異世界召喚されました……断る!

K1-M

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2巻

2-1

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 皇都を出てから数日、俺――村瀬刀一むらせとういちは、ベルセに帰還し、一緒だった冒険者、商人達と別れる。

「今度一緒に依頼受けようなぁ」
「今度は護衛依頼出します」

 俺はソロだから、とずっと断っていたのだが、別れ際にまた言われたので、苦笑いで返しておく。
 街に到着したのが夕方だったので、まず宿へ行きチェックインを済ませた。
 一汗流してから宿を出て、夕食を済ませ、歓楽街を練り歩く。
 心の中で『私は帰ってきたぁーっ!』とネタをさけんだ。あの作品は至高だな。


 翌日、予想通り賢者モード発動。ひたすらゴロゴロする。
 夕食時に食堂で、俺をしたう少年冒険者のカーク達と話をして、部屋に戻る。
 ……そういえばカークに、ダンジョンに行くとは言ったが、皇都に行くとは伝えてなかった。
 余計なことを話して心配させるところだった、危なかった。
 ここで賢者モード解除。

「……すぅ……ふぅ~……」

 俺は宿の屋根の上に『転移』して、座り込んでタバコを一服。
 明日はどうするか……集めた魔物の素材があるから、売るためにベルウッド商会に顔を出すか。
 他は……特にないか。なら、図書館でも行くかな?

「……ふぅ~。さてとっ……寝るか」

 携帯灰皿で火を消し立ち上がる。パンパンッと尻をはたき、『転移』で部屋へ戻る。
 ベッドに寝転がり、ぼーっとしてるうちに、俺は意識を手放した。


 翌朝、食堂で朝食を取る。カーク達はもう冒険に出たようだ。
 朝食を済ませ一服した後、ベルウッド商会へ向かった。
 商会に着いて、買取カウンターで素材を売る。
 査定さてい後、金を受け取り、店員に商会長のリサさんがいるか尋ねた。
 奥へ確認に向かった店員を待っていると、現れた人数は予想より多かった。
 何で母親のクラウさんも一緒にいるんですかねぇ。

「トーイチさん、おはようございます。久しぶりですね」
「リサさん、おはよう。ご無沙汰ぶさたしてます」
「初めまして、クラウだ。よろしく、トーイチ君」
「トーイチです、初めまして」

 ……クラウさんは、俺と会ったことを内緒にしてくれているようだ。約束を守ってくれたか。
 俺が『転移』を使えることがおおやけになるのは避けたいからな。ちょっとお高めのウイスキーを渡しておいて良かった。

「トーイチさん、お茶をご用意してます。応接室へどうぞ」

 三人で応接室へ向かう。応接室のソファーに座り、お茶を一口。

「ふぅ」

 なかなかうまい。
 お茶請け、なんか良いのあったかな? と腰の袋(実は『アイテムボックスEX』)に手を突っ込む。
 皇都で買ったスポンジケーキはあったが、『転移』の件がばれるから、コレは出せないな。
 他に何かないかと探すが、焼き串とかしかなかった。

「お茶請け、どうぞ」

 リサさんに出されてしまった。

「すみません、リサさん。いただいてばかりで……リサさん?」
「……敬語」
「……は?」
「……敬語はなしでって、言いましたよね?」
「え、あ、はい。……ん゛ん゛っ、敬語はなしだな、分かった」
「はい」
「……ふふ」

 リサさんと話していると、急にクラウさんが笑った。

「お母さん?」

 首をかしげて尋ねるリサさん。

「いや、すまん。トーイチ君、私にも敬語は不要だ」
「はぁ……。ああ、分かった」

 それから、俺と同じく日本からの転移者らしいリサさんの祖父について、話を聞いた。

「祖父が旅から戻るのに、後一週間くらい、といったところでしょうね」
「分かった。着いたら連絡くれるんだろ? 待つことにするよ」
「すみません、よろしくお願いします」

