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「ケイちゃんあのアニメ好きなんだ!」
「……はい。好きです」
「けっこう話題になったよね! たしか、映画化とかもされたんだっけ?」
「……はい。されました」
(……どうしよう。こんなことしてる場合じゃないのに)
時計はもうすぐ午後七時をまわろうとしている。一軒目の喫茶店を出たとき三時だったから、この店にもう四時間近く居座っていることになる。
日付が変わるまで、あと五時間弱。その間に白井先輩に会えなければ、僕は二度と男に戻れなくなってしまう。
「俺、そのアニメ観たことないんだけど、ダチが面白かったって言ってたんだよね。ケイちゃんてさ、ひょっとしてアニメとか好きな子なの?」
「……はい。好きです」
「へえ! ケイちゃん、そんな可愛いのにアニメとか好きなんだね!」
「……」
「ひょっとして、ケイちゃんみたいにすっごく可愛い女の子にも、アニメ好きな子って意外と多いのかな?」
「……はい。多いと思います」
僕がそう言うと黒木先輩は驚いたように目をまるくし、「へえ、そうなんだ!」と嬉しそうな表情をつくる。
(ケッ、このナンパ野郎。女口説くときだけこんな顔するのかよ!)
そんな黒木先輩の反応のひとつひとつが僕の神経を逆なでする。
かつて僕をいじめていた大嫌いなやつが、目をきらきらさせて話しかけてくることに虫唾が走るような気分だった。
テーブルの上で指を組んでいるあの手で僕が何発殴られたか。あの口から出る言葉でどれだけ僕が傷ついたか。
正直、コップの水を引っかけて今すぐ席を立ちたいくらいの気持ちなのだ。
……けれど、僕はそうすることができない。
この店でも、一軒目の喫茶店でも、僕は何度も席を立とうとした。だがその度に黒木先輩が「まだ一緒にいられるよね?」というようなことを言い、それに「はい」と答えることで僕は席を立てなくなった。
そんな繰り返しの中で、僕はお婆さんの言っていた『断りの言葉』を奪われる呪いのルールを知った。その呪いによって僕の口から吐き出された言葉は、口だけでなく僕の行動を縛るのだ。
つまり、その呪いによって僕の口が勝手に答えたが最後、僕自身、その言葉通りに行動することになる。
だから黒木先輩が「まだ一緒にいられるよね?」と尋ねてきて、僕がそれに「はい」と答えた場合、僕はその言葉に縛られて黒木先輩と一緒にいなければならないのだ。
「でもさでもさ、あのアニメってかなりエッチなやつだったことない? 俺よく知らないけど、主人公が妹とヤッちゃうとかどうとか」
「……はい。エッチです」
「エッチなアニメとか、好きなの?」
「……はい。エッチなアニメ、好きです」
(クソ! なんでこんなこと黒木先輩にバラさなきゃならないんだ!)
エッチなアニメが好きなのは事実だから、別に嘘を言わされているわけではない。けれども黒木先輩のようにそれをいじめのネタにしてくるようなやつにバラすのは、たとえ女の子の身体に変わっている今でも強い抵抗があった。
だが『断りの言葉』を奪われた僕にそれを拒否する権利はない。
なんの気無しに黒木先輩が口にする要求や質問に、この口は僕の意思とは無関係に何でも素直にはいはいと答えてしまうのだ。
それに気を良くしてか、黒木先輩は楽しそうに目を輝かせながらまた僕への要求や質問を口にする。
「そんなエッチなアニメが好きってことはさ、ケイちゃん、エッチなことに興味あるの?」
「……はい。興味あります」
「エッチなこと考えて、夜、眠れなくなっちゃったりすることあるの?」
「……はい。あります」
(……またエロい質問かよ。会ったばかりの女の子になに聞いてんだよ、このスケベ野郎)
内心にそう思って、また僕の胸の奥にもやもやと黒いものが沸きあがってくる。
最初さしさわりのない内容だった黒木先輩の話題は、二軒目のこの店に移ったあたりからどんどんとエロいものになってきた。
それも下着の色を聞いてきたり、不倫願望の有無を訊ねてきたりと、ある意味で黒木先輩らしいゲスな質問ばかりだった。
そんなことを聞かれるたびに、僕の方はすごく嫌な気分になるのだが、それとは別にお腹の奥がむずむずするような、なんだかそわそわと落ち着かない気分になってくる……。
屈辱と羞恥でまともに黒木先輩の顔を見られないでいる僕に、先輩はテーブルに身を乗り出すようにして僕の耳元に口を近づけ、小さな声でそっと耳打ちしてくる。
「ケイちゃん、おっぱいおっきいよね」
「……はい。おっきいです」
「どのくらいあるの? カップ教えてよ」
「……はい。Gカップです」
(って、Gカップ!? 僕ってGカップだったの!?)
