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「うわ、本当に女の子になってる……」

 洗面台の鏡には人気グラビアアイドル『廣瀬ケイ』そっくりの美少女が映っていた。昨日、あの怪しげな店でお婆さんが言っていた通りだ。

 ……髪を長くすることまではできなかったのか、本物に比べてだいぶショートカットでボーイッシュだという違いはあるけど、少しクールめのロリフェイスといい、顔に比べてわがままに存在を主張しまくりの巨乳といい、まさに『廣瀬ケイ』だ。

 魔女だなんて、ぜんぜん信じていなかった。でも、こんな動かぬ証拠をつきつけられては信じるしかない。

 あのお婆さんは魔女だった。そして僕は、その魔女の魔法によって女の子になってしまったのだ。

* * *

 そもそもの始まりは昨日、近所の商店街をぶらついているとき、『あなたの望み叶え〼 魔女の館』といういかにも怪しげな看板を掲げた店の前で足を止めたことだった。

(あれ、こんな店あったかな?)

 そう思い、好奇心にかられて入口をくぐったそこで僕を待っていたのは、店の外観に輪をかけて怪しげな一人のお婆さんだった。

「いらっしゃい、何をお望みで?」

 開口一番、お婆さんはそう言って値踏むように僕を見つめてきた。

 ただ立ち寄っただけで、別に望みなどない――そう言い返そうとして、そこでふと僕の脳裏に、今日の部活の終わりに白井先輩としていた会話が蘇った。

『あ~マジでモテなくてやんなるわ。一日でいいから廣瀬ケイみたいな美少女とデートできたらな~』

 そのときは笑って流したが、内心、僕はそうなればいいなと強く願ったのだった。

 たしかに白井先輩はいかついガテン系で、決して女の子にモテる方ではない。けれど、僕の中で先輩は、男としてそんな美少女と付き合ってもいいほど――いや、むしろ付き合えて当然の最高に格好いい男に違いない……と。

 僕がそんなふうに思ってしまうのは、白井先輩が僕をサッカー部でのいじめからずっと守ってきてくれたからだ。

 高校に入学してサッカー部に入り半年が経った頃、僕は白井先輩と同じ三年の黒木先輩から深刻ないじめを受けるようになった。

 黒木先輩はぱっと見、爽やかでいかにも女にモテそうなチャラ男だが、イケメンで勉強ができて家も金持ちなせいかプライドが高く、僕がそのプライドを傷つけるようなことを言ってしまったのがそのいじめの原因だった。

 最初は取り巻きの仲間たちと一緒になって嫌味なことを言ってくるくらいだった黒木先輩のいじめは次第にエスカレートし、部活での指導にかこつけて口の中が切れるほど強くビンタしてきたり、部室の裏で何度も腹をグーパンしてきたりと過激なものになっていった。

 そこで止めに入ってきてくれたのが白井先輩だった。

 キャプテンという立場上見逃せなかったと先輩は言ったが、あえて黒木先輩の名前はあげず部活指導の先生に部内でいじめが行われていることを報告したり、僕を白井先輩と同じディフェンダーにポジション変更にして防波堤になってくれたりと、白井先輩が僕のためにしてくれたことは数知れない。

 結果、僕に対する黒木先輩のいじめは収束した。そんな経緯を考えれば、僕が白井先輩に深い尊敬の気持ちをいだくようになったのも自然なことだと思う。

「一日だけでいいんで、僕を可愛い女の子にしてもらえませんか?」

 そんな白井先輩に対する日頃からの感謝と、お婆さんにいきなり変な質問をされた混乱とが相まって、僕はついそんな返事を返していた。

 返事をしてすぐ、自分がとんでもなくおかしなことを口走ってしまったことに気づいて真っ赤になった。けれど、お婆さんは驚きも聞き返しもせず、フォッフォと笑って「お前さんは女の子になりたいのかえ」と言った。