 そう言って帰ろうとすると、クラウさんに引き留められた。

「君、ウチの店でバーベキューコンロを買ったらしいじゃないか」
「買ったけど、それが?」
「昼時も近いしどうだろう、店の裏庭で一焼きしていかないか?」
「ちょっとお母さんっ?」

 笑顔のクラウさんに対し、目を丸くするリサさん。
 クラウさんは以前、俺の提供したビッグボアの肉を食べているから、肉目当てか? だが……。

「分かった……焼きましょうっ!」

 こうして、突如としてバーベキューが始まった。
 俺はコンロなどの機材と肉を用意し、残りの食材は商会で用意してくれた。
 店員さんが代わる代わる食いに来るので、バーベキューは昼から夕方まで続いた。
 一番活躍したのは、日本産の某焼肉のタレ。皆から大人気だった。ありがとう。
 後でリサさんに一瓶、クラウさんに三瓶売った。……だって売ってくれって言うから。その時の目が怖かった。
 バーベキューが終わり、商会を出て宿に戻る。
 受付で今日の夕食について聞かれたが、「今日はもう休みます」と答え、部屋へ。
 部屋から人のいないところへ『転移』し、缶コーヒーを飲みながら一服。
 缶コーヒー一本で銀貨一枚(約千円)、タバコ一本で銅貨三枚(約三百円)って高いよな~なんて、どうでもいい事を考えたりする。

「んんんんん……一週間か。明日からどうすっかなぁ~」

 俺はタバコを消し、体を伸ばした。何も思いつかないな。
 仕方なく部屋に戻った俺は、時間は早いがお腹もいっぱいだし……とジャージに着替えた。
 ……あ、今日は図書館行けなかったな。


 早めに休んだせいか、翌朝に目覚めるのも早かった。
 食堂は開いてるかな? と一階に降りて行くと、カークとその仲間達――ルーク、ニーナ、テレスに会った。

「「「「おはようございます!」」」」

 皆、今日も元気だなぁ。

「おはよう」
「お兄さん、ダンジョンの話、詳しく聞きたいです」
「ニーナ、先走り過ぎよ」

 テレスが言うと、カークもうなずいた。

「そうだよ。まずは食堂に行って朝食にしよう」
「はは。じゃ飯食いながらにしようか」

 どうやら食堂は開いてるみたいだ。五人で一旦席に着き、バイキングで皿に盛ってくる。
 さて、食べようか。
 俺は食事の間、隠し部屋とダンジョンマスターの事を除いて、ダンジョンについて話した。

「オーガロード、レベル15ですか……」

 カークの言葉に、ニーナとテレスが顔を見合わせる。

「……うーん、まだ早いよね」
「……私達にはまだ無理ですね」
「そうか? やれそうな気がするけど……」

 俺の率直な意見に対して、カークが首を左右に振った。

「いえ、装備も経験も足りてないです」
「よし、今日も依頼がんばろーっ!」
「「「おーっ!」」」

 ニーナの掛け声に、残りのメンバーが元気よく反応する。
 うんうん、若いって良いなぁ~元気だなぁ~と、俺は目を細めてカーク達を見ていた。
 すると、カークから思わぬ一言が。

「あっ、お兄さん。一緒に依頼受けません?」


       ◇ ◇ ◇


「ふっ!」

『スパァァァンッ!!』と音が鳴りそうな感じで刀を振り切り、俺はゴブリンを上下に分断した。

「トーイチさん、こっち終わりました」
「ああ、こっちも終わった」

 俺は今、カーク達と討伐依頼を受けている。まぁ、たまには良いだろう。
 今倒したのはゴブリンだが、依頼はスモールボアの討伐だ。
 ベルセから少し離れた、小さな村の畑が荒らされているとの事で、畑の警戒中である。