ケイを名乗ったときもそうだったが、たまにこの口はこうして僕自身が知らないことまで物語る。もっとも、本当のことを物語っているかどうかまではわからない。おっぱいに関して言えば、今朝、鏡で見た限り本当にGカップくらいあってもおかしくないが……。
(ってか、なんで僕が黒木先輩におっぱいのサイズまで教えなきゃならないんだよ!)
それよりもなによりも、可愛い女の子になって僕が何をしているかといえば、大嫌いな黒木先輩とデートしてエッチな話題で盛り上がっているというのが嫌すぎる。
それに黒木先輩のエロトークはどんどん加速してきている。いきなりおっぱいのサイズまで聞いてくるなんて、この人はいったい何を考えているのだろう。しかもこんな公共の場で……まるでこの場で裸にされて、おっぱいを見られているような気分だ。
だがそんなエッチな質問にも素直に答え続ける僕に、黒木先輩は大喜びでいっそうエロい質問を重ねてくる。
「Gカップか! おっぱい揉みがいありそうだなあ。俺、巨乳派だから、ケイちゃんのその身体すっごく好みかも。ね、そのおっぱい、誰かに揉ませたことあるの?」
「……いいえ。ないです」
(って、おい! なんでここで否定的な答えが許されるんだよ!)
自分の口からはじめて出た否定的な言葉に、僕は思わず内心にツッコんだ。けれども考えてみればそれは否定的な言葉ではあっても『断りの言葉』ではなかった。
なるほど、否定的な言葉であっても『断りの言葉』でなければ口に出せるのか。そんな発見に一人納得する僕の前で、黒木先輩は「へえ」と言って目を細め、露骨に舌なめずりさえしながら僕の身体をじろじろと眺めはじめた。
「ケイちゃん、男と付き合ったことないんだ?」
「……はい。ないです」
「つまり、ケイちゃんは処女ってことでいい?」
「……はい。処女です」
(ちょ……こいつなに聞いてんだ! って、僕もなに答えてんだよ!)
声ならぬ声が頭の中に響く。黒木先輩はなおも畳みかけるように続けた。
「まだ誰ともエッチなことしたことないんだ?」
「……はい。したことないです」
「でも、ケイちゃんはエッチなことに興味あるんだよね?」
「……はい。興味あります」
(おい、マズいよ! その答えはマズいって!)
頭の中でアラームが鳴り止まない。僕の返事を受けて黒木先輩はいよいよ遠慮なく僕の胸や身体を舐めまわすように見つめてくる。
その露骨な男の視線に、おっぱいやおまんこのあたりがむずむずしてくる。
その感覚には覚えがあった……そう、この変な感覚は家を出る前に自分の裸を鏡で見ながらおっぱいを揉んでいたときと一緒だ。
「オナニーは? したことないの?」
「……はい。したことありません」
「オナニーしたいと思ったことは?」
「……はい。あります」
「でも、自分で触るのはなんかイケナイことのような気がしてできなかった。違う?」
「……はい。自分で触るのはイケナイことのような気がしてできませんでした」
「うん、わかった! だったらそのイケナイこと、俺がケイちゃんにたっぷり教えてあげるからさ、今からちょっと俺のマンションに――」
「ごめんなさい! ちょっとトイレ行かせてください!」
頭の中のアラームが限界に達し、たまらず僕はトイレに駆け込んだ。
「……どうしよう……どうしよう」
ドアを閉め鍵をかけても心臓の鼓動がおさまらない。
このままじゃ僕は黒木先輩とエッチしてしまう! 身の毛もよだつそんな未来予想図に、なぜかお腹の奥がじんじんと熱を持ったように疼くのを感じる。
……そういえばこのお店に来てから一度もトイレに入ってない。身体が疼くのはそのせいかも知れない。
そう思って僕はとりあえず用を足そうとショーツを降ろし――そこで、信じられないものを目にして固まった。
(なにこれ……!? なんで……!?)
