3 / 225
1巻
1-3
しおりを挟む
◇ ◇ ◇
俺は街道を、王国とは逆方向に歩いていく。
歩く、歩く、蹴る、歩く、蹴る、歩く、歩く……。
……誰にも会わない。
……歩く、歩く、蹴る、歩く……。たまにゴブリンが出るが、人には会わない。
……あれぇ?
街道なのに、こんなに人に会わない事とかあるのだろうか……?
さらに歩いていると、少し腹が減ってきた。
召喚されてから、そろそろ五時間くらい経ったかな……。
まだコチラの世界に来てから何も口にしていない。
あぁ、せめて水だけでも飲みたいな……。
ヤバいな……。
暗くなる前に街に着くだろうか? いや、村か集落でもいい。
ん~、マップを広げて見た方が早いけれど、せっかくの縛りプレイをすぐやめちゃうのもなぁ……と、まったく意味のない意地を張ってみる。
「……」
そういえば、腹は減ってきたけど疲れはないな。
もう何時間も歩き続けているのに……『健康EX』の効果かな?
……そうしてさらに歩く事約一時間、脳内にアラートが鳴り響く。
なんだ? またゴブリンか?
「……」
そう思いながらマップを確認すると、白い表示が四に赤い表示が七。
街道の周りは背の高い草が繁っていて目視はできないが、どうやら俺の進行方向に向かって移動しているようだ。
そして一分もせずに、目視できる位置に人間が四人、繁みから現れた。
おおっ! 人だっ‼
俺が四人を見てちょっと喜んでいると……んん~? なんかこっちに向かって来ていないか?
直後、四人の後ろからゴブリンが七匹、繁みから飛び出してきた。
四人は俺に向かって走ってくる。
当然、ゴブリンがそれに追随してくるワケだが……。
あ~、もうなんとなく状況が分かったわ。
見た感じ四人は十代前半から中頃といったところか。
ふむ……ならここはおっさんが体を張ろうかっ!
そして俺は走り出す……。
◇ ◇ ◇
「……ふっ‼」
『ゴスッ!』
「グギャッ⁉」
『ズシャアッ!』
俺は四人の横を走り抜け、先頭のゴブリンの顔面に、カウンター気味に蹴りを放つ。
レベルが上がった俺には、ゴブリンが何匹来ようとも相手ではない。
残り六匹のゴブリンも一撃一殺で蹴っていく。
……うん、素手で殴るのは無理っ!
ピロン♪
『レベルが上がりました』
『体術レベルが上がりました』
『高速思考レベルが上がりました』
「……ふぅ」
ゴブリンを全滅させると、本日何度目かの脳内アナウンスが流れる。
……が、ステータスの確認はあとにして四人の下へ近付いていく。
「おーい、大丈夫か?」
俺が話しかけると、リーダーっぽい少年が前に出た。
「あ、あの、ありがとうございました。助かりました」
「ああ、気にしなくていい」
話を聞くと、四人は近くの街から薬草採取の依頼を受けて活動していた冒険者らしい。
採取を終わらせ、街への帰路でゴブリンと遭遇、今に至るとの事。
幸い荷物の損害や怪我などはないようだ。
「ほう~、冒険者……」
剣と魔法の世界でテンプレ中のテンプレ、冒険者。
あるかなぁと思ってはいたが、ちゃんとあってよかった。
これで日銭はなんとかなりそうだ、と少し安心。
そして若干嬉しい……。
中身四十オーバーのおっさんが冒険者とかではしゃぐなっ、とも思うが、サブカルが発達した日本のおっさんなんて、みんな浪漫を求めるもんだ。
きっと、多分……。
うん、俺は嬉しいっ。それでいいっ!
「その冒険者になるにはどうすればいいんだ?」
「……えっ? お兄さんは冒険者じゃないんですか?」
「ああ、俺は冒険者じゃないよ」
「ゴブリンを瞬殺していたから、てっきりCランクかDランクの冒険者だと思っていました」
「ハハ、とりあえず冒険者になる方法、教えてもらえる?」
俺は誤魔化す感じで話を変えた。
「あ、はい。でしたら僕らも、もう街に帰って冒険者ギルドに寄るので、一緒に行きましょう」
「そうか、それは助かる。よろしく頼むよ」
こうして街までの案内を確保した俺はほっと一息ついた……。
◇ ◇ ◇
街まで行くのに約一時間、その間に、少年達にいろいろな話を聞く事ができた。
この国の正式な国名はルセリア帝国。
皇帝ルセリア五世統治の下、今は豚の国が攻めてくる以外は平和らしい。
……豚の国の名前? んなもん知らんっ!