「はい。けど、一日でいいんです。一日でいいんで、僕をとびきり可愛い女の子にして欲しいんです」

 何となく乗りかかった船のような気持ちで、僕はそう続けた。そんな僕にお婆さんは少し表情を改めて言った。

「可愛い女の子になって、誰ぞ付き合いたい相手でもおるのかえ?」

「部活の先輩と付き合いたいんです。たとえ一日でも、モテない先輩の夢を叶えてあげたいんです」

「可愛い女の子にも色々おるが、どんな女の子がいいんじゃ?」

「この、廣瀬ケイって子です」

 僕は手早にスマホを操作して廣瀬ケイの写真を検索し、お婆さんに見せた。真っ赤なビキニ姿の廣瀬ケイをまじまじと眺めたあと、お婆さんはしわだらけの指で自分の顎を撫でながら言った。

「ふむ……これほどの別嬪さんとなると、それなりの代償が必要じゃな」

「代償?」

「そうじゃ。お前さんがこの別嬪さんになった暁には、『断りの言葉』を失うことになろうの。つまりは、何を言われてもはいはいと言って従うことしかできなくなるのじゃ」

「……」

「そればかりではない。一日の間にその先輩とやらの心を射止められなんだが最後、お前さんは二度と男に戻れなくなってしまうじゃろう」

「……」

「どうじゃ? それほどの代償を払ってでも、お前さんはその先輩とやらのために可愛い女の子になりたいと思うのかえ?」

「はい、なりたいです」

 お婆さんの問いに、僕はそう即答した。

 たしかに少しシビアな代償だと思った。けれど、白井先輩相手なら何の問題もないと瞬時に判断したからだ。

 まずひとつめの代償。『断りの言葉』を失うということだが、これが問題となるのはさしづめ、女の子になった僕に白井先輩が強引に迫ってきたときだろう。

 白井先輩のことは尊敬しているし、人間として好きだが、僕はホモではない。いくら女の子の身体になっても、先輩とキスやその先までしたいとは思わない。一日と言わず半日でもいいから先輩と楽しく遊んで、先輩に満足してもらうのが目的なのだ。

 だが、これについては心配いらない。白井先輩はその日会ったばかりの女の子にキスを迫ったりする人では絶対にないからだ。そのあたりは近くで見てきた僕が一番よく知っている。逆にそんな先輩だから、僕は少しでも夢を見て欲しいと思ってお婆さんにこんな望みを口にしているのだ。

 そしてふたつめの代償。これはわざわざ説明するまでもないだろう。廣瀬ケイそっくりの女の子が目の前に現れて、あの先輩が心を奪われないわけがない。だからこちらの代償については、ほぼノーリスクと考えていい。

「そのふたつの代償を払ってでも、僕は廣瀬ケイそっくりの可愛い女の子になりたいです」

 もう一度、決意を込めて僕はそう宣言した。そんな僕にお婆さんは目を細め、「そうかいそうかい」と言いながらカウンターテーブルの上に何か紙のようなものを用意した。

「だったら、この契約書にサインしていただこうかの。そうすりゃ寝て起きて明日の朝、お前さんは望み通りの姿になっているじゃろうて」

 紙には何やら古代文字のような、僕には読めない文字が書き綴られていた。怪しさ満載のその紙に、僕はお婆さんの言う通りサインをした。

 僕がサインをし終えると、お婆さんは相変わらず口元に薄笑いを浮かべながら、少しだけ真剣な目をして言った。

「これでお前さんは可愛い女の子になる。じゃが、代償の呪いについてはくれぐれも忘れぬようにな――」

* * *

 ――そんな一連の流れで、僕はこの女の子の身体を手に入れたのだ。

「……いけない、モタモタしてる時間なんてないんだった」

 はっとそのことに気づいて、僕は慌てて服を脱ぎ始めた。時刻は朝の九時。今日が土曜日であることを考えればまだ十分に早い時間とも言えるが、タイムリミットを思えば一分一秒でも無駄にしたくない。

