「要らない」と申しましたが? 〜私を悪役令嬢にしたいならお好きにどうぞ?〜

阿華羽

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21街までお買い物(フレア)

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 ある日の休日。
 ここは王都中心部……から、少し離れた場所。

「おっかしいなぁ!絶対この辺なんだけど」

 どーもー。
 この物語のヒロイン、フレアちゃんでーす。
 今日も、とっても可愛い私。
 世の男どもの視線は、みーんな私に集まってるわ。

 ほら、私の横にいるアイゼンも、ずっと私を見てるもの。

「フレアちゃん、探してる店って本当にコッチ?」

 あ、説明まだだったわね。

 今私の横に居る人は、アイゼン・アレクシス。
 商人の家である、アレクシス伯爵家の嫡男よ。
 そして、好きマジの主要攻略キャラの息子。
 襟足を伸ばした金茶の髪に、少し垂れ目がちな猫目。
 好きマジ内では、お調子者キャラだった、ラキア・アレクシスにソックリな男。

 あの、とぼけたユリウスと違って、こっちは父親にホントそっくり。
 本当に、堕としがいがあるわ!

「うん、確かこっちで合ってるはずなんだけどぉ」

 今、私達はデートを兼ねて、街を散策中。

 ゲームでは何度も来たところだけど、現世では初めてなのよね、この辺。

 実は、今日私がこの場所に来たのは、ある目的があっての事。
 私は、ある「店」に「限定販売」されている品を探しにやって来た。

 その品とは、好きマジのキーアイテム、「笑う門には福来る」。
 ふざけたネーミングセンスのアレは、運営の暴走としか言いようがないわね。

 その実態は、「俵を担ぎ、熊手を持ったクマのぬいぐるみ」。
 確かに縁起が良さそうだけど、いかんせん、そのクマの容姿がゴ◯ゴなんだもの。
 あの彫りの深い顔に、眉毛……画面越しに初めて見た時は、吹き出したわ。

 通称、「ゴル熊」は、廃課金勢のコミニュティ間では有名なアイテム。
 ランダムで起こる、ヒロインの「ざまぁ」を絶対回避してくれる。

 コミュニティ間では有名だけど、微課金勢や、ケチな無課金達は、多分知らない情報なんじゃないかしら。
 見た目は、ふざけた高価な課金アイテム。
一見したら、単なるコレクションアイテムだもの。
 フレーバーテキストは、「これさえ有れば、幸福間違いなし!幸せを掴むのは君だ!……<持つ者に幸せを運ぶ、ありがたい ぬいぐるみ。譲渡可能>」だった。

 アレを、学園のあるイベント時に王太子にプレゼントすれば、ミッション完了。
 それさえしとけば、ヒロインの完全勝利ね!

「確か、この角を曲がった先……あ、あった!」

 パステルグリーンの壁に、白い扉。
 看板は「魔道具屋」を表す、杖と宝石。

「マルルーン魔法堂?……フレアちゃん、魔道具探してたの?」

 まぁ、普通のか弱い令嬢が、魔道具なんて買わないわよね。
 私はニッコリと微笑み、アイゼンの腕にスルリと自身の腕を絡めた。
 一応、サービスで胸もくっつけてあげるわ。

「アイゼン君、私、今魔法の勉強を頑張ってるのぉ。それで、どうしても欲しい魔道具があるんだけどね?このお店限定販売みたいで」
「ふ~ん、なら先に言ってくれたらいいのに。オレの家知ってるでしょ?貴族にして、大商人だよ?それくらい先に探してあげたのに」

 デレた顔で私を覗きこむアイゼン。
 本当、男ってチョロいわね。

 と言うか、「このお店限定販売」って言っただろーが!話し聞いてないの?
 他で売ってないから、態々来たんだっつーの!
 イベントアイテムが、ほいほい色んな所で売ってる訳ないじゃん。

 とは言え、今から「買ってもらう」んだから、愛想よくしとかなきゃ。
 なにせ、クソみたいな「高額アイテム」だったものね。
 現在の私のお小遣いでは、絶対に買えないわ!

「え~、だって、わざわざアイゼン君にお願いするのは悪いかなぁって……いつもお勉強一緒にしてくれてるし、これ以上迷惑掛けられないわ」

 ちょっと上目遣いで、うるうる目も忘れずに。

「何言ってるのさ、フレアちゃんは大事な大事なトモダチだよ。オレは君の力になれるなら嬉しいなぁ」
「アイゼン君……ありがとう」

 はぁ~、チョロ~。



 ーカラン、コロンー

 店の扉を開けると、よくある鐘の音が鳴った。
 店内は、そこまで広くないけど、中にはガラスの陳列台が並び、その中に色々な魔道具が並べられている。

 すごい!ゲームとまったく一緒だわ。
 生で見るとやっぱり違うわね!

「フレアちゃんが探してるのって、どれ?見た所、どれもウチの店にもある品ばっかりだけど」

 キョロキョロと、店内を見回すアイゼン。
 まぁ、アンタの家に比べたら、天と地の差がある店でしょうね。

 その時。

「いらっしゃいませ~」

 ウサギ耳の獣人店員来たー!
 ゲームまんま!、超ちっちゃい、超可愛い。
 まぁ、私には劣るけどね。

「こんにちはぁ。実は、私欲しい魔道具があるんですけどぉ、「笑う門には福来る」って言う幸せのクマさんなんですけど、あります?」

 その瞬間、ウサ耳店員の耳がビョーンって、真っ直ぐ伸びた。

「アレをご存知なんですか?」
「はい!あるんですね」

 やったわ!レアアイテムはまだ存在してた。
 お母さまの時代のアイテムだから、少し心配だったけど、問題なさそうね。

「少々お待ちください」

 いそいそとバックヤードに向かう店員。

 これで一安心ね!ざまぁエンド回避!
 後は、このバカ高いアイテムをアイゼンに買わすだけだわ。

 そして数分後、ウサ耳店員が長方形の箱を抱えて戻って来た。

「お待たせしました」

 木製カウンターに、大切そうに置かれる箱。
 さて、ご対面ね。

「見せてくださいね?」
「はい、どうぞ」

 ゆっくりと箱を開ける。
 その中には、目的のゴル熊………。

 じゃない!

 クマのぬいぐるみ…、それは間違いない。

 でも。

「あれ?フレアちゃん固まってどうしたの?………ん、このクマ可愛いね。ピンクだし、花束持ってる。頭にはティアラか……魔道具と言われなかった分からないね」

 ゴル熊じゃなあーーーーーい!

 何、どう言う事!
 違うアイテムじゃない!
 年数たって、モデルチェンジでもしたの⁉︎

「あ、あの……この魔道具、モデルチェンジしたの?」

 私の問いに、ウサ耳店員は、満面の笑み。

「はい、実はお店が経営難になりまして、その時、「ある貴族様」に助けて頂いたんです。その時に、お店の商品も一新しまして。今お店に並んでいる商品も、見た目は既製品と変わりませんが、付与されている魔法などは一級品ばかりですよ?」
「じゃあ、このクマもその時?」
「はい、その貴族様がオーナー様になって下さり、此方の「限定販売品」もリニューアルしました。……まぁ、確かにアレでは売れませんよね……可愛くないし」

 ちょっと待って!
 貴族って何?そんな設定知らないわ。

「その貴族様って……誰かしら?」
「え?ドロッセル侯爵家ですよ?」

 なっ、なんですってーーーーー!!!!!
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