「お兄さんの感知範囲が広いから、今日は楽ねぇ」
「そうですね。さすがお兄さんです」
「お目当てのボアは出てきてないけどね」
「そういう事、言わないの」

 以上、ニーナとテレスのやり取りである。

「やっぱりお兄さん、ウチのパーティーに入ってよぉ」
「無理言うな、ニーナ。最初から期間限定って言われてるだろ」

 カークがニーナをたしなめた。

「私もお兄さんに入ってほしいです」
「テレスまで……」
「悪いな。ベルセで人と会う約束があって、それから次に行くトコ決めてるんだ」

 そう、一緒に依頼を受けるのは、期間限定の約束なのだ。


 そうこうしている間に、スモールボアの討伐は終わった。

「――いやぁ、正直、スモールボアが三匹出てきた時はどうしようかと思いました」
「お兄さんが二匹倒してくれたから助かりました」
「だねえ~」

 カーク、テレス、ニーナが口々に言う。

「お前らだけでもイケるだろう?」
「んん~、ギリギリになっちゃいますけどね」

 カークは苦笑した。

「そうか?」
「お兄さんの指示があると、一匹相手でも結構楽でしたよ」
「いつもなら、もう少し手こずっちゃうよね」

 テレス、ニーナの言葉を聞いて、俺はアドバイスしてやる。

「その辺はカークが経験積めば、かな」
「そうですね、はは……」

 実際カーク達四人は、以前より大分強くなっていた。あの時はゴブリンから逃げてたもんなあ。
 それから夕方まで、ゴブリン、ホーンラビット、スモールボアを狩っていく。
 ん~数多くね? と思っていると、ニーナが言った。

「カーク、魔物の数……多くない?」
「……多いと思う」
「だよね」

 やっぱり多いらしい。

「強い魔物でもいるんですかね」
「ギルドに報告した方が良いね」

 強い魔物? 俺が『マップEX』の感知範囲を広げると、大きいのがいた。
『鑑定』すると、レベル31のワイバーンだった。
 竜種の中では弱い方だが飛行能力がある。爪でのぎ払い、噛み付き、ブレスで攻撃する。
 肉はかなりうまいそうだ。
 よし……こっそり狩ろう!
 俺はひそかに村の周りに『結界』を張り、魔物が避けていく効果も付与した。
 そのおかげで魔物は寄ってこなくなり、パーティーは夕食まで解散になった。
 俺はその間に抜け出し、村はずれの人気ひとけのないところへ行き、『気配遮断しゃだん』と『転移』を使い、ワイバーンの近くに跳んだ。
 攻撃魔法の『マグナム』を準備する。水弱め、雷強め、音なしに調整。
 家系ラーメンの注文みたいだな……と、それより魔物だ。
 バリィッッッッ!!
『マグナム』を放つと、ワイバーンは一瞬で絶命し、俺は肉を回収した。
 うまい肉ゲットだぜ!
 ベルウッド商会で、またバーベキューさせてもらうか。
 お土産みやげをゲットした俺は、ホクホクと村に戻った。
 村では、今日狩ったスモールボアやホーンラビットが調理され、机に並べられていた。
 料理担当の奥様方に、「秘伝のタレです」と言って、小分けにした焼肉のタレ一瓶を渡したら、すごい喜びようだった。うまいは正義だな。
 カーク達は、村長と一緒に食事をしていた。
 カークが村長と話し、ルークとテレスはそれを聞き、ニーナだけが肉にがっついている。
 俺も食べるか……ワイバーンの件は秘密にして、俺は肉に手を伸ばした。


 翌朝。昨晩は遅くまで宴会だったので、野郎連中は二日酔いだった。
 俺はスキルがあるから平気だったけどな。
 午前中に『結界』を解除し、周辺の警戒にあたるが魔物の気配はなかった。
 村長に報告し、依頼達成となり、ベルセに戻る準備をする。
 帰り際、奥様方に惜しまれたが、あんたら焼肉のタレが欲しいだけでしょ、絶対。
 俺はワイバーンの肉をゲットしたので、ホクホクでベルセへの帰路に就く。
 少し歩いたところで、カークの知り合いらしい人が現れた。

