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29 アイゼン・アレクシス伯爵子息の事情

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 やれやれ、まず自己紹介からかい?

 オレの名はアイゼン・アレクシス。
 金茶の髪に、少し垂れ目がちな青い猫目のいい男だよ?
 オレの家は伯爵位をもち、大商家でもある。
 でもって、一応長男だから跡取りだね。
 因みに、オレの下には弟が一人いるよ。



 女の子が大好きで、色々遊んだけど、やっとオレの女神をみつけたんだ。
 オレは必ず彼女を幸せにしてみせるよ!




*****



 ウチは大商家。

 国内の品々も取り扱うけど、主に他国からの輸入品を扱っていて、珍しい品がわんさか取引きされている。
 因みに、商会名はアレクシス商会……まんまだね。ご先祖様はひねりが足りなかったようだ。

 いずれはこの商会をオレが引継ぐ予定だけど、まぁ、毎日商売について勉強勉強。

 息抜きに女の子と遊ぶ気持ちも分かるでしょ?



「ただいまぁっと」

 学園から帰宅し、玄関ホールを抜ける。
 メイド達から次々と頭を下げられる。

「お帰りなさいませ、坊っちゃま」

 これはオレの専属侍女エレン。
 元はオレの乳母だった女性だ。
 オレが女の子大好きなせいで、若い侍女はつけてもらえなくなったんだよね。おかげで、十二歳位から母上の侍女だったエレンがオレの侍女になった。

「ただいまぁ、今日もお祖父様のとこだよね?」
「はい、「旦那様」より商会に来るようにと、承っております」
「りょーかい。じゃ、支度手伝ってくれる?」

 今の会話から分かる様に、ウチの現当主は「お祖父様」だ。
 そして、次期当主は、父上…ではなくオレ。

 何か、昔父上が大ポカをやらかしたらしく、お祖父様に跡取りから外されたんだよね。
 確か、学生時代、父上は一人の女性にのめり込んでたらしいんだけど、まだ婚約者だった当時の王妃様にそのこが喧嘩売っちゃって、巻き添えにあった……って、父上は言ってた。

 オレには、自分と同じ過ちはするなって、溜息混じりに言ってたっけ。

 はぁ、本当に父上は要領が悪い……女の子に振り回されるなんてね。
 付き合い方が下手なんだよ。
 オレならもっと上手く対処してただろうね。
 ま、父上の自業自得だよね。

 さて、着替えも済んだし、お祖父様のとこに行かなきゃだね。

 オレは次の伯爵になるべく、毎日のように会頭であるお祖父様の所に行き、商売の勉強をしている。
 今日も本邸の近くにある、ウチの商会本社に直ぐに向かった。

 貴族街に程近い場所に建つウチの本社。
 一階と二階は店になっていて、三階が事務所になっている。
 オレはいつもの様に裏口から店に入り、そのままお祖父様がいる三階まで上がった。

 軽いノック三回で、部屋の中から圧のある声で返事がきた。

「アイゼンか?入れ」

 中に入ると、熊の様な風貌の老紳士が、広い机に書類を積み重ねて仕事をしていた。
 お祖父様は、商家の当主より、騎士団の方が合ってるんじゃないかと、昔よく思ったものだ。

「今日も宜しくお願いします」
「あぁ………自分の席に座りなさい」

 書類から目を離さずに、いつもの言葉。
 オレはその言葉を聞きながら、自分に与えられた席へと移動した。
 卓上には既に書類の山が作ってある。今日も中々の量だ。

「さて、やりますか」

 仕入れや、販売に関する書類達。
 お祖父様に教わりながら、どんどん書類を片付けていく。

 その時。

「アイゼン、お前、学園で好いた女ができたそうだな」

 お祖父様からの一言に、ペンを止めた。

「何故……と言っても無駄ですよね。ははっ、流石はお祖父様です。よい耳をお持ちだ」

 いやぁ、まぁ、噂は行くよね。
 お祖父様だから。
 あれ、ちょっと部屋の空気が重いな。

「アイゼン、遊びならかまわん。だが、お前の父親と同じ轍を踏むなら……私はお前を切り捨てるからな。これは「忠告」だ。肝に銘じておけ」

 はっ、オレが父上と同じ?

 冗談じゃない。ありえないね。
 オレは将来フレアちゃんを嫁にする。今は「あいつら」と同じでいてやるが、仲良しごっこをするつもりはない。
 まぁ、いずれあの二人にはご退場願う予定だ。
 今は呑気にしているといいさ。

 オレの女神は誰にも渡さない。

「大丈夫ですよ、お祖父様。オレは父上とは違いますから」

 お祖父様はオレの返答に鼻で笑われた。

「ふん、期待せずに待つとしよう」

 ははっ、厳しいなぁ。
 でも、オレは父上みたく要領悪くないのでご安心を、お祖父様。
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