ショーツから自分の股にかけて、粘りけのある半透明の液体が糸を引いていたのだ。
女性経験のない僕にも、その液体が何と呼ばれるものであるかわかった。それがどういうとき女の子のおまんこから垂れてくるものかということも……。
(なんでこんなものが……どうして……)
胸の動悸がおさまらない。……この液体は呪いとは関係ない。僕自身の気持ちによって身体から流れ出てきたものだ。それは僕にとって、到底受け容れることができないひとつの事実を示している。
僕が、あの黒木先輩とセックスすることを望んでいる……?
――コンコン
「……あ、すぐ出ます」
どれくらいそうしていたのだろう。ドアをノックする音で僕は我に返った。
そして大急ぎで股間から流れ出たものをトイレットペーパーで拭うと、トイレから出たらすぐこの店から逃げ出そうと決意した。
ドアを開いたら席に戻らず、一直線に出口まで走るんだ! 何があっても黒木先輩に見つかるわけにはいかない!
もしまた黒木先輩に捕まってしまったら、そして先輩のマンションに行こうと誘われてしまったら……そうしたらもう、僕は先輩と――
「や、けっこう長かったね。お会計済ましておいたよ」
「……」
だがそんな決意も虚しく、僕はトイレから出たところで立ち止まった。黒木先輩がトイレの前で待ち伏せていたのだ。
「俺のマンション、すぐ近くなんだ。まだ話し足りないし、ちょっと寄っていかない?」
そう言いながら黒木先輩は舐めまわすような目で僕のおっぱいや股のあたりを見つめてくる。お腹の奥がまたじんわりと疼きはじめるのを、絶望と共に僕は感じた。
「ね、一緒にイケナイことしよ?」
黒木先輩の股間がジーンズを突き破らんばかりに膨らんでいるのが見える。先輩の言う「イケナイこと」が何か……僕をマンションに連れ込んで先輩が何をしようとしているのか、はっきりとわかった。
けれども僕は、強引に僕の手をとり、指を絡めて恋人つなぎをしてくる黒木先輩の手を振りほどけないまま、心とは反対の返事を口にするしかなかった。
「……はい。わかりました」
「……はい。好きです」
「けっこう話題になったよね! たしか、映画化とかもされたんだっけ?」
「……はい。されました」
(……どうしよう。こんなことしてる場合じゃないのに)
時計はもうすぐ午後七時をまわろうとしている。一軒目の喫茶店を出たとき三時だったから、この店にもう四時間近く居座っていることになる。
日付が変わるまで、あと五時間弱。その間に白井先輩に会えなければ、僕は二度と男に戻れなくなってしまう。
「俺、そのアニメ観たことないんだけど、ダチが面白かったって言ってたんだよね。ケイちゃんてさ、ひょっとしてアニメとか好きな子なの?」
「……はい。好きです」
「へえ! ケイちゃん、そんな可愛いのにアニメとか好きなんだね!」
「……」
「ひょっとして、ケイちゃんみたいにすっごく可愛い女の子にも、アニメ好きな子って意外と多いのかな?」
「……はい。多いと思います」
僕がそう言うと黒木先輩は驚いたように目をまるくし、「へえ、そうなんだ!」と嬉しそうな表情をつくる。
(ケッ、このナンパ野郎。女口説くときだけこんな顔するのかよ!)
そんな黒木先輩の反応のひとつひとつが僕の神経を逆なでする。
かつて僕をいじめていた大嫌いなやつが、目をきらきらさせて話しかけてくることに虫唾が走るような気分だった。
テーブルの上で指を組んでいるあの手で僕が何発殴られたか。あの口から出る言葉でどれだけ僕が傷ついたか。
正直、コップの水を引っかけて今すぐ席を立ちたいくらいの気持ちなのだ。
……けれど、僕はそうすることができない。
この店でも、一軒目の喫茶店でも、僕は何度も席を立とうとした。だがその度に黒木先輩が「まだ一緒にいられるよね?」というようなことを言い、それに「はい」と答えることで僕は席を立てなくなった。
そんな繰り返しの中で、僕はお婆さんの言っていた『断りの言葉』を奪われる呪いのルールを知った。その呪いによって僕の口から吐き出された言葉は、口だけでなく僕の行動を縛るのだ。
つまり、その呪いによって僕の口が勝手に答えたが最後、僕自身、その言葉通りに行動することになる。
だから黒木先輩が「まだ一緒にいられるよね?」と尋ねてきて、僕がそれに「はい」と答えた場合、僕はその言葉に縛られて黒木先輩と一緒にいなければならないのだ。
「でもさでもさ、あのアニメってかなりエッチなやつだったことない? 俺よく知らないけど、主人公が妹とヤッちゃうとかどうとか」
「……はい。エッチです」
「エッチなアニメとか、好きなの?」
「……はい。エッチなアニメ、好きです」
(クソ! なんでこんなこと黒木先輩にバラさなきゃならないんだ!)