 今日一日の間に白井先輩のハートを射止めなければ、僕は男に戻れなくなってしまうのだ。

「ブラジャーなんて着けたことないから上手く着けられるかなあ……って」

 独り言をつぶやきながら全裸になり、ふと鏡に目をやった僕は、そこで固まった。

「……」

 グラビアアイドルにも負けない――いや、そこらのグラビアアイドルなんかでは勝負にもならないパーフェクトな女の身体がそこには映っていた。

 僕が少し身体を動かすだけでたわわに揺れて存在を誇示するロケット型の美巨乳。その先端に、男を誘うようにやわらかく膨らんでいるピンク色の乳首。

 胸から腰にかけてのほとんど芸術的と言っていいくびれのラインと、産毛すら生えていない美味しそうな太腿、真っ直ぐに伸びる白い脚。

 そんなまばゆいばかりのパーツのただ中にあって、太腿の間にそこだけ淫靡なにおいを漂わせる逆三角の淡い茂み……。

(ゴクリ……)

 思わず生ツバを飲み込んだ。まさに男好きのする、最高に食べ頃の身体だった。正直、この身体とセックスできる男がいるとしたら、その男が羨ましくてしょうがない。

 おっぱいを両手で支え、持ち上げてみる。……重い。こんな重いものが胸についているんだと思いながらゆさゆさとおっぱいで遊んでいるうちに、淡いピンク色の乳首がゆっくりと固くなってゆくのがわかった。

「……」

 鏡の中で、廣瀬ケイそっくりの美少女が自分のおっぱいを弄んでいる。ショートカットのロリフェイスに上気したような赤みがさしてゆくのが見える。

 そんなことをしているうちに、僕はだんだんと妙な気分になってきた。

 股間に目をやる。白い太腿に挟まれた翳りの奥にある秘密の部分が気になってくる。そこが物欲しそうに疼いてむずむずしてくるのを感じて、僕はゆっくりとそこに指を伸ばしかけた。

「……はっ! こんなことしてる場合じゃなかった!」

 すんでのところで我に返り、慌てておっぱいをいじるのをやめた。

 ……危なかった。僕も健全な十六歳の男子だから、当然、女の子の身体に興味はある。ましてこんな男にとってよだれが出るような身体を自分の自由にできるというのだから、ついイタズラしたくなっても仕方がないだろう。

 正直、もっとこの身体に触りたいという思いはある。……と言うか、この身体でオナニーしたらどんな感じなんだろうという好奇心で頭がいっぱいだ。

 けれども、今ここでオナニーなんかしたら、そのままハマって白井先輩に会えずじまいになってしまう可能性がある。そう……これは罠だ。もしそんなことになれば、お婆さんの話では僕は一生この女の子の身体のままになるかも知れないのだ。

 そう思って、僕は気持ちを切り替えるため両手で頬っぺを軽く叩いたあと、着替えに戻った。

「んしょ……んしょ……」

 ショーツに脚を通し、ブラジャーを着ける。重力に任せておっぱいを吊り下げるようにしてカップの中に納める技はネットで調べた。

 その上に隣町の私立女子高の制服を身に着けてゆく。リムジンで登校するようなご令嬢ばかり通っているお嬢様学校としてここらでは有名な女子校だ。

 なにげに今日のコーディネートはお婆さんの見立てだ。店を出るとき「明日、着る服が必要じゃろうて」と言って、一揃いが入った紙袋を手渡してくれたのだ。その袋にはこの制服ばかりでなく可愛いショーツとブラジャー、靴下やさらにはローファーの靴まで入っていた。

 お陰で僕は服装について悩むことなく白井先輩に会いに行ける。

「……よし!」

 準備は整った。僕はサッカーの試合に臨むような引き締まった気持ちで、意気揚々と玄関に向かった。
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