「要らない」と申しましたが? 〜私を悪役令嬢にしたいならお好きにどうぞ?〜

阿華羽

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7お粗末ですわね。

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 眩しい朝日。
 小鳥達も、美しい歌で朝をお祝いしています。

 で、現実逃避はやめますが……私は朝から「何」を見せられているのかしら?

「いったぁ~い、フィオラさまったら、ひどーい」

 目の前では、目に涙を溜めながら私を睨む小娘。

「何が酷いんですの?いきなり私の前で自ら転んだ挙句、たまたま通りすがりの小鳥から汚物を落とされただけでしょ?」

 現場を見ていた周りの生徒達も、シラけた視線を小娘にむけていますわね。

「え!うそ!フン落とされたの!」

 ガバリと起き上がり、自身の体をせわしなく確認する小娘。

 あら、元気じゃないですの。
 先ほどまで、痛くて動けないって、散々五月蝿くされてましたのに。

「姉様、時間の無駄だから行こ?」
「そうね、フィオ。かまうだけ無駄みたいだし」

 私の後ろ。
 一緒に登校した、ヘンリーとベルバラが呆れ顔で口を開きました。
 ヘンリーはその青い瞳を細め、ベルバラは自身の赤い巻毛をクルクルともてあそんでいます。

 まったくもってその通りですわね。

 無駄に五月蝿い小娘は放っておきましょ……んん?

 私達が小娘を避け、教師棟へと足を向けた瞬間。

 嫌なコンビが来ましたわ。

「何の騒ぎだこれは」
「フレア!何があったんだ!」

 何故か、アシェと、クズ男が一緒に登校してきました。
 まぁ、馬車を降りたのがたまたま同時刻だっただけでしょうが。

「アシェリーさまぁ、ユリウスさまぁ!」

 やっぱり元気いっぱいですわね。
 小娘は二人の顔を確認するなり、私に向けた以上の大声で嘆き始めました。

「フィオラさまが酷いんです!私を転ばせた挙句、鳥のフンをかけたの!」

 その言葉を聞いた二人の態度は、面白いくらい真反対でした。
 アシェは呆れたような表情をし、クズ男は、怒りに震えておりますわ。

「………フィオ、何巻き込まれてるんだ」

 ボソリと口にしたアシェの言葉に、溜息が出ました。
 私だって好きで巻き込まれたわけではなくてよ!

「フィオラ!お前が冷めた冷血女だとは知っているが、僕の愛するフレアに何て事をするんだ!………そうか、分かったぞ!お前、僕がフレアばかりかまうから嫉妬したんだな!」

 このクズ男は、何を寝ぼけてますの?
 嫉妬?
 誰が誰に何のために?
 はぁ、残念でなりませんわ。きっと夢遊病なのね?まだ目が覚めてないから、夢を見てらっしゃるんだわ。
 ほら、弟達が肩を震わせて笑いを堪えてるじゃないですの。

 ……と言うか、二人とも、このコメディーを楽しんでますわね。
 まぁ、二人は似たもの同士だし、婚約者同士ですものね。
 ……とは言え、少々腹が立ちますわ。

「はぁ、何をどうしたらそうなるんですの?コム……ラファエロさんに嫉妬?この私が?しかも貴方なんかのために?冗談は貴方の頭の中だけにしてくださる?」

 盛大に溜息をついてさしあげました。
 その後は、お母さま直伝の氷の微笑ですわ。
 嫌いなお相手専用笑顔ですが……アシェまで真っ青ですわね。
 私、別に貴方を嫌ってはいませんよ?

「何だその態度は!」

 ユリウス様、足をカタカタ震わせながらいきがっても説得力ありませんわよ?

「あら、真実ですわ。貴方は私に愛されているとでも思ってらっしゃったの?どこにそんな要素があって?呆れや嫌悪感はあっても、愛情なんて砂粒程もありませんわ」

「だが、フレアをいじめているじゃないか!」

 はぁ、面倒。
 話が通じませんわ。

 あら?

 平民の方や爵位が下の方は見ないように逃げられましたわね。
 ギャラリーが減り始めましたわ。
 賢明な判断ですわね。巻き添えにでもなろうものなら、面倒極まりないですもの。
 私だって逃げたいですわ。

「はぁ、後から来て、確認もせず私を弾糾ですか。よろしくて?彼女は、私の前で勝手に転んだ挙句、たまたま飛んでいた小鳥から汚物をもらっただけです。私はただの通りすがりにすぎません。伯爵家の彼女が侯爵家の人間である私に対する行いとしては無礼以外のなにものでもありませんわ」

 いくら平等な学園とは言え、節度は大事でしょ?

「酷い!そうやって身分を傘に逃げるんですか!いくら私が伯爵令嬢だからって、学園は平等のはずです!」
「そうだ、フレアの言う通りだ!あさましい女め!強欲さがよく出てるな!」

 はぁ、この漫才、いつ終わりますの?
 早く教室に行きたいのですが………ッチ、ヘンリー達逃げましたわね!
 気付かないうちにいなくなってますわ!
 まぁ、唯一アシェがまだ居ますけど、足は教室棟に向かいたいみたいですわね。

「アシェ、逃がしませんよ?」
「あ」
「逃げたら伯母様に言いつけます」
「……卑怯だぞ」

 私一人でこの二人の相手は絶対に嫌ですわ!

「まぁ、仕方ない。埓が開かないのも確かだ」

 って、あら?

 その瞬間、アシェの雰囲気が変わりました。
 私を庇うように前に立ち、優しく微笑んでくださいましたわ。

「お前達、身分うんぬんの前に黙らないか?こんな大勢の前で起こったんだ。私は見ていないから証言はできないが、見た人間を証人にたてる事はできるのだぞ?お前達の暴言は名誉毀損だ!フィオラが無実の場合、二人とも責任はとれるのか?」

 珍しい事がありますね。
 アシェが久しぶりに王太子殿下のお顔です。
 どうせなら、いつもそうだとよろしいのに……。
 これなら小娘を黙らす事だって……あら?

「アシェリーさまかっこい~」

 前言撤回致します。
 私もまだまだでしたわ。
 腰をくねらしながら、ナヨナヨなさらないでくださいます?はっきり言って気持ち悪いですわ、小娘!

 まぁ、少しは現実を見たクズ男は大人しくなりましたが。
 基本、この男は昔から強者に弱いですものね。

「話が通じないな、王族である私が立会人になればどうなるかも分からんのか。無駄な時間だ、行くぞフィオラ」

 あ、あら?
 本当に珍しい。
 アシェは、私の肩を押し、教室棟へと足を向けてくださいました。

「……アシェ、アシェリー殿下」
「ん?」

 何だかシャクですわね。
 いつものヘタレを見ていますから。
 お礼を…………言おうと思いましたが

「いつも、そのくらいの態度をだされましたら、あの小娘に追いかけられずに済むのでは?」
「くすっ……手厳しい事を。まぁ、王太子としてのスイッチが入らないと中々なんだよ。知っているだろ?」

 えぇ、長いお付き合いですから。
 本当に、損なご性格ですわ。

「まったく、ヘタレなんですから」
「そう言われると…へこむな…ははっ」

 でも。
 優しいアシェも好ましく思っているのは事実ですし。
 やはり、一応お礼は必要ですわね。

「あの………ありがとうございました」
「明日は雪だな……ふふっ」

 アシェ、死にたいのですか?
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