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王の愛妾

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 王宮は私を買い求めるにあたり、その身体の純潔なることをとりわけ重視しておりましたから、私を城に送り届けるまでそれを守り通すことにかけても厳重を極めておりました。

 事実、落札されてすぐ、私の股には銀製の貞操帯が装着されました。貞操帯という古来ゆかしい装身具の役割に照らして、私の無垢な身体が不届きな輩によって無体に汚されることを防止するための措置であることは言うまでもありません。

 けれどもそれを身に着けさせられる冷たさに鳥肌を立てたときの私には、その貞操帯の鍵が誰の手に渡されるものかということまでは考えが及びませんでした。

 城へ向かう日、王宮から遣わされた女中たちの手によって美しく飾り立てられた私は、ひとりの女中の手なる鏡によって初めて自分の顔を見ることになりました。

 そこには男だった頃の自分とは似ても似つかない、透き通るような美少女が映っておりました。

 いえ……正確にはただ透明感のある線の細い美少女というだけではありません。本来のものではない性に成り変わったとはいえ、自分自身の容色をそのように評するのは不遜であるという思いが尽きないのですが、控え目に言って傾国の美女という形容が相応しい、これまで目にしたこともないような美しい女がその鏡には映っていたのです。

 王宮に仕える女としては、見目麗しい良家の子女ばかりが選ばれます。そうした事情は熟知しておりましたから、私が買い求められた理由は、その一人に私を加えんとするためであると信じて疑っておりませんでしたが、別嬪揃いの王宮の女たちの中に加えても私の美貌は際立っておりました。

 私は王宮でどのようなつとめをすることになるのだろう……初めて私の中にそんな疑問がわいたのはそのときでした。

 城の門をくぐり、かつて私に傅いてくれた城の者たちにも引き会わされることなく、父王の居室に近い賓客用の小部屋に通されるに至って、その疑問は更に大きく膨らむことになりました。

 その部屋へ通されるのと時を同じくして、私には傍使いさえあてがわれました。王宮で奉公する身となったからには、私自身がそうした仕事をさせられることになるのだろうと漠然と思っていた私は、それでいっそうわけがわからなくなってしまいました。

 ……けれども、よく考えればわかったことです。奴隷市はじまって以来の高値で競り落とされ、ご丁寧に貞操帯まで着けられて城へ送り届けられた私に、ごくありきたりな女中仕事が割り振られるべくもないではありませんか。

 王宮入りした翌日には、私は王のお手つきとなりました。浴室で傍使いに入念に身体を洗い清められた後、侍従長から王の臥所へ向かうよう指示され、言われるがままに向かったその先で、血のつながった父王を相手に破瓜の血を流すことになったのです。

 もちろん、痛みはありました。初めての男を中に迎え入れたとき、肉を割りってきた剛直のために突き破られたものの痛みは筆舌に尽くしがたいものがありましたが、それもこれも、まだ自分が女になったことさえ十分には受け容れられない戸惑いの中に溶け、数知れぬ女を抱いてきたに違いない王の巧みな性技によって否応なく与えられる愉悦とともに忘却の彼方へと追いやられていきました。

 王家の娘はみな極め付きの淫売になる――初めての性愛にあえぐ私の頭の中に響いていたのは、女になったばかりの私が老婆にかけられたその言葉でした。信じられないことに、父王が初めて私の中に精を放ったとき、その腰に脚を絡めながら私もまた諸共に女のたどりつける最も高いところまでのぼりつめていたのです。

 生娘であったにも関わらず滅法感じやすい私の身体を気に入ってか、あるいは老婆の言っていたとおり王家の血のなせる業か。その夜から父王は私とのまぐわいに溺れ込むようになりました。他の側妾たちを遠ざけ、毎夜のごとく私の身体を求めては空が白み始めるまで離そうとしないその異常なまでの性欲は、とても齢五十になんなんとする男のそれとは思えませんでした。

 父王にこれほど好色なところがあったことを、私は自分の身体でつくづくと思い知ることになりました。

 実の父と毎晩のように身体を合わせていたわけでありますから、そのあたりに強い精神的葛藤を想像される方も多いこととは思いますが、その点について私の心の中で折り合いをつけるのはそう難しいことでもありませんでした。

 対処法としては簡単です。私は、自分が父王の子であったことを忘れたのです。もちろん記憶としては消えませんが、そうすることは比較的容易でした。なんとなれば、父王の王子であった私は、王家の籍においても肉体の面においても、もうどこにもいないのですから。

 父王の息子であったエセルレッドという名の王子は死に、エルゼベートという名の亡国の姫君に生まれ変わった。そう思い切ってしまえば、父王により毎夜何度も精を注ぎ込まれることも、口の端から唾液を垂れ流しながら舌を絡め合って接吻することも、何でもないことのように思えてくるのでありました。

 とは言え、夜毎に男に抱かれて放恣に声をあげる自分を、ほんの数日前まで男であった私が易々と受け容れることができたわけではありません。

 何よりも疎ましかったのは感じ易い身体でした。女になって間もないというのに隣の棟まで届くのではないかと思うほどのあえぎ声をあげ、少なくとも私を抱いている男の目にはから性愛を楽しんでいるようにしか見えない自分に、私は深い恥じらいを覚えずにはいられなかったのです。

 けれどもそんな思いから性愛に溺れこむことを拒み、必死で感じまいとする私が、王には逆に一層可憐で愛おしく感じられるらしく、夜の間ばかりかまだ日があるうちから私を寝室に呼びつけ、忙しい公務の間を縫って私との束の間の性愛を楽しむようにさえなりました。

 そうして気がつけば私は、後宮で並ぶ者なき王の愛妾に成り上がっていたのです。
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