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激怒
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ミルダはダルダス王国の王都から南に1週間程進んだ所にある広大な牧場に来ていた。
この牧場はミルダのパン屋が愛用している牛乳を製造している所で、その伝手を使い今ミルダはここで住み込みのバイトをしているのだ。
牧草が辺り一面に広がる広大な緑の土地、そよぐ風がミルダの髪を揺らし、青い空が時間の流れすらも忘れさせる。
(ああ、やっぱりここはいいな。気持ちが楽になる。ミーシャにルクセル様を取られちゃったけど、あんな風に思われながら結婚するくらいだったらむしろラッキーかもね。もう王城にパンは卸さないしミーシャもその日のうちに王城に住み着いたみたいだから顔を合わせることは無いかな)
あの日からミルダはパンを焼く気力が無くなってしまった。
このままではダメだと思い一度店を閉め、別のことに打ち込むことで気力が回復するのを待つことにしたのだ。
「おお、ここにいたかミルダ」
「あ、おじいさん」
この少し腰が曲がったおじいさんがこの牧場を経営している人で、最高の牛乳を作っている。
「どうだ、気分転換になったか?」
「そうですね、なんだかまたパンを作りたくなってきました。…でもまだ王都には戻りたくない」
「そうか…それなら新しいパン屋をやってみてはどうだ?」
「え?」
おじいさん曰くこの近くにはタルトという栄えた街があるそう。
タルトでパン屋をやっていた古くからの友人がつい先日他界、誰も次ぐ人がいなかったらしい。
「ここは王都と違って新鮮な食材が手に入りやすい。新しいパンを作っていればそのうち王都にも負けんパン屋が出来上がるだろう。再出発としてはいい機会ではないか?」
(確かに、別に王都にこだわる必要はない。お得意様だった人達には迷惑をかけるけど私の人生だし、好きに生きようかな)
「分かりました。そこで新しいパン屋を始めてみます!」
「おお!久しぶりのミルダが作るパン、それが食べられると思うと後50年は生きられそうだ」
「もう!お世辞が上手ですね!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
王城・王の間
玉座があるこの大部屋にルクセルは呼び出されていた。
ルクセルの目の前にはダルダス王国の国王ゼルネスが仁王立ちしている。
「貴様、自分が何をしでかしたか理解しているのか!?」
「?私が何かしましたでしょうか?」
突然の怒声に床に膝をつくルクセル。
しかし何故怒られているのかが理解出ない。
「婚約者であるミルダさんを振ったようだな」
「そ、それでしたら単なる私情のもつれというものです父上。私に相応しくない女だったものですから」
「ふざけるでない!!!」
更なるゼルネスの怒声に困惑するルクセル。
ゼルネスは言葉を続ける。
「我が何故ミルダさんと敬称を付けるか分かるか?それだけの価値がある女性だからだ!彼女の作るパンは我でなくこの国の重鎮全てが日々の楽しみとしている!それを貴様は!!」
「お、お言葉ながら、所詮はパン。替えが効くのでは?」
ルクセルの反論を予期していたかのように彼の前には2つのパンが置かれた。
どちらも似ているが食べてみて味の違いに驚愕する。
「なんだこのパンは!不味すぎる!これが本当にパンと言えるのか?」
「これは王都の別のパン屋が焼いたパンだ。これで分かっただろう、ミルダさんの作るパンがどれだけ別次元に位置しているか」
国王ゼルネスは畳みかける様に一枚の紙を取り出す。
「今朝届いたパース教会からの抗議文だ。曰く聖女がお祈りを拒否し続けているらしい。ミルダさんのパンが食べられなくてな。これでも貴様は替えが効くと申すか!」
額に流れる尋常ではない量の汗、ルクセルの精神は限界に達していた。
ルクセルは第三王子の身でありながら王座を狙っている、しかし今回のことで王座は目に見えぬほど遠ざかった。
どうすればいい…どうすれば…っ!!
