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第1章

9 ゾイド視点

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 ババの作り出した薬は瞬く間に王都中に広がった。

 特に貴族に評判で、金を湯水のように使って薬を手に入れるのに必死だ。

 私の手元にも考えられないほどの金が入り込んできた。この金で上の連中もすでに買収が済んだので後はカイゼル殿を蹴落とすだけなのだが…。


「どうしたんだよ!そんな呆れた目を俺っちに向けてきて~。なえるだろ~」


 以前のやせこけた体つきは一転し明らかな肥満体型へと変貌を遂げたのは薬を作った張本人、ババだ。

 金は人を変えるというが…これは想定外すぎるな。


「最近夜遊びが酷いらしいな。あまりはめをはずしすぎるな」

「なんだよゾイド様!それくらいいいじゃんか~」

「口を慎めよ。私は貴様を利用しているだけにすぎん」

「はいはい。照れ隠しが上手いなゾイド様わ」

 
 まともな会話ができていない。
 
 付き合いきれないのでババのことは放置し、フードを被り私は街にでた。


◇◇◇◇


 路地裏をいくつも通りたどり着いたのは古い道具屋。

 ここは非合法な物や市場には出回らない希少な物が置いてある知る人ぞ知る名店だ。

 店主は90歳を超えたよぼよぼのおじいさんで、カウンターに座りながら本を読んでいる。


「店主、魔物寄せの香を売ってくれ」

「……金貨2000枚だ」


 吹っ掛けてきたな。金貨100枚でも王都で立派な家が建てられる。物はあるが売る気はない、と言ったところか。

 ゾイドはパンパンに膨れた麻袋をカウンターに置く。

 中には黄金に輝く金貨が所狭しと詰められていた。


「金貨2000枚。そちらの提示した金額を用意したのだ、魔物寄せの香を売ってもらうぞ」

「こちらも商売だ。信用を重んじる。これで誰かが不幸になると思うと老人には辛い仕打ちだ」

「安心しろ、私は幸せになる」

「傲慢だな。もう少し謙虚さを学んだほうがいい。例えばそう…騎士団長カイゼルの様にな」


 その老人の目はまるで全てを見透かしているようだった。


◇◇◇◇


 金、人脈、秘策、これですべての準備が整った。

 後は魔獣討伐の遠征まで気を待つのみ。

 私が騎士団長になる日ももうすぐだ。

 屋敷の自室でくつろいでいると使用人が訪ねてくる。


「ゾイド様、お客様がおいでになりました」

「分かった。通せ」


 使用人に連れられてやってきたのは…カイゼル騎士団長の婚約者アロマだった。

 使用人が部屋を出た途端、ゾイドとアロマは熱い接吻を交わす。


「お前も悪い女だな。カイゼル殿の婚約者でありながら私と蜜月とは」

「勘違いしないでください。私にカイゼル様への愛なんてございません。私にあるのは騎士団長の妻という地位を求める野心とお金に対する執着です。それを持つ者に私はなびくだけ」


 この女の勘は鋭い。誰にも気取られぬように暗躍をしていたのにも関わらずアロマは素知らぬ顔で計画を見破り、私の女になった。

 末恐ろしい女だ。だがカイゼル殿を失望させるのにこれほどまで有益な女もいない。

 今は存分に楽しましてもらおう。


 
 アロマがゾイドの家を出たのは翌日の昼だった。
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