「要らない」と申しましたが? 〜私を悪役令嬢にしたいならお好きにどうぞ?〜

阿華羽

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3 早く帰りたいのですが?

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「なら、何故殿下に!」
「え?ですからぁ、毎日言ってますが分かりませんか?お友達としてだーい好きですよ?」

 は?

 この小娘、昼間から頭の中は寝てますの?
 私を含め、皆さま開いた口が塞がりませんが。

「だから、クラスでは毎日ユリウスさまとご一緒にいますでしょ?変なのぉ~」
「君の距離は、恋人や婚約者の距離だ!毎日腕を組んだり、頬にキスもくれるじゃないか!」
「ですから、友愛ですって」

 は?

 ここに来て新事実ですわね。
 頬にキス……ですか。
 毎日べったりなのは知っておりましたが…。

 あぁ、因みに、このクズ男の名は、ユリウス・ラングレー。
 末端の侯爵家の三男です。
 そして、かなり不本意ですが、私の「婚約者」ですわ。

「あの、どうでも宜しいですが、醜い痴話喧嘩ならヨソでやって頂けますかしら?」

 毎日毎日、飽きもせず。
 アシェが私の所に逃げてくるせいで、オマケがついてきて五月蝿いったらありませんわ!

 私はヘンリーとベルバラに視線を送ると、さっと座っていた椅子から立ち上がりました。
 本当に時間の無駄ですわ。

 ですが、そんな私を見たアシェが、すがるような視線を投げてきましたわ。

「フィオ!私を見捨てるのか!」
「これくらい自分で何とかなさいませ」

 私の言葉にショックを受けたアシェが、子犬のようになってしまいましたわ。
 まぁ、王族、しかも王太子ですもの。これくらいの事、ご自分で処理できなくてはダメダメではなくて?

「ん、そう言えば…居たのか、フィオラ」

 そんな中、クズ男のユリウスが何か寝ぼけた発言をなさいました。
 はぁ?
 私ずっと居ましたが、と言うか私達の所に毎日奇襲をかけておいて、「居たのか」ですか?

 くたばれ。
 もげろ。

 ……あら、令嬢らしからぬ言葉が頭を過ってしまいましたわ。

「あー、フィオラさまは邪魔しないでください」
「そうだぞ、フィオラ。所詮お前は祖父同士が決めた婚約者だ!僕は真実の愛を知った!邪魔をするな!」

 何でしょう、お昼時間がもうすぐ終わるので教室に帰りたいだけですのに。
 私まで巻き込まないで頂けます?

 はぁ、仕方ないですわね。

「アシェ?」
「なんだ?」

 そう、ビクビクしながら返事をしないでください。

「特別サービスですわ。いくらお出しになる?」
「んな!」
「お早く。私、教室に早く帰りたいんですの」

 とろけるような美しい笑みを見せると、アシェの顔が真っ青になりました。
 失礼ですわね。殿方だけでなく婦女子も堕とせる、お母様直伝の笑顔ですのに。
 貴方くらいのものでしてよ、この笑みで顔色が悪くなるのは!
 まぁ、私の事がよく分かっている証拠と言えばそうですけど。

「……白の魔石」

 不本意そうに、ボソリと言うアシェ。
 そんなにお嫌なら、自分で対処なさればよろしいのに。

「よくってよ?取引成立ね」

 一週間前くらいから連続で私に魔石を差し出すアシェ。
 魔法研究大好きな貴方からしたら、かなりお嫌でしょうね。
 早くご自分で処理できる日が来ると良いですわね。

「ところで、アシェリー?貴方授業の準備を手伝って欲しいとアラーナ先生に頼まれていたのではなくて?」

 その言葉に、クズ男と小娘がピタリと動きを止めました。

 実は昨日、この二人は揃ってアラーナ先生からお叱りを受けたそうなのです。

 アラーナ先生は、魔法薬の教師。
 厳格で、曲がった事が大嫌い。ご実家が公爵家で、幼少期から厳しく育てられ、貴族の中の貴族と言ってよいほどの、とても素晴らしい方です。
 そんなアラーナ先生が教えてくださる魔法薬の授業ですが、SクラスとBクラスでは同じ授業科目がほとんどない中、唯一共通で受ける科目になっています。

 全く、聞いた時には、呆れてものが言えませんでしたわ。

 小娘は、先生の授業中、「可愛い私に~」とか鼻歌混じりで勝手に化粧品を作り始めたらしいのです。
 しかも、アラーナ先生に問い詰められた先の言葉が、「学園なら高い材料も使いたい放題ですもの」だったそうですわ。
 その後、使った高級素材の全請求をされたそうです。
 下手をしたら平民の家一件買えた…と、聞きましたわ。

 そして、クズ男は同じく授業中に、魅了の薬を作り出そうとして、アラーナ先生に見つかりました。
 魅了関係は「禁止薬」に分類されている事を知らないのかしら。
 禁書を家から持ち出していたようですし、あの後、ご実家に連絡がいって大変お叱りを受けたと聞いておりますわ。

 と、言う事で、お二人ともアラーナ先生恐怖症になられたそうです。
 自業自得ですわね。

「そ、そうだった!アラーナ先生に次の授業の準備の手伝いを頼まれていたんだ!」

 そう、厳格なアラーナ先生は遅刻は絶対に許されないでしょう。
 まして、アシェが二人のせいで遅れたと分かった日には…。

「しっ、仕方ないですねぇ、あのオニババ最悪ですからぁ」
「そっ、そうですね、では、僕は教室に戻ります!」

 アラーナ先生の名を出したとたんに、真っ青になって回れ右をされる二人。

 はぁ、やっと静かになりましたね。

「さて、私達も戻りませんとね?あ、アシェ!白の魔石の件お忘れなく」

 あら、青かったお顔が真っ赤になりましたが…放置ですわね。
 本当に、世話のかかる従兄弟ですわ。
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