皇帝ルセリアは文武に優れ、人柄もいいらしい。帝国内の貧富の差もどんどん少なくなってきているんだとか。
何年か前から腐敗した貴族を排除して、やっとここまでの統治を築いたらしい。
他の街や皇都には、まだそういった貴族が残ってはいるみたいだが、それでも皇帝の人柄か、優れた部下も多いようだ。
なんにしても、国を治める人間の評判がいいというのは、ありがたい事だと思う。
彼ら四人は幼馴染で、冒険者としての活動は始めたばかりとの事。
ゴブリン単体ならともかく、現状では二匹でも戦闘がキツイ。それなのに七匹と遭遇したため、追い回されたらしい。
そして、なんとか街道に出たところで俺がいたので、助けを求めようと思ったんだとか。ただ、まあ……。
「まさか丸腰で蹴っていくとは思いませんでした」
……うん、俺も初戦闘まで自分が丸腰だとは思わなかったよ。
「自己紹介、まだだったね。俺はトーイチ。田舎から出てきたばかりの今は十八歳だ。よろしくな」
「あ、そうでしたね。僕はカーク。冒険者成り立ての剣士志望。十四歳です。一応このパーティーのリーダーをしています」
そうして自己紹介は進んでいく。
カーク、十四歳、剣士志望、リーダー。
ルーク、十四歳、戦士志望、タンク。
ニーナ、十二歳、シーフ志望、斥候。
テレス、十二歳、魔法師志望、攻撃・回復。
バランスはよさそうだけど経験も装備も全て足らず、その事は自分達も分かっているので地道に頑張っている最中……だそうだ。
うんうん、いいねぇ、若いって……。
話しているうちに、街に到着した。
今は入場門前で身元確認の列に並んでいる。
『ぐうぅぅ~』
俺の腹の音が鳴る。
「ふふ、大きな音」
テレスに笑われてしまった。
「はは、すまない。朝から食べてなくてね」
「あ、じゃあ、コレ。干し肉の残りですけど食べます?」
「ああ、ありがとう。いただくよ」
テレスに干し肉をもらい齧りつく。……特別美味しくはないけど充分だ。
「ありがとう。ごちそうさま」
「ふふ、二回もありがとうなんて。そんなにお腹空いてたんですか?」
そんなやり取りをしているうちに、俺達の番が来たみたいだ。
「……」
そういえば俺、身分証とかないな。
……アレ? ヤバくねっ?
◇ ◇ ◇
入場門前にて俺は一人焦っていた。
それは何故か?
身分証がないどころか金も持っていないから。うむ、マズイ!
よく考えたら、召喚された時の格好のままだから服装はジャージ上下。
靴は豚王のとこでもらっていたけど……周りの人達と見比べると明らかに違う。不審者臭が凄いよ、俺っ!
……カーク達はよく俺と一緒にいて平気だな。
「カーク、カーク。俺、身分証とか金とか持ってないんだけど……」
「……えっ?」
若干の沈黙が流れ……。
「カーク?」
「あ、すみません。ここでは身分証がなくても簡単な審査だけで、入るのにお金もかかりません」
「審査って?」
「衛兵の持っている水晶型の魔道具に触れるだけです。それで犯罪者かどうか見分けるみたいです」
「へぇ~、そんな便利な物があるんだな……」
ん~……それなら、とりあえず大丈夫そうだな。よかった……。
カーク達四人はギルドカードを出してすんなり通り、俺も問題なく通過できた。
ギルドカードは冒険者ギルドに限らず商人ギルド、魔術師ギルド等、各ギルドでも発行しているが、一枚あれば全て兼用できるらしい。
もちろん登録手続きは、それぞれしなくてはダメとの事。それでも便利だと思う。
また各ギルドは全ての国にあるので、ギルドカードは帝国内のみに留まらず各国でも身分証として有効だそう。
さらに入出金+決済等も可能だとか。万能だなっ、おいっ!