エッチなアニメが好きなのは事実だから、別に嘘を言わされているわけではない。けれども黒木先輩のようにそれをいじめのネタにしてくるようなやつにバラすのは、たとえ女の子の身体に変わっている今でも強い抵抗があった。
だが『断りの言葉』を奪われた僕にそれを拒否する権利はない。
なんの気無しに黒木先輩が口にする要求や質問に、この口は僕の意思とは無関係に何でも素直にはいはいと答えてしまうのだ。
それに気を良くしてか、黒木先輩は楽しそうに目を輝かせながらまた僕への要求や質問を口にする。
「そんなエッチなアニメが好きってことはさ、ケイちゃん、エッチなことに興味あるの?」
「……はい。興味あります」
「エッチなこと考えて、夜、眠れなくなっちゃったりすることあるの?」
「……はい。あります」
(……またエロい質問かよ。会ったばかりの女の子になに聞いてんだよ、このスケベ野郎)
内心にそう思って、また僕の胸の奥にもやもやと黒いものが沸きあがってくる。
最初さしさわりのない内容だった黒木先輩の話題は、二軒目のこの店に移ったあたりからどんどんとエロいものになってきた。
それも下着の色を聞いてきたり、不倫願望の有無を訊ねてきたりと、ある意味で黒木先輩らしいゲスな質問ばかりだった。
そんなことを聞かれるたびに、僕の方はすごく嫌な気分になるのだが、それとは別にお腹の奥がむずむずするような、なんだかそわそわと落ち着かない気分になってくる……。
屈辱と羞恥でまともに黒木先輩の顔を見られないでいる僕に、先輩はテーブルに身を乗り出すようにして僕の耳元に口を近づけ、小さな声でそっと耳打ちしてくる。
「ケイちゃん、おっぱいおっきいよね」
「……はい。おっきいです」
「どのくらいあるの? カップ教えてよ」
「……はい。Gカップです」
(って、Gカップ!? 僕ってGカップだったの!?)
ケイを名乗ったときもそうだったが、たまにこの口はこうして僕自身が知らないことまで物語る。もっとも、本当のことを物語っているかどうかまではわからない。おっぱいに関して言えば、今朝、鏡で見た限り本当にGカップくらいあってもおかしくないが……。
(ってか、なんで僕が黒木先輩におっぱいのサイズまで教えなきゃならないんだよ!)
それよりもなによりも、可愛い女の子になって僕が何をしているかといえば、大嫌いな黒木先輩とデートしてエッチな話題で盛り上がっているというのが嫌すぎる。
それに黒木先輩のエロトークはどんどん加速してきている。いきなりおっぱいのサイズまで聞いてくるなんて、この人はいったい何を考えているのだろう。しかもこんな公共の場で……まるでこの場で裸にされて、おっぱいを見られているような気分だ。
だがそんなエッチな質問にも素直に答え続ける僕に、黒木先輩は大喜びでいっそうエロい質問を重ねてくる。
「Gカップか! おっぱい揉みがいありそうだなあ。俺、巨乳派だから、ケイちゃんのその身体すっごく好みかも。ね、そのおっぱい、誰かに揉ませたことあるの?」
「……いいえ。ないです」
(って、おい! なんでここで否定的な答えが許されるんだよ!)
自分の口からはじめて出た否定的な言葉に、僕は思わず内心にツッコんだ。けれども考えてみればそれは否定的な言葉ではあっても『断りの言葉』ではなかった。
なるほど、否定的な言葉であっても『断りの言葉』でなければ口に出せるのか。そんな発見に一人納得する僕の前で、黒木先輩は「へえ」と言って目を細め、露骨に舌なめずりさえしながら僕の身体をじろじろと眺めはじめた。
「ケイちゃん、男と付き合ったことないんだ?」
「……はい。ないです」
「つまり、ケイちゃんは処女ってことでいい?」
「……はい。処女です」
(ちょ……こいつなに聞いてんだ! って、僕もなに答えてんだよ!)
