「要らない」と申しましたが? 〜私を悪役令嬢にしたいならお好きにどうぞ?〜

阿華羽

文字の大きさ
上 下
21 / 52

21街までお買い物(フレア)

しおりを挟む
 ある日の休日。
 ここは王都中心部……から、少し離れた場所。

「おっかしいなぁ!絶対この辺なんだけど」

 どーもー。
 この物語のヒロイン、フレアちゃんでーす。
 今日も、とっても可愛い私。
 世の男どもの視線は、みーんな私に集まってるわ。

 ほら、私の横にいるアイゼンも、ずっと私を見てるもの。

「フレアちゃん、探してる店って本当にコッチ?」

 あ、説明まだだったわね。

 今私の横に居る人は、アイゼン・アレクシス。
 商人の家である、アレクシス伯爵家の嫡男よ。
 そして、好きマジの主要攻略キャラの息子。
 襟足を伸ばした金茶の髪に、少し垂れ目がちな猫目。
 好きマジ内では、お調子者キャラだった、ラキア・アレクシスにソックリな男。

 あの、とぼけたユリウスと違って、こっちは父親にホントそっくり。
 本当に、堕としがいがあるわ!

「うん、確かこっちで合ってるはずなんだけどぉ」

 今、私達はデートを兼ねて、街を散策中。

 ゲームでは何度も来たところだけど、現世では初めてなのよね、この辺。

 実は、今日私がこの場所に来たのは、ある目的があっての事。
 私は、ある「店」に「限定販売」されている品を探しにやって来た。

 その品とは、好きマジのキーアイテム、「笑う門には福来る」。
 ふざけたネーミングセンスのアレは、運営の暴走としか言いようがないわね。

 その実態は、「俵を担ぎ、熊手を持ったクマのぬいぐるみ」。
 確かに縁起が良さそうだけど、いかんせん、そのクマの容姿がゴ◯ゴなんだもの。
 あの彫りの深い顔に、眉毛……画面越しに初めて見た時は、吹き出したわ。

 通称、「ゴル熊」は、廃課金勢のコミニュティ間では有名なアイテム。
 ランダムで起こる、ヒロインの「ざまぁ」を絶対回避してくれる。

 コミュニティ間では有名だけど、微課金勢や、ケチな無課金達は、多分知らない情報なんじゃないかしら。
 見た目は、ふざけた高価な課金アイテム。
一見したら、単なるコレクションアイテムだもの。
 フレーバーテキストは、「これさえ有れば、幸福間違いなし!幸せを掴むのは君だ!……<持つ者に幸せを運ぶ、ありがたい ぬいぐるみ。譲渡可能>」だった。

 アレを、学園のあるイベント時に王太子にプレゼントすれば、ミッション完了。
 それさえしとけば、ヒロインの完全勝利ね!

「確か、この角を曲がった先……あ、あった!」

 パステルグリーンの壁に、白い扉。
 看板は「魔道具屋」を表す、杖と宝石。

「マルルーン魔法堂?……フレアちゃん、魔道具探してたの?」

 まぁ、普通のか弱い令嬢が、魔道具なんて買わないわよね。
 私はニッコリと微笑み、アイゼンの腕にスルリと自身の腕を絡めた。
 一応、サービスで胸もくっつけてあげるわ。

「アイゼン君、私、今魔法の勉強を頑張ってるのぉ。それで、どうしても欲しい魔道具があるんだけどね?このお店限定販売みたいで」
「ふ~ん、なら先に言ってくれたらいいのに。オレの家知ってるでしょ?貴族にして、大商人だよ?それくらい先に探してあげたのに」

 デレた顔で私を覗きこむアイゼン。
 本当、男ってチョロいわね。

 と言うか、「このお店限定販売」って言っただろーが!話し聞いてないの?
 他で売ってないから、態々来たんだっつーの!
 イベントアイテムが、ほいほい色んな所で売ってる訳ないじゃん。

 とは言え、今から「買ってもらう」んだから、愛想よくしとかなきゃ。
 なにせ、クソみたいな「高額アイテム」だったものね。
 現在の私のお小遣いでは、絶対に買えないわ!

