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奴隷市
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やがて私の前に顔を出した老婆はすっかり女になった私の姿を見ると、感に堪えたような声で言いました。
「こりゃすごい。とんだ掘り出しもんじゃわい。色気が湯気みたいに身体から立ちのぼっておるようじゃ。あんたの祖先にゃどこかで王族の血が入っているようじゃな」
「え……?」
「おや、知らないのかい? この国の王家にゃ滅多に女が生まれないじゃろ。あれは王家の血を引く女子が揃いも揃って、とんでもなく男を惹きつける極め付きの淫売になっちまうからなのさ」
老婆の言葉通り、王家からは滅多に女子が生まれません。また、たまさか生まれたとしても国を乱す存在として早々にいずこかへ下賜されてしまうのが常でありました。
私はその習わしを、単純に男子しか王位を継承できないがゆえの口減らし程度に考えていたのですが、老婆が言うにはそう簡単な話ではないようです。
「引く手あまたなのは結構なんじゃが、なにしろ目にした男がみんな参っちまうもんだから喧嘩になるのさ。ましてや王家の姫さまだ。そいつが元で戦になったことも一度や二度じゃなかったようじゃからのう」
王家の血を引く女に色濃く現れるという、男を虜にする能力。遠い祖先の隔世遺伝ということなのか、それが私にもはっきりと見て取れると老婆は何度も同じ言葉を繰り返しました。
ただ、もしそういうことであれば、と私の中では腑に落ちるものがありました。なぜなら隔世遺伝も何も、私は紛うことなく王家の血を引く女子に違いないのでありますから。
「そうとなりゃカルロスのやつめ、あんたをどこぞの大金持ちの妾にするつもりらしいが、それだともったいない気もするのう。これならいっそ王宮あたりにでも売りつけた方がよっぽどいい金になるじゃろうて」
下卑た笑みを浮かべながらそう言う老婆に、私ははじめて、自分が女の身体にされた理由を知りました。
なるほど男奴隷として炭坑送りにして死ぬまで働かせるよりも、美しく飾り立てた性奴隷として売り飛ばした方が高値がつくというのは、王宮暮らしで世間をあまり知らない私にとっても十分に納得がいく説明でした。
同時に、自分がそのための俎上に載せられようとする身であることを知り、愕然としました。
私がどこぞの富豪の妾として売られるということは、女になったばかりの私がその富豪と夜毎に臥所を同じくし、性愛を共にすることを意味します。ほんの数日前まで王子として生きてきた中で儀礼的なもの以外は接吻のひとつもしたことがない私にとって、それは思いもよらないことでした。
素裸の自分が同じく裸の脂ぎった男に組み敷かれ、淫らに舌を絡ませ合っている絵がさっと脳裏に浮かび、その刹那、我知らず私の口は動いていました。
「私も、できうるなら王宮で奉公しとうございます」
「おや、山出しかと思やずいぶんと丁寧な言葉遣いができるじゃないか。いいじゃろう、あたしからカルロスに口添えしといてやろう。これだけの上玉で、しかも未通娘じゃ。さぞかし高い値がつくじゃろうて」
そう言ってにたにたと満足そうに笑いながら、老婆はその場をあとにしました。
数日後、私は肌も露わな薄衣をまとい、奴隷市の舞台に立っておりました。乳房と局部が裸出し、それ以外の部分を申し訳程度に覆うその猥褻な衣装は、私の値を吊り上げるために特別に誂えられたものだということです。
私は男だった頃の名前の代わりにエルゼベートという新しい名前を与えられ、落魄した貴族の子女という触れ込みで競りにかけられました。
競りでは私の美貌と、未だ手折られざる生娘であることが盛んに謳いあげられました。その謳い文句に偽りがないことを証明するため、競り落とされた後、私は落札者の前で大きく股を広げ、初めての男に捧げられるべき処女の証を間近に凝視されるという屈辱に耐えなければなりませんでした。
競りの結果、市が始まって以来だという法外な高値で私は落札されました。最後まで粘ったこの国一番の豪商を退けて私を競り落としたのは、内々に王の命を受け美姫を買い求めに来た王宮の官吏でした。あるいは老婆の口添えを受けた奴隷商から、王宮に何かしらのはたらきかけがあったのかも知れません。