「あ、支部長!」

 カークに挨拶あいさつした支部長は、俺に目を向けた。

「おっ。お前は初めて見る顔だな。俺は冒険者ギルド、ベルセ支部長のステルクだ」

 豪快な感じの人だな。

「トーイチです。初めまして、ステルク支部長」
「おう、よろしくな! ……トーイチ? んんん?」

 ステルク支部長が首を傾げて考え込んだ。というより、何か思い出そうとしているのか。
 あっ、もしかして、皇都の冒険者ギルドのマスター、マサシから何か通達でもあったか?
 やべぇ、面倒くせぇっ。

「支部長みずからなんて、何かあったんですか?」
「ん? おおっ、ワイバーンが出たって報告があってな。討伐隊組んできたところだ」

 カークが話しかけた事で、俺の事はとりあえず有耶無耶うやむやになったみたいだ。
 ナイスッ! カーク。俺は心の中でサムズアップした。
 しかしワイバーンか……俺が倒しちゃったけど、どうしよう。

「街にいたCランク以上を、かたぱしから集めたがこれしかいなかった」
「Cランクが六人……ですか。厳しいですね」

 俺は黙って、カークとステルク支部長の話を聞く。うん、このままやり過ごそう。

「普通ならな。ま、俺が出てきたから大丈夫だろう」
「そうですね、支部長がいれば……」

 難しい顔で言うカーク。

「ふむ……お前、少しヤレそうだな。どうだ?」

 油断していたら、いきなりこっちに振られた。

「……えっ?」

 ヤだよ面倒くさい。そもそも、ワイバーンはもういないんだ。

「すみません。Eランクの俺じゃ足を引っ張るだけなので、お断りします」

 本当は皇都でDランクに上がってるけどな。

「そうか、そいつぁ残念だ」

 ガッハッハと笑うステルク支部長。あまり残念そうじゃないな、おい。

「まあいい、んじゃそろそろ行くわ。帰りも気を付けろよ」

 こうしてステルク支部長は、Cランク冒険者六人を連れて、ワイバーン討伐に向かった。
 うん、なんかゴメン……。


 翌日、「ワイバーンは飛び去ったらしく見つからなかった」という話を、カークから聞いた。
 ステルク支部長から俺の話は出なかったみたいで、一安心というところか。
 そこから数日は、カーク達と戦闘訓練をしたり、討伐依頼を一緒にこなしたりした。
 俺の場合、剣道の下地しかなかったため、訓練とはいえ非常に勉強になった。
 今までの俺の戦闘は、勢いだけだったからなぁ。
 一つ一つの動作を確認して、地味に実力は上がったと思う。おざなりだった防御技術も大分良くなった。


 数日後、ようやくベルウッド商会から連絡が入った。
 カーク達との臨時パーティーもここで解散だ。ニーナには大分ごねられたが、後二~三日はベルセにいるよと伝え、別れた。
 俺はベルウッド商会に出向き、応接室に通され、リサさんの祖父を待つ。さあ、ご対面だ。
 バァァァァァンッ!!!
 突然、ドアが激しく開かれた。
 そこには、右手を腰の左前に、広げた左手を顔の前に掲げた、黒髪の男が立っていた。
 ……ジョジ◯立ちで出てきやがった!
 しかし、目の前で見るとアレだな……声も出せねぇ。
 応接室に沈黙が流れる……。
 ん? なんかこの人、ちょっとプルプルしてない? でもポーズは崩さないんだな。
 そう思っていると、廊下から怒声がした。

「もうっ!! なにやってるのっ、お父さんっ!!」
「リサっ? これは違うんだっ! 親父がやれって言うからっ!」

 男は顔を赤くして、ワタワタと言い訳を始めた。どうやら、やらされていたらしい。

「ぶはははははっ!!」

 すると、別の野太い笑い声が響いた。

「親父ぃっ!?」
「お祖父じいちゃんっ?」

 どうやら、ようやくリサさんの祖父の登場らしい。いやに若いけど。
 ……あれ、どこかで見た事あるぞ。もしかして……おいおい、どうなってんだ……?

「え~と、……総司そうし……先輩?」
「まさか……刀一か?」

 お互い指を指し合う、俺とリサさんの祖父。どうやら間違いないみたいだけど……。

「「マジで……?」」

       
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