「父上、私にチャンスをください。必ずやこの失態を挽回して見せます!」
「ほう、策があるのか?」
「はい。私の新しい婚約者であり、ミルダのパンの本当の制作者である…ミーシャにパンを作らせるのです」
この牧場はミルダのパン屋が愛用している牛乳を製造している所で、その伝手を使い今ミルダはここで住み込みのバイトをしているのだ。
牧草が辺り一面に広がる広大な緑の土地、そよぐ風がミルダの髪を揺らし、青い空が時間の流れすらも忘れさせる。
(ああ、やっぱりここはいいな。気持ちが楽になる。ミーシャにルクセル様を取られちゃったけど、あんな風に思われながら結婚するくらいだったらむしろラッキーかもね。もう王城にパンは卸さないしミーシャもその日のうちに王城に住み着いたみたいだから顔を合わせることは無いかな)
あの日からミルダはパンを焼く気力が無くなってしまった。
このままではダメだと思い一度店を閉め、別のことに打ち込むことで気力が回復するのを待つことにしたのだ。
「おお、ここにいたかミルダ」
「あ、おじいさん」
この少し腰が曲がったおじいさんがこの牧場を経営している人で、最高の牛乳を作っている。
「どうだ、気分転換になったか?」
「そうですね、なんだかまたパンを作りたくなってきました。…でもまだ王都には戻りたくない」
「そうか…それなら新しいパン屋をやってみてはどうだ?」
「え?」
おじいさん曰くこの近くにはタルトという栄えた街があるそう。
タルトでパン屋をやっていた古くからの友人がつい先日他界、誰も次ぐ人がいなかったらしい。
「ここは王都と違って新鮮な食材が手に入りやすい。新しいパンを作っていればそのうち王都にも負けんパン屋が出来上がるだろう。再出発としてはいい機会ではないか?」
(確かに、別に王都にこだわる必要はない。お得意様だった人達には迷惑をかけるけど私の人生だし、好きに生きようかな)
「分かりました。そこで新しいパン屋を始めてみます!」
「おお!久しぶりのミルダが作るパン、それが食べられると思うと後50年は生きられそうだ」
「もう!お世辞が上手ですね!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
王城・王の間
玉座があるこの大部屋にルクセルは呼び出されていた。
ルクセルの目の前にはダルダス王国の国王ゼルネスが仁王立ちしている。
「貴様、自分が何をしでかしたか理解しているのか!?」
「?私が何かしましたでしょうか?」
突然の怒声に床に膝をつくルクセル。
しかし何故怒られているのかが理解出ない。
「婚約者であるミルダさんを振ったようだな」
「そ、それでしたら単なる私情のもつれというものです父上。私に相応しくない女だったものですから」
「ふざけるでない!!!」
更なるゼルネスの怒声に困惑するルクセル。
ゼルネスは言葉を続ける。
「我が何故ミルダさんと敬称を付けるか分かるか?それだけの価値がある女性だからだ!彼女の作るパンは我でなくこの国の重鎮全てが日々の楽しみとしている!それを貴様は!!」
「お、お言葉ながら、所詮はパン。替えが効くのでは?」
ルクセルの反論を予期していたかのように彼の前には2つのパンが置かれた。
どちらも似ているが食べてみて味の違いに驚愕する。
「なんだこのパンは!不味すぎる!これが本当にパンと言えるのか?」
「これは王都の別のパン屋が焼いたパンだ。これで分かっただろう、ミルダさんの作るパンがどれだけ別次元に位置しているか」
国王ゼルネスは畳みかける様に一枚の紙を取り出す。
「今朝届いたパース教会からの抗議文だ。曰く聖女がお祈りを拒否し続けているらしい。ミルダさんのパンが食べられなくてな。これでも貴様は替えが効くと申すか!」
額に流れる尋常ではない量の汗、ルクセルの精神は限界に達していた。
ルクセルは第三王子の身でありながら王座を狙っている、しかし今回のことで王座は目に見えぬほど遠ざかった。
どうすればいい…どうすれば…っ!!
「父上、私にチャンスをください。必ずやこの失態を挽回して見せます!」
「ほう、策があるのか?」
「はい。私の新しい婚約者であり、ミルダのパンの本当の制作者である…ミーシャにパンを作らせるのです」
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