問題なく通過できた事にホッとしている俺に、門番さんが声をかけてくる。
「ようこそ、ベルセの街へ!」
テンプレのようなそのセリフに少し嬉しくなり、俺は片手を挙げて応えてから、カーク達の下へ小走りで向かった。
「トーイチさん、あそこがベルセの冒険者ギルドです」
少しの間、ベルセの街並みをキョロキョロ見渡して歩いていたが、カークの声に反応してカークが指さす先の建物を見た。
そこには、盾に重ねて、剣が×の字に交差する看板が掛かっている、大きな建物があった。
「おおぉ、デカイなっ!」
「国境とダンジョンが近くにあるので冒険者が多く、その分、建物を大きくしてるそうです」
「へぇ~、ダンジョンも近くにあるのかぁ」
「僕達はまだダンジョンには行った事はないですけどね。さ、中に入りましょうか」
カークに促され建物内へ入る。
大きなホールの手前側は酒場になっていて、見た目ヒャッハーな方々が沢山いらっしゃる。
怖っ、怖いよっ! ……あと怖い。
ホールの中央付近は掲示板かな? もう夕方なので今はあまり人がいない。
ホール奥に受付カウンターが五つあり、今はそのうちの三つしか受付していないようだ。
受付嬢は遠目に見ても、三人共美人さんだ。
うんうん、アニメやラノベ通りのテンプレ感。
冒険者ギルドはこうだよなぁ、なんて益体もない事を考えているとカークから声がかかる。
「じゃあ僕達は依頼達成の報告をしてきます。トーイチさんは登録と買取ですよね」
「ああ、一緒に行くよ!」
そして俺はカークと共に受付嬢の下へ……違う。登録のために受付へ向かった。
◇ ◇ ◇
「こんにちは、初めての方ですね。冒険者ギルド・ベルセ支部へようこそ。受付のティリアと申します。ご用件を承ります」
受付嬢ティリアさんに『ニコリ』とした笑顔で迎えられた。
ティリアさんは……。
「黒髪セミロングのサラサラストレートの眼鏡美人さん。二十代半ばくらいだろうか、エリート女課長な感じだが、その柔らかい笑顔に皆、やられているのではないだろうか……可愛い」
って、そうじゃなかった。
「あ、冒険者への登録をお願いします」
「……」
「……?」
あれ、反応がないな。なんか顔赤いしプルプルしてるし体調悪いのかな?
『トントン』
「トーイチさん、トーイチさん」
カークが俺をつついて話しかけてくる。
「ん? なんだ、カーク?」
「声、出てました」
「は?」
「黒髪セミロング、あたりから全部声が出てました」
「は? ……えっ? マジでっ?」
『コクン』
カークが頷く。
……ぬうぅっ、声に出すなんて初歩的なミスを犯すとはっ。
ティリアさんの方をチラリと見てみる。まだちょっと顔が赤い。
……ん~、美人やら可愛いやら、言われ慣れてると思うんだけどなぁ。よし、誤魔化そう。
「えーっと、冒険者登録をお願いします」
「……ぁ、ハイ。少々お待ちください」
うん、復活したみたいだ。
◇ ◇ ◇
「お待たせしました。こちらの用紙に記入をお願いします。代筆は必要ですか?」
「あ~……ちょっと待ってください」
「……?」
用紙を流し見る。ん~、ちゃんと読めるから『言語理解』が働いているのだろう。
なら書くのも大丈夫かな?
「ちょっと書いてみます」
名前:トーイチ
職業:無職
得意戦闘:剣術・体術
「書けました」
「ハイ、確認しました。ではこちらの水晶に手を置いてください」
「はい」
俺が水晶に手を置くと、水晶は光りすぐに収まった。
「これは……?」
「今ので、ギルドカードにあなたの魔力を刻みました。これで、本人以外はカードの使用ができなくなりました」
「なるほど。指紋認証みたいなものか……」
「シ……モン?」
「ああ、いえ、なんでもないです」
おっと……余計な言葉は口に出さないようにしないとな。
「では、えーっと、トーイチさん。こちらがギルドカードになります。今回は費用がかかりませんが再発行時は金貨一枚が必要になります。失くさないようご注意ください」
「はい、分かりました」
「引き続き冒険者ギルドの説明は必要ですか?」
「ではお願いできますか」
「分かりました。資料を持って参りますので、少々お待ちください」
俺は街道を、王国とは逆方向に歩いていく。
歩く、歩く、蹴る、歩く、蹴る、歩く、歩く……。
……誰にも会わない。
……歩く、歩く、蹴る、歩く……。たまにゴブリンが出るが、人には会わない。
……あれぇ?
