上 下
1 / 1

土下座は万能ではない

しおりを挟む
 ディーゼは知らぬ者がいないほど有名な名家の生まれ。
 社交界に出れば男が虫のように群がり求婚を申し出る。
 向けられるのは浅ましい視線と欲にまみれた好意だけ。
 ディーゼは心の底から思っていた。

 私…独身でいいかな。
 私に求婚してくる男って私じゃなくて家を見て寄って来るから面倒で仕方がないのよね。
 いっそ出家するか!

 とある貴族の誕生日パーティーに参加していたディーゼは軽食用に並べられた料理を取りながらそんなことを考えていた。
 すると不注意で誰かとぶつかってしまう。


「あっ!ごめんなさい考え事してて!」
「こちらこそすみません!!」


 それがハルドとの最初の出会いだった。
 ぶつかってしまったついでハルドと多少言葉を交わす。
 ちょっとした愚痴。
 それでも彼は私の話を真剣に聞きその優しさが溢れる笑顔やさりげない気づかいに気が付けば彼のことを意識し始めていた。


「すみません、だいぶ話してしまいました。では私はこれで」
「あ、あの!!…またお話出来ませんか?今度はちゃんとしたレストランとかで」
「ええ、楽しみにしてます!」


 それから幾度かの食事やデートを重ね私達は結婚前提で付き合うことになった。
 晴れてハルドは私の婚約者になったのだ。
 彼と一緒にいる時間は本当に楽しい。
 今私は幸せだ。こんなに幸せでいいのかと思うくらい幸せだ。これがずっと続けばいいのに。


 そんなことも思っていました。ええ思っていましたよ!!今では恥ずかしさで死にたくなるくらい思ってましたとも!!!


 今ディーゼは自宅のリビングで仁王立ちしている。
 目の前にはハルドと…実の妹であるロルゼが見事な土下座をかましている。


「すまなかったディーゼ!気の迷いだったんだ!!」

 何がすまなかったよ、何が気の迷いよ!!このクソ男!!婚約者の妹に手を出すか普通!?

「ロルゼが俺を誘ってきて…」
「ちょっとハルド!?あの時はそういう雰囲気だったじゃない!私のせいにしないでよ!」
「あれは完全にろっちゃんのせいだろ!!」
「いやはる君よ!!」

 挙句の果てに責任転嫁!?大人の自覚がないのか…!あとお互い愛称で呼び合ってるのがむかつく!!
 もういいわ、どうにでもなれ!!


「今回のこと、私は許してあげる」
「本当か!?」
「ありがとうお姉ちゃん!」
「だけどお父さんには報告するから」


 二人の表情が凍る。
 それもそのはず、私の父親ゴーゼスはこの国有数の権力者にして最恐の男と恐れられるほどの厳格者。
 その琴線に触れれば最後どんな手を使ってでも対象を心身とも崩壊するまで追い詰める。
 また頭でっかちな所もあるため実の娘でも容赦はしない。

「待ってくれ!それだけは待ってくれ!!」
「そんなことされたら私死んじゃうよお姉ちゃんん!!」
「勝手に死んでろ」
「いやーーーー!!」


 すぐさま私は父親に今回のことを報告、それから数日間ハルドとロルゼの姿を見たものはいない。
 久しぶりの再会を果たした者はその変わり様に恐怖したのだとか。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

濡れ衣を着せてきた公爵令嬢は私の婚約者が欲しかったみたいですが、その人は婚約者ではありません……

もるだ
恋愛
パトリシア公爵令嬢はみんなから慕われる人気者。その裏の顔はとんでもないものだった。ブランシュの評価を落とすために周りを巻き込み、ついには流血騒ぎに……。そんなパトリシアの目的はブランシュの婚約者だった。だが、パトリシアが想いを寄せている男はブランシュの婚約者ではなく、同姓同名の別人で──。

聖女を無能と罵って婚約破棄を宣言した王太子は追放されてしまいました

もるだ
恋愛
「お前とは婚約破棄だ! 国から出ていけ!」 王命により怪我人へのお祈りを続けていた聖女カリンを罵ったのは、王太子のヒューズだった。若くて可愛い聖女と結婚するつもりらしい。 だが、ヒューズの暴挙に怒った国王は、カリンではなく息子の王太子を追放することにした。

悪いのは先に冤罪をしかけてきたそちらですからね?

もるだ
恋愛
ソフィアは婚約者と手を組んだナターシャの姑息ないじめに悩んでいた。ただ虐められるだけではなく、犯人に仕立て上げられてしまうのだ。大聖堂で婚約破棄を高らかに宣言されたとき、ソフィアの復讐が幕を開ける──。

婚約は破棄なんですよね?

もるだ
恋愛
義理の妹ティナはナターシャの婚約者にいじめられていたと嘘をつき、信じた婚約者に婚約破棄を言い渡される。昔からナターシャをいじめて物を奪っていたのはティナなのに、得意の演技でナターシャを悪者に仕立て上げてきた。我慢の限界を迎えたナターシャは、ティナにされたように濡れ衣を着せかえす!

甘やかされすぎた妹には興味ないそうです

もるだ
恋愛
義理の妹スザンネは甘やかされて育ったせいで自分の思い通りにするためなら手段を選ばない。スザンネの婚約者を招いた食事会で、アーリアが大事にしている形見のネックレスをつけているスザンネを見つけた。我慢ならなくて問い詰めるもスザンネは知らない振りをするだけ。だが、婚約者は何か知っているようで──。

婚約者の姉から誰も守ってくれないなら、自分の身は自分で守るまでですが……

もるだ
恋愛
婚約者の姉から酷い暴言暴力を受けたのに「大目に見てやってよ」と笑って流されたので、自分の身は自分で守ることにします。公爵家の名に傷がついても知りません。

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

婚約者から贈られた物を身につけるたびに笑い者にされていた理由が、浮気相手との時間を捻出するためだったようです

珠宮さくら
恋愛
ティルディアは、婚約者の贈り物のドレスを着るたび、婚約者に散々なことを言われて自信をなくしていたが、それが浮気をする時間を作るためだったようで……。 ※全3話。

処理中です...