かくして私は、城を追放されてから早一週間足らずで王宮への帰還を果たすことになったのです。
「こりゃすごい。とんだ掘り出しもんじゃわい。色気が湯気みたいに身体から立ちのぼっておるようじゃ。あんたの祖先にゃどこかで王族の血が入っているようじゃな」
「え……?」
「おや、知らないのかい? この国の王家にゃ滅多に女が生まれないじゃろ。あれは王家の血を引く女子が揃いも揃って、とんでもなく男を惹きつける極め付きの淫売になっちまうからなのさ」
老婆の言葉通り、王家からは滅多に女子が生まれません。また、たまさか生まれたとしても国を乱す存在として早々にいずこかへ下賜されてしまうのが常でありました。
私はその習わしを、単純に男子しか王位を継承できないがゆえの口減らし程度に考えていたのですが、老婆が言うにはそう簡単な話ではないようです。
「引く手あまたなのは結構なんじゃが、なにしろ目にした男がみんな参っちまうもんだから喧嘩になるのさ。ましてや王家の姫さまだ。そいつが元で戦になったことも一度や二度じゃなかったようじゃからのう」
王家の血を引く女に色濃く現れるという、男を虜にする能力。遠い祖先の隔世遺伝ということなのか、それが私にもはっきりと見て取れると老婆は何度も同じ言葉を繰り返しました。
ただ、もしそういうことであれば、と私の中では腑に落ちるものがありました。なぜなら隔世遺伝も何も、私は紛うことなく王家の血を引く女子に違いないのでありますから。
「そうとなりゃカルロスのやつめ、あんたをどこぞの大金持ちの妾にするつもりらしいが、それだともったいない気もするのう。これならいっそ王宮あたりにでも売りつけた方がよっぽどいい金になるじゃろうて」
下卑た笑みを浮かべながらそう言う老婆に、私ははじめて、自分が女の身体にされた理由を知りました。
なるほど男奴隷として炭坑送りにして死ぬまで働かせるよりも、美しく飾り立てた性奴隷として売り飛ばした方が高値がつくというのは、王宮暮らしで世間をあまり知らない私にとっても十分に納得がいく説明でした。
同時に、自分がそのための俎上に載せられようとする身であることを知り、愕然としました。
私がどこぞの富豪の妾として売られるということは、女になったばかりの私がその富豪と夜毎に臥所を同じくし、性愛を共にすることを意味します。ほんの数日前まで王子として生きてきた中で儀礼的なもの以外は接吻のひとつもしたことがない私にとって、それは思いもよらないことでした。
素裸の自分が同じく裸の脂ぎった男に組み敷かれ、淫らに舌を絡ませ合っている絵がさっと脳裏に浮かび、その刹那、我知らず私の口は動いていました。
「私も、できうるなら王宮で奉公しとうございます」
「おや、山出しかと思やずいぶんと丁寧な言葉遣いができるじゃないか。いいじゃろう、あたしからカルロスに口添えしといてやろう。これだけの上玉で、しかも未通娘じゃ。さぞかし高い値がつくじゃろうて」
そう言ってにたにたと満足そうに笑いながら、老婆はその場をあとにしました。
数日後、私は肌も露わな薄衣をまとい、奴隷市の舞台に立っておりました。乳房と局部が裸出し、それ以外の部分を申し訳程度に覆うその猥褻な衣装は、私の値を吊り上げるために特別に誂えられたものだということです。
私は男だった頃の名前の代わりにエルゼベートという新しい名前を与えられ、落魄した貴族の子女という触れ込みで競りにかけられました。
競りでは私の美貌と、未だ手折られざる生娘であることが盛んに謳いあげられました。その謳い文句に偽りがないことを証明するため、競り落とされた後、私は落札者の前で大きく股を広げ、初めての男に捧げられるべき処女の証を間近に凝視されるという屈辱に耐えなければなりませんでした。
競りの結果、市が始まって以来だという法外な高値で私は落札されました。最後まで粘ったこの国一番の豪商を退けて私を競り落としたのは、内々に王の命を受け美姫を買い求めに来た王宮の官吏でした。あるいは老婆の口添えを受けた奴隷商から、王宮に何かしらのはたらきかけがあったのかも知れません。
かくして私は、城を追放されてから早一週間足らずで王宮への帰還を果たすことになったのです。
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