街道なのに、こんなに人に会わない事とかあるのだろうか……?
さらに歩いていると、少し腹が減ってきた。
召喚されてから、そろそろ五時間くらい経ったかな……。
まだコチラの世界に来てから何も口にしていない。
あぁ、せめて水だけでも飲みたいな……。
ヤバいな……。
暗くなる前に街に着くだろうか? いや、村か集落でもいい。
ん~、マップを広げて見た方が早いけれど、せっかくの縛りプレイをすぐやめちゃうのもなぁ……と、まったく意味のない意地を張ってみる。
「……」
そういえば、腹は減ってきたけど疲れはないな。
もう何時間も歩き続けているのに……『健康EX』の効果かな?
……そうしてさらに歩く事約一時間、脳内にアラートが鳴り響く。
なんだ? またゴブリンか?
「……」
そう思いながらマップを確認すると、白い表示が四に赤い表示が七。
街道の周りは背の高い草が繁っていて目視はできないが、どうやら俺の進行方向に向かって移動しているようだ。
そして一分もせずに、目視できる位置に人間が四人、繁みから現れた。
おおっ! 人だっ‼
俺が四人を見てちょっと喜んでいると……んん~? なんかこっちに向かって来ていないか?
直後、四人の後ろからゴブリンが七匹、繁みから飛び出してきた。
四人は俺に向かって走ってくる。
当然、ゴブリンがそれに追随してくるワケだが……。
あ~、もうなんとなく状況が分かったわ。
見た感じ四人は十代前半から中頃といったところか。
ふむ……ならここはおっさんが体を張ろうかっ!
そして俺は走り出す……。
◇ ◇ ◇
「……ふっ‼」
『ゴスッ!』
「グギャッ⁉」
『ズシャアッ!』
俺は四人の横を走り抜け、先頭のゴブリンの顔面に、カウンター気味に蹴りを放つ。
レベルが上がった俺には、ゴブリンが何匹来ようとも相手ではない。
残り六匹のゴブリンも一撃一殺で蹴っていく。
……うん、素手で殴るのは無理っ!
ピロン♪
『レベルが上がりました』
『体術レベルが上がりました』
『高速思考レベルが上がりました』
「……ふぅ」
ゴブリンを全滅させると、本日何度目かの脳内アナウンスが流れる。
……が、ステータスの確認はあとにして四人の下へ近付いていく。
「おーい、大丈夫か?」
俺が話しかけると、リーダーっぽい少年が前に出た。
「あ、あの、ありがとうございました。助かりました」
「ああ、気にしなくていい」
話を聞くと、四人は近くの街から薬草採取の依頼を受けて活動していた冒険者らしい。
採取を終わらせ、街への帰路でゴブリンと遭遇、今に至るとの事。
幸い荷物の損害や怪我などはないようだ。
「ほう~、冒険者……」
剣と魔法の世界でテンプレ中のテンプレ、冒険者。
あるかなぁと思ってはいたが、ちゃんとあってよかった。
これで日銭はなんとかなりそうだ、と少し安心。
そして若干嬉しい……。
中身四十オーバーのおっさんが冒険者とかではしゃぐなっ、とも思うが、サブカルが発達した日本のおっさんなんて、みんな浪漫を求めるもんだ。
きっと、多分……。
うん、俺は嬉しいっ。それでいいっ!
「その冒険者になるにはどうすればいいんだ?」
「……えっ? お兄さんは冒険者じゃないんですか?」
「ああ、俺は冒険者じゃないよ」
「ゴブリンを瞬殺していたから、てっきりCランクかDランクの冒険者だと思っていました」
「ハハ、とりあえず冒険者になる方法、教えてもらえる?」
俺は誤魔化す感じで話を変えた。
「あ、はい。でしたら僕らも、もう街に帰って冒険者ギルドに寄るので、一緒に行きましょう」
「そうか、それは助かる。よろしく頼むよ」
こうして街までの案内を確保した俺はほっと一息ついた……。
◇ ◇ ◇
街まで行くのに約一時間、その間に、少年達にいろいろな話を聞く事ができた。
この国の正式な国名はルセリア帝国。
皇帝ルセリア五世統治の下、今は豚の国が攻めてくる以外は平和らしい。
……豚の国の名前? んなもん知らんっ!
