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13幸せのカタチ(マリアナ)

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 その後、予定通り開催された卒業パーティー。

 ヒロインのテンションは上がりまくってたみたいだけど、私のドレスを見た瞬間、表情が凍りついてたわ。

 そして、終盤イベント。

 案の定、ゲーム通り会場で私を断罪するイベントに進む………はずもなく、ヒロインは逆に断罪、ザマァされた。

 何と、断罪では、ヒロインが婚約者のラングレー家子息をそそのかして、私に薬を使うよう仕向けた事まで発覚しちゃって大変だったわ。
 それ以外も、出るわ出るわ……。
 アンタ本当にヒロインかってくらい、黒かったわね。

 最終的に、ヒロインは、王族を誘惑した罪と、王太子の婚約者を陥れた罪で平民に落とされた。
 伯爵令嬢だったって事もあり、処刑や国外追放は免れたけど、この事件は全ての貴族が知る事となり、平民にも噂が回った。

 彼女が平民として生きていくのは、奴隷より辛いでしょうね。
 奴隷はまだ、その人権が法律で守られているだけましだもの。

 王家を愛する国民からしたら、彼女は………。



*****



「母上?」
「え?あ、ごめんなさい、少し…考え事をしていました」

 昔を思い出して今更ヘコむなんて。

「大丈夫ですか?顔色が悪いようですが」
「大丈夫よ。少し疲れているだけです」

 私より、今はフィオラの方が大変でしょうね。
 なにせあの女の娘にして、転生者。
 性格はあのクズインにそっくりみたいですし。

 新しい紅茶に入れた砂糖を、クルクルとかき混ぜながら、ふとアノ約束が頭をかすめました。

 そう、何故あんな約束をお父様はしてしまったのか。
 確かに騎士の家であるラングレー家がドロッセル家の傘下に入ればかなりの利益になる。

 でも、そのせいでフィオラが犠牲になった。

 あの子にも、ちゃんと女の幸せを感じてもらいたかったのに……。
 貴族の婚姻は、家の婚姻。
 本当の恋愛なんてほとんど無理。
 私や妹は奇跡だったにすぎない。

 分かってはいるけど。

「ねぇ、アシェ?」
「はい」

 真っ直ぐにこちらを見る息子に、聞きたい事があった。
 今日はその確認もしたくて、お茶に誘ってみたのだけど。

「貴方、フィオラの事をどう思って?」

 そう、知りたかったのは、この子の気持ち。
 王太子ともあろう者が、未だ婚約者をつくらない。
 私のカンが間違えでなければ……やはり。

「母上も、お人が悪い」

 持っていたカップをソーサーに置き、苦笑いをする息子。
 その顔もアズラエル様そっくりね。
 核心をつかれた時の、あのお顔に。
 と言っても、その事は私と彼の側近である宰相しか知らないのだけれど。

「彼女には、婚約者がいます」
「だから……諦めたの?」
「仕方ありません。王侯貴族はそのしがらみからは逃れられませんから」

 本当に、お父様恨みますわ。
 あの約束さえ蹴っていれば、今頃フィオラは私の娘でもあったのに!

 よし!
 決めました。

「そう、では貴方は……フィオラに婚約者がいなかったら、想いを打ち明けていたのですね?」

 その瞬間、息子の顔色が変わりました。
 あら?気付いたみたいですわね。

「はっ、母上!何をなさるおつもりですか?」

 真面目なのもいいですが、少しは男をみせてもらいませんと。

「あら、私何かすると言いましたかしら?あらあら、そんな怖い顔をするものではなくてよ?私は、ただ貴方のお爺さまと少し昔話をしなくては…と、思っただけですから」

 そう、お父様とお話しをしなくてはなりませんね。
 それから、アズラエル様とも。

 はぁ、ですが、アズラエル様と「アノ」話をするのは久しぶりですから、少し緊張しますわね。

「母上」
「何です?」
「やはり、母上はドロッセル家のお人ですね」

 あら。

 私は、諦めの入った、呆れ顔の息子に笑みを溢しました。

「ええ、ドロッセル家はそういう家ですからね」




*****


「失礼しますわ」

 先触れを出し、アズラエル様の執務室に足を運びました。

 中では、書類に埋もれ、仕事をされている陛下の姿。
 申し訳ないとは思いますが、今話しておかなくては、間に合わなくなるかもしれませんわ。
 だって、明日から外交のお仕事で忙しくなりますから。

「珍しいね、君がこの時間に話しとは」

 まぁ、確かに普段プライベートな会話は、夜にしかしませんが…。

「陛下、申し訳ございません。少し困った事が起こりまして」

 その瞬間、アズラエル様は軽く息を吐かれました。
 そして、部屋にいた文官に指示をし、全て退室させると、専属侍女にお茶の用意をさせています。

「座って?落ち着いて話した方がいいだろ」
「はい、申し訳ございません」

 テーブルを挟んで、向かい合う形でソファーに腰掛けました。
 目の前には、侍女により紅茶が置かれます。
 侍女は、用意が終わると同時に、頭を下げて退室していきました。

「で、何かな?今日はアシェリーとお茶をするんじゃなかったの?」
「はい、そうなのですが……アシェリーの件で、アズに相談があるのです」

 家臣が引き、二人だけになったところで、プライベートな空間になりました。
 今からは家族の時間です。
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