「え~、だって、わざわざアイゼン君にお願いするのは悪いかなぁって……いつもお勉強一緒にしてくれてるし、これ以上迷惑掛けられないわ」

 ちょっと上目遣いで、うるうる目も忘れずに。

「何言ってるのさ、フレアちゃんは大事な大事なトモダチだよ。オレは君の力になれるなら嬉しいなぁ」
「アイゼン君……ありがとう」

 はぁ~、チョロ~。



 ーカラン、コロンー

 店の扉を開けると、よくある鐘の音が鳴った。
 店内は、そこまで広くないけど、中にはガラスの陳列台が並び、その中に色々な魔道具が並べられている。

 すごい!ゲームとまったく一緒だわ。
 生で見るとやっぱり違うわね!

「フレアちゃんが探してるのって、どれ?見た所、どれもウチの店にもある品ばっかりだけど」

 キョロキョロと、店内を見回すアイゼン。
 まぁ、アンタの家に比べたら、天と地の差がある店でしょうね。

 その時。

「いらっしゃいませ~」

 ウサギ耳の獣人店員来たー!
 ゲームまんま!、超ちっちゃい、超可愛い。
 まぁ、私には劣るけどね。

「こんにちはぁ。実は、私欲しい魔道具があるんですけどぉ、「笑う門には福来る」って言う幸せのクマさんなんですけど、あります?」

 その瞬間、ウサ耳店員の耳がビョーンって、真っ直ぐ伸びた。

「アレをご存知なんですか?」
「はい!あるんですね」

 やったわ!レアアイテムはまだ存在してた。
 お母さまの時代のアイテムだから、少し心配だったけど、問題なさそうね。

「少々お待ちください」

 いそいそとバックヤードに向かう店員。

 これで一安心ね!ざまぁエンド回避!
 後は、このバカ高いアイテムをアイゼンに買わすだけだわ。

 そして数分後、ウサ耳店員が長方形の箱を抱えて戻って来た。

「お待たせしました」

 木製カウンターに、大切そうに置かれる箱。
 さて、ご対面ね。

「見せてくださいね?」
「はい、どうぞ」

 ゆっくりと箱を開ける。
 その中には、目的のゴル熊………。

 じゃない!

 クマのぬいぐるみ…、それは間違いない。

 でも。

「あれ?フレアちゃん固まってどうしたの?………ん、このクマ可愛いね。ピンクだし、花束持ってる。頭にはティアラか……魔道具と言われなかった分からないね」

 ゴル熊じゃなあーーーーーい!

 何、どう言う事!
 違うアイテムじゃない!
 年数たって、モデルチェンジでもしたの⁉︎

「あ、あの……この魔道具、モデルチェンジしたの?」

 私の問いに、ウサ耳店員は、満面の笑み。

「はい、実はお店が経営難になりまして、その時、「ある貴族様」に助けて頂いたんです。その時に、お店の商品も一新しまして。今お店に並んでいる商品も、見た目は既製品と変わりませんが、付与されている魔法などは一級品ばかりですよ?」
「じゃあ、このクマもその時?」
「はい、その貴族様がオーナー様になって下さり、此方の「限定販売品」もリニューアルしました。……まぁ、確かにアレでは売れませんよね……可愛くないし」

 ちょっと待って!
 貴族って何?そんな設定知らないわ。

「その貴族様って……誰かしら?」
「え?ドロッセル侯爵家ですよ?」

 なっ、なんですってーーーーー!!!!!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今更何の御用でしょう? ウザいので止めて下さいませんか?