声ならぬ声が頭の中に響く。黒木先輩はなおも畳みかけるように続けた。
「まだ誰ともエッチなことしたことないんだ?」
「……はい。したことないです」
「でも、ケイちゃんはエッチなことに興味あるんだよね?」
「……はい。興味あります」
(おい、マズいよ! その答えはマズいって!)
頭の中でアラームが鳴り止まない。僕の返事を受けて黒木先輩はいよいよ遠慮なく僕の胸や身体を舐めまわすように見つめてくる。
その露骨な男の視線に、おっぱいやおまんこのあたりがむずむずしてくる。
その感覚には覚えがあった……そう、この変な感覚は家を出る前に自分の裸を鏡で見ながらおっぱいを揉んでいたときと一緒だ。
「オナニーは? したことないの?」
「……はい。したことありません」
「オナニーしたいと思ったことは?」
「……はい。あります」
「でも、自分で触るのはなんかイケナイことのような気がしてできなかった。違う?」
「……はい。自分で触るのはイケナイことのような気がしてできませんでした」
「うん、わかった! だったらそのイケナイこと、俺がケイちゃんにたっぷり教えてあげるからさ、今からちょっと俺のマンションに――」
「ごめんなさい! ちょっとトイレ行かせてください!」
頭の中のアラームが限界に達し、たまらず僕はトイレに駆け込んだ。
「……どうしよう……どうしよう」
ドアを閉め鍵をかけても心臓の鼓動がおさまらない。
このままじゃ僕は黒木先輩とエッチしてしまう! 身の毛もよだつそんな未来予想図に、なぜかお腹の奥がじんじんと熱を持ったように疼くのを感じる。
……そういえばこのお店に来てから一度もトイレに入ってない。身体が疼くのはそのせいかも知れない。
そう思って僕はとりあえず用を足そうとショーツを降ろし――そこで、信じられないものを目にして固まった。
(なにこれ……!? なんで……!?)
ショーツから自分の股にかけて、粘りけのある半透明の液体が糸を引いていたのだ。
女性経験のない僕にも、その液体が何と呼ばれるものであるかわかった。それがどういうとき女の子のおまんこから垂れてくるものかということも……。
(なんでこんなものが……どうして……)
胸の動悸がおさまらない。……この液体は呪いとは関係ない。僕自身の気持ちによって身体から流れ出てきたものだ。それは僕にとって、到底受け容れることができないひとつの事実を示している。
僕が、あの黒木先輩とセックスすることを望んでいる……?
――コンコン
「……あ、すぐ出ます」
どれくらいそうしていたのだろう。ドアをノックする音で僕は我に返った。
そして大急ぎで股間から流れ出たものをトイレットペーパーで拭うと、トイレから出たらすぐこの店から逃げ出そうと決意した。
ドアを開いたら席に戻らず、一直線に出口まで走るんだ! 何があっても黒木先輩に見つかるわけにはいかない!
もしまた黒木先輩に捕まってしまったら、そして先輩のマンションに行こうと誘われてしまったら……そうしたらもう、僕は先輩と――
「や、けっこう長かったね。お会計済ましておいたよ」
「……」
だがそんな決意も虚しく、僕はトイレから出たところで立ち止まった。黒木先輩がトイレの前で待ち伏せていたのだ。
「俺のマンション、すぐ近くなんだ。まだ話し足りないし、ちょっと寄っていかない?」
そう言いながら黒木先輩は舐めまわすような目で僕のおっぱいや股のあたりを見つめてくる。お腹の奥がまたじんわりと疼きはじめるのを、絶望と共に僕は感じた。
「ね、一緒にイケナイことしよ?」
黒木先輩の股間がジーンズを突き破らんばかりに膨らんでいるのが見える。先輩の言う「イケナイこと」が何か……僕をマンションに連れ込んで先輩が何をしようとしているのか、はっきりとわかった。
けれども僕は、強引に僕の手をとり、指を絡めて恋人つなぎをしてくる黒木先輩の手を振りほどけないまま、心とは反対の返事を口にするしかなかった。
「……はい。わかりました」
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