皇帝ルセリアは文武に優れ、人柄もいいらしい。帝国内の貧富の差もどんどん少なくなってきているんだとか。
何年か前から腐敗した貴族を排除して、やっとここまでの統治を築いたらしい。
他の街や皇都には、まだそういった貴族が残ってはいるみたいだが、それでも皇帝の人柄か、優れた部下も多いようだ。
なんにしても、国を治める人間の評判がいいというのは、ありがたい事だと思う。
彼ら四人は幼馴染で、冒険者としての活動は始めたばかりとの事。
ゴブリン単体ならともかく、現状では二匹でも戦闘がキツイ。それなのに七匹と遭遇したため、追い回されたらしい。
そして、なんとか街道に出たところで俺がいたので、助けを求めようと思ったんだとか。ただ、まあ……。
「まさか丸腰で蹴っていくとは思いませんでした」
……うん、俺も初戦闘まで自分が丸腰だとは思わなかったよ。
「自己紹介、まだだったね。俺はトーイチ。田舎から出てきたばかりの今は十八歳だ。よろしくな」
「あ、そうでしたね。僕はカーク。冒険者成り立ての剣士志望。十四歳です。一応このパーティーのリーダーをしています」
そうして自己紹介は進んでいく。
カーク、十四歳、剣士志望、リーダー。
ルーク、十四歳、戦士志望、タンク。
ニーナ、十二歳、シーフ志望、斥候。
テレス、十二歳、魔法師志望、攻撃・回復。
バランスはよさそうだけど経験も装備も全て足らず、その事は自分達も分かっているので地道に頑張っている最中……だそうだ。
うんうん、いいねぇ、若いって……。
話しているうちに、街に到着した。
今は入場門前で身元確認の列に並んでいる。
『ぐうぅぅ~』
俺の腹の音が鳴る。
「ふふ、大きな音」
テレスに笑われてしまった。
「はは、すまない。朝から食べてなくてね」
「あ、じゃあ、コレ。干し肉の残りですけど食べます?」
「ああ、ありがとう。いただくよ」
テレスに干し肉をもらい齧りつく。……特別美味しくはないけど充分だ。
「ありがとう。ごちそうさま」
「ふふ、二回もありがとうなんて。そんなにお腹空いてたんですか?」
そんなやり取りをしているうちに、俺達の番が来たみたいだ。
「……」
そういえば俺、身分証とかないな。
……アレ? ヤバくねっ?
◇ ◇ ◇
入場門前にて俺は一人焦っていた。
それは何故か?
身分証がないどころか金も持っていないから。うむ、マズイ!
よく考えたら、召喚された時の格好のままだから服装はジャージ上下。
靴は豚王のとこでもらっていたけど……周りの人達と見比べると明らかに違う。不審者臭が凄いよ、俺っ!
……カーク達はよく俺と一緒にいて平気だな。
「カーク、カーク。俺、身分証とか金とか持ってないんだけど……」
「……えっ?」
若干の沈黙が流れ……。
「カーク?」
「あ、すみません。ここでは身分証がなくても簡単な審査だけで、入るのにお金もかかりません」
「審査って?」
「衛兵の持っている水晶型の魔道具に触れるだけです。それで犯罪者かどうか見分けるみたいです」
「へぇ~、そんな便利な物があるんだな……」
ん~……それなら、とりあえず大丈夫そうだな。よかった……。
カーク達四人はギルドカードを出してすんなり通り、俺も問題なく通過できた。
ギルドカードは冒険者ギルドに限らず商人ギルド、魔術師ギルド等、各ギルドでも発行しているが、一枚あれば全て兼用できるらしい。
もちろん登録手続きは、それぞれしなくてはダメとの事。それでも便利だと思う。
また各ギルドは全ての国にあるので、ギルドカードは帝国内のみに留まらず各国でも身分証として有効だそう。
さらに入出金+決済等も可能だとか。万能だなっ、おいっ!
