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廃嫡と追放

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 この国の第一王子エセルレッドであった私が、諸侯の居並ぶ場で父王ハロルドにより廃嫡を言い渡され、身ひとつで王宮を追放されたのは、腹違いの弟である第二王子アルフレッドによる誣告ぶこくが原因でした。

 五年前に停戦協定が結ばれたものの未だ根強い遺恨の残るラヴィア大公国への機密情報の漏洩と公金の横領――青天の霹靂でまったく身に覚えのない罪状を突きつけられた私には、身の証を立てるすべなどありませんでした。

 ただ、今にして思えば私の廃嫡は王国にとって渡りに船だったと言わざるを得ません。

 我が国の宗主である神聖ガリアナ帝国の第一王女クレマンティーヌ様が、凡庸なる容姿の第一王子との婚約を破棄し、その美貌をもって隣国にまで聞こえる第二王子アルフレッドを結婚相手にと切望していることは、この国では知らぬ者とてない公然の秘密でしたし、それを実現せんと帝国が陰に陽に圧力をかけてきていることは私の耳にも聞こえてきておりましたから。

 もちろん、そこまで嫌われているのであればと、自ら婚約の解消を申し出ることを考えないものでもありませんでした。

 けれども国王となる者が帝国から妃を迎えることが慣例を超えて既にこの国の不文律となっていることは私自身理解しておりましたし、帝国に適齢の王女がクレマンティーヌ様以外いらっしゃらない以上、婚約の解消は私の王位継承を危うくするものであるということが、私を含め宮廷の悩みの種だったのです。

 その悩みの種をあっさりと解決する方法が、私を廃嫡してアルフレッドを嫡子とすることだったというわけです。なるほどこの方法であればすべて丸く収まります。私一人が弊履へいりのように棄てられることに目を瞑れば、の話ですが。

「お待ちください父上! 敵国への密通と公金の横領はたしかに軽い罪ではありません! しかし廃嫡だけならまだしも追放などと、それではあまりにも兄上が――」

 そのときの私は自分がアルフレッドの讒言ざんげんにより罪に問われていることなど露ほども知りませんでしたから、日ごろから疎遠でどちらかといえば反目しがちであったその腹違いの弟がかばってくれたことに、滑稽にも涙が出るほどの感動を覚えたものです。

「アルフレッド、口を慎め! 今このときよりそなたがこの国の太子となったのだぞ!」

「しかし、父上!」

「くどい! 即刻その裏切り者を余の目の届かぬところへ追い立てよ!」

 もちろん、父王の裁定が覆ることはありませんでした。

 二人の間で示し合わせていたものと思われるその茶番の後、私は着の身着のまま、衛兵に槍で追い立てられるようにして城から追い出されました。私が謁見の間に呼び出されるそのときまでかいがいしく傅いてくれた召使はもちろん、銅貨の一枚さえ与えられることなく。

 呆然としたまま当てなく歩いていた私は、城から少しも離れていない場所で屈強な男たちに拉致され、幌車に押し込められました。

 彼らがアルフレッドに雇われた闇ギルドの成員たちであったことを私が知るのは、ずっとあとのことです。

 そのまま私は奴隷商人に売り払われ、あやしげな地下墓地のような場所に連れて行かれました。奇妙な三角帽をかぶった皺まみれの老婆に噎せ返るような臭いのする苦い薬を飲まされ、三日三晩吐き気と全身の激痛に苦しんだ私は、病み上がりのまだぼんやりとする頭で、自分の身体がもう男のものではなく、嫋やかなまるみを帯びた美しい女のそれになり変わっていることに気付いたのです。
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