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26 統治者と監視者

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「フィオラ!貴様婚約者の僕に「ソレ」を使うとはどう言う事だ!」

 弱腰ながら、クズ男が叫んできましたわ。
 心の底から嫌悪感が湧いてきますわね。
 このクズ男、何を寝ぼけてらっしゃるのかしら?

 極めて遺憾ですが、腐っても婚約者。彼は私のギフトをご存じです。
 それなのに、何ですの?その言い方は。

「あら、貴方はご存じですわよね?私のギフトの発動条件……なのに何ですの?その言い方は。貴方の言い分は、そっくりそのままアシェリー殿下への不敬ですわよ?」

 そう、アシェリーが己のギフトを発動したからこそ、私は出ざるをえませんでしたのに。
 そこのとこ、分かって………らっしゃらないから、こんな事を平気で言えるのでしたわね。

「だ、だが!それとこれとは!」
「同じです」

 たじろぐクズ男に、ピシャリと言ってのけました。

「殿下がギフトを使うと言う事がどんな事か理解していない貴方には、何を申し上げても意味がないとは思いますが、私のギフトの意味は婚約時にご説明したはずですが?」

 そう、私は王族の盾であり剣。
 それが宿命づけられたギフトを与えられたのだから。

「あのぉ…さっきから何を言ってるのか分からないんですけど?」

 そんな中、空気を読めない勇者はいるもので…。

 小娘がコテンと小首をかしげ、私に問ってきました。
 何でしょう…無性に腹が立ちますわ。
 この小娘、頭が沸いているにも程がありますわね。

「ラファエロさん、今、貴女のせいでこうなっている事はお気付きかしら?」

 氷の様な瞳で見据えると、一瞬の内に表情を変える小娘。
 本当に、単純で残念な頭をお持ちですわ。
 淑女たるもの、こうも「素」を出されるなんて。まぁ、今に始まった事ではありませんけど。

「貴女の殿下に対する「不敬」のせいで、私がこの場に来なくてはならなかったのですけど……まぁ、言った所で、貴女にはご理解頂けないみたいですわね、先程から何度も申し上げてますのに」

 わざとらしく、深い溜息を吐き申し上げました。
 これには、アシェも私に対して申し訳ないような表情ですわ。
 まったく、上に立つ者がそれでは困りますわね。
 私は王族の家臣。使われるのは当たり前な立場ですわ。

 本当に、お優しいんですから。
 ………とは言え、アシェが陛下によく似た無自覚二重人格者と言うのも知ってますけどね。

「フィオラさま、何なんですかさっきから!不敬?何言ってるのよ!アンタこそ失礼じゃない!何様よ!」

 ……………は?

 お馬鹿さんなの?、いえ、お馬鹿さんでしたわ。
 地がだだ漏れですわね。
 言葉を取り繕う事さえできてませんわ。

「貴女正気ですの?最初から説明しますが、お礼とは言え、アシェリーは王族、ましては王太子ですわよ?中身が安全かも分からない、調べてすらいない品をおいそれと受け取る訳がございませんでしょ?あと、殿下の婚約者は本人の承諾もですが、基本陛下がお決めになられますのよ?ご存じないのかしら……それと」

 私はチラリと、小娘の腰巾着達に視線を向けました。
 その瞬間、皆様揃って顔色を変えられましたわ。
 まぁ、一応常識はおありみたいですわね。
 今更気付いても遅いですが。

「そちらの殿方達にも、呆れてしまいますわね。貴族たる者、家臣たる者の王族に対する忠誠と敬いはどこに飛んでいってしまったんでしょうか?貴方達、こちらのラファエロさんに踊らされすぎではなくて?」

 この際ですから、言わせて頂きましたわ。
 小娘一人に情けないとは思わないのかしら。

「フィオラ!貴様、僕の婚約者でありながら何だその態度は!」
「ドロッセル嬢、確かにオレ達はフレアちゃんが大好きだけど、言い方と言うものがあるんじゃないかなぁ」
「あの、その言い方は酷いと思います。僕達はフレア嬢をお慕いしてますが、踊らされている訳ではありません」

 各々、一斉に反論なさいましたけど。
 頭痛になりそうですわね。
 常識はあっても、小娘が絡むと途端ポンコツになられるのね。

「お馬鹿ばっかりですわね、ユリウス様、貴方が私にそんな事を言う資格はありません。婚約者がいながら他の女性を庇う時点で何を言っても無意味ですわ。アレクシス様、貴方はもう少し周りを見て判断された方が良いのではなくて?ソレで商家をお継ぎになれるとお思いなら、片腹痛いですわ。……それと、カジラエル様、貴方様ほどの方が何故自分の過ちに気付かないのか不思議でなりませんわ。優秀すぎると不慣れな色恋には惑わされやすいのかしら?本当に、残念でなりませんわ」

 一気に捲し立てると、殿方達は悔しそうに顔を歪められました。
 私、本当の事を申しただけですわよ?情けないこと。

「………まぁ、フィオに口で勝とうと言うのがそもそも間違いだな」
「アシェ、聞こえてましてよ?」

 ボソリと後ろから聞こえた呟きに、思わずツッコんでしまいましたわ。
 間違えではありませんが、今言う事ではありませんよ?アシェ。

 さて、とりあえず…無駄なこの時間を終わりにしましょうか。
 付き合いきれませんわ。

「アシェリー殿下、失礼致しますわ」

 その瞬間、私は自身に魔力を纏い、アシェリーのギフトに同調させました。

 その瞬間、私の中を巡るアシェリーの魔力。
 浮遊感と、恍惚感が一気に体を駆け巡り、まるで私の全てをアシェリーに暴かれている感覚になります。

「………うっ」

 だから嫌なのよ。

 いつもの事とは言え、精神的にかなりやられますわ。
 でも、コレをしないと彼の「目」を頂けませんから、本当に仕方なしですわ。
 私にしかこの感覚が分からないのが、せめてもの救いですわね。……恥ずかしすぎますもの。

 私とアシェリーの魔力が混じり合い、同調したと同時に、私達の足元に金色に輝く魔法陣が描き上がります。

 そして。

「あの小娘、「何者」ですの?」

 アシェリーに見えていた「ソレ」が、私の視界にもハッキリ移りました。
 統治者のギフトによく似た魔力が、小娘を中心に撒き散らされています。

 ついをなすギフトを重ねて初めて分かる事。
 統治者の目でしか確認できない「ソレ」。

 アシェリーの「目」でやっと見えると言う事は、同じ魅了系のギフトと言う事でしょうか。

「見えたか?」
「はい、確かに」

 アシェリーからの一言に、直ぐに頷きました。
 これは、確かに危ないですわ。
 アシェリーがギフトを使ったのも頷けます。

「殿下、では参りますわ!」
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