問題なく通過できた事にホッとしている俺に、門番さんが声をかけてくる。
「ようこそ、ベルセの街へ!」
テンプレのようなそのセリフに少し嬉しくなり、俺は片手を挙げて応えてから、カーク達の下へ小走りで向かった。
「トーイチさん、あそこがベルセの冒険者ギルドです」
少しの間、ベルセの街並みをキョロキョロ見渡して歩いていたが、カークの声に反応してカークが指さす先の建物を見た。
そこには、盾に重ねて、剣が×の字に交差する看板が掛かっている、大きな建物があった。
「おおぉ、デカイなっ!」
「国境とダンジョンが近くにあるので冒険者が多く、その分、建物を大きくしてるそうです」
「へぇ~、ダンジョンも近くにあるのかぁ」
「僕達はまだダンジョンには行った事はないですけどね。さ、中に入りましょうか」
カークに促され建物内へ入る。
大きなホールの手前側は酒場になっていて、見た目ヒャッハーな方々が沢山いらっしゃる。
怖っ、怖いよっ! ……あと怖い。
ホールの中央付近は掲示板かな? もう夕方なので今はあまり人がいない。
ホール奥に受付カウンターが五つあり、今はそのうちの三つしか受付していないようだ。
受付嬢は遠目に見ても、三人共美人さんだ。
うんうん、アニメやラノベ通りのテンプレ感。
冒険者ギルドはこうだよなぁ、なんて益体もない事を考えているとカークから声がかかる。
「じゃあ僕達は依頼達成の報告をしてきます。トーイチさんは登録と買取ですよね」
「ああ、一緒に行くよ!」
そして俺はカークと共に受付嬢の下へ……違う。登録のために受付へ向かった。
◇ ◇ ◇
「こんにちは、初めての方ですね。冒険者ギルド・ベルセ支部へようこそ。受付のティリアと申します。ご用件を承ります」
受付嬢ティリアさんに『ニコリ』とした笑顔で迎えられた。
ティリアさんは……。
「黒髪セミロングのサラサラストレートの眼鏡美人さん。二十代半ばくらいだろうか、エリート女課長な感じだが、その柔らかい笑顔に皆、やられているのではないだろうか……可愛い」
って、そうじゃなかった。
「あ、冒険者への登録をお願いします」
「……」
「……?」
あれ、反応がないな。なんか顔赤いしプルプルしてるし体調悪いのかな?
『トントン』
「トーイチさん、トーイチさん」
カークが俺をつついて話しかけてくる。
「ん? なんだ、カーク?」
「声、出てました」
「は?」
「黒髪セミロング、あたりから全部声が出てました」
「は? ……えっ? マジでっ?」
『コクン』
カークが頷く。
……ぬうぅっ、声に出すなんて初歩的なミスを犯すとはっ。
ティリアさんの方をチラリと見てみる。まだちょっと顔が赤い。
……ん~、美人やら可愛いやら、言われ慣れてると思うんだけどなぁ。よし、誤魔化そう。
「えーっと、冒険者登録をお願いします」
「……ぁ、ハイ。少々お待ちください」
うん、復活したみたいだ。
◇ ◇ ◇
「お待たせしました。こちらの用紙に記入をお願いします。代筆は必要ですか?」
「あ~……ちょっと待ってください」
「……?」
用紙を流し見る。ん~、ちゃんと読めるから『言語理解』が働いているのだろう。
なら書くのも大丈夫かな?
「ちょっと書いてみます」
名前:トーイチ
職業:無職
得意戦闘:剣術・体術
「書けました」
「ハイ、確認しました。ではこちらの水晶に手を置いてください」
「はい」
俺が水晶に手を置くと、水晶は光りすぐに収まった。
「これは……?」
「今ので、ギルドカードにあなたの魔力を刻みました。これで、本人以外はカードの使用ができなくなりました」
「なるほど。指紋認証みたいなものか……」
「シ……モン?」
「ああ、いえ、なんでもないです」
おっと……余計な言葉は口に出さないようにしないとな。
「では、えーっと、トーイチさん。こちらがギルドカードになります。今回は費用がかかりませんが再発行時は金貨一枚が必要になります。失くさないようご注意ください」
「はい、分かりました」
「引き続き冒険者ギルドの説明は必要ですか?」
「ではお願いできますか」
「分かりました。資料を持って参りますので、少々お待ちください」
35
お気に入りに追加
6,888
あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
超越者となったおっさんはマイペースに異世界を散策する
神尾優
ファンタジー
山田博(やまだひろし)42歳、独身は年齢制限十代の筈の勇者召喚に何故か選出され、そこで神様曰く大当たりのチートスキル【超越者】を引き当てる。他の勇者を大きく上回る力を手に入れた山田博は勇者の使命そっちのけで異世界の散策を始める。
他の作品の合間にノープランで書いている作品なのでストックが無くなった後は不規則投稿となります。1話の文字数はプロローグを除いて1000文字程です。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。