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第1章

7 カイゼル視点

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「私の結婚相手はーアロマ・リーベだ」


 その言葉でカイゼルの心はいとも簡単にひび割れる。


「実を言うと、カイゼル殿とアロマが婚約をした時から裏で私と彼女は関係を持っていたのだ」


 嘘だ。


「勘違いしないでほしい。言い寄ってきたのはアロマの方からだ。なんでも騎士団長の妻という椅子がどうしても欲しいらしくてな。騎士団長の婚約者でありながら次期騎士団長の私とも蜜月だった」


 ゾイドの虚言に決まっている。


「私は貴様の女を奪っているという優越のため、アロマは自分の保身のため、互いに利用した関係だったがそれ故に私を信用できたのだろう。寝屋では君の愚痴ばかりこぼしていたぞ。2ヵ月前だったか、買い物を注意したらしいな。器の小さい男だ」


 それはアロマが俺にシチューを作ってくれた日の出来事だ。
 
 2人しか知らないはずのことを喋るゾイド、それが嫌というほど真実を突き付けてきた。

 もう…やめてくれ。


「アロマは性格こそ褒められたものではないが、あれはいい女だ。2日前も私によがっていたぞ!!」

「黙れ!!!!!」

「見苦しいぞ!!お前はもう捨てられたのだ!!負け犬は黙って負けを認めていろ!!!」

「……」


 項垂れたカイゼルの目には既に生気が宿ってはいなかった。

 耳を済ませなければ聞こえないほどの声でぽつりと呟く。


「お前を騎士団長に任命する。だから…アロマを返してくれ」


 カイゼルの言葉を聞きゾイドはかつてないほどの高笑いをした。

 ひとしきり笑い転げた後、完全の心の折れたカイゼルの髪を掴み顔を覗く。


「だれが平民の願いなど聞き届けるか。貴様は搾取される側で私が搾取する側であることをしっかりとその身に刻むがよい」


◇◇◇◇


 ゾイドはカイゼルを王国の辺境の村に飛ばした。

 今後を考えればカイゼルは始末したほうが都合はいいだろうが、ゾイドはそうしなかった。


 あいつの心はもう死んでいる。下手に殺すより、無理やり生かしていたほうがより苦しむだろう。これも私をコケにしてきた罰だ。精々加える指もなく打ちひしがれているがよい。

 しかし、今日という素晴らしい日も奴と出会わなければ成しえなかった。


 王都へと戻る馬車の中でゾイドは今までにない高揚感に浸りながら、人生を変えたかつての出来事を思い出していた。
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