ノアにゃん
恋愛
私は3年前に幼馴染の王子に告白して「馬鹿じゃないの?」と最低な一瞬で振られた侯爵令嬢 その3年前に私を振った王子がいきなりベタベタし始めた はっきり言ってウザい、しつこい、キモい、、、 王子には言いませんよ?不敬罪になりますもの。 そして私は知りませんでした。これが1,000年前の再来だという事を…………。 ※ 8/ 9 HOTランキング 2位 ありがとう御座います‼ ※ 8/ 9 HOTランキング  1位 ありがとう御座います‼ ※過去最高 154,000ポイント  ありがとう御座います‼

完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。 『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』 『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』 公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。 もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。 屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは…… *表紙絵自作

【完結】仕事を放棄した結果、私は幸せになれました。

キーノ
恋愛
 わたくしは乙女ゲームの悪役令嬢みたいですわ。悪役令嬢に転生したと言った方がラノベあるある的に良いでしょうか。  ですが、ゲーム内でヒロイン達が語られる用な悪事を働いたことなどありません。王子に嫉妬? そのような無駄な事に時間をかまけている時間はわたくしにはありませんでしたのに。  だってわたくし、週4回は王太子妃教育に王妃教育、週3回で王妃様とのお茶会。お茶会や教育が終わったら王太子妃の公務、王子殿下がサボっているお陰で回ってくる公務に、王子の管轄する領の嘆願書の整頓やら収益やら税の計算やらで、わたくし、ちっとも自由時間がありませんでしたのよ。  こんなに忙しい私が、最後は冤罪にて処刑ですって? 学園にすら通えて無いのに、すべてのルートで私は処刑されてしまうと解った今、わたくしは全ての仕事を放棄して、冤罪で処刑されるその時まで、押しと穏やかに過ごしますわ。 ※さくっと読める悪役令嬢モノです。 2月14~15日に全話、投稿完了。 感想、誤字、脱字など受け付けます。  沢山のエールにお気に入り登録、ありがとうございます。現在執筆中の新作の励みになります。初期作品のほうも見てもらえて感無量です! 恋愛23位にまで上げて頂き、感謝いたします。

本編完結 彼を追うのをやめたら、何故か幸せです。

音爽(ネソウ)
恋愛
少女プリシラには大好きな人がいる、でも適当にあしらわれ相手にして貰えない。 幼過ぎた彼女は上位騎士を目指す彼に恋慕するが、彼は口もまともに利いてくれなかった。 やがて成長したプリシラは初恋と決別することにした。 すっかり諦めた彼女は見合いをすることに…… だが、美しい乙女になった彼女に魅入られた騎士クラレンスは今更に彼女に恋をした。 二人の心は交わることがあるのか。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

今世は好きにできるんだ

朝山みどり
恋愛
誇り高く慈悲深い、公爵令嬢ルイーズ。だが気が付くと粗末な寝台に横たわっているのに気がついた。 鉄の意志で声を押さえ、状況・・・・状況・・・・確か藤棚の下でお茶会・・・・ポットが割れて・・・侍女がその欠片で・・・思わず切られた首を押さえたが・・・・首にさわった手ががさがさ!!!? やがて自分が伯爵家の先妻の娘だと理解した。後妻と義姉にいびられている、いくじなしで魔力なしの役立たずだと・・・・ なるほど・・・今回は遠慮なく敵をいびっていいんですわ。ましてこの境遇やりたい放題って事!! ルイーズは微笑んだ。

誰にも愛されずに死んだ侯爵令嬢は一度だけ時間を遡る

ファンタジー
癒しの能力を持つコンフォート侯爵家の娘であるシアは、何年経っても能力の発現がなかった。 能力が発現しないせいで辛い思いをして過ごしていたが、ある日突然、フレイアという女性とその娘であるソフィアが侯爵家へとやって来た。 しかも、ソフィアは侯爵家の直系にしか使えないはずの能力を突然発現させた。 ——それも、多くの使用人が見ている中で。 シアは侯爵家での肩身がますます狭くなっていった。 そして十八歳のある日、身に覚えのない罪で監獄に幽閉されてしまう。 父も、兄も、誰も会いに来てくれない。 生きる希望をなくしてしまったシアはフレイアから渡された毒を飲んで死んでしまう。 意識がなくなる前、会いたいと願った父と兄の姿が。 そして死んだはずなのに、十年前に時間が遡っていた。 一度目の人生も、二度目の人生も懸命に生きたシア。 自分の力を取り戻すため、家族に愛してもらうため、同じ過ちを繰り返さないようにまた"シアとして"生きていくと決意する。

【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。 「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。  政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。  ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。  地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。  全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。  祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済。 R15は念の為・・

処理中です...